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確執

 テーベのアメン神官に対する大弾圧事件はその後もエジプトに大きな波紋を呼んでいた。

「このようなやり方はアテン神に対する不信感と反発をもたらすばかりだ」

 アクナテンは目の前にひれ付するパアテンエムヘブ将軍に対して強く叱った。

「恐れながらテーベのアメン神官らは、莫大な私有財産と人々のアメン神に対する盲目な信仰心を背景に、これまでと変わらない力を持って王家を脅かしています」

 パアテンエムヘブ将軍の言動は、力には力をもって制圧しなければならないという信念さえ感じさせた。

「パアテンエムヘブ将軍、余の言葉を胸に刻むがいい。

 憎しみのあるところに愛を、

 罪のあるところに赦しを、

 争いのあるところに一致を、

 誤りのあるところに真理を、

 疑いのあるところに信仰を、

 絶望のあるところに希望を、

 闇のあるところに光を、

 悲しみのあるところに喜びを。

 慰められるよりも慰めることを、

 理解されるよりも理解することを、

 愛されるよりも愛することを」

 アクナテンはそう言って静かに玉座から立ち上がった。

「へ、陛下」

 パアテンエムヘブは黙ったままファラオを見あげた。

「今回の過剰な弾圧を現場で指揮したセティを引退させよ」

 アクナテンは強い口調で言う。

「あの者は有能な部下です。それだけはお許し下さい」

 パアテンエムヘブ将軍が頭を下げた。

「ならばそちが作戦の責任をとって引退するとでも言うのか?」

 アクナテンが厳しく詰め寄る。

「そ、それは」

「君の後任にナクトミンを昇格させても良いのだぞ」

「陛下、それはあまりにも」

「シリアのアジルに不穏な動きがあるぞ。シリア政策についてもセティは失敗しているではないか」

「アジル候は日和見主義にてすぐさま寝返らせて見せます」

「決して力で押さえつけるのではなく、アテン神に帰依させよ。よいな」

 力や恐怖による支配は同じように力と恐怖で塗り替えられる。アクナテンはあくまでも平和の神アテン神に帰依させることで世界を一にしようとしていた。

「畏まりました」

 パアテンエムヘブ将軍はしぶしぶ同意する。

「余もそなたの働きを高く評価しているのだ」

 アクナテンは声と表情を和らげ、将軍に対する信頼を示した。

「セティを引退させます」

 ファラオの言葉は絶対なのだ。

 ホルエムヘブ将軍は完全に譲歩した。

「分かってくれたか。嬉しいぞ。後任にセティの息子パラメセスを任命しよう」

 アクナテンはそう言って静かに大広間から出て行った。

「パラメセスを後任に……」

 将軍は膝をついて立ち上がり、悔しそうに唇を噛んだ。

「陛下の方が上手でしたな」

 いつきたのかパアテンエムヘブ将軍の背後からアイが声をかけてきた。

「アイ殿」

 パアテンエムヘブはこの太った捉えどころのない男が大の苦手だ。

 何を考えているのか見当もつかない。

 敵なのか味方なのかそれとも……。

「陛下はああ仰っているが、アメンの神官どももこのまま黙ってはいまい」

 アイは表情一つ変えることなく呟く。

「今回の弾圧で大きなダメージを受けているはずだ。もう彼らには王権に刃向かう気力も財力も有りますまい」

 そう言ってアイに背中をむけ、その場を立ち去った。



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