14.十二の王直兵
王宮をふらっと歩いていた。
そこに見た事がある男がいた。虹色のモヒカンの男だった。
「ヒャッハー。これはこれはアトラ様じゃないかぁ。」ナイフを取り出してペロリと舐めている。
「どうしてこんな所にいるんだ?」
「俺様はさぁ、国兵になったんだぜぃ。いちゃ悪ぃかぁ?」
そこに一人の凄んでいる男がやって来た。特攻服のリーゼントが目立つ男だった。
「ミルファク、てめぇ、最初に面と面が会ったら挨拶だろが、あぁ~ん?」
リーゼントとモヒカンがぶつかった。もはや数ミリ程度しかない程距離を詰めて睨んでいる。それをすぐ近くの傍から見る。
「挨拶はしっかりしやがれ。挨拶もろくにできねでよぉな、器の小せぇ人間になるんじゃねぇ。分かったか。」
彼は「オッス」と言うと、俺の方を向いた。
「俺は国兵となったミルファク。試験ではお世話になったが、これからはお互い切磋琢磨で頑張ろうぜぃ」体に力を入れ天井を向き、大きな声を張り上げて言っていた。
それを見て「まだまだ足りねぇなぁ」と呟いている。
今度はリーゼントの男がこちらを見た。
「押忍。俺は国兵上がりの王直兵イクリール。以後、気張って任務に遂する。張り合うつもりで行く。夜露死苦!」声の圧が凄まじい。
俺は気圧されながらも挨拶はしっかりとした。
彼が握手を求めてきたので応じることにした。
嵐のような一時はすぐに去っていく。そんな様子を見ていた国兵の二人の話が耳に入ってきた。
「すげぇよな、ミルファク。新入りの癖してイクリール様の従者だぜ。」「仕方ねぇよ。俺らは三日間のトライアルでアイツに根負けしたんだからな。」
ミルファクが凄い奴……?
試験のイメージは陰険で下っ端的な凄くもない奴のイメージだった。全くそのイメージが湧かない。
あまりにも気になりすぎてその国兵に聞いてみた。
「アトラ様。気になられているんですね。もちろん、説明しましょう。」
「よろしくお願いするね。」
「そもそもイクリールは元々国兵で、俺の同期なんです。二回試験には落ちたけど、必死に努力して何とか王直兵になったんです。俺らは今回の試験も落ちてしまいましたし、やはり彼は尊敬ものです。」
あのヤンキーは国兵だったのか。
「元々国兵だったイクリールは今でも国兵のことを気にかけています。まさに国兵の上司みたいなものです。」
そんな国兵を気にかける王直兵の従者に選ばれたのだから凄いとなる訳だろうか。
「今では従者になった者は、国兵の仕事とあいつの厳しい特訓をするハードな生活を強いられる。今年、イクリールの従者希望があまりにも人気で、なりたい人が多くて三日間のトライアル試験をしたんです。簡単に言えば、今年の第一次試験のもっと過酷な試験です。それを最後まで勝ち抜いたのがミルファク君なんです。彼のガッツには恐れ入りましたよ。」
あの時よりもハードな試験。それを聞くだけで身震いしてしまいそうだ。しかし、「そこまでして従者になりたいもんなのか。やっぱり従者の特権が欲しいからか?」と思う。
「いいえ、イクリールの従者にはそんな特権はないですよ。あるのは特別に修行を受けられるだけです。」
「じゃあ、何故わざわざそんな大変な目に?」疑問が止まない。
「王直兵を目指しているからですよ。去年、国兵の子が従者となって、死ぬ気で修行して、それでいて国兵の仕事も欠かせずにやって、今年、試験に合格したのですから、その実績が俺らを奮い立たせるんです。彼の下で死ぬ気で努力すれば来年合格できるって……。」
俺はまぐれでも合格した身だった。しかし、やはり合格のために必死に努力している人達の上に立っているんだと気付かされる。
そんな努力してもなれなかった人達が報われるためにも、王直兵に胡座をかいてはいけないな、と強く思った。
その場を後にした。
またふらっと歩くとアンタレスと会った。そして、今日どうしてもやりたいことを思い出した。
俺は彼に王直兵の忠誠の儀とやらを聞いた。
「ああ。ルグニテだもんな。アイツ教えなさそうだもんなぁ。よっし、先輩である俺様が直々に教えてやるぜ。」
彼は自らの腕に手をポンと叩いていた。
「忠誠の儀ってのは、王様を囲んで一人ずつ誓いをたてる儀式だ。立ち位置とか立って話すタイミングとかは前日にリハがあるから、そこで分かるはずだ。」
リハがあるのはとても助かる。
「しかし、話す言葉についてはちゃーんと考えねぇといけねぇなぁ。話す言葉は考えてあるか?」
「いや、ないな。そもそもどんなことを話すのかが検討がつかない。」
彼はため息を吐いていた。「ルグニテの野郎、しっかり教えてやれよ」と小さく吐いていた。
「誓いの言葉は、我が名はマルマル、我はマルマル、マルマルを誓う。って感じだ。俺の場合、『我が名はアンタレス。我は蠍の毒尾よりも鋭く王の仕来りを貫き、王の鋭い武器になることを誓う。』って感じだな。」
「なるほど。凄く助かる。」
「まあ、俺は蠍が好きだからな、それを組み込んで作ったんだ。大抵、好きなもんとか武器とかを組み込んで作るな。」
「とても助かった。ありがとな。」
彼は「おうよ」と言って、その場から去ってしまった。残された俺は言葉を考え続けた。
武器を取り入れよう。ニードルアームを軸に考えるが、上手く組み込めない。拳、ナックル、クロー、メリケンサック、どれもしっくりと来ない。じゃあ放つ矢ならどうか。これなら何とか組み込んでいけそうだ。
頭の中で文章が出来上がっていった。
それを忘れない内にメモするために自室へと急いだ。
◆
神聖なる王の間。
王様は椅子に堂々と座る。それを囲むように俺らが等間隔で円状に並んでいた。
昨日のリハ通り、俺は王様から斜め後ろの位置にいて、アンタレスの次に宣言を行う。
厳かな雰囲気に包まれている。
この空間には王様と王直兵しかいない。国兵は入り口外に門番が二人いるだけで他にも立ち寄っていない。
俺らは王様の方を向いて頭を垂れた。顔だけ前を向く。
ついに誓いの言葉が行われる。最初に立ったのは王様の少しだけ斜め前側、にいるカストラだった。貴族らしく高貴な白い服に包まれながら、マントを翻している。
「我が名はカストル・ライ。我々、王直兵は王様への忠誠を誓い、この国を代表する戦士として在することをここに高らかに宣言することを誓う。」
高らかに宣言した後、その場で立ち膝を着くように頭を垂れた。
次に立ったのは、少年用ロリータ服を着てチョーカーを首につけているタリタだった。この場に置いてもとても眠そう……ほぼうたた寝しながら立っていた。
「わーれーはーターリーター。いーかーなーるー、てーきーもー、きーりーきーざーむー。」
相変わらずのゆっくりとした眠そうな喋り口調。本当にそれでいいのかと思いつつも彼の出番は終わった。
続いては、見た目は女の子に見えてしまうピンク髪の男の子であるレグルスだ。ニヤリ顔を浮かべていた。
「我はレグルス。王のために獅子奮迅の如く頑張ります。」
思ってたのと違う。こんなにも簡素で良かったのかと口がポカンと空いてしまう。そのまま頭を垂れたので、彼の出番はすぐに終わっていた。
次はカシェルの出番だ。俺はアンタレスからこの口頭について聞いていたが、彼女は先輩から聞いていたのだろうか、この口頭が心配になる。
「ウチはカシェルです。なんかよく分からないけど、とりあえず一生懸命頑張ります!」
あちゃ~。本人は気付いていないが盛大に失敗している。思わず恥ずかしさで目を逸らしたくなってしまった。他の人も目を逸らしたり、レグルスやアンタレスらは笑いを堪えたりしている。
次に言う人が大変そうだ。
次に立ったのはリベルだ。彼は真顔で言い放つ。
「我が名はリベル。公平を期す者なり。等価交換の世に置いて、その理に抗おうとす悪たる者を裁き、報われぬ者が救われ、世を公平に致す天秤のような存在になることを誓う。」
格式が漂う言葉だった。品格すら感じさせる。
今度はアンタレスだ。
「我が名はアンタレス。我は蠍の毒尾よりも鋭く王の仕来りを貫き、王の鋭い武器になることを誓う。」
リベルと比べてしまうと品格はないように見えるが、それなりにしっかりとした言葉を放っていた。
ついに俺の出番だ。
緊張で胸が震える。その震えを押さえ込んでその場に立った。他の人達はみんな、こちらを見ている。それが余計に緊張を与えていた。
しかし、やるからには中途半端なんていけない。戸惑ったり、自信なく止まったりするから中途半端になって失敗してしまう。失敗だと思っても突き進めば失敗にならない。そう思い込む。
「我が名はアトラ。我はどんな悪しき敵が来ようとも、闇に惑わされず、王が示す未来へ矢を放つことを誓う。」
何とか話し終えた。
緊張感が解き放たれかけるが、まだ解いてはいけない。そう言い聞かせて頭を垂れた。
俺の次に言うのはイクリールだ。赤と青のリーゼントの男が立ち上がった。
「押忍。我はイクリール。例え神が敵だろうと、王を仇なす者なら迷わず神をも喰らうことを宣誓、しやぁす!」
個性的な宣言だった。ある程度の決まった文句を踏襲しながらも彼らしさが残る宣言だった。
続いて宣言するのは先が折れ曲がったトンガリ帽子を被り、水色のワンピースの上からゆるふわなカーディガンを着ている女性だった。
「私の名はメリディアナ。揺蕩う水のように臨機応変に、分厚く硬い氷のように芯を持って、王の武器になることを誓いますわ♪」
妖艶な雰囲気が漂っていた。
その次に立ったのはルグニテだった。いつも片目が髪に隠れている。さらに、服装は紺色のレインコートだ。
「我の名はルグニテ。巨大なる困難が襲いかかってきた時は、我々王直兵と、その下なる組織国兵は魚群たる一丸となって立ち向かうことを誓う。」
相変わらず暗い雰囲気で話している。
ぬっとした言葉の次はどっしりとした言葉のウヌク・アルハイだ。人間離れした見た目から知能がなさそうに見える。
立ったのかどうかは分からないが、立ったのだろう。姿勢が変わった彼から言葉が出ていく。
「我が名はウヌク・アルハイ。我が王が迷うことがなきよう、我々王直兵が道標となり、夢を見れる安眠な日々のために動くことを誓う。」
想像と全く変わって、よく喋る。さらに知性がなさそうに見えて、知性ある話をしていた。そのギャップに驚いた。
最後に立ったのはセルバンだ。王の斜め前にいる白い髪や髭の老齢の男性だ。
「我が名はセルバン。闘牛のように勇敢に戦うことを誓う。」
無駄な動きが一切ない。そんなさらりとした飄々とした一連の流れにどこか凄さをも感じさせていた。
俺らは一斉に立って立ち膝を着いた。
最後にカストラが言葉を締めくくる。
「我ら王直兵十二名。国王へと忠誠を誓う国の先鋭たる戦士。ここに見参。」
それに対して王様が、
「苦しゅうない。この度より頼むぞ」と返す。
こうして王直兵、忠誠の儀は終わりを迎えたのであった。
【アケル・ナルからの一言】
イクリールが改心……。一つ言わせて貰うでよ。過去は消したくても消えはしない。忘れるでなかよ。




