11.王宮入り
「あたしゃここまでじゃ。元気に頑張っておくれよ。」
プリマお婆さんに向けて手を振る。
暫しのお別れだ。お婆さんにはお婆さんの生活がある。別れは寂しいが、一期一会。この出会いは思い出の中でしっかりと大切に保存していく。
「じゃあ、行こっか。」俺達三人は王宮内へと入っていった。
そこで待ち伏せていたのは、ネイビー色の片目が目隠れしているマッシュヘアの男。片耳には魚のイヤリングをしている。不思議なのは雨が降っていないにも関わらずレインコートを着ているということだ。
「アトラ、カシェル。お前らの指導を任されたルグニテだ。それでそこの女は誰だ?」
「カシェルの従者になってくれるメイサちゃんだよ!」
「そうか。なら、まあいい。」
どこか暗めなイメージを与える男だった。
「カシェル……一つだけ知りたいことがある。お前の趣味はなんだ?」
いきなり趣味を聞いてきた。唐突過ぎて驚きだし、何故か俺には聞いてこない。何故。
「カシェルの趣味は秘密だよ~」ふわふわした返事だった。
「まあ、いいや。拷問じゃ……ないよな。」
「んなっ。拷問な訳ないじゃん。ってか、拷問が趣味とか普通に考えておかしいでしょ!」
そういう反応にもなる。何を意図して言っているんだ、お前、と思ってしまう。
「良かったな、リベル。拷問って答えてたら、俺はすぐさま指導員から下りてお前に押し付けていた所だった。」
どこからともなくリベルがやって来た。「どうして俺に押し付ける。押し付けるなら、さぞ当たり前のように彼女一択だろう。」
「馬鹿だろ、お前。2号を作ってどうすんだ?」
二人だけの話のせいで俺らは何を話しているのか全く理解できていない。ただ、このルグニテという男が嫌味ったらしく話しているのは分かる。
王宮内をひた歩いていく。
三層に分かれているらしく、その一層ごとがとても広い。豪華な廊下すら厳かな空間を演出していた。
「ここが医務室だ。」医務室は一層広く作られていて、怪我をしても手厚い保護を受けられるみたいだ。
再び豪華な廊下を歩いていく。
細道のような廊下を歩いていると突然前方の頭上からお化けのような何かが逆さ向きで現れた。天井の方にあると思われる足元は、この廊下の造りによって柱が凸を作るようにせりたっていて見られない。白い布のような物が垂れ下がり、顔は丸っこい幽霊だった。
メイサが思わず腕を握ってきた。本心からかとても痛い。強く握りすぎてる。普通に痛い。
「お~呪~い~す~ぅ――」呻き声のような声を上げる可愛い声。
ポコッ。
幽霊の頭が落ちた。木工だろうか、中身は粗末な具で出来ている。そして、外れた場所からピンク髪の女の子……いや、男の子が現れた。彼は俺らのことを知らないが、俺らは彼のことを映像で見たことがある。
「本当に止めてくれ。……幽霊は駄目なんだ。」
ほっと一安心したのか腕から手は離れた。
ぶら下がっている男の子は「びっくりしたっすか?」と言いながら笑っている。
「また馬鹿をやっているのかよ。あっ、コヤツはレグルス。王直兵の一人だ。」
ニタニタと笑みを浮かべている。それを見て「いい友達になれそう」とカシェルは楽しそうだ。なんか良くない笑みを浮かべているような。
「それも主語が毎回ころころ変わる本当に変な奴なんだ。」「それで言ったら、あなたも口癖が『どしたん、話きこか?』の変な奴じゃん?」「なんだよ口癖が『どしたん、話聞こか?』って。そんな言葉今までで二回ぐらいしか言ったことねぇよ。」いや、二回は言ったことあるんだ。それにしても二人で勝手に言い合っている。
ため息の後に、再び再開した。
「因みに、王直兵は風の国を代表する強者達の集団だ。で、強い奴ってのは変な奴が多いらしい。他にも個性的なメンツが沢山いるからそのつもりでいろ」と忠告された。
歩いていくと誰かが大きな声で叫んでいる。「おっす」と全力の声を出しているようだ。しかし、その声をどこかで聞いたことがある。思い出そうとして、振り返ってみたものの、どうしてか虹色モヒカンのナイフ舐めてる奴がどうしても浮かんでくる。
「よろしくっす」との声。やっぱり何故か虹色モヒカンが頭に浮かんでくる。そんな訳ないよな、と思いつつ歩くことにした。
暫くすると小さな広間へと出そうだ。
そこにヤンキー座りで座る一人の男が見える。グレーの特攻服。赤色と青色で螺旋した髪は大砲みたいなリーゼントをしている。見るからにヤバイ奴だ。
「あ?」こちらに気付いたようでチラリとこちらを見た。目が凄んでいる。
ミニ広間には行かずに、三人で見なかった振りして横に続く廊下を進んだ。それをルグニテが追う。
「明らかに王宮にいてはいけない奴がいたよな……」「あ、ああ。見間違いじゃない気がするな」と三人でコソコソと話した。
そこにルグニテは「因みにあそこにいたヤンキーも王直兵だから」と言う。思わず「嘘でしょ?」と大きな声で一斉に放っていた。
それなりに進むと、そこに三人の王直兵がいると言う。彼曰く「そこにいる三人が王直兵の中でも一際最強のもの達」だと言う。「一人だけ人間とは言いづらい奴もいるが気にしないでくれ」と注意事項を述べられた。
彼は一人のお爺さんに視線を向かせた。初老のお爺さんで腰に鞘がある。剣士なのだろう。
「最強の一角。抜刀術の頂点、居合の達人セルバンさんだ。誰も彼には敵わない。」
見た目は強そうには見えないものの、いざやりあえば強いんだろう、きっと。
今度は人間とは思えない広間を埋め尽くすと形容できる巨体の男。人間なのに一頭身っぽく見え、ほぼほぼ口で構成されている。さらに人間感を無くすように羊みたいな角まで生えている。映像で見た時よりも怪物感が半端ない。
「最強の一角、ウヌク・アルハイだ。その圧倒的強さで去年の試験を一人勝ちした男だ。強さは保証されてる。」
体の構造はどうなっているんだろうか。それだけが凄く気になってしまう。
最後は麗しい女性だった。青色のサラリとした髪が美しくなびいている。たまたま見えた爪は独創的なネイルをしていた。地球を見立てたネイルなのだろう。
「最強の一角、メリディアナ。二つの能力を操れる器用な実力者だよ。一応、女医も兼任してくれてる。因みに王直兵は大抵、みんな彼女のことを人間じゃないと思い込むようにしている。それで、彼女のことは魔女と呼んでる。その理由については何れ知ることになる。まあ、人間じゃないと言いづらい奴だが、その分実力は確かだから。」
いや、人間と言いづらい奴ってウヌク・アルハイじゃないんかい。そんなツッコミをしたかったが、突っ込めなかった。
そのまま進み三階へと辿り着いた。
さらに厳かな雰囲気に包まれている。
「ここからは王の間だ。無礼な事は何一つ許されない。礼節を忘れるなよ。」強めの圧が混ざっている。それだけ大事な事ということが分かる。
三階のフロアの殆どをこの広間で埋めている。中抜きされた空間は白くしっかりとした柱が列をなして存在している。奥に行くと十二段だけ階段を登る。そこもまあまあ広い。そして、そこには巨大な豪勢な椅子が置いてあった。座り心地は世界一なんだろうなとも思うが、座ったらいけない危ない椅子だなという気持ちも混ざる。
しかし、椅子には誰も座っていなかった。
ただ一人、近くに左右で髪色が違うロン毛の貴公子が立っていた。
「新たな王直兵の謁見か。残念ながら私が来た頃には居なくなっておった。経路などは私にも分からぬが、豪遊しに行ったのだろう。今日は夜中まで帰らぬぞ。」
「了解」と言った後、こちら側を見て「この人はカストラ。貴族の一人で、元国王の息子だ。昔、貴族は相当権力を振りかざしていて、逆らってはいけない人達と教わってきたはず」と伝えてくれた。
「権力を振りかざしていたのは昔の話だ。力が無いのに権力を振りかざし傲慢不遜に至る貴族は皆、ルシファーに殺害された。今生き残っている貴族はみな清く高貴な一族である。」
その立ち姿すら立派に思える。俺らに対しても礼節を正そうとしている。そんな彼に質問があった。
「質問よろしいですか。カストラさんの本名はカストル・ライさんですか。もしかして双子のカストル・レフさんとかいるのでしょうか」と俺も言葉を正して伺う。そして、頭を少し下げた。
「下民の質問か……」彼はどこか冷たい。
彼は「その前に私から話したいことがある。覚えておけ、基本的に下民が貴族と同等の目線に立つのは不敬である。そこの赤茶色の毛の女の話は一切受け付けない。しかし、アトラ殿とカシェル殿は違う。貴様らは下民とは言え、下民の代表として我々と同じ目線を許された者。そして、王の側近として選ばれし崇高なる者」そう綴って「立場を弁えろ。貴様らは貴族と同等に、いやそれ以上に高貴なのだ。他の下民共よりも偉くあれ。頭を下げるな。ここで下げるのはそこの赤茶色の従者だけだ」と指摘し、メイサは頭を下げ、俺は頭を上げて胸を張った。
「答えよう。もちろん、いる。しかし、二年前に王直兵を止めてからは姿をくらました。ただ、弟はいつも私とは違って、政策に駆り出されておる。昔にも、潜伏する任務があったと言う。私も知らぬが今回もどこか潜伏でもしてるのだろう。」
俺は感謝を述べた。取り敢えず、殺害対象のカストレは行方をくらましたようだ。早速任務の方に取り掛かれると思ったが、そう甘くはなかった。ただ、せっかく王直兵になったのだ、この国の代表であり中枢部にいるという特権を利用して三人の殺害対象を見つけるだけだ。
その後、俺らは地下へと降りた。地下には食堂が存在していた。
「食堂があるんですね。」
「ああ、うん。二年前から出来たんだ。それより前は食事も従者が全てを給仕する仕組みだったからな。お陰様で国兵と王直兵、従者の憩いの場となってる。」
多分、非番の国兵達だろう。端っこの席で楽しく話し合っている。ギルドを思い浮かべるようなアットホームな場所だった。
「いらっしゃい」と優しい声がする。
そこに一人のおばさんがやってきた。料理用白衣を着て、モカブラウンの髪色、お団子ヘアにしたふくよかな人だった。
「グリーゼ給仕人だ。この食堂を開いた本人で、今も食堂のおばちゃんとしてみんなのアイドルになってる。」
「新しく王直兵になったアトラちゃんに、カシェルちゃんだね。それとどちらかの従者かい。まあ、ウチの馬鹿息子も王直兵なんだ。生意気で、傲慢だからさぁ、困らせる事もあるかも知れないけど、よろしく頼むよ。」
「あ、そうそう。グリーゼ給仕人は従者で――」と彼が言いかけた時、一人の男が「今日の夕飯、何?」と机に座っていた。
カチモリヘアの小者感溢れる風貌。そんな乱雑な態度を取っていたのはアンタレスだった。
そこにしゃもじを裏返し柄の先端を彼に向けてぶつける。「机に座るんじゃないよ、汚らしい。」バシバシ。「痛いよ、母ちゃん」と無抵抗のままやられていた。
「あそこにいるアンタレスっていう王直兵の母なんだ。彼が王直兵になった時に、従者に母を選んだんだ。で、そこから食堂を開き始めたんだ。今ではみんなに必要な場所になっているよ。」
そんな説明を聞きつけたアンタレスがやってきた。「ああ、俺様が王直兵になったことでこの食堂が生まれたんだ。俺に感謝しろよ」と豪胆に言う。そこにグリーゼがやってきて「アンタが威張るんじゃないよ」とまたもやしゃもじで攻撃して、「痛い」「ごめん」と連呼していた。
彼と会う度にイメージが段々と面白い奴とか可愛い奴とかになっていくのは何故だろう。
「今日はアンちゃんの好きなオムライスと――」「おっし、やったぜ」そんなやり取りが微笑ましい。
「アンちゃんの嫌いなピーマンの肉詰めだよ。」「うわっ、ピーマンかよ。食べたくねぇ。」「わがまま言わずに野菜も食べなさい。」
そんなやり取りの後に、グリーゼは料理をして、オムライスとピーマンの肉詰め、そしてポトフを用意してくれた。王直兵特権で食費は無料らしい。
「国兵も王直兵も命懸けで国を守ってくれてんだい。ウチらも気張らんとね。しっかり働けるように塩分多めの味濃いめ、ボリューミィな仕上がりだよ。よく堪能しな。」
ホロッととろける卵。そこにケチャップのソースが美味そうにかかっている。隠されたケチャップライスから胡椒の匂いが全身を包み込んだ。ポトフのゴロッとした野菜が魂を揺らしてくる。ピーマンの肉詰めを少し押すと美味しそうな肉汁がジュワリととろけ落ちてきた。
あまりの美味しさにがっついてしまった。
ご馳走様。
温かい手料理が体の底から包み込んでくれた。
今日一日で大体の王宮の事は知れた。
王宮から直結している男子寮へと来た。彼は自室に入って、少しすると金髪の女と一緒に部屋から出てきた。彼は「ルグの彼女」と躊躇いもなく言い放った。
「女子寮は四年程前から造られて、去年完成した新築だ。今、住んでいるのも一人しかいない。おめでとう、新築で優雅に使える。ただ、行くには一旦外を出てから歩かないといけないからそこだけは面倒そうだ。」
築一年の建物。そう聞くととっても綺麗そうだ。この年季のある棟とは比べ物にならない程に綺麗なんだろうな、と思う。まあ、女子寮に行くことはないし、想像しかできないけどな。
「で、この子はメリディアナの唯一の友達の妹。訳あってメリディアナの従者もしたことある。で、女子寮はコイツが案内するから。」
「うわっ、最悪。あんな奴のとこに行きたくないんだけど。行かないと……駄目?」
「お前しか女子寮案内できないだろ。」
ルグニテの彼女さんが嫌そうな顔でスタスタと歩いていく。「なにしてんの。案内するから、早くして」とぶっきらぼうに立ち止まった。そのままスタスタいく。
二人は「また明日ね」と腕を振ったり、「また明日な」と手を挙げたりしてそのまま駆け足で彼女に着いていった。
そして俺は、与えられた自室へと入る。
とても広い部屋だった。最低限の電気だけは使えるらしい。多分、王直兵特権だ。すぐ入り口近くには風呂場やダストステーション及びトイレがある。少し先には一人用のベッドもある。そこから奥へと行くと、そのベッドよりも大きいベッドが待ち構えていた。さっきのよりもクオリティが高い。
パサッ、飛び込んだ時、ふと雲の中に飛び込んだ映像が思い出された程だ。俺はそのままゆっくりと眠りについた。
【シェルタンからの一言】
下民……。人を見下すことでしかマウントを取れないとか可哀想だな。




