夏だ!中華だ!
ひどく暑い日々が続く中、ある日昼のチャイムが聞こえ、空腹の青年は通い慣れた中華料理屋に向かう事にした。青年の見聞きした体験談である。
ジメジメとした蒸し暑さにベタつく汗、今年もやつがやって来てしまった。夏だ。
僕は腹が空いてる事に気づいてしまった、扇風機に当たりながら正午をお知らせする市内放送のチャイムを聞いて決心をした。近くの中華料理屋に行こう。
そして、颯爽と洗面台に行き髭を剃った。顎の横に小さな衝撃が走った。危険をお知らせするあの色が見えた。
やってしまった、ニキビがあるのを忘れていた。これが地味に痛い。
実は何度かやっていて、自分の学習能力の無さに辟易してしまう。
学生の頃は体験しなかった痛みに少しだけ嬉しい気持ちになってしまった自分にもだ。
やってしまったことは仕方がないとして、他のところを済ませてしまう。
剃り終えると速乾性のタンクトップの上から白いTシャツを着る。
ラーメンを食べるのであれば、汁が撥ねてシャツが汚れる恐れがあるから黒にするが今日は違う。
準備を整え、長年愛用した小汚いスニーカーの紐を結び家を出る。
ご近所さんの姿を確認したため一旦もどった。車が出る音を確認し、少し緊張が走るが外に出ると車はなかった。
僕は安堵し中華料理屋へ向かう。共有スペースから出て住宅街から抜けると少し大きな公園の横を通る。
するとある家の横を通る事になるのだが、そこには、小さいがよく吠える犬がいる。
僕はこいつが嫌いだ。弱い犬ほどよく吠えるというが、たとえ弱かったとしてもとても耳障りの嫌な音だ。
なので足早に切り抜ける。それはもう、ミニ四駆の如く。
道を挟んで向かい側に中華料理屋はある。本当は突っ切ってしまいたいが、仕方なく数メートル先にある横断歩道を渡る事にした。
やっとついた、ここが《中華料理屋勝ちゃん》だ。
どうやら、店主の母が勝子から来ているらしい。
引き戸を開け暖簾を潜って来店すると
「いっしゃいませー」
「何名様ですか?」
「ひとりです」
「カウンターどうぞ」
僕はカウンターに腰をかけると直ぐにお冷が出された。
「いつもありがとうございます」軽く会釈する。
「注文いいですか?」
そう、もう決まっている。明日も休み、と言う事であれを食べるしかない。
「ニンチャーお願いします。あと、烏龍茶。」
「ニンニクチャーハンと烏龍茶ですね。ありがとうございます」
はぁ、待ち遠しい。やっと食べられる。次の日が休日の時ぐらいしか食べることができないという、この限定に、口臭と体臭がすごいことになる背徳感。
数分で運ばれて来た。
「ニンニクチャーハンと烏龍茶でーす」
「ありがとうございます」
てんこ盛りの金色に輝く背徳感の塊が降臨した。僕は迷わず、卓上のニンニクチップを振りかける。
そして一口、ニンニクの香りが鼻腔を刺激する。
これこれ、待ってました。これのために1週間仕事を頑張ったと言っても過言ではない。
秒で平らげるとオアシスを流し込む。完食。
「ご馳走様です」
「ありがとうございまーす」
会計の時、ふと目に入った。《冷やし中華始めました》と書かれた張り紙があった。店員は僕の目が向いてるのに気づいたらしく。
「筋トレ始めました」店員の前腕がたくましく張っていた。
ある日この話が頭に浮かんだため、直ぐに書きました。コメディーには自信がありませんが面白ければ幸いです。これはフィクションです。