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偽風のアトラ、スパイ譚  作者: ふるなる
風の国への潜入編/試験編

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1/7

1.偽風の雷子

世界観に一番力を注ぎました

最後までお付き合いして頂けると幸いです

それでは物語を開演致します

 無垢なる(みこと)よ──

 駆け出した(いなずま)の歴史を紡ぎ──

 我が雷鳴なる万人の幸福な未来を築き──

 悪しき用途(みち)は自ら断ち──

 個より多のため力を使えるか──?


「はい。」頭を垂れ、床を見ながら言い放つ。


 では、其方(そち)に雷の力を授けよう──

 新たなる雷子(らいし)に祝福を──。

 


 青空が広がる空と険しい雷雨を繰り広げる雷雲の境界線が見える。目に見えるその姿は、絶え間なく降り続ける強烈な豪雨、近寄るものを感電死させる雷が落ち、人を近寄らせない壁そのもの。その境界線の晴天側にいる俺らは平和を噛み締めていた。


 背中に背負った細い鉄の板を地面に落とす。

 その板を踏みつけるように近づけ、念を足に込めていく。足から放たれる小さな放電。

 ドッ──。

 小さな衝撃と共に前方の空中に放り投げられる。バランスを崩して、そのまま地面に叩きつけられ、勢い余って転がっていく。

 また、擦り傷を作ってしまった。

 チクチクとした痛みがうざったらしい。それも簡単には治らず、瘡蓋となって痒みとの戦いが始まるのだ。


「また失敗したのか……。愚かだな。」


 地面に伏せた状態の俺の目の前に立っていたのは幼なじみの友達であるルマクだった。ツンとした白髪の少年。腕組をした彼の影が俺の顔に重なっていた。

 彼はそんな事を言いつつも手を差し伸べて立ち上がるのを手伝ってくれた。

 流れるまま、近くの座れそうな鉄のベンチに背もたれる。

 塗装されたアスファルト、鉄筋を全面にして造られた家々。便利のために造られたガードレール。そこから見える様子はまさに灰色を主調とした景色だった。


 ペチッ。

 ペチペチッ。


 小さな石ころみたいな磁石が体にくっついては落ちていく。

 思わずため息を吐いてしまった。

「お前の仕業だな?」「ふっ。」

 彼は満足そうに目を瞑って笑っていたので、それ以上の言葉が続かなかった。

「アトラ。俺様とお前は――同じだ。」

「能力の事だろ。まあ、似たり寄ったりの力を貰った気がするよ。」

 この雷の国では10歳になると「雷」の能力を雷神様から授けられる。祭壇から神の住む居所へと進み、頭を垂れて返事をする。そして、能力を貰って祭壇へと戻る10歳の伝統的行事であった。貰える能力は人によってかわる。俺や幼なじみのルマクが貰った能力は磁力に関する能力だった。

「さあ、能力は貰った。能力によるバトルごっこをやろうではないか。」

 彼の顔がうずうずしている。

 能力を使ってバトルごっこをどうしてもしたい表情だ。

「ダメだよ。学校でも習ったし、雷神様にも誓っただろ。悪しき用途は自ら断ち、何より多のために力を使えるか、ってさ。」

「今回は仕方ない。お預けにしておこう。だが、約束はしてくれ。いつか必ず能力を使ったバトルごっこをする約束をな。」

 はいはい、と言いつつそれを承諾した。そこに深い理由はない。ただ、何となくで承諾したのだ。

「今回ばかりは仕方ない。二人鬼ごっこで許してやろう。」

「今回って、いつもやってね? 二人鬼ごっこ……。」

「まあ、いいから、やるぞ。俺様が鬼な。」

 彼は秒数を数え始めた。

 町の中を走る。駆け抜ける。そして、裏路地を抜けて、見慣れた電柱の近くに工事ミスで使われない――ハリボテの排水溝がある。

 その中をくぐり抜けていく。這って進める程度の道だった。進んだ先で、子ども2人ぐらいのスペースのある空間へと出た。そのスペースには小さな穴があって、そこから見えるのは雷雨へと続く階段と橋だけしか見ることはできなかった。つまり、外の様子は全く分からなかった。だが、逆に、外からこの場所を見ることはできない。

 ここは秘密の隠れ場所であり、誰にも見つからない自信があった。

「はい。見っけ。アトラの負け。」ポンと肩を置かれる。

「よく分かったな。正直、バレないかと思ってた。」

「何を言う。ここは2人の隠れ場所。真っ先に疑うもんだろ。」

 鬼ごっこが終わってしまった。

 ため息を吐いて視線を逸らすことにした。ふと、何となくで穴の外を見た。そこには武装した男の人が凛々しく立っていた。

「珍しい。こんな端っこの町に国の兵隊がいるよ。」

「俺の母が皆既風雷(ふうらい)食が近いと言ってた。それでじゃないか?」

「あー。なるほど。ニュースでやってたな。確か――。」 

 雷の国は国を囲むように常に雷雲が豪雨や落雷を降り、落とす。そのためこの国の外を見ても降りしきる雷雨しか見えないし、この国の外へと出ようものなら雷の餌食となる。つまり、この国の壁となっているのだ。

 一年に一度、雷の国の壁となる雷雲が消える時がある。それを「雷食(らいしょく)」と言った。その日は雷雲がなくなり、雷の国の周りが晴天となる。その前後日もそれに伴って、雷雨が穏やかになる。物理的に国外へと出ることは不可能なこの国で、前後合わせた3日間は国外への外出が可能となる、そんな日が「雷食」であった。

「雷食と風食(ふうしょく)が一緒になる年だったんだっけ。」

「確か……そうだ。」

 隣の国には「風の国」という国がある。お隣も雷の国と似ており、風の国の周りには暴風雨が吹き荒れており、その先を目視するも見えず、その先を進もうとすれば吹き飛ばされてしまう。しかし、同様に一年に一度だけ、晴天になる日があると授業で習った。もちろん、前後はある程度穏やかな風になっているという。

 この雷の国の雷雨と風の国の暴風雨が重なることは滅多にないのだが、今年は珍しく重なるのだとか。

 つまり――

「雷の国と風の国が行き来出来るようになるから、侵入者を防ぐためにいるのかな。」

「まあ、そういうことだろ。ふっ……知らんがな。」

 排水溝から這いずり出ていく。

 裏路地を通って表通りへと出た。明るい日差しが眩しく照らしている。

「なあ、風の国ってどういう国なんだろうな。」

「ほんと凄い気になるよ。お母さんから聞いた噂話なんだけどさ、雷の国と違って研ぎ澄まされた国って噂だぜ。」

 こんなに晴天なのに、目の先には荒れた天候が見える。

「地面……アスファルトすらないらしいぜ。」

「想像つかないな。」

「電気がそもそもないらしいぜ。」

「電気の能力者いなさそうだしな。」

「スマホもないらしいぜ。」

「辛いな。」

「偶に娘を神様に捧げてるって。」

「嘘だろ。」

 どこからもたらされた噂か知らないが、そんな噂を知っていた。

「まあ、その日は望遠鏡を持って一日中、観察だな。」

「ああ。その日は。登ろうか……電柱を。」

「やめようぜ、それは。」

 そんな事を言いながらも、それぞれの家へと戻った。家に入ると唐揚げの良い香りが漂ってきた。とても好きな食べ物の匂いだ。



 落とさないように望遠鏡を強く握る。横に着いたダイヤルを回したくなる。

「買って貰ったのか。望遠鏡を。」

「ああ。この日のために買って貰ったんだ。早く明日にならないかな。」

 ダイヤルに触れる。カチャカチャという音が心を震わせていく。

「これでどんなに遠くてもくっきりはっきり見えるようになるんだ。逆に、ダイヤルを回せば近くのものを見ることもできる。」そう言って、雷雨に繋がる階段付近にいた国の兵隊を見た。予想通り立派に立っている。「兵隊さんもくっきり見えるぜ。」

 兵隊に近づいていくカールがかったブロンド髪の長髪の男。その髪は左右で色の濃さが違った。その男の手は剣を握っていた。

 望遠鏡はその様子もくっきりと映した。

 その人間が殺害される様子を――。

 赤い血が舞い、兵隊はその場に倒れ込む。


 ガチャン。望遠鏡が手から零れた。


「お前、何落としてるんだ。そんな高価な物、簡単に落とすな。」

 俺と全く違うトーンで話しかけるルマク。その気持ちのままではよろしくない事が目の前で起きていた。

「違うんだ……。」

「ふっ、何が、だ。」

「違う。へ、兵隊が殺されたんだ。」

 恐る恐る口に出せた言葉。それを聞いて、何言っているんだ、みたいな表情をしている。

 手が震えている。震えを止めようにも止まらない程に震えていた。

 本当に何言っているんだ、みたいな表情でキョトンとした顔をしている彼にもこの状況を伝えたかったが、唇が震えて言葉すら発せなかった。


 悲鳴が上がった。

 爆発が建物を破壊した。

 町は数分で悲惨な土地へと変わった。


「どうなっているんだ。」

「わ、分からない。」


 

 動揺が止まらない――。


 

 目の前にこの町の人とそうではない人がいた。町の人はよく行くスーパーで働いているよく見かけた店員さんだった。その人が抵抗するように殴りかかると、町の人ではない男がその店員を剣で切り殺した。

 赤い血飛沫と共に、その場に倒れ落ちる店員。

 剣を持った男が近づいてくる。

「悪いことは言わない。我々、風の国に投降しろ。」

 段々と近づき、距離が狭まっていく。

「来るんなら俺様が倒してやる。」

「難しかったね。いいから、無駄なことは止めて、私達に従い、何もしないで捕まるんだ。賢い子なら、分かるよね。」

 もうすぐそこにいた。

 耳元で囁く「バトルごっこの延長だ。見せるぜ。俺様が。今までの成果を」の一声。そして、すぐにポケットに隠し持っていた鉄の石を放った。

 ペチ、ペチペチ。

 簡単に取り払われてしまう。

「賢くねぇから分かんねぇな」と石を囮にして、敵に近づきアッパーを決めた。

 流石はルマクだ。恐怖による足のすくみが、それを見て和らいだ。

「さあ、こっからは鬼ごっこだな。逃げるぞ、アトラ。」

 悲鳴が鳴り響き、爆発音が轟いている。地獄のような音の嵐だった。建物の半分は荒地と変わり、爆風による砂煙が至る所で舞っていた。

 秘密場へと進んでいく。

 ザンッ。

 隣を走っていたルマクが転げた。「俺に気にするな」と言っていた彼の左足は泣き別れていた。たった一瞬で左足が切り落とされたのだ。

 絶望という文字が頭をよぎった。

「逃げるからそうなる。ああ、そうそう。さっきの攻撃痛かったですね。悪い腕にはお仕置きしないとね。」


風剣(ふうけん)――》

 

 ザンッ。

 

 風の斬撃が彼の右腕を奪う。宙に舞う腕がスローに見えた。赤い液体と共にコンクリートに落ちていく。

 

「やっぱ、俺様は鬼ごっこじゃなくて、バトルごっこが似合ってんだな。」そんな独り言を呟いては向く方向を変えた。「俺は今からバトルごっこ。アトラ。お前は鬼ごっこだ。お前、逃げ役な!」

 

 剣を持つ男に向かって片足飛びで襲いかかる。その中で放たれた「行けっ」という言葉が俺の背中を押した。

 普通なら大きな声を上げて逃げ出す所だろうが、恐怖故に声を押し殺して走り出す。

 いつもとは違う砂煙の舞う裏路地。しかと見慣れていた地形が道を教えてくれた。倒れている電柱を目印に、使われていない排水溝へと入っていく。一心不乱に這って進む。そうして辿り着いた秘密場で壁にもたれる。

 悲鳴と爆発は一向にやまない。

 目を閉じた。早く終われと願い目を開けても、覚めぬ現実。

 ふと、近くから見慣れない声が聞こえた。秘密の窓から見える階段や橋のある場所に、カールがかったブロンド髪の長髪で左右で色が違う男がいた。

 そこに先程、剣を持って襲ってきた男がやって来た。

「カストレ様。南東地区は制圧しました。」

「そんなに殺してないでしょうぞ?」

「えぇ。歯向かう奴は殺しましたが、基本的には捕虜としました。」

 そして、ぞろぞろと集まる異国の者達。彼らは地区を制圧したことをこぞって報告していた。それが町の滅亡を表していることなどすぐに気付いた。

 体の震えが止まらない。

「足止めも長く続くとは限りません。引き上げますぞ。」

 左右で髪色の違うカストレと呼ばれていた男が黒いマントを翻す。それを合図に敵が階段を通り、穏やかな雷雨の中に進んでいった。

 馬車のようなものが運ばれていた。扉が開いていて、その中に捕まった町の人達の姿が見えた。手首に手錠がされ、鎖で繋がれている。ここから見られる町の皆は絶望にとんだ表情をしていた。

 突然現れる可視化された風が場所を階段から下ろす。それが理由で、彼らの撤退はコンパクトに行われていた。

「ん。誰か、いるのです?」

 カストレに見つかったかも知れない。チラッとこちらを見たのだ。

 すぐに尻もちをついて、手を口に当てた。


 バレてはいけない。

 バレてはいけない。

 

 荒ぶる呼吸音を止めたくても止められない。今できるのは声をできるだけ出さないことだった。

「いないです。見間違いかと思われます。」

「そうか。気のせいか。もし残ってる奴がいたら、拉致か殺害を怠ってはなりませんよ。」

 足音と車輪が床を擦る音、そして、恐ろしい風の音。聞こえてきたのはそれだけだった。

 

 音が止んだ。


 だからと言って、すぐに顔を出すことは出来なかった。それ程までに恐怖で足が凍っていたからだった。

 射し込む光がオレンジになり、グレーになり、そしてブラックになる。月明かりの光だけが射し込んでいる。そして、朝が来たと思った頃に睡魔が襲ってきた。

 恐怖から脱して、この排水溝から抜け出した頃には、夕暮れ時になっていた。

 そこに広がるのは焼け野原と評すべき平らな世界。少し前までは建ち並んだ建物も、今では地面と同化して平らな土地へと変わっている。

 当たり前のように人の景色はしない。

 あるのは無音だけだった。

 虚しい。ただ、空虚な気持ちだけが残っていた。何か目的がある訳でもなく、何となくでゆらゆらと歩いていく。

 何やら足音が聞こえる。

 声も聞こえてくる。「おい。誰かいるぞ」の声。敵か、と思って見構えようと思ったが、もうそんな体力など残っていなかった。

 視界がぼやけている。

 雷の国の兵隊の服装がゆらりと見えた。

「大丈夫か、君」と優しく話してきてくれた途端に、俺の意識は一時的に遠のいた。

 たった一夜の恐怖が夢の中で反芻していた。



*



 ―

 ――

 ―――


 辺り一面何も無い大地。昔はあった鉄屑も今では撤去されている。悲惨な結末を迎えた一端なる町の成れ果てが広がっていた。

 あの惨劇から6年。

 俺は16歳になっていた。

 花束だけが置かれている墓の前で、足を屈ませ、手を合わせて目を瞑る。「これから風の国に潜入することになりました。長いこと戻れないと思いますが、どうか見守っていて下さい。」

 目を開き、その場を立つ。

 そこにスーツを着た男がやって来た。「やるべき事は終わったか。」

 はい、と頷く。彼は雷の国の公安の一人であり、俺の直属の上司であった。

 パンッ。

 町の中で銃声が聞こえた。「いつもの事だ。暇な警察が対処するだろう。」

 皆既風雷食の日から治安は凄まじい勢いで悪くなっていた。銃声なんて聞く機械なんてないと当たり前のように思っていた10歳までの自分が懐かしくなる。

 そこから彼は無言でひたすら進んでいったため、必死に着いていく。向かった先は国関係者立ち入り禁止の建物。その地下へと向かった。

「これからは一人孤独となる厳しい任務だが、君ならできると思っている。最後に任務の確認だ――」と降りていくエレベーターの中で呟かれた。

 

 あの町が滅亡した人災の後、俺は国家に身元を引き取られた。そして、国家の元で教育を受けてきた。

 今では一人前の国家公安だ。

 そして、そんな俺に重大任務が与えられた。

 それは、

「君は風の国に潜入して貰う。そして、風の国へと逃げた3()()の雷の国の指名手配犯を殺害せよ」というものだった。

 エレベーターの扉が開いた。そこにあるのは厳重な扉であり、パスワードを打ち込んでロックを解除し、扉を開くと、少し先にはまた扉がある。

「殺害方法は明確に決められてはいないが、次の殺害対象の存在を考えると暗殺が好ましいだろうな。バレたら次の殺害が難しい。大っぴらには殺せまい。」

 扉を開くと、すぐ目の先にまた扉が存在していた。その扉を開くも、また扉が現れる。

「扉の数が多いですね。」

「この道は、雷の国を覆う雷雨の外に繋がっている。つまり、この道を使えば壁の役割を果たしてくれている雷雨をスルーして雷の国に侵入できてしまう。」

「だから、こんなに壁が沢山あるんですね。」

 パスワードを打ち込むだけではなく、カードキーが必要な扉や指紋認証が必要な扉もある。開けるだけでも一苦労だ。

「暗殺対象の1人――"カストル・レフ"、通称カストレと彼の率いた軍勢はこの道を使ったとされる。」

 厳重な扉が続いている。

「そして、この扉はどんな武器でも破られることのない硬い壁だ。奇しくも暗殺対象の1人――"ベラトリクス"がこの国に武器共を民間に普及させたせいで、ここまで硬くせねば安心ならなかったのだがな。」

 ようやく終わりが見えてきた。

 最後の扉を開き終えると、トンネルのような場所で、出口に光が射し込んでいた。しかし、晴れているように見えるのに雨は降っている。

「ミカエルロードもここまでだ。」

「ミカエルロード?」

「そうだ。暗殺対象の1人――"ミカエル"が逃げた道だ。その際に、ようやく我々国家がこの道の存在に気付いたという訳だ。そして強固な扉を設備し、この道をミカエルロードと呼んでいるのだ。」

 出口はもうすぐそこだ。 

「この先は雷雨の被害を受けない比較的離れた場所へと出る。後は、風の国に進めば良い。"風食"の前日だから、そのまま潜入できるはずだ。その後は、我々と協力関係にある村へと行き匿って貰うんだ。」

「はい。」

「最後に、人生の先輩である俺からの言葉だ。大事に胸の中に閉まっておけ。人生はいつも幾つもの選択肢の中から1つを選ばなければならない。時には迷うだろう。だがな、これだけは覚えておいて欲しい――」そこで彼は息を吸った。

 息を繋げて、

「決断する時に迷うな。決断までには覚悟を決めろ。タイムリミットが僅かしかなかったとしても、だ。後悔なんぞ、人間ならいつでも誰でもするもの、至極当然の(ことわり)。でもな、どうしようもない程の後悔ってもんは、いつだって覚悟なく迷って決断した時だ!」と吐いた。

 最後に彼は「武運を祈る」と言い残す。

 ありがとうございます、と言って前へと進んだ。暗い暗いトンネルの先、眩く輝く光の下に出た。雨風に打たれながらも、爽やかな日差しが背中を押してくれた。



 柔らかい土を踏みしめる。

 至る所、人工物感が広がる祖国と違い、この国は自然豊かな土地が広がっていた。

 手入れされていない雑草を踏みしめて歩く。

 すぐ近くの崖下では穏やかな波が打ち付けていた。

 崖先にお墓が見えた。そこにはサンダルフォンの墓と書かれている。そしてそれは「目的地が近くなってきたな」の目印でもあった。

 自然なら大地を踏みしめていく。

 緩やかな風に吹かれながら辿り着いた場所は、海を囲うように広がる土地。海に木の板を浮かべ、そこに木造の家を構えている村だった。その村を見下ろしていく。

「ここがこれからお世話になる因習村か。」

 草原の坂道を下って進む。

 爽やかな風に打たれながら、村へと辿り着いた。

 海に浮かぶ唯一四角い屋根の家がある。俺はそこの家のドアを四回ノックした。

 中から一人のお婆さんが出てくる。杖を着いた優しそうな表情をしているお婆さんだった。

「初めまして。お話聞いているでしょうか。俺はアトラと言います。」

「ほう、お主がアトラか。話には聞いておるよ。さあ、お入り。」

 中へと入れて貰った。

 雨によって濡れたリュックを下ろす。リュックにはメモや食料、替えの服の他に武器として持ってきた鉄の板などが入っていた。

「長旅ご苦労。わたしゃ、プリマ・ヒャ・ドゥム。プリマおばさんと呼んでくれぃ。」

 彼女に家を案内された。その後、風呂場で体を洗い流した。祖国にあったシャワーという物は存在しておらず、沸かしたお湯を掛けて体を洗あ流した。

 新たな服に着替える。

 着替え終えて、居間へと行くとお婆さんが待っていた。

「改めて言う。ようこそ因習村へ。ここは悪霊神である水神(みつち)様を崇め奉る村じゃ。年に一度、血を捧げとる。数年か数十年に一度のペースで封印が弱まる時が来るのじゃが、その時には娘を生贄に捧げとる。それ故に、他の村々には忌み嫌われ、近寄られがたき土地じゃ。潜伏にはうってつけの土地じゃろう。」

 外に出て、村を案内される。

 村人らは部外者の俺を受け入れてくれていた。

「お主のことはこの村の人々には伝わっておる。それに我々、村の民は国が嫌いでのぅ、情報を売ることもせん。安心せい。」

 彼女に連れられてきた先に海に浮かぶ祠があった。

「だが、絶対にアレだけは触ったり壊したりするのではないぞ。アレは水神(みつち)様を封印しとる封印玉じゃ。何度でも言うが触れてはならぬ代物じゃ。」

 分かりました、とはっきりと言い放った。

 どこか風流のある独特な村だった。

 優しい風が吹いていた。



 一週間も経つと体がこの村に少しずつ慣れていく。朝の爽やかな風が日課になりつつあった。

 海の向こう、その先は暴風雨の壁があるのが見える。荒れた気候の内側はほのぼのとした陽気に包まれていた。

 変わらぬ穏やかな日々、そう思ってた矢先、ほんの少しだけ騒がしい気がする。村のいじいさんの声「おい、海辺で誰かが倒れてるぞ」と言う声が響いていた。それを聞いた村人が駆けつける。

 騒ぎのあった海と陸地の境目へとたどり着く。

 そこには一人の女性が打ち上げられていた。

 濡れているニュアンシーなツートーンの服、カシス色の髪をしたウルフカットの女性が横たわって目を瞑っている。

 彼女が目を覚ました。

 上半身を起こしながら「私は――誰だ?」と言い放った。

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