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4 お帰りください精霊帝様

 私は領主の館の庭の井戸脇で昨日取ってきた精霊ジャガイモを洗いながら、今後の計画について考えていた。

 精霊ジャガイモの春植えはきっと雪の積もるドルクでは3月過ぎだろう。

 それまではまだ時間がある。

 私はある物を探すため、また森に入ろうかと考えていたのだが、しかし一人でなければ森の精霊を呼び寄せる魔法は使えない。そうなればまたアルルオーネ様に迷惑がかかってしまうかもしれない。


「うーん、本当は精霊胡椒や精霊唐辛子のような香辛料が欲しいのだけれど」


 胡椒や唐辛子はさすがに精霊ジャガイモと違って、ドルクには自生していないかもしれない。

 それがあれば保存食を作る際に塩だけで作るよりももっと保存が効く食べ物を冬になる前に作っておけるのだ。ドルクの民の食生活において必須なように思えた。

 しかし探してみなければ分からないのは確かだが、現状ないものはないのだ。

 他に手立てを考えなければならないかもしれない。

 そう考えていた時だった。

 領主の館に一台の馬車が乗り入れてきた。

 馬車は領主の館の入口で止まると、中からはなんとレビルお養父(とう)様が出てきた。


「お養父様!」


 駆け寄る私に、レビルお養父様はすぐに気付いた。


「おぉ! 精霊帝様……! やはりこちらでしたか!」

「お待ち下さいお養父様。私はレーヌ。レーヌ・フォンテーヌです。お忘れなきよう」

「これは……失礼致しました」


 精霊帝という呼び方をしてくれるなとレビルお養父様に注意した直後、馬車の音を聞いたのか館の中からはセリザナさんとアルルオーネ様が出てきた。


「これは……レーヌさんにお客人かい?」

「はい。ご紹介します。こちらフォンテーヌ侯爵のレビル・フォンテーヌ。私のお養父様です。お養父様、こちら王弟アルルオーネ殿下です」

「アルルオーネ殿下、フォンテーヌ侯爵レビルと申します。以後お見知りおきを」


 お養父様は恭しく頭を下げる。

 どうやらここに住んでいるのがアルルオーネ様なことはお養父様は知っているらしい。

 あまり驚きがないからそう思った。


「頭を上げてください。いまや王族と言えど地方領主の身に過ぎません。公爵位ではありますが、かの大商業都市フォンテーヌの侯爵様と対して変わりはありませんよ」


 アルルオーネ様はそう言って、お養父様に頭を上げさせる。


「いえ、かの聡明な元第六王子殿下にお会いできるとは光栄です。それに王弟殿下。我が娘、レーヌとも早々に再開できました。これも王弟殿下のおかげでしょう?」

「あぁ、レーヌさんは追放されてすぐに我が館に来ましたから……ですが何故こちらへ?」

「レーヌは我が娘ながら貴族らしい貴族です。ドルクへ追放されたとはいえ、頼るならば貴族であると考え、こちらへと来させて頂きました」

「なるほど……それは行き違いにならなくてよかったです」


 アルルオーネ様はそう言って微笑む。


「レーヌ。貴族学院の寮からお前の荷物を全て回収してきている。お前を慕ってくれていた後輩たちに感謝しなさい。王太子殿下達の手が回る前にお前の荷物を確保してくれていたのだ。私も追放の報せを聞きすぐに王都へ向かったが、それでは遅く、荷物は捨てられていてしまったかもしれないからね」


 レビルお養父様はそう言うと、馬車の御者に荷物を降ろすよう伝えた。

 どうやら私が貴族学院の寮に残していた荷物のようだ。


「有難うございますお養父様。私、後輩の皆さんに感謝のお手紙を書きます」


 私はそう言うと、3つの大きな鞄を受け取った。

 一度には持てないので、1個ずつ部屋に運び込むことにする。


「レーヌさん。私もお手伝いします。レビル侯爵も館にお入りください。積もる話もあるでしょう?」


 アルルオーネ様がそう言い、両手に1個ずつ大きな鞄を持つ。


「それでは有り難く……。レーヌ、話があるのだ」


 そう言うお養父様と荷物を持ったアルルオーネ様と共に、私は自室へと向かっていく。

 自室へと着くと、私はアルルオーネ様から鞄を一つずつ入口で受け取ってベッドの脇に置いた。


「ありがとうございましたアルルオーネ様」

「いやいいさ。さて、私はここで失礼させて頂きます。よろしければ今夜は我が家へお泊りくださいレビル侯爵」

「それは有り難い……お言葉に甘えさせて頂きます」


 お父様がそう答え、アルルオーネ様は私の部屋を去っていく。

 私はお養父様を部屋に招き入れると、ドアを閉め防音の魔法を無詠唱で使った。

 部屋をきらきらとした明かりが包み込む。


「防音の魔法を使いました。それでレビルお養父様、お話とは一体?」

「お話とは? ではありませんぞ精霊帝様。まさか王太子殿下に追放されようとは……!」

「話はそれだけですか? 仕方ないではありませんか、私は真面目に仕事に準じただけです」

「精霊帝様が真面目な方であるとは私も重々承知しておりますが、よもや王太子殿下に逆らうなどと……!」

「王太子殿下に直接逆らったわけではありません。私は王太子殿下の婚約者ニーア様に風紀委員として言わなければならないことをちょっとだけ言ったまでです」

「それは王太子殿下に逆らったのと同じ意味です! 貴族位を剥奪されず追放だけで済んだから良かったものを、処刑などということになっていたら、私は精霊国になんと説明すれば良かったと言うのでしょう。肝が縮みました」


 レビルお養父様はそう言って自身の腹を撫でた。そうして更に続ける。


「ドルクへ追放になったのです。こんな地方にいては貴族も何も無い。さぁ精霊国へとお帰りください精霊帝様」


 レビルお養父様はそう言って私へ真剣な眼差しを向ける。

 しかし……。


「嫌です。私は帰りません」

「精霊帝様! わがままを言っている場合ではありません! 精霊国はどうするのです?」

「私は精霊国を出る前にきちんと手紙で摂政の指定も、私にもしものことがあった場合の次の精霊帝の指定もしてきました! ですから私が戻らなくても問題はありません!」

「ですが……! このような場所で世界樹の思し召しの何をしようというのです」


 そうだった。そう言えば、世界樹の思し召しであるという設定だった。

 またそれを利用させてもらおう。


「私は世界樹からレンベルク国の貴族となり、レンベルク国を救えと言われました! ですからそれを途中で投げ出すわけには参りません! 例え地方であっても私にできることはあるはずです! それにアルルオーネ様は私を客員貴族として、ここドルクで迎えてくれると言いました! アルルオーネ様の御恩に報いる為にも、世界樹の思し召しを達成する為にも、いまドルクを離れ、精霊国へ戻るわけには参りません!」


 私はきっちりはっきりとそう言いきった。

 私の強情な言い様に、レビルお養父様は「むぅ……」と唸って黙り込んで俯いてしまう。


「それが本当に世界樹の思し召しなのですね?」


 黙り込んでいたレビルお養父様は顔を上げて確認する。


「はい。世界樹の思し召しです!」

「分かりました。世界樹の思し召しのままに……!」


 レビルお養父様はそう言って膝をついた。

 ようやく分かってもらえたらしい。


「それでレビルお養父様。私、お養父様にお願いがあるのです」

「お願いとは一体?」

「はい。ドルクと直接フォンテーヌや精霊国が交易を行って欲しいのです」

「直接交易を……? それは王都を通さずにですか?」

「はい。陸路を使えば王都を通ることになりますから、海路を使ってドルクの西海岸とフォンテーヌや精霊国の港町とを繋げられますか?」

「はい。出来るかと存じますが、一体どうして?」

「精霊胡椒や精霊唐辛子などの香辛料が必要なのです。王都を通さない海路ならば精霊国並の安価に流通させることができるでしょう? それがドルクの民達を救うのです」

「なるほど……分かりました。なんとか手配致しましょう」

「はい。よろしくお願いします」


 私はレビルお養父様に頭を下げて頼む。


「さぁ、私は荷物を整理致します。お養父様も客間に案内して貰ってください」

「分かりました。では失礼します」


 そう言ってレビルお養父様は私の部屋を出ていく。

 そして私は、持ってきて貰った荷物の中に、ドルクを救うために必要な魔道具類がないかを入念にチェックするのだった。

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