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最終話ですッ \(๑╹◡╹๑)ノ!
その場の全員が慌てて臣下の礼を取る中、ニコニコと朗らかな笑顔のままで息子と愉快な仲間達の屯す壇上に階段を使いゆっくりと登っていく国王陛下。
その堂々として優雅な所作は流石国王と唸らずにはいられない。
つい先ほど猿のような軽業を見せた彼とは全く別人である。
それを下げた頭のまま上目遣いで見送る第三王子達の顔色は真っ青、ヒロインのリリアに至ってはそれを行き越して真っ白に近い顔色である。
「うん。
エドモンドが言ってた様に最初から全部聞いてたよ。
あそこで」
陛下は元々置かれてあった玉座にゆったりと座ると臣下の礼を解くように全員に声掛けをし、徐ろに長い脚を組み大きなホールの天井の三分の一を埋め尽くすような超巨大シャンデリアを指差す。
「ち、父上、何故そのような場所で・・・」
「え、そりゃあ国王の務めだから仕方ないよ」
臣下全員が、この国の国王陛下はシャンデリアの上で政務を熟すの? と思わずクエスチョンマークを飛ばし困惑顔になったのは多分誰にも咎められないだろう。
「つまり国内情勢の安定化を図るためには国王だって隠密行動も覗きも必要ってことだよ。
今回このパーティでお前が碌でもない・・・ ゴホン。
真実の愛とやらを証明するらしいっていう報告書が上がってきたから、それとなく見せて貰う為にあそこに登ったんだよね。
いやあ、中々絶景だったよ」
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
なんでシャンデリアの上やねんッ!!
と誰もがツッコミたいのを我慢する中、ヘラリと陛下は微笑んで
「じゃ、お前はそのお嬢さんと婚姻を結ぶ予定で臣籍降下ね。
王位継承権は剥奪だよ。
男爵程度の貴族位はご祝儀でつけたげるからね。
頑張って~」
軽い口調で沙汰を告げる。
「父上!!」
「駄目だよ~ その呼び方はアウトー。
この瞬間から既にお前は臣下だからねえ。
フォンド家との婚約は白紙撤回する予定だったとはいえ、王命で決まってた契約を勝手に自分から破棄したんだから、これでもかなり甘いくらいだよね。
どうしてこんなお馬鹿さんに育ったんだか。
あー・・・ 教育係と側妃を調べさせなきゃね。
あっと、忘れるとこだったよ。
そこの男爵令嬢は他国のスパイ容疑で取り調べするから~。
完全にシロだったら婚姻出来るよ?
良かったねレオハルト」
その言葉を聞いて壇上で頭を垂れていた愉快な仲間とレオハルトが一斉にリリアを青い顔のまま振り返った。
「ご、誤解ですぅ! 陛下!
私はスパイなんかじゃ・・・
唯の転生ヒロイ・・・」
声を上げようとした途端、衛兵に猿轡をされ、縄をかけられあっという間に屈強な彼等の肩に丸太の様に担がれてホールから退場していくリリア嬢。
「ンム~~~ むうぅ゙~~~」
・・・その間たったの50秒。
鍋で作るチ◯ンラーメンでも完成しない早業だ。
「あと、お前の周りの取り巻きは各家の当主の沙汰を待つように」
その言葉で愉快な仲間達と+α(元王子)は自分達の未来が明るいものになるとは到底思えなかったと、後になって語ったということである。
×××
国王の執務室で陛下がペラリとぶ厚い書類をめくる。
「じゃ~次ね、男爵令嬢を階段から突き落とした犯人ね~。
アレは自作自演というか単に自分ですっ転んだらしいね。
で、それを誰かのせいにしようと彼女が企んだ訳じゃなくてレオハルトが勝手にロザリーがやったって思い込んだみたい。
ゴメンね。ホント馬鹿な子で。
学園で次期当主としての自覚も芽生えず、人としての成長が見られなかったから婚約の白紙撤回は視野に入れてたんだけどさぁ、こんな騒ぎになるなんて・・・」
そう。
この国全体の食料庫とも言える公爵家の当主としてレオハルトは失格であると貴族院は国王に奉上しており、陛下は諜報員を派遣し末王子の動向を逐一報告させていたのである。
そして現公爵をロザリアの伴侶にという案が貴族院から上がってきていたのだ。
学園での王子の振る舞いの噂は息子や孫から簡単に当主達に伝わる。
彼らも自分達の未来を愚か者に託せるほど甘くは無い―― 国を運営するために存在する高位貴族は愚か者では務まらないのだ。
「いえ、大叔父様。
殿下は思い込みが激しい所が元々おありでしたので・・・」
美しい薔薇模様の描かれたティーカップをそっとソーサーに戻すロザリア。
「そうだねえ~。
昔からロザリーが自分を好きなんだって勝手に思い込んでたし」
「お気付きでしたか・・・」
困ったように微笑むロザリア嬢。
「うん。
元々君が好きなのは、僕の後ろに控えてた護衛の近衛騎士だったのにねー」
「やだ、大叔父様ったら~」
「・・・?」
悪役令嬢と国王陛下がキャッキャと仲良く会話を進める間、無言でティーカップを傾けているのはエドモンド・フォンド公爵である。
二人の会話からも分かるように、ロザリアの母方の祖母は国王陛下のすご~く年の離れた姉姫で、彼女は王位継承権が無きにしもあらずという立場の公女様だ。
王子の幼馴染だったのも当たり前である。
ゲーム内ではそんな設定など聞いたことも見たこともなかった新たな情報に若干困惑気味の私だが、エドモンド自身の記憶を探ると確かにその情報が脳内にちゃんとストックされていた――
『でもさ、もういい加減に眠らせてよ。
アタシは前世の人間でさー、この体はアンタのモンなんだからさ~』
『いや、分かってるんだが、どうやったら良いのかが分からんのだ。
君はどうすれば安らかに眠れるんだ?』
『そんなん知るわけ無いでしょッ!』
――そう、人間死ぬ間際に今までの記憶が走馬灯として目の前を流れるという体験談がある。
人間が窮地に陥った時、なんとか生き残るために知恵を振り絞って脳内にストックされている記憶を探る現象の一種である。
《《愛する》》ロザリアが婚約破棄されエドモンドがテンパって起こした今回の現象もそれと似たようなもので、前世の記憶が人格をもったまま脳内に再現されてしまったらしい・・・
『アンタねー、陛下の話し聞いてんの?』
『聞いてる』
『ロザリアちゃん、アンタの事大好きじゃない。
アンタだって彼女のことが大好きじゃないのさー!
両思いだったんだからもうちょっと喜びなさいよ~!!』
『いや、俺は彼女の義父だし・・・
彼女と12歳も年齢が違うし・・・』
『ウダウダ言うんじゃないわよ!
その程度の年の差でへこたれるんじゃ無いわよ!
もぉ~ このヘタレがッ!』
脳内で盛んにやり取りをする公爵の目の前で
「とにかく18歳でロザリーがエドと婚姻を結べるように義父と養女の関係を婚約者って形に書き換えとくねー。
君の亡き母上のお願いでもあるからねぇ。
流石に12歳じゃ婚姻は結べなかったから、エドを義父にしといたけど、もうそろそろいい加減死ぬ間際のお願いを叶えとかないとあの世で彼女にぶん殴られかねないからね」
陛下の能天気な声が聞こえ、恥じらうロザリアの姿がエドモンドの瞳に映り自然と彼の顔も赤くなる。
――が、そこに勝手に響く脳内音声。
『やったね生スチル見放題じゃん!』
『2年以内に消えてくれ!!』
『えー、ケチ! エドモンドさんのケチ!
ちょっとくらい覗き見させてよ~』
『い・や・だ!!』
悪役令嬢のお義父様の苦難はまだまだ続きそうである・・・・
了―――――――
最後までお読みいただきありがとうございました~ ✧◝(⁰▿⁰)◜✧
by.hazuki.mikado.