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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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第24章 深まる絆

イファン領に戻って二週間。俺は父ブラストに代わって街の運営を任されていた。

街のインフラはほぼ完成し、要塞都市や港湾都市を結ぶ蒸気機関車の路線も開通したことで、物流の効率は飛躍的に向上した。

さらに、ライネル公爵の領地で発見された原油を採掘するための人員も派遣済みだ。本格的な採掘にはあと二ヶ月、精製して実用化するまでには半年はかかるだろう。


書類の山に埋もれた執務室で作業をしていると、ノックの音がしてドアが開いた。


「アラン様、調査の結果が出ました」


入ってきたのはジャスティン。昔から父を支えてきた書記官で、今は実質的な市政の責任者だ。茶髪の長身で、俺にとっては叔父のような存在だ。


「予想通りです。『光の神殿』の軍勢が帝国国境を越えて侵入しました。向こうは演習だと主張していますが、密偵からの報告によれば兵力は十万以上。これほどの人数が気づかれずに移動できるはずがありません。国境付近の貴族が手引きしているのは間違いありません」

「……」


宗教国家群「教皇領」は、大陸北部の三分の二を支配し、人々に絶大な影響力を持っている。内部は「光の神殿」と「深紅の血盟」の二大派閥に分かれている。

ゲームのシナリオ通りなら、これから光の神殿と帝国の間で戦争が勃発する。原因は、神々の宝物庫にある聖遺物を巡る争いだ。

黒幕はローランド将軍。政治に疎い女帝マリアナに代わって帝国の実権を握る摂政だ。彼は先帝暗殺に関与しており、当時の皇后が行方不明になった事件にも関わっている。帝国内部の分裂を招いた張本人だ。


そして、隠しキャラである先帝の遺児が登場し、復讐のために王子たちと敵対することになる。

彼は死の間際、アミリアに胸の内を明かすことになるのだが……。


「エルフの長老は、難民の受け入れを拒否しました。彼らの安全が保障されない限り動かないと。支援物資は送りましたが、効果は薄いようです」

「……放っておきましょう。エルフはプライドが高い種族です。簡単には頭を下げないでしょう。彼らが心から我々を信頼するか、あるいは向こうから助けを求めてくるまで待つしかありません。ただ、いつでも受け入れられる準備だけはしておいてください」


ジャスティンは不思議そうな顔をしたが、それ以上は聞かなかった。

この世界には人間以外にもエルフ、獣人、ドワーフ、そして魔族など多くの種族が存在する。だが、人間が支配する大陸では彼らは少数派であり、迫害されていることも多い。


「もう一つ、ヴァルカン港での造船計画についてですが、問題が発生しました。予定していた金属が足りません。高純度の精錬を行う過程で、予想以上のロスが出ているようです。このままでは計画が遅れます。

周辺の鉱山を探したところ、ノース伯爵領の鉱山主がアラン様との直接交渉を望んでいるそうです」

「ふむ……ノース伯爵か。帝国との鉄取引で揉めていると聞きました。だから我々に話を持ちかけてきたのでしょう」


俺はニヤリと笑った。


「明日出発します。手配を頼みます。それと、造船ドックを倍に拡張してください」

「倍に、ですか?」

「港湾都市の人口も増えているでしょう? 仕事にあぶれている者も多いはずです。それに、来年には外洋に出る船を完成させたいですからね」


ジャスティンは軽く頭を下げて退出した。

光の神殿の軍勢は、最短ルートであるイファン領を通って王都へ向かうはずだ。本来なら女帝マリアナ自らが軍を率いて撃退するが、その際に彼女は重傷を負い、アミリアに救われることになる。

この機に乗じてマリアナに恩を売り、イファン領との関係を強化しておくのが得策だ。


***


ファザート家の屋敷のリビングでは、ライアが紅茶を飲みながら、ソファーに座るアミリアとアンジェラを観察していた。二人の顔色は優れない。


「どうしたの、二人とも? 街での生活に飽きちゃった?」


ライアが尋ねると、アミリアはビクリとして、ぎこちなく笑った。


「い、いえ……! こんなに楽しいのは初めてです。アランさんに誘っていただいて、本当に感謝しています。……でも、最近アランさんに全然会えなくて。お忙しいのは分かっているんですが、やっぱり……」


アミリアは寂しそうに両手を握りしめた。アンジェラも同じような表情をしている。

ライアは思わず顔を綻ばせ、からかうように言った。


「で? どっちがアランと付き合ってるの?」


二人の顔が真っ赤になる。


「わ、私なんてアランさんには不釣り合いです……。彼のことを知れば知るほど、遠い存在に感じてしまって」


アミリアが俯くと、アンジェラも同意するように言った。


「私も……アランには感謝しているけど、迷惑ばかりかけているわ。彼はいつも助けてくれるのに、私は何も返せていない。私のような女は、彼にはふさわしくないわ」


ライアは微笑んだ。家柄や地位よりも、息子との釣り合いを心配するなんて、可愛い娘たちだ。


「あの子はそんなこと気にしないわよ。昔から、相手が貴族だろうが平民だろうが、分け隔てなく接してきた子だから。爵位をもらった時だって、少しも威張らなかった。

アランはいつも、見返りなんて求めずに人を助けるの。それが自分のためだと言いながら、結局は他人のために無理をしてしまう。……でも、張り詰めた弓の弦は切れやすいものよ」


二人は不思議そうにライアを見た。ライアはカップを置いた。


「……あの子はずっと一人だったわ。あの髪色のせいで差別されるのが当たり前だったから。……母親である私でさえ、あの子を一人にしてしまった」


二人は驚いてライアを見つめた。


「アランは誰よりも努力してきたわ。普通の人なら耐えられないような辛い目にも遭ってきた。でも、あの子は歯を食いしばって耐えてきたの。

それでも、あの子は心を閉ざしたまま。いつも無理をして、自分の感情を押し殺して……。私が心配して聞いても、『大丈夫』って平気な顔で嘘をつくのよ。

そんな姿を見ていると、いつかあの子が壊れて消えてしまうんじゃないかって、怖くなるの」


ライアは悲しげに笑った。二人も胸を痛めたように表情を曇らせた。

ライアは立ち上がり、二人に視線を向けた。


「あの子は人付き合いが下手なのよ。誰かと親しくなるのを怖がっているみたい。だから、時々変な態度を取るかもしれないけど……。

もし二人があの子の傍にいて、支えてあげてくれたら、あの子もきっと喜ぶわ」


そう言い残して、ライアは部屋を出て行った。

アンジェラはアミリアを向いた。


「大丈夫? アミリア」

「……ミリアでいいです」

「えっ?」


アミリアは愛称で呼ぶように頼んだ。アンジェラが驚いていると、彼女は不安そうに言った。


「ごめんなさい……。いつもミリアって呼ばれているので、アミリアと呼ばれると他人行儀な気がして」


フルネームで呼ばれるのは、距離を感じるのだ。

アンジェラは嬉しくなり、微笑んだ。


「じゃあ、私のことはアンジーと呼んで。家族以外でそう呼ぶのは、あなたが初めてよ。いいかしら?」


アミリアは大きく頷いた。


「私、あなたの邪魔をしていないかしら? 本来なら、アランはあなただけを誘ったはずなのに、私が図々しくついてきてしまって……。二人の時間を奪ってごめんなさい」


アミリアは少し怒ったような顔をした。


「そんなこと言わないでください! アンジーはとっても素敵な女性です!」


アンジェラは首を横に振った。その笑顔はどこか寂しげだ。


「私は最低な女よ……。殿下に捨てられて当然だわ。彼にふさわしい女になろうと努力してきたけど、結局彼はアリスを選んだ。私は彼を憎み、怒り……それでもまだ愛しているの。

だから、彼を忘れるために誰かを探していた……。そんな身勝手な理由で、ファザートのような良い人を利用しようとしているのよ。自分が嫌になるわ」


アミリアが心配そうに見つめていると、ドアが開き、アランが入ってきた。

アンジェラは彼に見られたのではないかと焦った。


「アンジェラ様、顔色が悪いようですが……大丈夫ですか?」


アランは片膝をつき、手袋を外してアンジェラの額に優しく手を当てた。

(やめて……。私なんかに優しくしないで……)


「少し熱があるようですね。疲れが出たのでしょう。もっと休んだ方がいい」


アランは立ち上がり、微笑んだ。アミリアが少し羨ましそうに見ている。


「明日から少し街を離れます。仕事で数週間ほど留守にするかもしれません。なので……」


アランは言い淀み、ぎこちない笑顔を見せた。

アミリアが寂しそうな顔をする。


「私も連れて行ってください!」

「ん?」


アランは驚いたが、すぐに嬉しそうに笑った。


「ああ、もちろん。そのつもりだったよ」

「アンジーも一緒に行きます!」

「えっ?」


アミリアはアンジェラに抱きつき、頬を摺り寄せた。


「二人がいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」


アンジェラは申し訳なさそうにアランを見た。


「アランが許してくれるなら……」

「問題ありませんよ」


アランは即答した。

アンジェラは自分の感情に戸惑っていた。アランと一緒にいると心地よい。だが同時に、罪悪感も感じる。もし彼を傷つけてしまったら……そう思うと、胸が苦しくなった。

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