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ダジャレ

作者: ほんじじ
掲載日:2026/02/21

 久保田恵はダジャレ好きの社員だった。好きというより口を開けば出てしまう。


「今朝起きたら布団がふっとんだー」

「わたくし新人ですが、どうか信じん(新人)でください」

「会議が長引いて、ちょっと懐疑(会議)的になってきましたね」などなど。


 本人は場を少しでも和ませたいだけだ。ほんの一瞬ふっと空気が緩めばそれでいい。

 だが周囲の反応はたいてい同じ。


「……うるせーよ」


 その一言で空気はさらに冷える。それでも恵はめげなかった。

 その日までは。


 残業続きでピリピリしている課長につい言ってしまった。


「課長、今日も過重(課長)労働ですね」


 しまった、と思ったときには遅かった。


「くだらないことばかり言ってないで真面目に仕事しろ!」


 課長の声がオフィスに響いた。


 さすがの恵もしゅんとした。

 意気消沈でしょんぼり。

 数日間ダジャレは封印。というより、もうダジャレを言うこと自体を止めようかとまで考えた。


 そんなある日、総務から声がかかる。


「社長室と応接室の片付け、手伝ってくれない?」


 初めて入る社長室。

 緊張で背筋が伸びる。


 そして――


 部屋の隅にデデーンと鎮座する大きなタヌキの置物。

 お蕎麦屋さんの店先で見るようなあのタヌキだ。


(な、なんで社長室に……?)


 気になりつつもまずは片付け。

 コップを下げ、テーブルを拭き、書類を整える。


 そこへ社長が戻ってきた。


「おー、ありがとう。助かるよ」


 恵は思い切って聞いてみた。


「あの……どうしてタヌキの置物があるんですか?」


 社長は少し笑った。


「ああ、久保田くんは新人だから知らないか」


 そして、タヌキをぽんと軽く叩く。


「タヌキは“他を抜く”ってな。ゲン担ぎみたいなもんだ」


 恵の目が丸くなる。


「ダジャレですか!?」


「そうそう。ダジャレ」


 社長は楽しそうにうなずく。


「でもな、ダジャレといってもバカにできないんだぞ」


 社長室の棚を指さす。


「あのフクロウは“不苦労”

 あっちの鷹は“高く飛ぶ”

 ほら、その馬の置物は“うまくいく”だ」


 全部ダジャレだった。


「ビジネスってのは理屈も大事だが縁起も気持ちも大事なんだ。言葉には力がある。笑って前を向けるならそれでいい」


 恵はしばらくタヌキを見つめた。


 他を抜く。


 なんだか急に頼もしく見えてくる。

 目からうろことはこのことだった。


 そして、恵のダジャレの日々は復活した。




 終


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