こたつ星と、みかんの月
冬の夜は、外がしんとしていて、家の中の音がよくきこえます。やかんが「しゅう」と鳴る音。ストーブが「ぱちっ」とはぜる音。
そして、いちばん好きなのは――こたつの中で、足がふわっとあたたかくなる音です。
コハルがこたつに足を入れると、毛布みたいなあたたかさが、すねを包みました。
そのとたん、こたつ布団のふちに、きらり。
窓ガラスの霜のもようも、きらり。
冬はさむいのに、光るものがたくさんあります。
「その『はあ』は、冬のごほうびだねえ」
おばあさんが笑いました。こたつの上には、みかんのかご。つやつやしたオレンジ色の玉がころころ転がって、電気の光を受けて、つるんと光っています。
おばあさんは昔話がとても上手で、みかんをむきながら、いつもお話をしてくれます。
「昔はね、月がいまより近くて、みかんの香りがする夜があったんだよ」
「えー。月って、みかんのにおいするの?」
「する夜もあるさ。月は、さむい夜に“あったかいもの”を探すからねえ」
コハルはみかんを一つ取って、むきはじめました。
皮がすーっとつながってむけると、気持ちがいい。けれど今日は少し切れそうで、コハルはゆっくり、ていねいにむきました。
そのときです。
こたつの中で、ちかっ、と小さな光がしました。
それは一回だけじゃありません。ちかっ、ちかっ、と、星が瞬くみたいに続いて、暗いはずのこたつの中が、ほんの少し明るくなりました。
「……あれ?」
コハルがのぞくと、布団の影のところで、きらきらがふわふわ踊っています。
雪の結晶を小さくしたみたいな光が、ぽわ、ぽわ、と浮かんで――そのうちの一つが、指先にちょこん、と乗りました。
小さくて、まるくて、やわらかい光。
つめたいと思ったのに、ほんのりあたたかい。
「おばあちゃん! こたつの中に、星がいる!」
おばあさんは、みかんの皮をくるりと持ったまま目を細めました。
「おやまあ。出たね、こたつ星」
「こたつ星?」
「こたつには、あったかさが集まるだろう? 集まったあったかさが、うれしくなるとね、光になって飛び出すことがあるんだよ」
コハルはこたつ星を手のひらにのせてみました。
光はまぶしくない。でも、見ていると胸がすうっと落ちつく光でした。
星のまわりに、粉雪みたいな小さなきらきらが、さらさら落ちて、手のひらの上で消えました。
――そのころ。
コハルがむいていたみかんの皮は、ぷつん、と途中でちぎれてしまいました。
「あー……月にならなかった」
ちぎれた皮を見て、コハルがしょんぼり言うと、おばあさんが首をかしげます。
「月?」
「ほら。皮が長くつながると、月みたいになるでしょ。ぼく、それ、“みかんの月”って呼んでる」
おばあさんはにっこりして、ゆっくりうなずきました。
「いい名前だねえ。みかんの月はね、夜の外へ、あったかい気持ちを送るんだよ」
「え? 送るの?」
「そうさ。冬の夜はさむくて、気持ちも縮むだろう。だから月は光る。
でもね、月がいちばん光るのは――“分けたあったかさ”がある夜なんだ」
コハルは窓を見ました。外の月は、いつもより少しうすい気がします。
こたつ星も、さっきより小さくなったみたいで、きらきらが少なくなりました。
「……足りないのかな」
コハルが言うと、こたつ星が、ちか、ちか、と弱くまたたきました。
言葉はしないのに、「うん」と言われたみたいな気がしました。
次の日、コハルは町で、なんだか空気がかたいことに気づきました。
雪かきをしているおじさんが、ひとりで黙っている。
転んだ子がいても、みんな急いで通りすぎる。
寒いと、心まで手袋をはめたみたいに、ぶ厚くなるのかもしれません。
その夜、コハルはみかんのかごを見つめました。
みかんのつやが、電気の光を受けてきらり。
こたつの中のこたつ星も、ちいさく、ちかり。
コハルは決めました。
「おばあちゃん。みかん、少し分けてもいい?」
「もちろんさ。分けるみかんは、甘くなるからねえ」
コハルは小さなお皿にみかんを二つのせて、となりのおばさんの家へ持っていきました。
「よかったらどうぞ」と言うと、となりのおばさんの顔が、ぱっと明るくなりました。
「まあ、うれしい。寒い日に、みかんって、ほんとに月みたいねえ」
その瞬間、コハルのコートのそでに、きらきらが一粒、ふわっと降りてきました。
雪じゃない。光の粒。
息を吐くと白い息がふわっと広がり、その中に、金色みたいなきらきらがまじりました。
帰り道、コハルは雪かきをしているおじさんにも声をかけました。
「ぼく、少しだけ手伝うよ」
おじさんは最初びっくりしていましたが、「じゃあ、こっちをお願い」と言ってくれました。
ほうきを動かすたび、雪がさらさら舞って、街灯の光を受けて、星くずみたいにきらきらしました。
家に帰って、コハルはこたつにもぐりました。
こたつ星が、ちかっ! と明るく光りました。
さ
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
冬の「きらきら」は、雪や星や月の光だけじゃなくて、
だれかにみかんを分けたり、声をかけたり――
ほんの少しのやさしさの中にも生まれるんじゃないかな、と思ってこのお話を書きました。
こたつ星が増えるのは、あったかさを“独り占め”しない夜。
みかんの月が明るくなるのは、あったかい気持ちが“外へ届いた”夜。
そんなふうに考えると、冬って、ちょっとだけ好きになれる気がします。




