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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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第6章 王子と悪役令嬢の邂逅(2)

翌朝、入学式が行われた。

会場は講堂というより、巨大なオペラ劇場のようだ。特進科の生徒たちは皆、洗練された所作で静かに席に着いている。平民のように騒ぐ者は一人もいない。

令嬢たちが通り過ぎるたびに、魅惑的な香水の香りが漂う。その容姿は一般人とは明らかに一線を画しており、誰もが際立った美しさを持っていた。

これほど間近で、こんな良い香りを嗅ぐ機会はもうないかもしれないな。


やがて、近衛騎士たちが整列し、その間を縫って一人の少年が現れた。

銀色の髪に、燃えるような赤い瞳。

帝国の第一皇子、アンリ・フォルア・エルフェンヘフ殿下だ。新入生代表として挨拶をするために登壇した彼の姿は、この世のものとは思えないほど美しい。痩身だがバランスの取れた体つきで、彼を見た令嬢たちは一斉にため息を漏らした。


「王子様と田舎貴族じゃ、住む世界が違いすぎるな」


俺がぼやくと、隣に座っていたダニエルとラモンドも、諦めきったような顔で頷いた。

その時、俺の視線は最前列に座るある少女に釘付けになった。

美しいブロンドの髪、透き通るような白い肌、人形のように整った顔立ち。青い瞳は宝石のように輝いている。正直に言って、とてつもない美少女だ。

だが、彼女が殿下を見つめる眼差しは異様だった。まるで彼を丸ごと飲み込もうとするような、強烈な執着を感じる。多くの令嬢が殿下に熱視線を送っているが、彼女の瞳には「必ず手に入れてみせる」という絶対的な自信が宿っていた。


まだこんな肉食系がいるのか……。残念だが、この物語のヒロインは君じゃない。


***


入学式から数週間が過ぎた。

記憶から消したいような出来事も多々あったが、なんとか日々を過ごしている。

ゲームのシナリオ通りなら、今頃ヒロインは王子とのフラグを立て、天性の魅力とあざとさで攻略対象たちを翻弄し始めているはずだ。

そして、ある程度の好感度を稼いだところで悪役令嬢が登場し、「身の程を知りなさい」と罵るイベントが発生する。場所までは覚えていないが、時期はこのあたりだったはずだ。


俺はシナリオには関わらない。ただの傍観者として、嵐が過ぎ去るのを待つだけだ。

それに、俺自身にも問題がある。


学院生活には慣れてきたし、ダニエルやラモンドという友人もできた。今、俺たちは中庭のベンチに座り、四月に開催される『晩餐会ディナー・パーティ』について話し合っていた。

これは男子生徒が食事や飲み物を用意し、女子生徒をエスコートして会話を楽しむというイベントだ。多くの男子は、高級レストランを予約するために大金をはたく。要するに、キャンドルライトの下で楽しむ豪華なデートだ。


「はあ? 誰も招待に応じてくれないのか?」


俺が尋ねると、ダニエルとラモンドは死体のような顔をして項垂れた。


「金持ち貴族の息子たちに勝てるわけないだろ。あいつら、この晩餐会で自分の人気を測ろうとしてやがるんだ。一人で二十人も三十人も招待しちまうから、俺たちに回ってくる女子なんて残ってねえよ」


ラモンドが不機嫌そうに吐き捨てる。ダニエルは魂が抜けたように一点を見つめている。


「金もかかるしな。土地を売ってシェフを雇った男爵もいるらしいぞ。結局は、女の機嫌を取るためのイベントだよ」


俺が冷めた口調で言うと、二人は冷や汗を流した。


「仕方ねえだろ……。晩餐会を開けないなんて知られたら、将来の嫁探しなんて夢のまた夢になっちまう!」


ダニエルが涙目で叫ぶ。


「開催したところで、誰も来なかったら終わりだろ? お前、一ヶ月分の小遣い全部つぎ込んだって聞いたぞ」


ラモンドの鋭いツッコミがダニエルの心臓を抉ったようだ。二人は深いため息をついた。

こいつらでさえ相手がいないなら、黒髪の俺など絶望的だ。まあ、俺はそこまで深刻には考えていないが。


その時、向こうから黄色い歓声が聞こえてきた。見ると、アンリ殿下が多くの令嬢たちに囲まれている。晩餐会への参加をお願いされているようだ。


「見ろよ……殿下はモテモテだな。あそこにいるのは伯爵家以上の令嬢ばかりだぜ。ケッ! 俺だってもう少しイケメンだったら、あいつらに百回土下座されたら話くらい聞いてやったのにな」


ダニエルの負け惜しみに、周囲の女子生徒たちが冷ややかな視線を送ってくる。

俺はあまり気にしないタイプだが、この二人と一緒にいると、俺までピエロになった気分だ。


「俺を巻き込むなよ。ただでさえ女子と縁がないのに」


ラモンドが即座に保身に走る。

その時、一人の少女が人だかりを割って殿下の方へ歩いてきた。

彼女はアンジェラ・ヴァサ・レダス。公爵家の令嬢であり、次期当主の資格を持つ才女だ。

アンリ殿下の婚約者であり、ゲーム内ではヒロインを妨害する悪役令嬢として登場する。だが、よく考えれば彼女は悪くない。ただ婚約者を守ろうとしているだけなのだから、悪役というよりは被害者に近いかもしれない。


「殿下。晩餐会の件でお話ししたいことがございます。もしよろしければ、私もご一緒させていただけませんでしょうか?」


アンジェラは凛とした態度で殿下の前に立った。その気品は周囲の生徒とは別格だ。

しかし、殿下は冷たい表情で彼女を見下ろした。


「ふむ……。だがアンジェラ、君が他の生徒を脅しているという噂を聞いたよ。公爵家の娘とはいえ、権力を笠に着るのは感心しないな」


婚約者に対する態度とは思えないほど素っ気ない。


「存じておりますわ。ですが、殿下の周りに群がる羽虫を追い払っただけにすぎません」


アンジェラの鋭い言葉に、取り巻きの令嬢たちがビクリと震えて後ずさりした。


「ショーの始まりだな……」


俺が呟くと、ダニエルとラモンドが不思議そうにこちらを見た。

その直後、群衆の中から一人の少女が飛び出し、殿下の元へ駆け寄った。

アンジェラも美しかったが、その少女は小柄で愛らしく、また違った魅力を持っていた。長いブロンドの髪に、鮮やかな青い瞳。子爵家の娘だ。

名前はアリス・フォウ・ラファン。入学式の時に俺が目を奪われた、あの少女だ。なぜか彼女を見ると、好きでも嫌いでもない、奇妙な感覚に襲われる。


「アリス? ちょうどよかった。探していたんだ」


殿下はアンジェラに背を向け、アリスに笑顔を向けた。アンジェラは眉をひそめ、不快感を露わにする。ダニエルとラモンドは、一触即発の空気に凍りついている。


待てよ……。

アミリアはどうした? 本来なら、ここにいるべきはヒロインのアミリア・サーベルクだ。なぜこのアリスという女が、ヒロインの立ち位置にいるんだ?

俺は周囲を見回したが、アミリアの姿はどこにもなかった。


「お前ら、あの子を知ってるか?」

「えっ、知らないのか? 魔法で殿下を吹っ飛ばしたっていう、あの有名人だぞ」


ラモンドが驚いたように言った。それを聞いたダニエルも目を丸くする。


「……マジかよ。俺が聞いた噂じゃ、校庭のど真ん中で殿下を『変態』『露出狂』って罵ったらしいぜ」

「はあ? 何だその噂……俺は聞いたことないぞ。え?」


俺は頭の中でゲームのイベントを再生する。

これは、ヒロインと殿下が少しずつ親密になっていく重要なイベントだ。

だが今、ヒロインではない「誰か」が、その役を完璧に演じている。


「何かご用でしょうか? 殿下が私を探しているなんて……」


アリスは頬を染め、恥ずかしそうに言った。セリフも、仕草も、完全にヒロインのものだ。


「晩餐会を開くことになったんだが、知らない人間と食事をするのは退屈でね。気心の知れた人を招待したいんだ。君に来てほしい」


殿下の言葉に、会話を聞いていたアンジェラが愕然とする。


「お、お待ちください殿下! 晩餐会は貴族同士の社交の場です。殿下の地位にふさわしい方をお招きになるべきですわ……!」


アンジェラが必死に訴えるが、殿下は聞く耳を持たず、むしろ苛立ちを露わにした。


「僕が決めたことに口を出すのか? アンジェラ」

「……殿下の対面を案じて申し上げたまでです……」


冷たく突き放され、アンジェラは悲しげに目を伏せて引き下がった。


間違いない。これは本来、アミリアに起こるはずのイベントだ。

俺は何度も周囲を探したが、やはりアミリアの姿はない。

イベントはそのまま進行し、アリスは殿下の誘いを承諾した。このニュースは瞬く間に学院中に広まるだろう。


だが、俺が懸念しているのは、これからのシナリオだ。

もし殿下が「偽物のヒロイン」と結ばれてしまったら、本物のヒロインであるアミリアはどうなる?

そして、この世界の運命は――?

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