表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/12

3 必要なモノ

 館を浄化の魔道具で出来る限り浄化したあと、私はドルクの財政について考えていた。

 結論から言おう。

 民草が潤えば、ドルク地方領主であるアルルオーネ様の懐も潤うのだ。

 であれば、一体どうするのが最善なのだろうか?

 私は答えを探すために、レンドルク村を探索することにした。


「こんにちは!」


 まずは挨拶だ。

 私は地方領主の館を出たあと、顔を合わせた人たちに片っ端から挨拶した。

 私のことを知ってもらうことから始めなければならない。

 そうして村長の家、村唯一のお医者さんの家、魔道具師の家――恐らくはデンツさん達の家だ、などをついでに教えてもらい、村について知っていった。


「そうなんだー。じゃあここが鍛冶屋さんで、こことここが宿屋さん、こことこことここの3件が道具や食料を扱ってる村のお店なんだね?」


 地面に軽く地図を木の枝で描きながら、村の子供達にお店の場所を教えてもらう。


「うん! レーヌ姉ちゃん、それで合ってるぜ! じゃあ俺達はこれで!」


 子供たちの中心的存在らしき子がそう言って笑った。


「そう! ありがとう、またね!」


 新しい遊び場へと向かっていく子供たちを見送ると、私は村に三件あるという店の一つに向かった。


「ごめんくださーい」


 店に入ると辺りには野菜や干した肉類のコーナーの他に、生活雑貨類が置かれていた。


「あら、いらっしゃい」


 太った女将さんが店の奥から出てきた。


「こんにちは! あのちょっとお尋ねしたいことがあるんですけど……」

「なんだ、客じゃないのかい?」

「はい。すみません。私、昨日から領主様の館でお世話になっているレーヌ・フォンテーヌと言います」

「え? お貴族様かい!? それにしちゃセリザナと同じ格好をしてるじゃないか」


 女将さんが私を怪しむような目線をくれる。


「それは……着るものが他になかったもので……」

「ふーん、何か他に事情がありそうだね……まぁいいさ。尋ねたいことってのはなんでしょうかレーヌ様?」

「はい! 出来ればこの村の特産品なんかについて教えて貰えないかなと」

「特産品かい? うーん、そうだねぇ。この村はドルクとしちゃ発展してる方だけど、特産品って言えるような特産品はないね」

「そうなんですか? では皆さん日々何を食べてお過ごしなのでしょうか」

「それはね、小麦で作ったパンと野菜スープが主さ。私みたいな商人は別だけど、みんな大体の人が領主様や村長から借りた農地を近くに持ってて、そこで小麦や野菜を作ってるのさ」

「なるほど……主食はやはり小麦によるパンと……有難うございます」

「いいさいいさ。聞きたいことはそれだけかい?」

「いいえ、それで皆さんは食べていけているのでしょうか?」

「それはね……私が言ったって村で言いふらさないでおくれよ!」


 そう言うと、女将さんは私の耳に顔を近づける。


「無論、その年の収穫量によっては食べていけない人もいるのさ。でも私みたいな商人に借金したり、村長に借金したりでみんななんとか食いつないでるのさ。まぁでも、最近じゃそれも領主様がお金を貸してくださるとかでぼちぼちみんなやってるみたいだけどね」


 女将さんは小声で村のお金事情を教えてくれた。

 やはり、食べていけていない人たちもいるらしい。

 しかもそんな人達にはお優しいアルルオーネ様がお金を貸しているという。

 それでドルクの財政は厳しいのか。

 ならばやはり、住民たちが食べていけるように改革をしなければならない。


「そうでしたか。ありがとうございました。大変参考になりました」

「礼はいいよ。今度また何か買ってくださいなレーヌ様」

「はい……お金があればまたいずれ……」


 そう言って店を出ると、私は村の周囲にあるという畑へと向かった。

 村の周囲であれば猛獣やモンスターが出ることはないだろうが、注意しなければならないだろう。私はスピリュエールなしで魔法が使えるので、いざというときにはなんとかなるだろうが、誰かに見られるのは避けなければならない。

 そうして何人かの行き違う村人と挨拶を交わしながら、私は村を覆う柵の外に出た。私は森が南にある畑へと向かう。


「ありました! 秋まきの小麦でしょうか」


 私は畑で小さな小麦らしき作物を見つけると、周囲に誰もいないことを確認すると魔法を使った。無詠唱の鑑定魔法だ。

 きらきらとした光が小麦を覆う。


 【特級小麦】

 特級品質の小麦


 結果は思っていたのとは少し違い、特級品質の小麦だった。

 これならば普通は収穫量が少なくなることもほぼないだろう。

 では作物の品質ではなく、小麦自体が土地に適していないということになるだろう。

 考えてみればドルク地方は日当たりはそこそこ良いが、土地がそこまで乾燥していないし、水はけもそこまで良くない。そもそも小麦の栽培に適した土地ではないのかもしれない。


「土壌はどうなっているでしょう?」


 私は今度は土を鑑定した。


 【弱酸性の乾燥土】

 弱酸性の乾燥した土


 土は弱酸性。雨は最近降っていないからか乾燥していた。

 しかし弱酸性……弱酸性か。

 それならばあれがいいかもしれない!

 私は良い作物を思いついた。

 だが精霊国では比較的良く見かけるが、ここレンベルクのドルク地方に自生しているだろうか? いや弱酸性の土壌を持つならば可能性はある。

 私はこの時間ならばまだ猛獣の類は活発に活動していまいと判断し、更に南へ行き森へと入ることを決めた。

 そうして十数分して鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた場所にたどり着くと、私は再び周囲に人の気配がないかを確認する。


「よし!」


 誰もいない。

 ならば!


「森の精霊よ、精霊帝の呼びかけに答えよ……! サモンザフォレストスピリット!」


 もしかしたらこの森には精霊が宿っていない可能性もあったので、詠唱は破棄せずにより多くの森の精霊を呼び集めようとする。

 風のざわめきが木々を揺らす。

 すると小さな木の形をした森の精霊が1精だけ現れた。

 森の精霊が精霊語で私に話しかけてくる。


「精霊帝様! こんー!」

「こんです!」


 私が挨拶するとくるりと森の精霊はその場で一回転する。


「それで、なんのごよう?」

「はい。実は精霊ジャガイモを探しているのですが、この付近にありますか?」


 私が質問すると、森の精霊は再びくるりと一回転。


「あるよーあるある。こっちこっち!」


 森の精霊のあとを着いて、私は更に森の奥へと入っていく。

 そして3分ほどしただろうか。私の目にじゃがいもの葉っぱが映った。


「ありました! ありがとうございました精霊さん」

「ようじ、それだけ?」

「はい、それだけです。またね!」

「うんうん、またねまたね!」


 別れの挨拶を言いながら森の精霊は消えていった。


「よし! では掘りましょう」


 私は精霊ジャガイモの葉を手に引っ張る。

 森の土はさほど硬くなかったようで、するりと親芋とその周辺の小芋ごと根まで取ることができた。そうして2、3本ほどの精霊ジャガイモを茎と葉ごと収穫する。


「ふぅ……これだけあればレンドルク村の農業改革の手始めとしては十分でしょう」


 私が汚れた手で額を拭ったその時だった。

 猛獣の気配を私の直感が捉える。

 森の更に奥を見やると、そこから茶色の大熊が姿を現す。


「ブラウンベアー!? そんな、もう冬眠している時期のはずじゃあ……!」


 今はもう11月も終わり、熊は冬眠していておかしくない時期だ。

 どうやら熊は私の持っている精霊ジャガイモが目当てのようだ。

 これを食べてから冬眠に入ろうとしていたのだろう。

 まだ精霊ジャガイモはそこら中にあるので放り投げて、その隙に攻撃魔法を放とうかと考えたその時だった。


「レーヌさん!!」


 背後から私の名を呼ぶ大きな声が聞こえた。

 振り返って森の入口の方を見ると、馬に乗ったアルルオーネ様が駆けてくる。

 だがしかし、ブラウンベアーはそんなことも構わず私へと突進してきた。

 突進してくる大熊と馬に乗ったアルルオーネ様が交錯せんとする。


「氷の精霊よ。大気より水を頂き、凍結し我が刃となれ! アイスブレード!」


 懐から短杖であるスピリュエールを取り出したアルルオーネ様が詠唱。

 その杖の先には大きな氷の刃が出来上がった。

 アルルオーネ様は大熊とすれ違いながら氷の刃を一閃。

 大熊は私に到達する寸前で前に倒れ込んだ。

 馬を降りたアルルオーネ様が私の元へと走ってくる。


「大丈夫でしたか、レーヌさん!」

「はい。おかげさまで……」

「全く……どうして森になど入ったのですか。スピリュエールもまだ持たないというのに危険すぎます!」

「それは……ごめんなさい。これを探していて……」


 私は手元の精霊ジャガイモへと視線を落とす。


「これは……?」

「はい。精霊ジャガイモと言います。レンドルク村の農業改革に必要なものなんです」

「精霊ジャガイモですか……? あぁ……! そう言えば精霊国ではこのような根菜を食べる地方もあると聞いたことがあります」

「ご存知だったのですね、その精霊ジャガイモです。ここドルクではきっと栽培に適していると思うんです。なにも肥料なしでこんなにたくさん自生しているのですから……!」

「これは……足元にあるのは全てそうなのですか?」

「はい」


 私が答えると、アルルオーネ様は口元に考えるように手を当てた。


「レーヌさん。これは食べられるんですよね?」

「はい。芽や日に焼けて緑色になっている部分は毒なのですが、それ以外の部分は食べられます!」

「毒が……なるほどそれでレンベルクではあまり食べられていないのですね。ですがここドルクの土地には向いていると……? それならばこれを育てて食べれば、民達の飢えが凌げるかもしれませんね……」

「はい。その通りです!」


 私はアルルオーネ様の見事な判断に声を上げて同意する。


「ところで、アルルオーネ様は何故こんなところに?」


 私が尋ねるとアルルオーネ様は厳しい顔をした。


「村の者にどうやら南の畑か森へ行ったようだと聞き及びまして。まさか森には入っていないだろうと思ったのですが、直感に頼って来てみて正解でした。もう二度とスピリュエールもなしにお一人で森に入るなどしないでください」

「はい。申し訳ありません……」


 私は俯いて謝罪する。


「それはそうと、精霊ジャガイモ……多ければ多いほどいいのでしょう?」

「はい……! 農業改革に必要なんです!」


 そうして、私達二人は更に数本の精霊ジャガイモを葉と茎ごと採取すると、私はアルルオーネ様と共に馬に乗せて貰い、村へと帰った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ