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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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2/22

第2章 乙女ゲームの世界に転生?

この作品は、ある乙女ゲーム転生作品に触れたことをきっかけに生まれました。

その物語自体はとても魅力的でしたが、主人公の性格や“幸運に恵まれすぎた設定”にはどうしても共感できませんでした。


「もし、自分だったらどう描くだろうか?」

そう考えた結果、まったく別の世界観と主人公を持つ、新しい宇宙(もう一つの可能性)を創り出すことにしました。


これは原作の物語を否定するための作品ではありません。

あくまで一人の読者として感じた違和感から生まれた、“もう一つの選択肢”の物語です。

死んだはずの俺が目を開ける。

記憶は水面に映る映像のように曖昧で、まるでロープで首を絞められているかのように息苦しい。


「アラン! アラン! ……っ、目を覚まして! 母さんが悪かったわ、アラン!!」


目の前には、三十歳くらいの女性が泣き崩れていた。その横では八歳ほどの少女が、ショックを受けた様子で俺を見つめながら泣いている。

母さん? 姉さん?

うーん……。


記憶が戻ってくる。二色の水が混ざり合うように。

別の記憶が割り込んできた感覚があるが、どちらも間違いなく「自分」の記憶だ。

乙女ゲームをプレイした後に死んだという前世の記憶が、突然湧き上がってくる。

頭が割れるように痛い。自分や家族のことを思い出そうとしても、最初は自分の名前すら出てこなかった。


「アランが目覚めたわ!! 早く医者を呼んでちょうだい!」


女性が叫ぶ。俺は朦朧とした視線を彼女に向けた。

母さん、なのか……。

そうか、俺は自殺したんだった。


次第に状況が整理されていく。

俺の名前はアラン・ファザート。六歳。

帝国の辺境イファン領を治める、騎士爵から男爵に成り上がったファザート家の次男だ。

俺が首を吊った原因は、家族への劣等感と、人生への絶望だ。


姉のシリアに対するあからさまな贔屓ひいきと、俺への差別。

姉は文武両道、剣術も魔法も優秀で、母譲りの美貌と父譲りの輝く金髪を持っていた。

対して俺は、下層民の色とされる「黒髪」を持って生まれた。それだけの理由で、ずっと不当な扱いを受けてきたのだ。

俺の部屋は家の隅にある物置小屋。狭くて湿っぽく、日も当たらない。蝋燭やランプさえ与えられなかった。


食事は朝晩の二回だけ。姉が食べきれないほど豪華な食事を与えられる一方で、俺の食事は肉を削ぎ落とされた後の牛脂と、たまに虫食いだらけの野菜が出る程度。「美味しい」という感覚など、想像すらできなかった。

時々、どうしてこんな仕打ちを受けるのかと疑問に思ったこともある。

両親は姉だけを世話し、俺のことなど視界にも入れない。勉強も教えてもらえず、知識を得る権利さえ姉とは雲泥の差があった。

親からの愛情はすべてシリアに注がれていた。俺はただ、名前を呼んでもらうことさえ待ち望んでいたのに。


けれど、俺は完全に忘れ去られていた。六歳の誕生日を迎えるあの日まで。

どんな貧しい家でも、子供が生まれれば祝い、誕生日を祝うものだ。

だが俺の誕生日に待っていたのは、暗い物置部屋でたった一人、音もなく牛脂を食べる時間だけだった。

外に出てみれば、両親が村の剣術大会で優勝した姉を祝っているのが見えた。彼らはとても幸せそうで、そこには俺の居場所など微塵もなかった。

その時、俺は自分が家族にとって「余計な存在」なのだと理解し、深く傷ついた。

六歳の子供が受け止めるには、あまりにも残酷な現実だった。


翌朝、俺は部屋にあった古びたロープを持って、早朝の森へと走った。

生きる理由はもうない。死ぬことへの恐怖もなかった。俺が死んでも、消えても、彼らは気にしないだろう。

俺は木にロープをかけ、太い枝に結びつけた。地面からわずか二足分ほどの高さだったが、体を吊るすには十分だった。

木に登り、輪っかを首にかけ、俺は身を投げ出し――意識を失った。


「どうしてこんなことを……どうして……」


母さんが、今まで一度もしてくれなかった強さで俺を抱きしめ、涙を流している。

あまりに突然のことに、俺も嬉しさで涙が溢れてしまった。

俺は屋敷に運ばれ、母が呼んだ医者に治療されたらしい。体調は順調に回復していた。父は男爵への叙任式のために王都へ行っていて不在だった。


医者が帰った後、母さんが部屋に入ってきた。ひどく心配そうな顔をしていて、その眼差しは以前とはまるで違っていた。


「どうして、僕を助けたんですか……」


俺はベッドに座り、死んだ魚のような目で母さんに問いかけた。母さんは驚いたように俺を見た。


「何を言っているの、アラン? あなたは私の息子じゃない」


息子?

笑わせるな……。


「息子、ですか? 僕は家族の『余り物』でしょう、母上。姉上とは違う。『幸せ』って何ですか? どんな感じなんですか? 『美味しい』っていうのも分かりません。僕が知っているのは、喉にへばりつく脂の生臭さと、硬くて乾いた味だけです。

抱擁ってどんな感じですか? 父上と母上が毎日姉上を抱きしめているのを見ていました。あれは気持ちいいんですか?

僕はいつも自分で自分を抱きしめていました。少し温かいけれど、胸の奥が痛くなるんです。

でも、首を吊ってぶら下がった時、すごく温かかったんですよ。少し痛かったけど、もしかしたらあれが僕の『幸せ』だったのかもしれません。生まれて初めて、気分が良かったんです」


「……っ!」


母さんは何も言わずに聞いていたが、やがて激しく泣き出した。

自分の行いへの罪悪感と、俺の言葉が突き刺さったのだろう。この世界では黒髪が差別されるのは常識だが、我が子の口から語られた事実はあまりにも重すぎたのだ。


「ご……ごめんね……アラン。こんな酷いことをして……あんなに苦しめて……母さん、自分を許せないわ」


これが母性本能というやつだろうか。どんな子であれ、腹を痛めた子には変わりない。だが、子供に背負わせるには過酷すぎた。


「……」


俺は転生したのか。

死にたいという感情は残っているが、それはこの世界の「アラン」の記憶がそうさせているだけだ。

よくある「異世界転生」ってやつか。本当にあったとはな。

五体満足で手足がある。不運とは言えないだろう。

いや、幸運か?


幸運と言えるかは微妙だ。この世界にはルールがある。

身分を決める貴族制度。強さが階級を決める実力主義。

そして、政治的にも社会的にも女性が優遇される女尊男卑の世界だ。

特に結婚に関しては、中流以下の男貴族にとっては絶望的だ。女性は自分より格上か、よほど優れた男しか選ばないからだ。


なぜ俺がこの世界のこと詳しいのか?

それはここが、俺が死ぬ直前までプレイしていた『あのゲーム』の世界だからだ。


黒髪の人間は平民以下の最下層、奴隷同然の扱いを受ける。

両親が俺を差別したのも、そういった迷信や社会通念のせいだろう。だが、俺が感情を吐露したことで目が覚めたらしい。腐っても親子ということか。


その後、母さんは帰宅した父にすべてを話したようだ。父は三日間も部屋に引きこもり、精神的に落ち込んでいた。姉のシリアも、少しずつ俺に歩み寄り、遊びに誘ってくれるようになった。俺も心を開き始め、姉弟として仲良くなっていった。


扱いも良くなった。食事もようやく「美味しい」と言えるものになった。慣れるまで時間はかかったが、心の壁も少しずつ溶けていった。


俺は前世の記憶を頼りに、「月光北天流」の剣術修行を始めた。まだ子供の体なので、まずは基礎体力と筋肉作りからだ。

残念ながら、姉のように膨大な魔力は持っていなかった。俺の魔力はゼロだ。


そして確信したことがある。

ここは間違いなく、あの乙女ゲームの世界だ。

地図の形状、社会システム、人々の価値観。すべてがゲームの設定と一致している。


だが、俺にとってはただのゲームじゃない。与えられた「二度目の人生」だ。

だから俺は決めた。

自分の人生を守るために、ゲームのシナリオには一切関わらないと。

そのために俺は情報を集め、これから起こる出来事に備える必要がある。

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