10."1st BOSS"『リベル』
スタジアムの上に五人が立つ。
そこに椅子に座ったままのリベルが空中を漂いながら降りてきた。彼はフィールドから大股1~2歩程度の距離に椅子を降ろした。
「諸君、ご機嫌よう。ただいまより最終試験を行う。ルールは簡単。着水した物は脱落となり、最終的にこのスタジアム上が3人となったら終了だ。その上にいる者が合格者となる。注意事項は前試合のものを引き継ぐ。観客よ、これは試験であり、単なる闘技ではない。派手な試合にならない可能性が高い。それを承知でご覧あれ。」
つまり、生き残っていれば良いということだ。さらに、フィールドをよくよく見ると前回の六角形のエリアが沢山詰まったようなフィールドではなく、全体が均一化された平らなフィールドだった。壊れて落ちるということはなさそうだ。
「さて」と彼は言う。「試験を始めよう。まずはお手並み拝見といきましょうか。」
真っ直ぐに伸ばされた腕。広げた指の中指以下三本を曲げて、人差し指を真下へと降ろした。
《風の重力――》
何か圧倒的に重いものがのしかかってくるような感じだ。俺は思わず地面に這いつくばってしまった。ずっと体が何か重たいものに押さえつけられているような感じだ。
「思った通りだな。この状態で立っていられるのは二人だけか。」
フィールドを見渡した。カシェルは危険を察知してフィールドの外を飛んでいる。そして、うたた寝しながら直立不動で立っているタリタがいる。
「やはり、他は期待が出来なそうだな」なんて言葉が聞こえた。
やってやろうじゃんか。
負けん気を力に込めて、諦めない気持ちだけで重いものに抗っていく。そうして何とか立つことができた。相変わらず気を抜けば崩れ落ちそうだ。
「面白い。チャンスにしがみついたか。」
重みがふわっと消えた。
息が上がりそうだ。
「どうした? 試験はもう始まっているぞ。」
彼は肘当てに肘をつきながら、余裕堂々とそんな言葉を告げた。
ナイフを持った奴がカシェルを襲い出した。「ムカつくぜ。ただ、空飛んでだだけで余裕ぶりやがってぇ。代わりに俺様が試験の怖さを教えてやるぜぃ。ヒャッハー。」
ナイフを振り回している。その速度は時に早く、時に普通で掴みどころがない。彼女は攻撃を避けながら後退していくだけ。
ジワジワとエンドラインに追い詰められていく。そのままエンドラインを超えて、地面のない場所へと全身が置かれた。「お疲れさん」と言い、彼の頭上を軽やかに移動しながら、彼の背中を押した。彼は空中へと押し出されたのだ。
鮮やかに降り立つ彼女の姿に観客がどよめいている。
崖に掴まって這い上がっていく男――ミルファク。ハァハァと息を切らしながらも再びスタジアムに戻ってきた。「俺様はよぉ、こんなとこで脱落する訳にはいかねぇんだよぉ。」
観客からは「おー」という横に長めの声が幾つも放たれた。また、スタジアムからも椅子に座った男が拍手をしていた。
「素晴らしい意思だ。君は絶対に諦めない、そんな根性が見て取れる。二次試験の時には、崖に掴まって居続けた。やはり、相当王直兵になりたいと思っているのだろう。だがそれは簡単に思えても大変ツライことです。して、どうしてそんなにも頑張るのだ。質問を変えよう、どうして君はそこまでして王直兵になりたいと思うのです?」
空気が……止まった。
観客から俺らの視線がミルファクに向かう。能力でもなんでもなく、ただ視線が誘導され見離せなくなり、動けないでいる。
正直、アイツのことだ。自身を誇示し威張っている奴のこと。どうせ威張り散らしたいから、などという戯言を吐くのだろう。
「俺様はさぁ、憧れの兄貴と一緒に働きてぇんだ。たった一年だけど、あの日々が忘れられねぇ。神喰連合軍の総長を引き継いだ後も兄貴のことは忘れられなかったんだぜぃ。だからどうし――」「それは王直兵である必要はあるのか?」
空気が震えている。
ピリついているようにも見える。そのせいか、高らかな椅子に座っているリベルがどこか大きい存在にさえ見えた。
「国兵じゃ駄目なのか?」
その問にたじろいでいる。「いや」とか「でも」とか「けど」などとポンポンと口から出るがそれ以降の言葉は現れない。
「終わりだ。」《風の重力・横方向》
ある地点のスタジアムから観客席に向けて円状の重力波が現れる。それがちょうどミルファク一人と重なっており、彼を観客席の礎である岩に打ち付けられた。
「最後に何か言いたいことは……ありますか?」
冷たい視線が送られていた。
圧倒的な威圧の前に彼は何も言えずにいた。
横向きの風が止む。そのまま風でピン留めされていただけのミルファクは底の水へと落下していった。
「これで残り4人ですね。残り1人。君にはここで倒れて頂きましょうか。」青い髪の眼鏡をかけた青年が話しかけてきた。手には空気を固めた玉を浮かせながら持っていた。
「何を言っている。試合は残り5人だ。」
横から突然入ってきた。それに対して「4人の間違いじゃなく? しかし、じゃあル――」と言いかけ、「ここにいるではないか」と返された。「まさか――」との返事に「俺が5人目だ」と言い切っていた。
つまり、リベルも含めて残り3名という訳だ。
「なら、先に倒した方が良いんじゃないか。その方が合格者も増えるしな。」
「何を言っているんですか。リベルさんは元S級、先程も攻撃を受けたからこそ分かるはずです。能力は圧倒的な風圧力で、まるで強力な重力がかかったとしか思えないエリアを繰り広げるものです。ソレを受けたら動けなくなる。横向きならば場外は一瞬です。勝てる訳がありません。」
「やってみなきゃ分からないだろ?」
腰から一つだけニードルを手に持った。四分の一のニードルの先端をリベルに向けていく。ピントは合わせた。それを磁力で発射した。
「無駄だ……」と真ん中付近に円型の重力が現れた。それによって棘は真下へと落下し、スタジアムに突き刺さった。
「無駄ですよ。リベルさんには勝てないんです。」ため息混ざりの言葉だった。
「ここで質問だ。ルクバー君。」
その言葉を受けて、俺なの、という感じで動揺していた。すぐに「はい」と返事をして息を正す。
「君はどうして王直兵を志しているのですか?」
その問いにスッと顔を彼の方向に向けていた。
「はい。私は王直兵になって、風の国の皆さんを助けたいと思ったからです。私は現在、ギルドで働いています。そこで仕事をしていく内に風の国の人々と交流してきました。沢山の人々と関わり合う中で、風の国の皆さんを守っていきたいと思うようになりました。この国には様々な問題があります。魔王による魔物の襲来や行方不明者が続出している風拐いなど、そんな問題に立ち向かって皆が笑顔で楽しく過ごせる生活を送って貰えるように、私は王直兵を目指しました。以上です。」キリキリとした話口調だった。さらに主語も僕から私に変わっている。
「なるほど。君はS級冒険者になれる可能性がある。王直兵にならずともS級冒険者を目指せば良いのではないかと思うのですが、君はどう思いますか?」
「はい。私はS級冒険者では問題解決するためには遅いと思っています。冒険者は依頼を受けて、ようやく活動ができます。しかし、その頃には被害が出ています。一方で王直兵は依頼がなくても事前に解決に動き出すことができます。そのため私は王直兵を目指したいと強く思っています。」
「では、君が王直兵になったとして、君は、君の風玉の能力は、どのように活躍できるのか教えてくれませんか。」
「はい。私はこの風玉の能力で速やかに魔物や敵を倒すことができます。また、もし相手が群れで襲ってきたとしても、この能力で爆風を生み出すことにより、相手の連携を崩すことができます。これによって、連携が取れなくなった所に追い討ちをかけて、敵を倒すことに貢献できます。」
「ふむ。なるほど。敵を倒すこと、連携を崩すこと、とても良い作戦だと思います。では、もし君が攻撃する場面ではなく、守らざるを得ない場面に陥った時はどう対処しますか。」
「はい。それは――」そこで被せるように「喋らなくてもう大丈夫だ」と放たれた。
《風の重力・横方向》
ある地点のスタジアムから観客席に向けて円状の重力波が現れる。それがちょうどルクバー、一人と重なっていて、観客席の礎である岩に打ち付けられた。横風を受けていることで壁に張り付いている。
「最後に何か言いたいことは……ありますか?」
「どう……して……私……は……落とされ……なきゃ……いけないのか……何が駄目……だったのか……ご教授……願えますか。」と重い風を受けているのか、途切れ途切れに放っていた。
「君は、君自身のこの返答を何点だと思っている?」
「100点だと……思っていま……したが……意図……に気付けていなかっ……たので……60点……です。」
「やはりな。君は物事を点数化して満点の答えを言おうと無意識のうちにしているのです。」
そう答えられて、彼は何も答えられなくなっていた。
「社会に真の100点満点など存在しない。何故なら人の数だけ点数が存在しているからだ。テストやゲームなど誰かが決めた基準の中で行われているものとは違う、社会は人の数だけ点数が存在している点数の付けようがない存在。しかし、もしその中で点数をつけようものなら、何か基準がいる。君は無意識の内に君自身の経験則や評判などから得た王直兵のイメージからその基準を作り出しているのだと推測しているがどうかな。」
彼はもう何も言えなくなっていた。
「何にせよ、君の作り出した基準では、我々の求める答えが100点の中に存在しているとは思えない。100点よりも上にも幾つもの答えがある。それに気付けるかどうか、だ。」
重力が止んだ。
スッ。
自由落下した彼はそのまま水へと落ちてしまった。
またしても脱落者。残るは1人脱落で試験は終了する。
「アトラ君。今度は君に問いたい。」
二人に続いて質問を受けたのは俺だった。彼の威圧感が俺の心のスペースを犯してきている。
「君はどうして王直兵を志しているのですか?」
その問いに対して、ルクバーのような大層な答えを出すことなんてできない。俺は俺の素の考えを伝えるだけだ。
「貴方に王直兵を勧められたからだ。」
「それだけか。」
「はい。」
それを聞いて大笑いをしていた。正直に笑うことか、と思ってしまった。
「とても大変な仕事だ。本当になる気はあるか。」
「はい。貴方が期待をかけてくれた。それに応えるまでです。俺は大変なことでも乗り越えて見せる。」
さらに大笑いしていた。もはや大爆笑とでも言うべきだろうか。そこまで笑うことか、と疑問が残る。
「面白い。俺の思っていた以上に面白い子だ。では、終わりにしよう。」
《風の重力・横方向》
まるで重くて大きな鈍器が突撃してきたかのような、車が衝突してきたかのような、そんな重さがある。その重みを真正面から受け、その勢いのまま真後ろの壁に打ち付けられた。
背中の痛みもあるが、それ以上に風の圧力がヤバい。ジリジリと体力を奪われる。
「最後に何か言いたいことは……ありますか?」
「俺は……負けねぇ!」
「面白い。やってみると良い。では、さらばだ。」
重力が止んだ。体が解放される。それと当時に本物の重力が下へと引っ張ってくる。
「落ちてたまるか!」
腰に付けたニードルの一つを取り出して思いっきり壁に打ち付けた。ニードルがペグの代わりになって、俺は壁にぶら下がった。
それだけでは終わらない。
腕に力を入れて棘の上に足を運ぶ。もう片足を棘の面に触れ、体をフィールドの方向へと向ける。
《A――アンペア――》
目にも止まらぬ速さで空中を進んでフィールドへと降り立った。
「ほう、戻ってくるとは、な。やはり、素晴らしい。」
「落ちなきゃ失格にゃならねぇだろ。俺はまだやれるぜ。今度は俺の番だ。アンタを場外に飛ばしてやるよ。」
俺は手をリベルに向けた。高らかなる宣言だ。
「とても……面白い。受けてたとう。」彼は笑顔で言い放っていた。
「カシェルも、助太刀するよっ。」心強い味方もいる。
俺に残っているニードルは二つ。その二つで敵の懐へと潜ってやる。
もたもたしていれば重力の餌食となる。ならば重力の餌食にならないように瞬足で敵の懐へと潜り込めばいい。
ニードルを落として踏みつける。これで移動のための基軸ができた。そこに足を乗せて前傾姿勢を取る。
《A――アンペア――》《風の重力・横方向》
ほぼ同時に技が繰り広げられた。言葉では言い難い程の向かい風。何もしなければ真後ろに吹き飛ばされてしまう。勢いが弱りつつも何とか前進している。
敵への距離まで残り三分の二の所までへと来たが、そこで勢いが止まりそうだ。このままでは後ろに吹き飛ばされてしまう。
本当は拳につけて攻撃に使いたかったが仕方がない。下に向かってニードルを放つ。まさに下方向へのニードルショット。これで技を放つための足場ができた。
棘に足をかけて《A――アンペア――》を放つ。もう棘は装備していない。これで殴り込むしかない。
勢いよく進むのは最初だけ。まだまだ敵勢いは弱まり出してきた。残りの敵との位置は三分の一。このままでは後ろに吹き飛ばされてしまう。
「まだ諦めるには早いよな。」
まだ終われない。フィールドに予め刺さっていた棘。まだルクバーが脱落していない時に、リベル目掛けて放ったが重力で撃ち落とされた一発目の棘だ。
そこに足をかけて三回目の《A――アンペア――》をする。これで終わらせる。雄叫びを上げながらも何とか前へ前へと進む。
何とか横の重力を切り抜けた。
が、この時にはもう技の勢いは消えていた。ひとまず敵の位置は残り五歩程度の距離。
仕方ない。ここからは技でもなんでもなく、本気の殴りをお見舞いするしかない。
「惜しかったな」と彼は呟いていた。
また、技を放たれてしまうかも知れない。しかし、もう攻撃するしかない。一か八か、俺は振り切った。
「食らえっ!」単なる素のパワー。
俺の拳が顔面にクリーンヒット。椅子と共に吹き飛ばす。能力は発動されることはなかった。そのまま椅子はフィールド外へと転がって、落下していった。
肝心なリベルは……フィールド端ギリギリに立っていた。「カシェル君か。なかなかやるな。だが、まだ甘い」と言い放ち、手を振りあげようとしていた。
スッ――。
彼は少しずつ斜め向きになり、下へ下へと向かっていく。それと同時に直線的に斬られた断面のあるエンドライン際のフィールドも一緒に落下していった。
近くでは、とっても眠そうな――いや、ほぼ眠りかけの――男の子が「きっ……てたー」と言って立っていた。
「セルバン譲りの剣技か。お見事。」
そんなことを言いながら底の水に向かって落ちていく。そんな時にだが、彼は笑っているかのように見えた。
「三人よ――。期待しているぞ」と言い放ちながら落下し、着水した。水飛沫が上に沸き立った。
一瞬だけ無音となったが、すぐさま起きる騒々しい声。俺ら三人は周りからこれ程にも無いほどの観客の溢れんばかりの声を浴びていった。
今日は【カンバ・リアちゃんからの一言】
なんでみんなでリベルさんをたおしにいかなかったの?




