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偽風のアトラ、スパイ譚  作者: ふるなる
風の国への潜入編/試験編

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6/8

6.風の族の総長

 日が落ちてきた。

 木々生い茂る森の中をひたすら進んだ場所で宝箱を見つけた。そこには汁なしサラダうどんが入っていた。それも四人分も入っていた。

 朝からご飯を食べれていない。

 お腹が空いて仕方がなかった。

 ちゅるりちゅるりらと喉をすり抜けて腹を満たしていく。濃いめの味付けと、サラダの味変が次の一口を誘ってくる。

 美味(おい)しい。美味(うま)い。美味(びみ)。いつの間にか四人分平らげていた。

 ひとまず腹ごしらえは終わった。これはサバイバルのため油断はできない。ご飯食べるのにも一苦労だ。

 木々が月明かりを遮っていく。

 もはや目の前は真っ暗と言って等しい。

 誰にも遭遇しないことが望ましいが、そんなこと言ってられない。何やら気配がする。

「おっと」危ない。土を蹴って後ろに避ける。空を切る音とそれによる空気の振動の気配。やはり、そこに誰かがいる。それも敵対する相手だ。

 多分、相手は俺の位置を把握している。薄らとなのか完全になのかは分からないが俺のことは捉えられている。

 スパイ育成の一環を受けている俺じゃなければ、今頃、ベルトが壊されてリタイアしていただろう。

 少しずつ闇夜に目が慣れてきた。ぼんやりとだけ気配を感じられる。それだけあれば逃げるのは多少楽になる。が、これ以上の慣れは期待できない。ひとまず明るい所へと出たい。

 月明かりが湖畔を照らす。

 そこは木々を受け付けない湖。

 ここまで来たら、敵を確実に把握することが可能だ。月明かりの下にポニーテールの女の子が出てきた。もちろん、青いベルトをしている。

「あちゃぁ~。明るい所に出ちゃったかぁ。せっかく暗視整形してきたのにぃ。」

 猫の鳴き声に近いような高めの声だった。

 ひとまず敵は倒すだけだ。ニードルアームを拳にセットした。

「ねぇ、こんなひ弱な女の子に攻撃するの?」と上目遣いで猫の靡く声を出してきた。

「――だから?」としか言えなかった。それ以上でもそれ以下でもない。本当に、だからどうした。

 鉄棘の拳で殴りかかった。

 が、何故か彼女の付近で動かなくなる。腕が動かない。その動けない状態を狙ってきた。仕方なく、棘を外して後ろへと回避していく。その棘に磁力で手元に引き寄せようとしても引き寄せられなかった。

「ねぇ、男が女の子を攻撃するなんて酷くなぁい。男なら可愛い女の子に手は出さないっていうの無いわけ?」

「あー、うん、興味ない。女だから男だから、そんな枠組みに興味ないな。」

 空中に漂っていた棘が落下した。

 今度はその棘が自分の手元に引き寄せられた。棘を二分割にする。それを磁力で手の甲にくっつけて、鉤爪みたいにした。それを両手で行う。言うなれば、モーグルクローだ。

「敵なら倒すだけだ。だって、同じ人間には変わりないだろ?」

 まずは左から右上にかけて殴りにいく。しかし、空中で動かなくなってしまう。今度は右腕での攻撃だ。だが、こちらも空中で動かなくなってしまった。

 腕が動かない……。

 彼女は「まあ、いいわよ。まっ、勝てそうだしね」なんて言いながら余裕な態度で近付いてくる。

 力を入れて引き抜こうとする。

 早くしなければ。そこでようやく左腕が抜けた。今度は身体を入れて引き抜いたら右腕も抜けた。ただ、武器だけは空中に浮いたままだった。

 素手での対決。相手の能力は判明していない。分かるのは攻撃したら、攻撃部位が動かなくなってしまうことだけ。


「ヒャッハー。いい所にいるじゃねぇかぁ。」

 第三の刺客だ。虹色の髪のツーブロック。手にはナイフを持っていて、それを舌で舐めている。

「おい、そこ。その戦い、このミルファク様と代われ。従わないとどうなるか分かるよなぁ? 俺ちゃんの父はあの伝説の盗賊団団長サダル・スウドだぜぇ。」

 わざわざ敵対する必要もなさそうだ。「あいわかった」とその場から離れた。しかし、まだ武器は取り戻せない。仕方なく取り返せるまで近くにいることにしよう。

「チンピラ集団の総長ミルファクね。いい噂を全くと言っていい程、聞いたことがないわ。」

「う~ん、じゃあ俺ちゃんの女になれ。俺の女になりゃ死ぬまで守ってやるぜ。俺ちゃんのいい話もたっぷり聞かせてやるよぉ。」

「ならない。あんたの女になんてなる訳ないわよ。」

「おーいおいおい、酷いじゃぁねぇかぁ、ギルド組合の受付嬢メブスタちゃんよぉ。じゃあ、今から俺ちゃんが可愛がって、「きゃー、ミルファク様ぁ」なんて言わせてやるよぉ。」

「馬鹿じゃない? そうなる訳ないじゃん。」

「どうだがなぁ」と言って走り出した。それと同時に棘が落下したので磁力で引き寄せた。

 眼前の戦いでは、男がナイフを振り回していた。ただ、急に振るスピードが早くなったり、普通のスピードになったりと緩急があるせいで避けづらそうだ。女の方は避けるので手一杯になっている。

 ふとミルファクの手が止まった。

「おーう、これが噂の《風のグローブ》かぁ。何でも、風で作ったグローブで掴んだ物を空中に留めるんだとかぁ。まぁ、こうなることも知ってたよぉ~ん。」

 彼はナイフから手を離して、今度は相手の腕を掴んでは押し倒した。

 必死な表情で抵抗しているが、馬乗りになっている男は余裕そうな顔で手首を押さえつけては身動き取れないようにしていた。

「力さえあれば……」と涙が零れているようにも見えた。暗いせいでよくは分からない。

「抵抗しても無駄だ。ヒャッハー。力の差だけじゃねぇ。体重もなんだぜぇ。上乗りされりゃ、体重分パワーが必要になる。こうなりゃ、余程の力自慢の奴か、武道の技術を持ってる奴しか抜け出せねぇ。こうなった時点で、メブスタちゃんの負けなんだぜぃ。」

 疲れたのか腕の力が弱まっているのが見えた。

 そして、ナイフが落ちる。彼は片手で彼女の両手首を押さえつけて、片手でナイフを取った。

「ヒャッハー、ヒャッハー。どう遊んでやろうか。」

 見てられない。はぁ、とため息を漏らしてから、思わず「注意事項聞いてなかったのか」と言い放ってた。

「知ってるよぉ。ルールの範囲内で可愛がればいいんだよぉ。戦闘上仕方なぁく、こうなったって言える範囲で痛ぶればいいんだぜぇ。」

 ザクッ。

 彼は服を真っ直ぐ切り裂いた。

 上半身が顕になりそうだ、服がはだけている。詳しくは見えないが、縦線の擦り傷ができていることだろう。そして、それによってナイフに付着した血液を舌で舐めとっていた。

 今度はナイフを振り回した。

 すぐに「くそっ」そんな吐き言葉と共に、ベルトが青く眩く光だす。

「ちっ。自滅しやがって。」

 ミルファクは「もっと楽しみたかったのにぃ」と上を向いて舌を出していた。その隙をくぐってメブスタが脱出した。

 胸を腕で隠し、耐えきれない表情で涙を零していく。もはや立つことはできそうにもなく足腰が崩れていた。

「これ着とけ」と着ていたジャケットを渡す。彼女はそれを受け取って羽織った。

「女には優しくしないんじゃなかったの……?」

「はぁ」とため息が出る。「だから、男だとか女だとかは関係ねぇよ。男だとしても女だとしても、困っていたから助ける。それ以外に理由はいらないだろ。」

 目前の男は「もっと楽しみてぇのにぃ。わざわざ服を差し出しやがってぇ」と俺に苛立ちをぶつけていた。

 戦うしか無さそうだな。

「私のやられた分までやり返してくれるのね。」

「そんな訳じゃないが、ただ、相手が悪だと、俄然、燃えるな。」

 俺は戦う姿勢を取った。

「気をつけてね。アイツは手の甲からジェットを吹き出す能力。急に攻撃のスピードが変わったりするからね。」

 なるほど。それで緩急ある攻撃になっていたのか。普通にナイフを振り回すだけ。しかし、急に速くなったり、速くなくなったり、緩急がつくと避けにくく対処しづらくなる。まさにシンプルなのに強い能力だ。

 敵に不足はなさそうだ。

 ナイフを舌で舐めた後、すぐに切り刻みにきた。後ろに後退しながら攻撃を避けていく。とりあえず避けるのに必死だ。

 絶対にチャンスはくる。

 大きく振りかぶって振られたナイフ。そこに隙を見出した。ここだ!

 ニードルクロー。二本のニードルが拳に乗って繰り出す。が、顔を横に傾けて避けられた。

 というのは想定内。

 右腕で殴ると同時に体を捻る。そして、左腕を背中から回す。実は、残りの二本のニードルは殴る直前に落としていた。落下していく棘に背中から回した左手が触れる。

 磁力――!

 思いっきりニードルを放つ。ミルファクの腹にクリーンヒットし、彼は唾を吐き出した。

 まだだ。俺は腕に向かってアッパーをした。もちろん、ニードルクロー付きで、だ。それが腕にヒットし、彼の武器であるナイフが吹き飛ばされる。

 彼はみっともなく後ろへと引き下がった。

「覚えとけよ。俺に手を出したこと。俺様はあのサダル・スウドの息子だぜぃ。今日のとこはまぁいい。ここはひとまず……。」

 彼は腕を両幅に広げて、手の甲をこちらへと向けた。確か手の甲からジェットを吐き出す能力だったはず。つまり、強力な噴射で吹き飛ばす算段か。

「これだ!」と言って、彼は後ろに向かって凄まじい速さで進んでいった。彼は戦線から離脱したのだ。


 ジャケットを着た女が優しく話しかけてきた。

「ありがとう。ジャケット返さなきゃだから、試験が終わった次の日ぐらいにギルドに着て欲しい」そう言って、リタイアして行った。


 湖から森へと戻り、木の上へと登る。しっかりしてそうな幹を選んで横たわった。「これで襲われにくいし、襲われかけても音で気付くだろ。」戦いの疲れを癒すように仮眠をとることにした。

 森に日差しが差し込んだ。鳥の囀りが聞こえる。

 早朝だが、目を覚ます。戦いの疲れは最低限は取れている。

 木から降りて、ひとまず宝箱探しをして腹ごしらえだ。

 幾分か歩くと敵に遭遇した。

 とても眠そうな男の子だった。

 そしてそれは、強敵の一人であった。

「やるしかなさそうだね」俺はニードルアームを装備する。そして、真っ直ぐに拳を突く。


《三本指――風包丁(かぜぼうちょう)


 親指と人差し指を曲げ、それ以外をピンと伸ばした右手。それはまるで包丁のような鋭さを誇っていた。鉄でできたニードルアームと互角、いや少し押されかけた。

 そこで、


 ピー――


 という音が辺り一帯に流れていった。

 一時試験終了の合図だった。

 疲れがどっと出た。思わず地べたに座った。目の前の子は立ちながら寝ている。コクン、と頷いてもいる。

 試験入り口へと戻る。入り口では門の所で手続きを行っていて、合格者の確認と次の試験についての日程及び場所を伝えていた。二次試験は三日後、競技場で行われるみたいだ。試験内容は当日分かるらしい。

「ねぇねぇ、アトラ君は一次突破した?」

 出口付近にいるときに空から降りてきたカシェル。「もちろん」と言うと「うちもだよ」と返してきた。

 緊張感も解かれて朗らかな雰囲気になりそうだ。

「メイサはどこだろう……」見渡しても見つからない。

 少し歩くと、ようやく彼女と巡り会えた。プリマお婆さんも隣にいる。

 一次試験に合格したことを伝えた。

「そうか、一次試験突破おめでとう。」

「メイサちゃんも突破した?」

「いや。あたしは駄目だったよ。」

 虚しい風ではなく、されど何ともないただの風でもない。そんな曖昧な(こがらし)がこの王都に吹いてきた。

挿入詩【シェルタンからの一言】


その界隈では有名かも知れないけど、世間的に見たら井の中程度の一般人なんだってことを自覚して欲しいよな。共感性羞恥で、見てるこちらが恥ずかしいよ。


【リベルからも一言を言いたいそう?…おーい、一言だよ!】


可愛いは正義という言葉がある。可愛い存在は力がないからこそ守るべき。その考え方は感情論ではあるものの、意外にも曲がり形に通ってきた理論。小動物から子どもまで可愛い存在、つまり弱いからこそ甘やかされ守るべき存在。だが、メブスタ、君は違う。女はもう守るべき存在ではない。今の時世、女は少なからずともそれなりの権力や地位を手に入れた。つまり、それなりの力ある存在になり、本来の意味で使われていた可愛いという分類から外れたのだ。もう甘やかされ守られるべき存在ではないことを自覚すると良い。次回の王直兵試験では新たな姿を期待しておるぞ。

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