12.最初の仕事
立派な髭に角張った頬。オサゲな黒髪には金と赤色で成り立つ王冠を被っている。もちろん、王服も赤色を基調に、金色がアクセントとして存在している。とても豪勢で一人座るには勿体ないような椅子にドンと座り、十二の星のような模型が杖先にくっついた杖が立てかけられている。
俺らは頭を垂れ、彼は偉そうに見下げる。
そんな彼の名はアゼルフ・アフ・アゲ国王。この国の唯一無二の王様であり、風の国で一番とも取れる地位を持っている。平民では謁見することすらも許されない存在。彼のやることなすことは全て許されなければならない。何故ならば、彼に全ての権力が集中しているからである。
ルールとは彼によって追加、修正される。それに異議を唱えることは許されない。そして、彼の命令は、直属の部下であり、王の次に偉い地位である王直兵に執行される。もしくは国兵が執行する。司法に至っては、貴族が全てを掌握しており、その貴族を掌握しているのが彼であった。
そんなことをルグニテから事前に教えて貰っていたため、自然に頭は下がっていた。
「余のために全てを捧げろ。王直兵の忠誠の儀は丁度一週間後に行う。恥のないよう台詞を考えることだ。下がって良いぞ。」
俺らはその場から引いた。
帰り際、先輩に「忠誠の儀とはなんですか」と聞いた。
「王様を囲むようにして頭を垂れ、出番になったら立ち上がって忠誠を誓う。台詞を考えないとくんだ。」
そう言って「今日は休みだ。荷造りもあるはず。明日から仕事が割り当てられるから今のうちに休んでおけ」と言われ、彼はそそくさと行ってしまった。
横から大欠伸が聞こえる。また、眠そうな吐息だ。思わず「眠そうだな」と呟いた。
それに対して「眠れなかったのよ」と横ばいのトーンで放たれた。二人の空間が楽しみすぎて眠れなかったのか、それとも新たな環境で慣れずに眠れなかったのか、ちょっと気になったが聞くのは止めておいた。
ひとまず俺らも解散した。
台詞を考えなければならないらしいが、そもそも台詞とは何を言うのかが俺にはよく分かっていない。誰かに聞かなければな、と思いつつ、今は行きたい場所があった。
◆
カランコロン。
扉の先では暇そうに店主のアンゲ・テナルが座っていた。俺を見ると否や表情が明るくなる。
「来たか。絶対に来ると思っていたさ。」
何故だろう、どこかニヤリとした顔にすら見える。
「合格おめでとう。ここに来たのは本物のニードルナックルだろ。お前さんに渡したのは仮の武器だったからな。」
「はい。その武器の注文をしたいんですがいいですか。」
「もちろんだ。もう用意してある。」
それを聞いて思わず「早っ」と言ってしまった。
「お前さんの最終試験を見てたぞ。最高だったぜ。帰ってから日夜問わず最高の武器を作るために鍛冶場に潜りっぱなしよ。だから、お前さんが来る前には完成させてたんだ。」
台に置かれた四つのニードルアーム。俺のガラクタと引き換えにそれを貰った。
まあまあ重い。つまり、安定感と攻撃力があるということだ。これぐらい安定していれば、試したい技が使えるなと思った。
俺はもうカードを持っていない。急いで代金について「お金はどのぐらいですか」と聞いた。
「んなもん、必要ねぇぞ。知らなかったのか。王直兵は無料だ。この町の殆どは無料でサービスを受け取れるんだぜ。町の奴らで王直兵の顔を知らない奴はいねぇ。顔を見せただけで無料だ。従者も同じくサービスを受け取れるが、流石に把握はしてねぇから、カードが必要になるがな。お前さんもそのカードで買ってたじゃねぇか。」
プリマお婆さんの持っていたカードは従者のカードだったのか。一体誰の従者だったんだろう。気になりはするが答えを知る術はなかった。
「王直兵になられたお祝いで勝手にこちらを用意させて貰いました。是非受け取って下さい。」
今度は服屋さんからだ。七分丈のアウトドア風。そこにダメージジーンズがよく映える。感謝を述べて、その服を頂いた。
後ろの腰位置に四つを感覚を開けてつけた武器が光り輝いている。俺は笑顔でこの店を出た。
◆
魔物が門の外付近に現れた。
俺ら四人はそこへと向かった。
昨日、貰ったニードルアームがカッコよくナビいている。
隣にいる二人はどこか眠そうだ。瞼が閉じそうで、俯きがち。度々欠伸もする。クマもできはじめている気もする。まさにタリタみたいだと思ったが、苛立ちみたいなオーラを放っているのでタリタではない。
「はぁ、何で眠そうなんだ。時間は上げたろ。全く王直兵の生活が楽しくて眠れなかっただけだろ。自業自得だ。」
それにキレて「ハァ」と返された。さらに「そんなんじゃない」と強めに返された。
「おい、何でこの二人はこんなに怒りっぽいんだ。どうして八つ当たりしてくるんだ」と耳元でグチグチと愚痴を言ってきた。彼に対して何も言うことはできなかった。
また、何故かルグニテは雨なんか降ってないのにレインコートを着ているのか、そして傘なんて持ってきているのかを突っ込むことさえできなかった。
門から出ると魔物がそこにいた。見た目は猪。しかし、大きさは普通の猪の五倍はある。また、体からは瘴気のような白や黄色い靄が溢れ出ていた。
魔物は壊れた荷台とそこにばら撒かれた食材を食い散らかしていた。怪我をした商人はそこから這いずり逃げ、鎧を来た国兵が何とか町に来るのを防いでいた。
「ご苦労様。後はこっちで何とかしておく。」
国兵が下がっていく。ここには俺たちだけが残された。
「お手並み拝借。お前らの力を見せてくれ。」
彼は一歩後ろへと下がった。あくまでも戦いは俺たちに任せるようだ。
魔物はまだムシャムシャと零れた果物を食い散らかしていた。
「ムカムカしてるこの怒りをぶつけるよ」とメイサはボーラ(小さな鉄のついた鎖)を回して投げた。鉄の玉が当たるも全く聞いていないようだ。
「王直兵や冒険者ではないのだからガラクタしか使えない。倒せる訳ないな。」
冷静に分析されていた。それに対して「煩いね」と小さく呟かれていた。
しかし、それでこちらに気付いた魔物が風を纏って突進してきた。
ニードルアームを拳にセットする。
今までは四つに分けて放っていたが、相手は真っ直ぐ進む上に、狙いが定まりやすい。ここは四つの塊を放つ。
ニードルを飛ばした。
重い一撃が突進とぶつかり、魔物はその場に留まった。磁力でニードルを回収する。
「なあ、カシェル。アイツを空に飛ばせるか?」
「できるよ」いつもの元気はない。
魔物が空へと飛んでいく。羽で浮かせられているのだろうと推測された。
さて――。
新たな技のお披露目だ。
ニードルアームを四つに分ける。一つを地面に落とす。そして、一つをその棘から斜め上の方向に浮遊させた。中身が空洞ではないお陰で安定した磁力の影響を受けているため、地面に基軸――鉄の何かさえあればある程度の距離まで自由に浮遊させられる。
俺は地面の棘に足裏を置いて、磁力を使って弾き蹴り上がった。アンペアという技の弱小版。威力やスピードを落として進むことで安定して蹴り上がることができる。
今度は空中に浮く棘に足裏を置いて、再び蹴り上がった。浮いていても鉄の重みのお陰で安定して磁力の反発の恩恵を受けることが可能。お陰でまた空へと上がった。
さらに、空中で棘を落とし、空中で棘を固定させる。基軸――地面の鉄から影響を与える範囲に置いた棘、そこからまた棘へと連鎖的に磁力が働き安定させている。またしても空に向かって上がった。
最後の棘も空中に留めて、空に上がるための足場に変える。きっと傍から見たら駆け上がっているように見えるだろう。
これで浮いている魔物の上はとった。
腕を上げて、手に磁力を付与する。地面に刺さった棘や空中で足場にした棘が俺の手元に集まってくる。拳に装着され、これで空中でニードルアームが使える。
「くらいやがれっ!」
真下に向かってニードルアームでぶん殴る!
魔物は思いっきり落下した。着いた地面から砂煙が湧き上がった。
そして、ここで重大なミスに気づいてしまった。
「やべっ、降りること忘れてた。」
自由落下で落ちていく。服のお陰でダメージを減らせるらしいが、それでも痛いじゃすまなそうだ。
やばい。
そんな所で俺は何かに支えられて、ふわりと着地した。「危なかったよー」と彼女は言っていた。透明な羽のお陰だった。助かった。
魔物はもうビクともしない。
ひとまず任務は終わった。俺ら三人は王都に向かって歩き始めた。
そこでルグニテは大きなため息を吐いていた。「まだやっつけてない。馬鹿なんじゃないのか」と。それに対する二人の反発が凄い。
すぐに魔物が立ち上がった。怒りで興奮している。
「まだだったか。なら、倒すまでやるまでだな。」「そうだね。」そんな兼ね合いで、俺らは臨戦態勢を取ったのだが、「まあいいや。後は任せろ」と彼が先頭に立ったことで、姿勢が少し崩れた。
魔物が突進してくる。
彼を食おうと跳び上がり、そのまま口を開いてやってきた。それに対して、彼は傘を手に持った。
パサッ。
傘が開く。その傘が盾となり、攻撃を防いだのだ。
「傘の親骨は鉄製だから。簡単には折られない。」
ポツポツポツ。
ポツポツポツポツツツツツツツツ。
ザーザーザー。
突然ながら、この付近にだけ雨が降り始めた。体が濡れていく。もちろん、魔物も雨で濡れている。濡れていないのは傘を持ち、レインコートも着ているルグニテだけだ。
「このルグの能力は雨雲を風で運ぶ能力。自由自在に雨を降らしたり止ませたりできる。そして、これは痛いね。傘の石突きは特別製で電気を付与している。痛いだろうね。」
彼は傘の柄を弄った。
傘の先端がビリビリしていく。
降りたたまれた傘で一突き。魔物は全身が感電していった。魔物は風を周りに散りばめながら破裂していった。そして、残骸だけが残っていた。
「魔物は無理やり能力を入れられた存在。攻撃で耐えきれなくなれば勝手に爆散する。そこまでが魔物退治だ。次は間違えるなよ。」
黒雲の中、彼の暗くて嫌味も入る言葉が妙にマッチしていた。
彼が傘を振ると、雲が消えて晴天になった。
「本当は使いたくなかった。電気はこの国では高価なものだ。風の能力でタービンを回して発電するが、量は限られている。王直兵特権で優先的に使わせて貰っているが、高価な事には変わりない。あまり戦わせるな。こちとら、戦闘の領域は参謀だ。前線タイプじゃない」と早口で言い、「分かったか」と後押ししてきた。
ひとまず最初の任務は終わった。
今度こそ王都に向かって進んでいく。
今日は【アケル・ナルの一言】
これはフィクションだがね。傘は振り回したり突き刺したりはしちゃいかんだがね。良い子も悪い子も真似しちゃ駄目なんだがんな。




