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闇の大司祭ハプセンネブ

 テーベのアメン神官団に激震が走った。

 ヘルモポリスで大司祭をはじめ、神官らのほとんどがアテン神に帰依したというのだ。

「これまでどんなに王権が変わろうともヘルモポリスは中立を保ってきた。それが何故なんだ!」

 ハプウがテーブルを拳で叩き憤った。

「ネフメス大司祭め、アクナテンにたぶらかされよったな」

 テーベ高級神官長のミンモセも激しく動揺した。

「裏取引でもしたのかもしれない」

 ニブラが首をかしげ腕を組んだ。

「アクナテンがそのような小細工をするだろうか」

 ハプウは顎に右手を添えて考え込む。

「ならば貴殿はネフメスが心から改宗したと言われるか」

 ニブラがハプウに躙り寄る。

「心の内はわからぬ。だが一つだけ言えるのは、これが契機となって改宗のドミノ倒しが起きるかもしれない」

 ミンモセは心に激しい焦りを感じた。

「では、メンフィスもヘルモポリスもアテンに転ぶと言われるか」

 ハプウはミンモセを責めるような目で見た。

「その可能性は高い」

 ミンモセは躊躇わずに返事した。

「ならばすぐに阻止せねば」

 後ろのアメン神官の一人が言った。

「どうやって」

 ハプウは振り返った。

「ファラオを暗殺するのだ」

 誰かが声を荒げた。

「そうだそうだ!」

 アメンの神官達は声を揃え気勢をあげた。

「みなさん、どうなされました」

 そのとき、六十代前半の神官が姿を現した。

「ハプセンネブ様」

 居並ぶアメン神官団は彼の前に一斉に跪いた。

「みなさま、お立ち下され」

 ハプセンネブは背が高く痩せているが骨太なのでがっしりした体つきをしている。

 テーベで代々アメン神に仕える大豪族の家柄で王家とも血縁があった。

「ハプセンネブ様は、このままで宜しいのですか」

「我らアメン神官団はアメン神に仕えエジプトのために貢献して参りました。エジプトが世界で最も繁栄したのもアメン神の御利益があってのこと。それをファラオは……」

「そうです、ファラオはアメン神を蔑ろにし、そればかりか、上下エジプト神官長(教皇にあたる)の地位もアメン大司祭の任命権さえも剥奪した」

「本来ならば、ハプセンネブ様が上下エジプト神官長とアメン大司祭であるべきなのに」

「わたしの地位など取るに足らないことです。ですが、アメン神を蔑ろにされることは神への冒涜です。このまま放置しておくと問題がさらに大きくなり見過ごすことができません」

「アメンの信者を結集してアテンを滅ぼしましょう!」

 ここぞとばかりハルシラは同調するふりをして神官団を煽った。

「そうだアテンを滅ぼせ!」

 神官団は興奮し拳を振り上げ声を荒げた。

「お静まり下さい」

 ハプセンネブが闇に響くようなしわがれた声をだした。

 神殿内が一瞬でシンと静まりかえる。

「皆様、アメン神の心をお分かりですか」

 神官団が沈黙した。

「アメン神はエジプトの平和と繁栄を望んでいるのです。内乱や分断を求めてはいません」

ハプセンネブの言葉に神官達は俯いた。

「しかし、このままでは我々アメン神官団は職を失い四散してしまいます」

 エジプトの内乱を画策するハルシラは焦った。

「君は? テーベの者ではないな」

 ハプセンネブの目つきが鋭くなった。

「この者はヘルモポリスから来たハルシラで御座います」

 ミンモセが丁寧に紹介する。

「はて、ヘルモポリスにそのような名の者おったかのう」

「リビアからの移民三世でございます」

 ハルシラは咄嗟に嘘をついた。

「そうであったか。ハルシラ君、失礼した。君の気持ちと皆も同じ気持ちなのだ。だが内戦はエジプトに害あるばかりで利はない」

「ならばどうせよと仰いますか」

 ハルシラは食い下がった。

 老獪なハプセンネブの本音を聞き出し、ハルシラは祖国ヒッタイトに知らせねばならないのだ。

「エジプトの敵はアクナテン一人だと言うことです」

 そう言ってハプセンネブはニタリと笑った。


 その頃、アアヘベルの密命を帯びたゼノビアと妹のルキパは、ネフェルティティが留守を預かるアケトアテンの都に着いたところだった。



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