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こたつ星と、みかんの月

作者: 星渡リン
掲載日:2026/01/10

 冬の夜は、外がしんとしていて、家の中の音がよくきこえます。やかんが「しゅう」と鳴る音。ストーブが「ぱちっ」とはぜる音。

 そして、いちばん好きなのは――こたつの中で、足がふわっとあたたかくなる音です。


 コハルがこたつに足を入れると、毛布みたいなあたたかさが、すねを包みました。

 そのとたん、こたつ布団のふちに、きらり。

 窓ガラスの霜のもようも、きらり。

 冬はさむいのに、光るものがたくさんあります。


「その『はあ』は、冬のごほうびだねえ」


 おばあさんが笑いました。こたつの上には、みかんのかご。つやつやしたオレンジ色の玉がころころ転がって、電気の光を受けて、つるんと光っています。

 おばあさんは昔話がとても上手で、みかんをむきながら、いつもお話をしてくれます。


「昔はね、月がいまより近くて、みかんの香りがする夜があったんだよ」


「えー。月って、みかんのにおいするの?」


「する夜もあるさ。月は、さむい夜に“あったかいもの”を探すからねえ」


 コハルはみかんを一つ取って、むきはじめました。

 皮がすーっとつながってむけると、気持ちがいい。けれど今日は少し切れそうで、コハルはゆっくり、ていねいにむきました。


 そのときです。


 こたつの中で、ちかっ、と小さな光がしました。

 それは一回だけじゃありません。ちかっ、ちかっ、と、星が瞬くみたいに続いて、暗いはずのこたつの中が、ほんの少し明るくなりました。


「……あれ?」


 コハルがのぞくと、布団の影のところで、きらきらがふわふわ踊っています。

 雪の結晶を小さくしたみたいな光が、ぽわ、ぽわ、と浮かんで――そのうちの一つが、指先にちょこん、と乗りました。


 小さくて、まるくて、やわらかい光。

 つめたいと思ったのに、ほんのりあたたかい。


「おばあちゃん! こたつの中に、星がいる!」


 おばあさんは、みかんの皮をくるりと持ったまま目を細めました。


「おやまあ。出たね、こたつ星」


「こたつ星?」


「こたつには、あったかさが集まるだろう? 集まったあったかさが、うれしくなるとね、光になって飛び出すことがあるんだよ」


 コハルはこたつ星を手のひらにのせてみました。

 光はまぶしくない。でも、見ていると胸がすうっと落ちつく光でした。

 星のまわりに、粉雪みたいな小さなきらきらが、さらさら落ちて、手のひらの上で消えました。


 ――そのころ。


 コハルがむいていたみかんの皮は、ぷつん、と途中でちぎれてしまいました。


「あー……月にならなかった」


 ちぎれた皮を見て、コハルがしょんぼり言うと、おばあさんが首をかしげます。


「月?」


「ほら。皮が長くつながると、月みたいになるでしょ。ぼく、それ、“みかんの月”って呼んでる」


 おばあさんはにっこりして、ゆっくりうなずきました。


「いい名前だねえ。みかんの月はね、夜の外へ、あったかい気持ちを送るんだよ」


「え? 送るの?」


「そうさ。冬の夜はさむくて、気持ちも縮むだろう。だから月は光る。

 でもね、月がいちばん光るのは――“分けたあったかさ”がある夜なんだ」


 コハルは窓を見ました。外の月は、いつもより少しうすい気がします。

 こたつ星も、さっきより小さくなったみたいで、きらきらが少なくなりました。


「……足りないのかな」


 コハルが言うと、こたつ星が、ちか、ちか、と弱くまたたきました。

 言葉はしないのに、「うん」と言われたみたいな気がしました。


 次の日、コハルは町で、なんだか空気がかたいことに気づきました。

 雪かきをしているおじさんが、ひとりで黙っている。

 転んだ子がいても、みんな急いで通りすぎる。

 寒いと、心まで手袋をはめたみたいに、ぶ厚くなるのかもしれません。


 その夜、コハルはみかんのかごを見つめました。

 みかんのつやが、電気の光を受けてきらり。

 こたつの中のこたつ星も、ちいさく、ちかり。

 コハルは決めました。


「おばあちゃん。みかん、少し分けてもいい?」


「もちろんさ。分けるみかんは、甘くなるからねえ」


 コハルは小さなお皿にみかんを二つのせて、となりのおばさんの家へ持っていきました。

 「よかったらどうぞ」と言うと、となりのおばさんの顔が、ぱっと明るくなりました。


「まあ、うれしい。寒い日に、みかんって、ほんとに月みたいねえ」


 その瞬間、コハルのコートのそでに、きらきらが一粒、ふわっと降りてきました。

 雪じゃない。光の粒。

 息を吐くと白い息がふわっと広がり、その中に、金色みたいなきらきらがまじりました。


 帰り道、コハルは雪かきをしているおじさんにも声をかけました。


「ぼく、少しだけ手伝うよ」


 おじさんは最初びっくりしていましたが、「じゃあ、こっちをお願い」と言ってくれました。

 ほうきを動かすたび、雪がさらさら舞って、街灯の光を受けて、星くずみたいにきらきらしました。


 家に帰って、コハルはこたつにもぐりました。


 こたつ星が、ちかっ! と明るく光りました。

 さ

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。


冬の「きらきら」は、雪や星や月の光だけじゃなくて、

だれかにみかんを分けたり、声をかけたり――

ほんの少しのやさしさの中にも生まれるんじゃないかな、と思ってこのお話を書きました。


こたつ星が増えるのは、あったかさを“独り占め”しない夜。

みかんの月が明るくなるのは、あったかい気持ちが“外へ届いた”夜。

そんなふうに考えると、冬って、ちょっとだけ好きになれる気がします。

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