カクテル・酩酊初期
謎の通知が来た翌日。今日は仕事を休んで、いつもより少し早めにバーに行く。
ドアを開けると、がらんとした店内にオーナーがぽつんと立っていた。
「おや、随分とお早いですね」
心臓の音が、やけに五月蝿い。ばくばくと波打つ心臓が、胸を突き破って出てきそうだ。
なんとか鼓動を落ち着かせ、カウンターに座る。
「今日は何を飲まれますか?」
きた。すぅっと息を吸って、これまでに培ってきた滑舌を活かして少し早口で言う。
「もしも、あなたが私のためにカクテルを作ってくれるのなら、きっと夢のような味なのでしょう」
言えた。言えたよ。…言えちゃった。やっと人生カクテルが飲める…?ようやくここまで来れた。やった。
「…なるほど。どこで知りましたか?」
「昨日…メッセージが送られてきたんです。誰が送ったのかは分からないんですけど…」
「…そうですか。少々お待ちください」
そう言って、オーナーは奥へ引っ込んだ。恐らく人生カクテルを作りに行ったのだろう。
はやく飲みたい。あの頃の馬鹿な私を消しに行きたい。…もちろん、これはただの夢だと、戯言だと分かってる。でも、どうしても。あの子の未来を変えたくて。
私が違う行動をしていたら、きっとあの子は生きていたのに。あの子の代わりに、私が死ぬべきだったのに。
「こちらが、『人生カクテル』になります」
出されたのは、シャーリー・テンプルに似たような見た目のカクテル。普通のりんごジュースに見えるけど…
「このカクテル、ただのりんごジュースに見えるでしょう?ですが、これはあなたのために作った特別な一杯なんです。きっと、お客様は気に入られると思いますよ」
そう言われると、気になってくる。りんごジュースみたいな赤っぽい色に見えるけど、角度を変えて見ると僅かに煌めいてみえた。
「これ…飲んだらすぐに酔うって聞いたんですけど、大丈夫なんですか…?」
「そこはご心配なさらず。酔うと言っても、倒れたり、おかしな言動をするようなことはありませんよ」
それを聞いて安心する。「どれだけお酒に強くても酔う」と見たけど、あれは嘘だったのかな?
「えっと…じゃあ、飲んでもいいですか…?」
カクテルを飲むのに、怖気づいて許可を取ってしまう。滑稽だな、私。
「もちろん、構いませんよ。…ただ、そのカクテルが見せてくれるのは『夢』だということを忘れずに」
オーナーの言葉をしっかり噛み締めた後、私は恐る恐る飲んだ。追いかけていたものが目の前にあるのって、なんだか不思議な感覚だ。
飲んだ直後は変化がなかった。でも、だんだん視界の端がぼやけてきて―
気付いたら、懐かしい景色がそこにあった。
お酒を飲んだことがないので、カクテルの描写がおかしいかもしれません。その時はどうか笑ってください。




