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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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第10章 聖女と二人きりの夜

今回の合宿に参加する生徒数は約六百人。各グループが二十から三十人の大所帯となるため、全部で二十近いグループが結成された。

そして、たった一組のペアを除いて。


生徒たちは街を出て、深い森へと足を踏み入れた。各グループは指定されたルートを通って、三日以内に街へ帰還しなければならない。装備は鎧や武器の持ち込みが許可されている。

街から十キロほど離れた草原までは、騎士団が危険なモンスターを駆除済みだ。残っているのは比較的無害なものばかりだが、モンスターを見たことすらない生徒たちにとっては、油断ならない相手だろう。


「アランさん、見てください! お花を見つけました!」


アミリアが嬉しそうに駆け寄ってきた。その手には青白く発光する花が握られている。

彼女は動きやすい平服に、革製の胸当てとスカート、背中にはショートソードという軽装だ。

俺も似たような格好で、腰にはダンジョンのボスから手に入れた『黒月の刀』を差している。


「へえ……運がいいな。それは『月光草』だ。ポーションの材料になる。街で売れば一本につきリビス金貨一枚にはなるぞ」

「ポーションの?」

「ああ。花の蜜を抽出して適切に調合すれば、回復薬になるんだ。初歩的なポーションだけど、市場では常に品薄だから高値がつくんだよ」

「アランさんは物知りですね」


アミリアは感心したように俺と花を見比べた。


「森の歩き方とか、星を使った方角の知り方とか、薬草の知識とか……本当にすごいです」


俺は幼い頃から、生き残るために強さだけでなく知識も貪欲に吸収してきた。本から得た知識もあれば、実践で学んだことも多い。


「子供の頃に覚えたことさ。大したことじゃないよ」


詳しく説明するのが面倒で、俺はそっけなく答えた。するとアミリアは少し拗ねたように唇を尖らせた。


「私には教えたくないんですか? なんだかアランさん、つまらなそうですし……やっぱりお友達と一緒の方がよかったですか?」

「まさか。こんな美少女と二人きりのデートだぞ? 楽しくないわけないだろ」


俺はニヤリと笑ってからかった。


「もう……アランさんは冗談がお上手ですね」


どうやら本気にされなかったらしい。


「他のグループはもう休憩しているみたいですけど、私たちはキャンプしないんですか?」

「まだ歩き始めたばかりだぞ。日も暮れてないのにキャンプなんて早いよ。それに、モンスターにも活動時間がある。安全な場所を見つけてからじゃないとね。ここは窪地だから、雨が降ったら水没しちまう」

「雨?」


アミリアは不思議そうに空を見上げた。雲ひとつない快晴だ。

だが今夜、間違いなく雨が降る。

これはゲーム内イベントの一つだ。本来ならアミリアとヘンリー王子が本隊からはぐれ、雨の中で雨宿りをするという展開になるはずだった。


俺はアミリアを見て考え込んだ。

彼女は俺の後ろを慎重についてくる。二時間ほど歩き続け、小さな小川のほとりに到着した。

地面が川面より高く、増水しても安全な理想的なキャンプ地だ。


俺はテントを設営した。一人用の小さなテントだ。

不運なことに、アミリアは自分のテントを忘れてきてしまった。俺も彼女のドジっ子属性を失念していたのが痛い。彼女はこういうミスをよくやるのだ。


俺は周囲の枯れ木を集めて焚き火を起こし、シェラカップほどの小さな鍋を取り出した。オートミール、牛乳、トウモロコシを入れて煮込む。夜に食べても胃に優しいリゾット風の料理だ。これに干し肉を添えれば立派な夕食になる。


「いい匂い……。普通の材料なのに、こんなに美味しそうになるなんて。アランさんは本当にお料理がお上手ですね」


アミリアは鍋から漂う香りを嗅いで、幸せそうに微笑んだ。最初は森を怖がっていたが、数時間ですっかり順応したようだ。


「アランさん、一つお願いがあるんですけど……」

「ん? 何だ?」


俺は内容も聞かずに了承しかけたが、その願いを聞いて即座に撤回したくなった。

彼女は「小川で水浴びをしたいから見張っていてほしい」と言い出したのだ。一人では怖いらしい。

俺が断ろうとすると、彼女は今にも泣き出しそうな目で訴えてきた。「この辺りは安全だ」と言っても聞く耳を持たない。

仕方なく、俺は承諾した。


小川はキャンプ地から二百メートルほど離れているが、他のグループからは十分な距離がある。


「アランさん、まだいますか?」

「いるよ……」


俺は大木の陰に隠れて背を向けていた。

健全な男子なら、ここはいっそ覗いてやるのが礼儀かもしれないが……いつから俺はこんなに枯れてしまったんだろう。

アミリアは定期的に声をかけて俺の存在を確認してくる。チラッとくらい見てもバチは当たらないんじゃないか?


「私、すごく運がいいと思うんです」


水音が響く中、彼女が唐突に言った。


「運がいい? 何がだ?」

「……アランさんと出会えたことです。

困っている時に助けてくれて、色々な問題を解決してくれて……。私が平民でも対等に接してくれて、一度も馬鹿にしたりしなかった。皆が背を向ける中で、アランさんだけはずっと傍にいてくれました。

だから私、アランさんと出会えて本当に良かったなって思います」


「……そうか」


俺は小さく笑った。

彼女の言葉は、長く凍りついていた俺の心を溶かす焚き火のようだった。

黒髪の俺を見て嫌悪感を示すのが普通の世界で、これほど真っ直ぐに俺を受け入れ、感謝してくれる人がいるなんて。


「……ありがとう」


俺は誰にも聞こえない声で呟いた。


アミリアが戻ってくると、俺たちはテントに入った。

残念ながらテントは一つしかない。本来のシナリオなら、彼女は王子とここで一夜を過ごすはずだったが、状況は大きく異なっている。


「君はもう寝ていいよ。僕は外で見張りをするから」

「えっ? さっきこの辺は安全だって言ったじゃないですか。……じゃあ、私も一緒に起きてます」


アミリアは眠そうに目を擦りながら言った。


「無理するなよ。明日は早朝から移動するんだぞ。体力が持たない」

「それはアランさんも同じです……。それに、私、心配してませんから。アランさんなら、変なことしないって信じてます」


彼女のお人好しというか、頑固なところが出た。こうなると彼女は引かない。たとえ内心では常識外れだと思っていても。

結局、俺たちは狭いテントで肩を並べて横になった。未婚の男女がこんな状況になるのは不適切極まりないが、俺には理性を保つ自信があった。


彼女は横になった瞬間、寝息を立て始めた。よほど疲れていたのだろう。

俺は彼女の寝顔を見つめた。

聖女の血を引いているせいか、彼女には不思議な魅力がある。淡いブロンドの髪、桜色の唇。肌はきめ細かく、頬は泡のように柔らかそうだ。

俺の手が、無意識に彼女の頬に触れた。

心から彼女に感謝していた。彼女のような人と出会えた幸運を噛み締めていた。


「俺も……運が良かったよ」


「……!!?」


俺は弾かれたように手を引っ込めた。

アミリアの顔がさっきよりも赤くなっている。

寝てなかったのか!? 狸寝入りか!?


「あれ? 雨……?」


気まずい空気が流れる中、テントを叩く雨音が聞こえてきた。


***


一方、森の東側では猛烈な嵐が吹き荒れていた。

その混乱の中、特進科のグループとはぐれたヘンリー王子とアリスは、強風に煽られて本隊から遠く離れた場所まで流されていた。

二人は山肌にある洞窟を見つけ、そこへ逃げ込んだ。


「こっちだ! 入ろう!」


ヘンリーは憔悴したアリスを抱えて洞窟の奥へ入り、火を起こした。濡れた服を乾かすため、二人は下着姿になった。


アリスは完全に「ヒロイン」になりきっていた。

弱々しく振る舞い、王子の罪悪感を刺激する。すべて計算通りの演技だ。


「すまない……こんな目に遭わせて。僕が我が儘を言って君をグループに入れたせいで……。一生かけて償うよ」


ヘンリーは背を向けて座り、悔しげに言った。

その言葉は、アリスにとって待ち望んでいた「合図」だった。


「そ、そんなことありません……。殿下に誘っていただけて、私、すごく嬉しかったです。どんなに辛くても、殿下のお傍にいられるなら……」


アリスは震える声で言い、背後からヘンリーに抱きついた。

完璧なタイミングだ。まるで本物のアミリアであるかのように。

驚いて振り返ったヘンリーを、アリスは見つめ返した。その瞳は潤んでいる。


「アリス……君は……」


ヘンリーが言い終わる前に、アリスは彼の唇を奪った。不意を突かれたヘンリーだったが、すぐに情熱的に応え、アリスを押し倒した。

二人は数分間、濃厚な口づけを交わした。ヘンリーは愛おしそうにアリスを見つめ、微笑んだ。

彼には婚約者がいることなど、完全に忘れ去られていた。

これでシナリオは決定的なものとなり、アンジェラの破滅は避けられないものとなった。


翌朝。

徹夜で捜索を続けていたアンジェラ率いる捜索隊が、洞窟を発見した。

雨の中、一睡もせずに婚約者を探し回ったアンジェラは、洞窟から漏れる煙を見て歓喜し、真っ先に駆け込んだ。

だが、そこで彼女が見たのは、下着姿で楽しげに談笑するヘンリーとアリスの姿だった。


理性が飛び、アンジェラはアリスを引き剥がして頬を張り飛ばした。


「いい加減になさいッ!!」

「やめろッ!!」


ヘンリーの怒声が洞窟内に響き渡り、外にいた生徒たちも何事かと集まってきた。

ヘンリーはアンジェラの手を乱暴に振り払い、アリスを庇うように抱き寄せた。衆人環視の中での出来事だった。


「で、殿下……」


アンジェラは信じられないものを見る目でヘンリーを見つめた。

愛する婚約者に拒絶され、あろうことか浮気相手を庇われたのだ。彼女は屈辱と悲しみに震え、必死に涙をこらえた。


「自分が何様のつもりだ? 婚約者だからといって、僕の女に手を出していいと思っているのか?

……今後一切、僕とアリスに近づくな。これは最後の警告だ」

「私は……ただ、殿下のことを思って……義務を果たそうと……」


アンジェラの声は震え、涙声になっていた。

周囲からはひそひそと嘲笑する声が聞こえる。「王子は婚約者に愛想を尽かしたらしい」「あの女、ざまあみろだ」と。

ヘンリーはアンジェラの献身など意に介さず、冷ややかな視線を向けるだけだった。


あまりにも残酷な光景だった。

婚約者がいる身で他の女と密通し、心配して探しに来た婚約者を罵倒し、浮気相手を正当化する。

おぞましい。

人々は真実を知ろうともせず、ただ目の前の「王子様と可憐な少女」という絵面に酔いしれ、邪魔者であるアンジェラを悪だと決めつける。


アンジェラはその場に立ち尽くし、絶望に打ちひしがれていた。怒りと悲しみで体が震え、心が壊れていくのを感じていた。

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