3.「俺の名はアトラだ!」
回転する骨を避ける。すぐに次の骨がやってくる。その骨も何とかしゃがんで躱す。髪の毛をすり抜けた。
また攻撃が来る。――避けきれない。
ガコン、持っていた板を大きく振り骨を跳ね返した。
今度は頭蓋骨が突撃してきた。
頭を下げて回避。
頭蓋骨が地面に触れると否や爆発した。爆発には直撃しなかったが、爆風によって大きく飛ばされた。地面に叩きつけられて転がる。
痛みが全身に広がってきている。このままじゃジリ貧だ。何とか手を打たなければ……。
そこで攻撃は終わってくれなかった。
立ち上がろうとした瞬間を狙われ、遠隔操作された骨の棍棒で殴られていく。
体の髄までボロボロだった。
痛い。とても痛い。体は悲鳴を上げている。けれども、心が折れる訳にはいかない。
「怖ぇだろ? これが圧倒的な実力差ってもんなんだよ。伊達に王直兵やってないんだわ。諦めて、降参し、求める情報さえ吐き出せば許してやるよ。」
「降伏はしねぇ」と立ち上がった所に骨で攻撃される。また地面に伏してしまった。
だからと言って、立ち上がらない訳にはいかない。全身が痛い。傷口がヒリヒリする。気を抜けば直ぐにでも倒れてしまいそうだ。しかし、俺は立ち上がって、
「俺は知ってるんだ。戦いにおいて本当に怖いのは何度も何度も立ち向かってくる奴だってな」と言い放つ。
「怖くはねぇな。面倒なだけで。」
頭蓋骨が正面に見える。こちらへと飛んでくるのが分かる。これに当たったら一溜りもないのは当然だが、近くで爆発されても危険な状態だ。
手にある鉄の板にスナップを掛けてリリースする。回転しながら進むそれはさながらブーメランのように真っ直ぐ進んで頭蓋骨へと衝突した。
爆発が起きた。
爆発に巻き込まれた板が高く吹き飛ばされた後に落下して地面に突き刺さった。板はグニャっと歪んでいる。
鉄の板の前へと進む。
地面から抜き出して使うにはボロすぎる。
ここからは素手で倒すしかない。
相変わらず人の骨が沢山浮いている。その中に頭蓋骨も混じっている。普通に進めば攻撃の餌食だ。だったら、攻撃されない速度で進めばいい。
覚悟を決めた。この一撃で倒すぞ、という覚悟だ。
「お前を倒して、村を救う。」
右足を後ろ側にある鉄の板に添えた。
力を込めていく――。
「無駄だ。諦めろ。下民と王直兵。差がありすぎんだよ。」
狙いを定めた。この時から殴る準備をする。大きく振りかぶって――。
《A――アンペア――》まさに瞬速的な移動。
鉄の板を基盤にし、磁力を使って弾き飛ぶ。それは瞬く間に移動できる技。意識をしなければ相手すら抜いてしまう。
敵の顔面付近で振りかぶったパンチが当たるように調整した。速さが拳に乗っかっていく。
力×「速さ」=パワー。
驚異的なスピードとパンチがヒットしたのだ。アンタレスは遠くに向かって地面をバウンドしながら飛ばされていった。
浮いていた骨が落下した。頭蓋骨に関してはゆっくりと落ちていった。
遠くにいる傍観している国の兵隊共は動揺していた。また、それを見ていた村人達が歓喜の笑みを浮かべた。
片膝を着いた。
安堵感が広がっていく。
疲れすぎたのか、はぁはぁ、と息が出ていく。
ひとまず村を破壊する元凶を遠ざけることができたはずだ。
村の人達が駆けつける。
「すげぇなぁ。臆することなくぶん殴れるなんてなぁ。」「死ななくて良かった。」などと言っていた。
そんな勝利の余韻は束の間、すぐにそんな雰囲気ではなくなる。
立ち上がったアンタレスがやって来たのだ。喧騒的な表情をしている。
「こんな所で負ける訳にも行かねぇんでなぁ。王直兵の俺様に逆らうってことはどういうことか――。」
骨が浮いては彼の元へと集まっていく。
「てめぇらに正義とやらを教えてやるよ。この国の正義とやらをとくと味わいながら死ぬんだな。」
骨が列をなし、その列を補強するかのように重なっていく。巨大な尾のような物が出来上がった。先端には頭蓋骨がくっついている。
それはまるで骨でできた尻尾のような、それはまるで蛇のような細く長い生き物に見える状態。
彼は足を前後に開き、大きく足を踏み込んだ。そして、片腕を前に繰り出した。そんな彼を中心に骨の尻尾が息巻いている。
《巨大蠍の装甲尻尾》
彼の鋭い眼差しとその技が重たい雰囲気を繰り出す。強制的に体を身構えさせる。
沈着した雰囲気にお互いが睨み合う。
変わらず彼は先程と打って変わって冷静に伸ばした腕で焦点を定めている。
――。
一瞬の出来事だった。
彼の周りの地面に円状の窪みができる。何か重みのような存在がそこには存在している。
骨はバラバラに地面に転がっている。アンタレスもまた地面に這いつくばっている。まるで何かに押しつぶされているかのように。
そこに一人の男がやって来た。黒い服を身につけ、首元には天秤を模したネックレスをつけている。長くカールがかった髪で、銀色、紫色、桃色のユニコーンカラーの髪色をしている。とても落ち着いた雰囲気がある。
「リベル……。《風の重力》を止めろ。」
さっきの重みのような存在が消えた。
アンタレスが立ち上がる。
「俺は今、正しいことをやってたんだ。邪魔をするな。」
その言葉を聞いてため息を放っていた。
「嫉妬はよせ。みっともないぞ。」
「な……。はぁ? 何言ってんだ。嫉妬なんかしてねぇよ。」
「いいえ、している。なぜなら、正義感の9割は嫉妬、なのですから。」
ゆっくりと近づいてくる。
背の高い彼はそこにいるだけで圧巻ものだ。
「君、名前は?」
「俺の名はアトラだ。」
彼はどこかニコリと笑った。
「アトラ君と言うのですね。終盤の戦闘が見ていましたが、実に素晴らしかった。あそこにいる彼は、ああ見えても王直兵の一人なんです。つまり、相当な上手者。そんな強者相手にも臆せず立ち向かえるその度胸、一発を攻撃を入れられる強さ、そして何よりも村のために動いたその気持ち。とても素晴らしい。」
敵意は全く感じない。あるのはほんのりとした雰囲気だけだった。緊張が解けていく。
「そこで貴方に提案があります。アトラ君、王直兵を目指す気はないかい?」
その言葉を聞いて、思わず唾を飲み込んでしまった。
「村のため、その気持ちを拡大するだけです。この村もまた、風の国なのだから。この村には情報が回ってこないだろうから伝えておく。毎年、新たな王直兵を募集し、試験を行っている。近々、その試験が行われるんだ。挑戦するに値する価値はあると思う。ただ、贔屓などはできないから、実力で選ばれるしかありませんけどね。君なら可能性はあるのではないかと思いますよ。」
彼はその場で翻し「後日、国兵を派遣し、詳しい情報をお伝えする。是非検討してくれたまえ」と言った。
今度は村全員に向けて「この度は、我が同僚が無礼を働いた。心より謝罪する。それでなんだが、一部国兵に修理を手伝わせよう。申し訳ないが、それで手を打って貰おうか」と伝えた。
そんな彼に突っかかっていく男が一人。
「おいおいおい。なんで俺に非があるみたいな感じになってんだよ。俺は"バランスブレイカー"について聞いていただけ、それを知っているのに隠しているから、しかと立場を分からせただけだ。俺は間違ってねぇ。正しいのは俺の方だ。」
またしてもため息が聞こえた。
「えぇ、貴方は正しい事を行った。ですが、彼らもまた正しい事を行った。彼らにも村の正義がありますからねぇ。」
「アイツらが正しい訳ねぇだろ。国に非協力的な奴らなんだぜ。それも「神の勅令の追い払うべき人」を匿っているかも知れねぇんだ。それのどこが正しいっていうんだ。」
さらにそこに一人の男が来た。
見覚えのあるような出で立ちだった。カールしたブロンズの長髪は左右で色が違う。整った顔立ち、白い服とマントに身を包み、そこに箱のような物を背負っている。箱からはドレンホースのようなものが繋がっており、その先には腕の手袋と繋がっていた。
故郷を滅ぼした景色が鮮明に思い出される。ただ、その主犯格の男と目の前にいる男とでは間違い探しレベルで違いがあった。よく見ると、左右の髪の色が逆なのだ。目の前の男は左がプラチナブロンドで右がブロンドカラーだったのだ。
「こんな辺鄙な村で油を売っている場合か。王宮に戻るぞ。」
「おいおい。カストラさんよぉ。こいつらが……。」
「先程の話は聞こえていた。……くだらん。」
カストラと呼ばれる人物だったようだ。雷の国だと、双子にはそれぞれライ、レフと名付けることが多い。彼の場合も同じなのだろう。つまり、彼はカストル・ライと言う名で、故郷を滅ぼしたカストレとは双子の関係だと推測できた。
「アトラ君。考えておいてくれたまえ。」
そこにいた三人がこの村から離れていく。そこに兵隊共が着いていった。
嵐のような出来事が嘘だったかのように、穏やかな風が吹いていた。
◆
木材を運んでいく。
「おーい、こっちに持ってきてくれ」との声が聞こえ、その木を工事しているおじさんの前へと置いた。
傷口は瘡蓋になり、痒みだけが残っている。
日差しは夕焼け色と代わり、その日の復興は終わった。
「少年、お勤めご苦労様。夕食は準備してあるぞ。」
円卓には美味しそうな海産物料理が乗っていた。刺身に、魚の粗出し味噌汁。魚とご飯の混ぜご飯。食欲がそそられる。
「聞いたよ。村を守ったのだろう。この村には感謝しかないな。私のことを思って、こんな酷い目にあってまで秘密を貫き通す姿に尊敬すら覚えるよ。」
彼女はもちろん、と続け「少年にも感謝はしてるからな」と付け加えた。
口の中で広がる甘みが体の中に溜まって力になっていく。とても幸福な時間だ。
食べ終えた茶碗を荒いに村に設置された清水のため水へと向かう。村人はここで洗濯をしたり食器を洗ったりするなど、村の生活には欠かせない場所であった。理論は分からないが、汚くなっても黒い靄が現れて汚れが水に変わるのだ。ある日、陸地も黒い靄に触れて水に変わっている所に遭遇したこともある。
洗い終えて家へと戻る途中、悩んでいたことに着手した。「俺、王直兵の試験を受けようと思います。」
スパイとバレてしまう可能性が非常に高く、とてもリスクがある王直兵。しかし、国の中枢へと潜り込むことが出来れば殺人対象へと近寄ることが容易くなるという大きなリターンがある。
この村は例外で、国は殆どの村と交流があるようだ。探すのにも打って付け。もしかしたらアンタレスみたく、国に反逆したからという理由で殺すこともできるかも知れない。また、その一人であるカストレにも近寄ることができるはずだ。
「色々、考えたんですけど、やっぱり王直兵になった方が良さそうだと思ったんです。」
それを聞いて「そうか。なら、ワシはお主が王直兵になれるように精一杯、応援しとるよ」と優しく微笑んだ。
そこにメイサが話しかけてきた。「あたしも一緒に目指してみていいかい。」
その一言に驚いた。急にどうした、と聞くと、
「あの時、君は村を守るために命をかけて戦った。あたしは何も出来ずに隠れていただけだった。そんな自分のままじゃいけないって思ったのさ」と答えた。
彼女もまた王国に狙われていた身である。それでもその道を選んだのだから、それなりの覚悟を持って決めたのだろう。
きっと諦める選択をすれば、どうしようもない後悔をするんだろうな。そう思うと、無性に応援したくなる。「共に頑張ろうな」と拳をゆっくりと出した。それに気付いたメイサもまた拳をゆっくりと出して拳同士を合わせた。
時々挿し込み言葉【アケル・ナルの言葉】
これはフィクションだがね。現実では人を殴るのはボクシングとかでしかやっちゃ駄目だがんね。




