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第二話 それでも日常は続いていく

 

「おっはよー!」

「……おはよう」


 教室に入ると、美羽が笑顔で挨拶してくれた。

 動揺してしまったが、私も何とか挨拶を返す。


「ねー、昨日のノート見せてくれる? テスト近いからヤバイ」

「いいよ。昼休みでもいい?」

「いい! ありがとー! 愛してる!!」

「おおげさ」


 びっくりするくらい、いつもの美羽だった。

 あの日、不意に黒瀬を見て耳を赤くしたり、息を呑んで駆け出した美羽の気配はない。


「あっ、黒瀬もおはよー!」

「あぁ、おはよ」


 ウェーブのかかった赤茶色の髪を揺らせて、美羽が教室に入って来た黒瀬にも挨拶している。

 黒瀬も一昨日と何の変化も無かった。

 私一人が取り残されているみたいな、不思議で不安な感じ。


「おはよ」


 私の席の前を通るとき、頭上から小さく声がかかった。

 思わず顔を上げるが、言葉が口から出ない。

 目を伏せ、小さく頷く。


「夕、今日は早めに購買行こうね!」

「え? あ、うん。そうだね」


 どうして美羽は笑えるんだろう。

 傷ついたはずなのに。

 黒瀬に傷つけられたばかりなのに。


 ――いや、それは私もか。


 見たくもない傷を、今、ようやく自覚した。



 *  *  *



 昼休みになり購買に行った後、私達は空き教室で昼食をとることにした。

 当然、先生には内緒なので廊下側の窓から見えないように隠れて座る。


「はーっ! 今日もリンゴジュースがおいしー!」


 飲み終わった紙パックを握りつぶし、美羽がご機嫌でコロッケパンにかぶりつく。

 私はおにぎりを一口かじり、美羽を伺う。

 自然体に……見える。

 でも、そんなはずはないと私の感覚が訴えている。

 美羽は、黒瀬が消しゴムを拾ってくれただけで喜ぶような可愛らしい恋をしていた。


「何? 夕ってば食欲ないの? 黒瀬にいじめられた?」


 美羽の口から『黒瀬』の名前が飛び出し、凍り付く。

 口にするのは勇気がいったろう。

 それだけ、彼女には重い名前だったはずだ。


「そういうわけじゃないよ」

「なら良かった。わたしさー、夕に言っておきたいことあってさー」


 名前を告げられ、向かいに座る美羽を見る。

 窓から入る陽光に照らされた腫れぼったいまぶたは、メイクでも隠しきれていない。


「黒瀬に、ちゃんと考えて答えてあげてね」


 息を呑むのは私の方だった。


「なんで?」

「だって、わたしの好きだった人だもん」


 好きだった人。

 たった一日で、彼女は恋を過去形にできるのか。


「付き合おうと思えるなら受ければいいし、違うなって思ったならそう伝えればいいんだよ」


 美羽はコロッケパンを半分以上たいらげていた。


「むずかしいことじゃないでしょ」


 お願い、美羽。

 腫れた目で笑おうとしないで。


「考えてみる」

「うん、それがいいよ。じゃ、ノート見せて!」


 コロッケパンは、彼女の手から消えていた。




読んでいただきありがとうございます。


夕も美羽も、どちらも傷ついているのに、

誰も責めることができない関係が続いています。


それでも、日常は続いていく。


次回は、少しだけ心が動き出します。

よろしければ続きもご覧ください。

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