表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

カクテル・昏睡

 長い余韻。目を覚ますと、『人生カクテル』が注がれていたグラスは空だった。

「…どんな夢を見られたのか、お聞きしてもよろしいですか?」

 オーナーが静かに言う。

「……やっと死ねたと思ったのに。私は生きてる」

 誰に言うでもない、独り言。さっき起こったことは夢なのだから、私が生きているのは当たり前。

「…どれだけ夢を見ても、現実は変わりませんね」

 泣きそうになる。余韻は苦く、私の心臓から離れない。

「夢とは、そういうものです。幻想的で、時に残酷な現実を突きつける。…それでも人は、夢を見ることをやめないのです」

 夢というのは、ひどいものだ。ずっと死にたかったのに。死ぬ直前に遥希のあんな表情を見せられたら、こっちで死ねなくなってしまう。

 死ぬ勇気をもらいに来たはずだったのに。死ねなくなる夢だけを見せて、消えていった。


「遥希様は、自由を追い求めていましたね。それは、ある意味自由ではなかったのかもしれません」

 カウンターで項垂れる私に、優しい声色で話しかける。

「『自由に生きる』ということに囚われ、最期は溺死…ですが、遥希様はお客様に、『自由に生きる面白さ』を遺していかれました」

 そうだ。確かに、遥希は「自由」に固執していた。それは、気付かぬうちに死へと追い込むほどの想いだったのかもしれない。

「でも……死んだら、意味がないんですよ。遥希の名をこの世に遺せない。生きた証がなくなってしまう」

 そう。死んだらただの死体だ。遥希が生きていた証拠など、なくなってしまう。だから私は代わりに死ぬことを選んだのに。

「確かに、そういった考えもあります。ただ、何も遺せない、というのは間違いであると思いますよ」

 どういうことか困惑する私に、オーナーが説明する。

「お客様は、犠牲になることを厭わないくらい遥希様のことを想っていた。この想いは、言葉にならなくともこの世に存在しているのです。……お客様は、かつて遥希様と共に冒険をし、世界を知った。今、その世界にいるのはお客様自身なんですよ」

 驚いた。そんなふうに考えもしなかった。

「私が生きることが、遥希が生きた証……」

 言葉にすると、すっと腑に落ちた。遥希は死んで終わりじゃない。私が死なない限り、私の心臓の中で生きている。

 ……だめだな、これじゃ。死ねなくなった。


 携帯の通知が鳴る。

『今日指名あり』

 それを見て、私はバッグを持つ。会計をし、店を出る。

 退店すると、すっかり夜になっていた。シブヤの夜は、夢と打算が混じっている。

「……ちゃんと、生きなきゃな…」

 夏の終わりの、まとわりついてくる空気。今はそれすらもなんだか懐かしく思う。

 

 夢をみるのは、もう終わり。これからは、世界をみる。

最後まで読んでいただきありがとうございます。初めて書いた小説ですので、未熟な部分が目立つと思いますが暖かく見て頂けたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ