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乙女ゲームの世界に転生したけど、全然簡単じゃない!!  作者: 太陽の海


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第1章 新しい人生【黒の民(タミル)編】

この世界で目覚める前、俺はごく普通の人間として生きていた。

ここことは似て非なる、もう一つの世界での話だ。


二十二歳、無職。進学もせず、母と妹の家に居候する身。

顔立ちは悪くなかった――いや、着飾らなくとも「イケメン」と言われる部類だったろう。高校時代は毎週のように女子から告白されていたし、成績だって大学進学には何の問題もなかった。

だが、俺が大学に行けなかった理由は一つ。身体障害だ。


どうしてこんなことになったのか? 去年まで、俺の目の前には輝かしい未来が広がっていたはずだった。

父の道場、「月光北天流げっこうほくてんりゅう」の後継者として。

千年の歴史を持ち、国の歴史の影で敵を排除してきた実戦剣術。その第164代継承者として、俺は五歳の頃から父に師事し、「天才」と呼ばれるほどの腕前を持っていた。


両親は幼い頃に離婚しており、母への愛着は薄かった。

そして高校卒業を控えたあの日。

県大会で優勝し、父と二人で帰路についていた時だった。俺たちの乗った車は事故に巻き込まれ、何度も横転した挙句、鉄屑のように押し潰された。


「……」


なぜだ?

全身を襲う激痛。車体に挟まれ、身動き一つ取れない。潰された下半身からは、もはや痛みすら感じなかった。

視界の端で、父の姿が見えた。父もまた車体にプレスされ、声を発することすらできない状態だった。

それでも父は、俺に視線を向け、微笑んでいた。何かを言おうとしていたが、潰れた肺からは音が出ず、やがて静かに息を引き取った。

俺は薄れゆく意識の中で、ただその光景を見つめることしかできなかった。

サイレンの音と人々の喧騒の中、俺は慟哭し、意識を手放した。


病院で目覚めた時、一命を取り留めたことと引き換えに、俺は右足を失っていた。剣士としての人生は終わった。

父は即死だった。身寄りのない俺は、嫌々ながら引き取ってくれた母のもとへ送られた。

俺は道場の最後の継承者であり、そして俺の代でその歴史が終わることも悟った。


母は仕事人間で、世界中を飛び回っている。父の葬儀にすら顔を出さないような人だ。

妹とは幼い頃は仲が良かったが、今ではまるで他人のようだ。母よりは俺のことを気にかけてくれるが、ネットで注文した食事を放り投げてよこす程度のことだ。


今の俺の体は酷く脆い。肺の損傷で運動はできず、常備薬の副作用で免疫力も低下している。今日死ぬか、明日死ぬか。そんな状態だった。

生きる理由を失ったのか、あるいは痛みに慣れすぎて思考を放棄したのか。

俺の周りには本が積み上げられている。哲学、言語、科学技術、社会学、歴史……。足のない本の虫、それが今の俺だ。


退院してからの三年間、大学進学を目指して必死に勉強したが、どれだけ成績が良くても受け入れられることはなかった。

そして今、俺は暗い部屋で一人、パソコンの画面に向かっている。

ゲームの名は、『美少年たちとのファンタジー・アドベンチャー』。


精神的に不安定になり、余計なことを考えないように何か没頭できるものを探していた。

スポーツは無理だ。だから本を読み漁り、ついには自分の背丈よりも高く積み上がった本の山に囲まれるようになった。

だが、それも飽きてしまい、別の暇つぶしを探していた時に、このゲームディスクが届いたのだ。

差出人も、開発元も不明。ネット掲示板で聞いても情報は皆無。まるでプログラムのバグから生まれたかのような存在だった。


「……」


正直、パッケージを見ただけで妙な胸騒ぎがした。

中央に描かれたヒロイン。その周りを囲む、呆れるほどの美男子たち。

だが、ヒロインの赤い唇と鋭い眼差しは、どう見ても悪役令嬢だ。ゲームと言われなければ、愛憎渦巻く昼ドラかと思うだろう。


舞台は剣と魔法の世界。人間が支配し、貴族制度による厳格な階級社会が存在する。

主人公は辺境の田舎娘だが、貴族の援助を受けて王立学園に入学するという設定だ。

攻略対象は、パッケージの六人の男たち。

主人公は平民であるがゆえに貴族たちから陰湿ないじめを受ける。だが、一番イラつくのは、主人公がそれを無抵抗に受け入れていることだ。


「こいつ、脳みそ置いてきたのか?」


悪態をつきながらも、マウスを握り続けて二ヶ月。

学園編でのレベルの低い「肉塊(攻略対象)」どもは、オートバトルにするたびに敵にボコボコにされて床を舐める。

バランス型のパーティ構成のはずなのに、レベル差がありすぎて、巨人に挑む蚊のような有様だ。


仕方なく、「ショップ」ボタンから課金アイテムを買い与え、その肉塊どもを強化してやった。

「お前ら不思議に思わないのかよ? 貧乏な田舎娘が、どこからこんな超レアアイテムを持ってきたんだって」


それに主人公も主人公だ。聖女ぶるのもいい加減にしろ。ゴブリンにでも襲われないと目が覚めないのか? 痛みこそが最良の教師だというのに。

だが、ストーリーの細かさは異常だった。些細なセリフが何百人もの人生に影響を与える。本当にただのゲームなのか?

たった一日プレイしただけで、以前よりストレスが溜まった気がする。


RPGのはずなのに戦闘よりも恋愛イベントばかり。世界観の設定だけは無駄に緻密で、ベータ版とは思えない完成度だ。

すれ違うNPCの下着のサイズまで設定されている始末だ。

その世界では、権力を持たない者、貴族でない者は地獄を見る。特に「黒髪」の人間にとっては、その地獄は二倍だ。

ゲーム内では彼らを「黒のタミル」と呼び、平民以下の最下層として扱っている。


このゲームでは、女の方が男よりも権利が強い。例外はあの六人の肉塊と高位貴族くらいだ。兵士などの下層階級は、主人公たちが必殺技をチャージする間の「肉壁」として使い捨てにされる。

そして、プレイしていて黒髪のキャラが出てきたことは一度もない。黒髪は労働者や下層民の色として迫害され、排除されたという設定があるからだ。その歴史設定だけで『三国志』より長い文章が用意されていた。

もちろん読んだ。伝記本三冊分よりも分厚い無駄知識だ。


「……」


文句を言いながらも、なぜ俺はこれをプレイし続けているのか。

言葉にできない胸のざわめき。ゲームなど好きではなかったはずなのに、景色やキャラを見るたびに、奇妙な既視感デジャヴを覚える。まるで……。


「終わった……やっとクリアか。……最後、誰がヒロインを助けたんだ? あんなラスボスと渡り合うなんて、王子たち全員束になっても勝てないぞ。隠しキャラか? 顔を見せろよ……あれ、停電?」

数あるエンディングの中で、たどり着いたグッドエンド。

クリア後は、このファンタジー世界を自由に冒険できるらしい。モンスター討伐、レベル上げ、結婚して家庭を持つことさえ可能だとか。

あの肉塊どもを育成するだけで二ヶ月もかかった。やっとRPGらしくなってきたというのに。

しかも、グッドエンドを見るためには何百もの隠しイベントをクリアしなければならない。

こんなゲーム、無料だとしてもまともな人間は手を出さないだろう。ストレスが溜まる上に、人生の無駄遣いだ。


「これがゲームと呼べるのか?」


半分以上がテキストだ。一週間プレイして、まともな戦闘シーンはさっきのが初めてだった。RPGの定義がゲシュタルト崩壊しそうだ。

その時、胸に杭を打ち込まれたような衝撃が走った。


「がはっ……」


息が……できない?

感染症が血流に乗り、損傷した肺の機能を停止させたのか。肺が血液で満たされ、溺れているようだ。視界が暗くなっていく。

血が肺に……救急車を……。

だが、今の自分の惨めな姿を思い出し、手が止まる。


俺は、毎日同じことの繰り返しに疲れていた。どれだけ努力しても無意味に思える日々に。

俺は力なくベッドに横たわった。

今死ねば、この苦しみから解放されるかもしれない。

生きることを諦めたわけじゃない。ただ、自分の「エンディング」を受け入れただけだ。運命を変えられないゲームのキャラクターのように。


障害のせいで夢は潰え、「愛」と呼べる家族もいない。俺が死んで、母や妹は涙を流してくれるだろうか。

肺が血で溢れ、声が出ない。巨大なプールで溺れているような苦しみ。頭が割れるように痛い。全身の筋肉が痙攣する。

苦しい……。

これが最初で最後の、誰にも教わることのできない経験か。


「……」


俺は枕に顔を埋めた。

少なくとも、冷たく硬いタイルの床の上で死ぬよりはマシだ。

意識が遠のく。酸欠で脳が死んでいく。内臓機能が停止し、心臓が止まる。ゆっくりと、死が訪れる。


五日後、俺の腐乱死体が発見された。見つけたのは異臭に気づいた隣人で、警察に通報された。

母と妹が俺の死を知ったのは、さらにその翌日だった。

そして俺の葬儀には、涙も、悲しみもなかった。


『家に帰る時間だ』

はじめまして。「Sea of Sun」です。


この作品を書く前に、実は4〜5作品ほど別の小説を書いたことがあります。ジャンルはさまざまでしたが、ほとんどがファンタジーでした。


けれど、自分が物語を書き始めた原点を辿るなら、小学校1年生か2年生の頃まで遡ります。はっきりとは覚えていませんが、ノートに物語を書いていました。もちろん、書き方の理論なんて何も知らず、ただ子供らしい想像力をそのまま文字にしていただけです。


当時の想像は、テレビで観た映画や、兄が遊んでいるゲームを隣で見ていた記憶、買ってもらったアニメのCDなどから生まれていました。今思えば何を考えていたのか分かりませんが、それが自分にとって最初にペンを握り、頭の中の世界を形にした瞬間でした。


中学生になると小説を読み始めました。ただ、正直に言えば、私は読書家ではありません。自分が興味を持った作品だけを読むタイプで、ジャンルもその時々の気分次第でした。


最初に夢中になったのは推理小説でした。小学校高学年の頃に読んだ作品で、とても好きでした。ただ、その頃はまだ自分で小説を書こうとは思っていませんでした。


高校生になると、妹がロマンス小説を読んでいるのを見かけました。正直、あまり期待せずに読んでみたのですが、意外にも面白く、それをきっかけにファンタジー小説も読むようになりました。そして中学時代から観ていたアニメにも影響され、ついに自分でも物語を書き始めました。最初は友人に読んでもらい、その後ウェブサイトで公開するようになりました。


この作品は、これまでの読書体験、映像作品、音楽など、さまざまな経験から生まれた“結晶”のような物語です。


これまで私の作品を読んでくださった方の中には、本作の主人公に違和感を覚える方もいるかもしれません。私は「突然の幸運」にあまり魅力を感じないタイプです。死んで転生して最強の力を手に入れる、最強の武器を持つ、強力な仲間やハーレムが簡単に手に入る――そういった展開は、あまりにも都合が良すぎると感じてしまいます。


私が描きたいのは、「力や権力を得るまでに、どれほどの困難を乗り越えたのか」という過程です。成長を描くためには、ときに苦しみも必要だと思っています。――本物の金を得るには、強い火が必要なように。


この物語をこうして形にできたこと、そして読者の皆さまに届けられることをとても嬉しく思っています。もし読後に合わないと感じる方がいらっしゃいましたら、どうかご容赦ください。


それでも、少しでも楽しんでいただければ幸いです。

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