7.ギルド
少し古びた看板に他の家々よりかは大きい建物。中へと入ると広い居間に大きな机を囲んで酒の入ったジョッキを持った人達が騒いでいる。
横をチラッと見ると素手による喧嘩が行われていて、それを囃し立てる人達。何だかとっても騒がしい。
「ギルドってこんな感じなんだ~。うるさいね。」
至る所から「うぇ~い」と発せられている。そういう感想になるのも当然だ。
「いらっしゃ……って、その二人は誰? もしかしてガールフレンド――彼女が二人もいるの? 豪胆だねぇ。」
ピンク髪のツインテール、あざとらしい服装の女の子のメブスタがやって来た。
「彼女じゃないよ……。仲間だ」と訂正しておいた。
「こんな騒がしい所じゃなんだし、こっちに来て」と彼女に連れられていく。
「ギルドってこんなに騒がしいんだねっ。」
「否定はできないけど、今日は特に騒がしいんだよね。王直兵試験があるから今は仕事はお休み中なんだけど、みーんな盛り上がりたくて来てるんだよ。あの馬鹿共は。」机の上に乗って上半身裸になった男がバットとジョッキを持って馬鹿をやっていた。
「まっ、王直兵になれるかも知れないって思える程、目覚しく強い子がいるからね、余計騒いじゃうよね。」
「強い子?」
「我々の自慢なの。机の上に乗った青髪で筋肉の子はルクバト君。A級冒険者で、王直兵合格候補の一人なの。それと、その正面にいる青髪で眼鏡をかけた子が弟のルクバー君。」ルクバーと呼ばれた人物は試験の時に風の玉を放っていた人物だった。「次期S級冒険者候補なのよ。凄くない?」
そう言われても、ギルドの仕組みが分からないので凄さがよく分からない。
「S級冒険者って凄いのかい?」ありがとうメイサ。俺の代わりに言ってくれて。
「そりゃあ、もちろんよ。S級になるともはや王直兵と同等の任務が任せられるの。そもそもそんなS級って今じゃ誰一人もいなくて、四年ぐらい前にリベルさん一人だけしかその位置にいなかったぐらいなの。」
リベル……。確かアンタレスを圧倒的な能力で取り押さえて諭していた人物だ。彼は相当な強さの冒険者だったのか。
「こんなエース級の人がいてくれるだけで本当に助かるの。冒険者ギルドってもうここしか残ってないぐらいに廃れていて、ここも経営すらヤバかったんだから。けど、あの二人が来てくれたお陰で何とかやり繰りできてるの。」
嬉々揚々と話してくれている。もはや口が止まらなくなっているみたいだ。
「それにそれに。今まではアンゲ・テナルの店で武器とかを取り寄せてたけど、一新して"フウライボウ"に発注先を変えたんだ。より安価で高性能の武器が手に入るようになって、経営もより上向くようになったんだ~。うちのギルドは本当に追い風なのよ。」
俺らは個室の中に入って二人ずつ対面式に椅子に座る。外はうるさいが、仕切り扉があるので気になりにくかった。
ジャケットが返された。その後、好きなドリンクを聞かれた。俺は葡萄の炭酸ジュース。メイサはカシスオレンジ。カシェルは乳酸飲料水。メブスタは生ジョッキ。それぞれグラスを「じゃーあぁ、アトラ君とカシェルちゃんの一次突破記念として乾杯!」と当てていった。
シュワッ。ジュワッ。
葡萄の香りが鼻から抜ける。喉に弾ける炭酸が流れていく。濃い味が体の中に染み渡っていく。プハァ、なんて音が聞こえたので俺もその音を出そうと思ったが、そんな豪快な音ではなくゲップが出てしまった。ゲェップ。
「しかし、この試験は最悪だったな。」
まあ、それもそうだ。休みのないサバイバル。食料すら確保できない時もあり、厳しすぎて最悪と思うのは仕方ないな。
「そもそもトイレがないんだ。それを何日も続けるんだ。無理じゃないか。野グソでもしろとでも言うのか。」相当憤っているな。
「普通に外に捨てればいいだろ。」
「アトラ君には分からないと思うが、流石に我々には厳しいってもんがある。だよな、二人共。」その問いに対して正面二人は首を傾げた。「普通に外でポイッて捨てればいいじゃん?」
「嘘……だろ……。」彼女は驚いている。
実は俺らの世界の常識ではそれが当たり前なのである。そもそもトイレが必要ない世界なんだ。何故必要ないのか、「もしや排出システムをつけていないからか」と聞いた。その排出システムこそがトイレを必要としない理由だった。
「排出システムとは何だい?」
「えっ、知らないの。手術しないっていう人は少なからずいるのは分かるけど、知らないっていう人は初めてみたかもぉ。」
俺が初めてそのシステムが風の国にもあることを知った時、俺は驚いていた。その驚き方よりも大袈裟に驚いていた。
「男子の前で言っていいのかな。まあ、いっか」そんな前ぶりから「実はね、手術で膀胱・腟付近に箱を埋め込むの。カテーテル技術と洗浄技術、それと圧縮技術で、尿とか便とか血とか、後オリモノとかも全て箱の中に運ばれて塊になるんだよねぇ」と説明される。
「つまり、排泄物は全て箱の中で塊に変わるから、その箱を取り出して外にポイッてするの。貯めれるのはアトラ君だと……」「俺は一週間だな。」「私達は来てる時は一日、普通の時は四日に一回、捨てるだけでいいのよ。」
隣の人は「最高かよ……」と口をポカンと開けていた。
「因みに、女の子は別にカプセルってのを入れていて、痛みの発生をすぐさま検知して、痛みを無くしてくれるんだよっ。」「定期的に補充しないといけない面倒くささはあるけどな。」
隣の人は「最高だな……」と昇天しかけていた。
雷の国では、この技術は国から追放された大犯罪者"ベラトリクス"が広めていた。暗黒の国に変えた罪は大きいものの、この技術だけは感謝している。トイレ行かないのは凄く楽だ。
しかし、風の国にどうしてそんな技術があるんだろう。
「これも全て、風の国でね、新世代界隈の女王とまで呼ばれている社長さんのお陰なの。私、すっごくファンなんだ。ベラトリクスさんって言うんだ。聞いたことぐらいあるでしょ?」
「すまない。……知らないかな。」
なるほど。雷の国から追放された彼女は風の国でなかなかの立場になっているようだ。
机の上に様々なグルメが置かれた。味噌たっぷりのトンカツ。海塩唐揚げ。極上卵のとんぺい焼き。極上卵のデミオムライス。たっぷり量あるみずみずしいトマトのミートスパゲティ。「どれもギルド名物よ」と美味しい料理がずらっと並んでいる。
「本当は男に奢って貰うんだけど、今日は特別だからね。全部、私の奢りでいいわ。」ツンとした態度で言い放っていた。
ジューシーな肉汁と濃い味噌が絶妙にマッチしている。海塩の濃い味も肉汁とマッチしている。卵がホロホロしていて舌触りが素晴らしい。味もしっかりしていて満足感がある。デミグラスソースの味がケチャップライスと卵と混ざり合いチャーミングな味になっている。ミートスパゲティのガッツリ感が堪らない。
「流石の食いっぷりだな。まあ、そのお陰で色々な種類の料理を食べられてとても楽しいよ。」
「まさに米とカルガモの関係性ですわね。」
「お互いに利があるってことだな。」
他はすぐに胃袋的に限界を迎えていた。料理の大半が俺の胃袋の中へと入った。美味かった。
パフェが用意される。グラスの中に輝く宝石のような存在。コーンフレーク、ケーキ、アイスクリーム、クッキー、どれを取っても美味たるもの。一口一口が美味しいで埋め尽くされていく。
「まあ、何はともあれ、サバイバル形式の試験は正直あたしらには不利に感じたな。一人になった後、女だからって執拗に狙ってきた奴がいてな。すぐに諦めて自滅したから良かったものの、そうじゃなければ最悪な目にあっていた気がするんだ。」
「そうなのですわ。私もそんな感じで負けました。この王都にはヤンキー集団が変に名を連ねていて、女だからって襲うクズが多いもので、夜もチマチマ歩けないもの。」
しかし、そんなに治安が悪かったのか。それにメブスタはミルファクに襲われていたが、それ以外にも似たような奴はいるもんなんだな。
「本当に嫌な奴だった。虹色モヒカンで舌をベロベロ出してて、ナイフをよく舐め、『ヒャッハー』と『俺の親父は』が口癖の変な奴だった。」
いや、あいつだ。
虹色髪の毛の奴なんてアイツぐらいなもんだ。それにモヒカンで、舌をよく出して、ナイフナメナーメで、変な口癖の奴なんかアイツしかいないだろう。
「本当に危ないんだから、女子だけ催眠スプレーとか銃とか持つのを認めてくれればいいのにね。ちゃちい武器なら認められてるけど、国は危険な武器の所持は禁止してるから。そんなんじゃ自分の身は守れねぇっつぅの。」メブスタは思いっきり飲み干して空のジョッキを机に置いた。
雷の国の話になるが、祖国を知っていると「それはやめた方がいいな。絶対に」という意見になる。
「それは恐怖ってもんを知らないからよ。いい? 私達はいつ襲われるか分からない恐怖があるの。その時に身を守れる武器がなきゃ、怖くて自由に過ごせないじゃない。」
その意見は祖国にも元々あった。だからこそ、その意見が良いように使われた。「とある本で読んだんだけど、もし武器を持ってよくなったらどうなるか、っていう本なんだけどな」と架空の本に変えて話すことにした。
「まずこれだけは覚えておいてくれ。『自分が持つ武器も、また悪意ある者が使うと凶器に変わる。』そう綴られている。」
話す前に少しだけジュースをゴクリ。
「安心なのは最初だけ。その一時だけは心も安心できるかも知れないな。けれども、すぐに話が変わってくるんだ。武器が出回るってことは、それだけ手に入りやすくなるってこと。そうなりゃ悪意ある弱肉強食の強食側が猛威を奮うのも時間の問題。そういう悪者は躊躇いなく先手で武器を使ってくるぞ。武器を持とうが持たないが、先に武器を使われて殺されるか、重症を負わされていいようにされるかだ。今より余計に悲惨になるだろうな。全員が全員、ルールを守れる奴じゃないんだ。そもそも、そういう悪者はルールを守れる側じゃないんだから、躊躇いなく悪用してくるぞ。」
焦りもあるのだろうが、「でも」と返してきた。そして「国兵とかが厳しく罰せばよくない。女子以外が持ってたら罰するとかさ」と言う。
「そんなの夢物語でしかないんだよ。国兵みたく警官も、そんな世界じゃ武器を取り締まれなくなる。武器が流通しまくって至る所にあって当然なんだ、武器を持っているかいないかを取り締まるのも難しくなる。普通に外出てる一人一人にボディタッチや検査をするなんて不可能だ。もし持ってても、例えば彼女とか身内の母や兄妹とかが持っておいてって渡されたので持っています、と言えば取り締まれない」まだ続く「悪事を働くのは男女関係ない。女側の犯罪者が増え、損をするのはルールを守っている男になると、それこそ堂々巡りの問題になって、男も武器が必要だよね、ってなるもんなんだよ。そうならずとも、どう転んでも日夜問わず銃声が聞こえる世の中になるぞ。」
思い浮かばれるのは雷の国。実際にその理論で女性の武器が認められ、いつしか道端に武器が転がっていて、簡単に人を殺せる時代になった。銃声もよく鳴り響く。国の人間だった俺らがそれを取り締まれないのを痛感していた。これは架空のイフ論ではなく、俺の経験の話だった。
この話から少しズレるが、もしベラトリクスが追放されていなければ、もっと人が死ぬ世紀末な国になっていたな、と思ってしまう。
「じゃあ、やっぱりそういうルールは駄目なのね。あ、そうだ、男が皆、性欲がなくなればいいのよ。大発見じゃない?」
それについても、実は経験則で話せる事柄だった。排出システムを埋め込む際に、性欲を抑える機械を埋め込んでいるからだ。
「それについては俺はいいと思う。」結論はこうだ。正直、性欲なくてもやっていける。
「だよね、だよね。」
「これも本に書いてあったんだ」なんて正体がバレないようにしつつ「最初は反対も多かったが、時期に慣れてくる。反対するのも中年以降の男と半数程度の女だけだ。」
「ちょっ、半数って、反対する女が多くない? というか男は反対しないの?」
半数は言い過ぎたかも知れない。大体、3分の1以上ぐらいな気がする。そこは目算だからあやふやだ。
「いずれ何年か経てば、男側は慣れてくるから問題もないんだよな。女が社会進出してくれるお陰で仕事量と消費量が増えて仕事では気持ち的に楽になるし、大抵、プラモデルだとかプラレールだとか、野球だとか、大人だと麻雀だとか、そんな遊びを大人でも全力で楽しむようになるから幸せ度は比較的横ばい状態」これは自分の憶測だった。「まあ、今までの制度で利益を上げて満悦してた勢と成果を上げらる根気がない勢には不評だけどな。」
コップに入っていた炭酸を飲み干した。
雷の国での実情を思い返していく。国の中枢にいたからこそ分かる情報を頭の中に集めていく。
「女も仕事メインになって幸せな奴は幸せだと思う。俺的には良いと思うんだがなぁ。仕事については、本格的に仕事ができる人のみが生き残れるから、お局的なのは淘汰されるし、家より仕事に打ち込めない奴も淘汰されるけど、ちゃんと頑張ってる人はしっかり評価されてるし、何にも問題ない気がするんだよなぁ。」
「じゃあ、なんで女の反対者が多いの?」
何が変わったかを中心に思い出していく。取り入れられた時期の俺は幼すぎて思い出しにくい。そういやニュースで取り上げられていた事柄があった。
「あ、さっき言ってた男が奢るべき、なんてのは世間的に有り得ない発言なんだよね。」
「え、なんで。女は色んなことにお金をかけてきているのに?」
「……だからどうした、っていう話なんだよなぁ。だって、そもそも男だからとか女だからとか、そんな単体での価値は一切ないからさ、可愛くなった所で自己満足にしかならないんだよ。多分、性欲ないし、興味無いね、って感じなんじゃない。言葉とか行動とかでの細かい気遣いもそこまで重要視されなくなるし。そういう価値観、効率悪いし。それが一般論だから、割り勘以外有り得ないんだよね。ぶりっ子みたいにあざとい系が淘汰されていい事なんじゃないかと思うんだけどなぁ」そこでふと思い出す「あっ、本に拠ればね。」
「じゃあ、男は優しくなくなるんだ。」
「女だからという理由で特別扱いしないってことなんだけどな。普通に男女変わらずに優しくするし、大抵は暗黙の了解で妊婦さんにはものすごく優しいぞ。まあ、そもそも結婚して子どもを産む人も少ないから妊婦さんの数は少ないしな、とても貴重だって思われる。」実際に故郷の歳の近い学年を探しても、同学年のルマク一人ぐらいしかいなかった。
そんなことを言いながら、妊婦さんに酷いことをするのはまあまあだけ歳を重ねた女が多かったなぁ、と振り返る。先輩はその姿を見て、女の嫉妬って怖いね、って言っていた。嫉妬してるからなのだろうか。
そんな回想で思い出した。妊婦さんから子どもというワードに繋がり、そこから女が反対する一番の理由が思い浮かんだ。
「あー、後、恋愛が消失するからかな。性欲が無くなるってことは興味がなくなるってことだから、恋愛に発展することがほぼほぼなくなるかな。世間的にも、男同士で集まって遊んだ方が断然楽しいからな。まあ、レズもあるから一概には言えなそうだけどな。」
「ほへー。恋愛がなくなるのねぇ。言ってみれば反対になるかも。」
「それに、恋愛にうつつを抜かす奴は生き残れないからってのもありそうだよなぁ。いい社会にはなるぜ。本気で努力する奴がちゃんと評価される。そこに身分や性別、門地、色々なことに不公平はないんだ。まあ、元々の能力差は考慮はされねぇが、まさに実力主義の世界だな。」
「何それ。なんかリベルさんが主張してるみたい。ってか、その読んだ本ってのリベルさんが書いた著書なんじゃないの?」
リベルさんってそういう考え方をする人なんだ。知らなかった。一応やんわりと否定しておいた。
「まあ、結局、武器を持つのもダメ、性欲を無くすのもダメってことね。」
いや、前者はその通りだが、後者は全然いいと思っているし、そう答えたはずなんだけど、と思いつつ話が流されていく。
「私もあの方みたいに女性の地位の向上で活躍してみたかったんだけどねぇ。やっぱりそう簡単なことじゃなさそうね。」
女性地位向上のために活躍している人がいるのか。雷の国では、そういうことをしている人達の大元を辿ると必ずベラトリクスという人物がいた。この風の国にも似たような活動家がいるらしい……。
「はぁ、ベラトリクス様みたくなりたい……。」
いや、ベラトリクスだったんかい。やっぱり風の国でもこういう考え方の大元にいるみたいだ。
「カシェルもベラトリクスさんを尊敬してるの。本当に凄いよねっ。」
この国ではその人が慕われる程の人物なのだろうか。この二人には申し訳ないが、俺はソイツを殺さなければならないのだ。
机の上には食べ終わった皿が並んだ。
他にも駄べることで時間は過ぎていった。
それなりに時間が経って、この場は解散となる。「最後に……アトラ君。カシェルちゃん。二次試験頑張って」「あたしも席から応援してるよ」とエールを貰った。
ギルドはまだ馬鹿騒ぎが続いているようだ。
そんな喧騒を通り過ぎて帰っていった。
【シェルタンからの一言】
よく(雷の国で言う)Xで、男が女の、女が男の、悪い所のダメだしとか社会はこうしろとか批判合戦してるけど、辞めて欲しいよな。(雷の国で言う)Xはコンプレックス暴露大会の場所じゃないんだからな。




