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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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第21章 勝ち目のない戦い(2)

作者は宣伝があまり得意ではありません。

もし本作を気に入っていただけましたら、SNSなどでご紹介いただけると大変励みになります。

今後とも応援よろしくお願いいたします。

ヘンリーの状況は悪化の一途を辿っていた。俺の殺気によるプレッシャーで、身動きどころか剣を振ることさえままならない。俺は彼の手から剣を弾き飛ばした。

背後ではアリスが真っ青な顔で立ち尽くしていた。本来あるべきシナリオに介入した代償は大きい。敗北すれば、彼女は社会的に抹殺されるか、それ以上の悲惨な目に遭うだろう。


ヘンリーは歯を食いしばり、燃えるような瞳で俺を睨みつけながら、必死に近づこうとしてきた。

俺は彼を見下ろした。


「殿下、もう無駄だと気づいたらどうです?」


彼の態度に降伏の色はない。

俺は剣を振るい、彼の片足を斬りつけた。ヘンリーはその場に膝をついた。

会場がざわめく。あまりにも一方的な展開と、俺の容赦ない攻撃に対する恐怖の声だ。


ヘンリーは顔を上げ、俺を睨み返した。


「僕はアリスを愛している! 彼女は僕の命だ! 絶対に彼女を失いたくない!!」


彼の叫びが闘技場に響き渡る。アンジェラはその言葉を聞き、涙を拭った。

俺は邪悪な笑みを浮かべた。


「愛、ですか?」


言い終わると同時に、俺はヘンリーのもう片方の足に剣を突き刺した。ヘンリーは苦痛に顔を歪め、地面に倒れ込んだ。悲鳴が上がる。


「そう簡単に終わらせませんよ……。あなたが降参するか、あの女が根を上げるまで、たっぷりと甚振って差し上げます」


ヘンリーは憎悪に満ちた目で俺を睨んだ。俺は刺さったままの剣をグリグリと捻った。

ヘンリーの絶叫が響き渡る。

あまりの惨状に、数人の生徒が助けに入ろうとしたが、審判員たちに制止された。


俺がアリスの方を見ると、彼女は混乱し、涙を流していた。

四方八方から非難と呪詛の声が飛んでくる。


「あの野郎、殿下を拷問してやがる!」

「ファザートのくず野郎!!」

「こんなことして、お前の一族もただじゃ済まないぞ!!」


俺が自陣を振り返ると、アミリアでさえ怯えた表情で俺を見ていた。

無理もない。純粋で心優しい彼女にとって、この残虐な行為は耐えがたいものだろう。普通の人間なら誰だって恐怖する。


俺はヘンリーから剣を引き抜き、鞘に納めた。

ヘンリーは近くに落ちていた剣に手を伸ばそうとしたが、俺の放つ殺気によって体が麻痺し、動けない。

俺は彼の剣を蹴り飛ばし、這いつくばって立ち上がろうとする彼を見下ろした。

ようやく立ち上がったヘンリーは、震える体で弱々しい拳を振るってきた。

俺はそれを軽々とかわし、彼の腕を掴んで引き寄せると、がら空きになった腹部の鎧めがけて拳を叩き込んだ。

観客たちが息を呑む中、ヘンリーの体は宙に浮いた。

意識が飛びそうになっているのが分かる。だが、意識がある限り、体が動く限り、決闘は終わらない。

俺は容赦なくヘンリーを殴り続けた。兜が吹き飛ぶ。

彼の頭部は血にまみれ、殴られるたびに口から血を吐き出した。観客の目は憐れみに変わっていった。


アリスはガタガタと震えていた。

もし彼女が降参すれば、すべてを失うことになる。自分のために利用している駒のために、彼女が降参するはずがない。

決闘が終われば傷は治るとしても、今の痛みは現実だ。

ヘンリーはプライドが高い。死んでも自分から降参するような男ではない。


俺はヘンリーを殴り続けた。彼の焦点が定まらなくなり、意識が遠のいていく。

観客たちは手出しもできず、ただ見守るしかなかった。

ヘンリーが限界を迎える寸前、鋭い声が響いた。


「降参します!!」


女性の叫び声が闘技場に木霊した。

ようやく終わったか。予想通りの人物だ。

俺はヘンリーから手を離し、振り返った。

そこに立っていたのはアンジェラだった。彼女は涙で化粧を崩しながら、ヘンリーを見つめていた。


俺は地面に転がるヘンリーに言った。


「これでもアンジェラ様の行動が愛ではないと言うなら、あなたはただの愚かで盲目な男ですよ」


俺は背を向け、闘技場を後にした。

アミリアと目が合ったが、彼女は震えながら俺を見ていた。俺は視線を逸らし、足早にその場を立ち去った。


***


決闘の結末は貴族社会に大きな波紋を呼んだ。

公爵家が仲介に入り、王家との関係修復に尽力したおかげで、アンジェラへの処分は家族からの叱責程度で済んだ。


後日、アミリアは学院の談話室でアンジェラと会っていた。


「そういえば……あの日以来、ファザートと一緒にいるところを見ないけど、何かあったの?」


アミリアは泣き出しそうな顔で顔を上げた。


「私にも分からないんです。アランさんが私を避けているみたいで……」


アンジェラは意外そうに眉をひそめた。


「ふうん……。あいつ、あんたに怖がられたと思って距離を置いてるのかもね。実は、あいつ私とも目を合わせようとしないのよ。あんたがあいつを怖がってるのを見た時、あいつすごく悲しそうな顔をしてたから」


アミリアは涙を拭い、表情を明るくした。


「そうなんですか!? 私はてっきり、アランさんに嫌われたのかと……」

「……あいつ、王族に暴行を働いたことでかなり責められたらしいわよ。でも不思議なことに、公式な処分は受けていないの。何人かの高位貴族が彼を擁護したらしいわ。決闘の前に根回しでもしてたのかしら? でも、ただの男爵にあんな大物を動かす力なんてないはずだけど」


アミリアは不思議そうに首を傾げた。


「もしかしたら、アランさんがシリアさんに託した手紙のことかもしれません。当主宛ての公文書だと言っていましたから」

「手紙?」


アンジェラは考え込んだ。

(身分社会において、手紙を送るには相手との格差を考慮しなければならない。力のない者の手紙など無視されるのがオチだ。なのに、アランは簡単に大貴族の協力を取り付けた?

……つまり彼は、自分が処罰されないと分かっていてやったのね。でも、だとしたら私を助けるメリットは何? 今の私には何もないことくらい、彼も知っているはずなのに)


彼女が呆然と考えていると、アミリアが不思議そうに見つめてきた。


「ということは、アランさんはアンジェラ様を二度も助けたことになりますね?」

「二度? どういう意味?」


アンジェラは驚いてティーカップを置いた。


「えっ? アンジェラ様、ご存じなかったんですか? 合宿の時、アンジェラ様が森で迷子になったって聞いて、アランさんすぐに助けに向かったんですよ」


アミリアは嬉しそうに言った。アンジェラは胸を押さえた。


(あいつだったのね……私を助けてくれたのは。夢じゃなかったんだ。どうしてあいつは、私にあんなに優しくしてくれるの? 元々そういう性格なの? わけが分からないわ!! 損得なしに他人を助けるなんて……あの馬鹿。それを知ってたら、あいつに変な下心があるなんて疑わなかったのに)


アンジェラは勢いよく立ち上がり、アミリアの手を掴んだ。


「ファザートのところに行くわよ!」


アミリアは嬉しそうに微笑み、アンジェラと共に部屋を飛び出した。


***


ようやく学院生活に一区切りがついた。

この五ヶ月間、モンスター狩りよりも疲れる日々だった。この世界では、一人の女のせいで男の人生が狂わされることもあるのだと痛感した。

俺は夏休みの帰省のため、馬車を待っていた。

あの一件以来、アミリアやアンジェラに合わせる顔がなく、一人でこっそり帰るつもりだった。


「……!!?」


不意に声をかけられた。

振り返ると、五十代くらいの男性と二十代前半の青年が立っていた。王宮で見かけたことがある顔だ。

現在のレダス公爵家当主、ハワス・ヴァサ・レダス。アンジェラの父親だ。白髪混じりの髪に、若者にも劣らぬ堂々たる体躯。その瞳はアンジェラ同様、鋭い光を宿している。

もう一人の青年はギルバート。アンジェラの兄だ。ブロンドの髪に青い瞳。ハワスやアンジェラとは違い、常に柔和な笑みを浮かべている。


俺は慌てて立ち上がり、最敬礼をした。二人は俺をじっと見ている。


「堅苦しい挨拶は抜きだ。少し話をしたい」


ハワスは厳格な口調で言った。


「君の決闘は見事だった。その高い戦闘能力のおかげで、君の爵位を疑問視していた貴族たちの疑念も晴れただろう。

それに、娘の代理人として戦ってくれたこと、感謝する。だが、王太子殿下に対するあの振る舞いについては、私にはどうすることもできんぞ」


次期皇帝と敵対するのは、残りの人生をドブに捨てるようなものだ。だが俺にとって、地位や名誉など些細なことだ。


「承知しております。結果は受け入れます」


ハワスは意外そうな顔をして尋ねた。


「一つ聞きたい。なぜあの決闘を受けた? 君ほどの能力があれば、名誉も金も、男爵以上の地位だって容易に手に入ったはずだ。なぜそれを棒に振るような真似をした?」


個人的な感情だ。アンジェラへの仕打ちを見過ごせなかった。だが、そんな答えを求めているわけではないだろう。


「殿下にあのままの振る舞いを続けさせるわけにはいきませんでした。彼は現実を知り、皇帝にふさわしい伴侶を選ばなければなりません。お花畑の夢から覚めさせる必要がありました」


ハワスは愉快そうに笑った。


「それが本心なら大したものだ。王家も君の勝利を死に物狂いで願っていたようだがな。私の娘が先に降参しなければ、もっと話は簡単だったろうに。

まあいい。我が家としても、正式に婚約破棄を申し入れた。実際、彼は娘には不釣り合いだ。頭に王冠を乗せているだけの男より、実力のある男を婿に迎えたいものだ」


ハワスの言葉に、俺は奇妙な感覚を覚えた。彼は王族よりも実力者を評価するというのか?


「僕は殿下との関係を心配しているわけではありません。ただ、彼に自分が何を捨てようとしているのか、気づいてほしかっただけです」

「……理解した。

話題を変えよう。君がアンジーをイファン領に誘ったと聞いた。君と娘の間の取り決めだとは理解しているが、私から一つ頼みがある」


アンジーか……。あの性格には似合わない愛称だな。

貴族の娘が男の領地に行くのはデートのようなものだが、アンジェラは「勝ったら行く」という条件付きの約束だと説明したはずだ。負けた今、その約束は無効になったと思っていたのだが。


「何でしょうか?」

「アンジーのことだ。今回の一件で、彼女の周りにいた偽りの友人たちは去り、残った者はわずかだ。父親として、娘が孤独に苛まれるのは忍びない。この休暇中、彼女には幸せでいてほしいのだが、我々は事後処理で忙しく、この街を離れることができない」


裏切り者の処分や、王家との調整など、公爵家としてもやるべきことは山積みだろう。かつてアンジェラに従っていた生徒の親たちが、謝罪に訪れているという話も聞く。


「そこで頼みがある。この夏休み、アンジーを君の領地へ連れて行ってやってほしい。今、私が娘を安心して任せられるのは君だけだ。侍女も同行させる」

「……閣下が許可してくださるなら、拒む理由はありません」


娘を他の男に預けるとは驚きだが、これまでの経緯を考えれば、俺以外に適任者がいないのも事実か。


「重ねて礼を言う。この恩義、レダス家は決して忘れん。では、失礼する」


ハワスは背を向け、ギルバートは俺に軽く微笑んでから父の後を追った。

二人が去るとすぐに、アンジェラがアミリアを連れて反対側から歩いてきた。


今こそ、「紳士の心得」の授業で学んだ「女性の誘い方」を実践する時かもしれない。

アンジェラは不安そうな顔をしているが、その瞳は俺をまっすぐに見つめている。手首を握る仕草が、彼女の緊張を物語っていた。

俺は一歩踏み出し、彼女の前で立ち止まって手を差し出した。


「僕の田舎町へ、遊びに来てくれませんか?」


俺は優しい声で言い、微笑んだ。

アンジェラはいつもの強気な態度はなく、両手で俺の手を握り返した。


「ええ……行くわ。約束したものね」


彼女の声は以前よりずっと明るかった。チラリとアミリアを見ると、彼女も嬉しそうに頷いている。


「でも、君には似合わないことするのね」

「そうですか?」


この学院に来たのも、案外悪くないかもしれないな。

俺はそんなことを思った。

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