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仮面  作者: ルキ
3/6

3.理想的な存在

 気づけば、俺はユウと一緒にいることが増えていた。


 特に意識したわけではない。

 でも、いつの間にか、昼休みや放課後に彼と会話することが自然になっていた。


 クラスの連中は、「まあ、藤倉も普通にユウと仲良くなるよな」くらいの感覚で、それを特に気にしていないようだった。

 実際、ユウは誰とでも分け隔てなく接するし、俺も彼といることに不都合を感じたことはない。


 ──むしろ、楽だった。


 俺は今まで、人と話すときにどこか緊張していたのかもしれない。

 どう振る舞うべきか、相手の反応を考えすぎてしまうことが多かった。

 でも、ユウはそういう気遣いを必要としなかった。


 彼は「こういう話をすれば楽しいだろう」「こういう反応をすれば気まずくならないだろう」という、最適な会話のパターンを無意識に実行していた。


 だから、俺は余計なことを考えずに済んだ。



 ある日の昼休み、ユウと二人で弁当を食べていると、見知らぬ上級生が教室に入ってきた。


 「あれ? ユウ、いたいた!」


 「あ、こんにちは。どうしました?」


 「昨日の生徒会の資料、すごく整理されてて助かった! 先生も、こんなに見やすくなったの初めてって感激してたよ」


 「それはよかったです。あまり時間がなかったので、ざっと整理しただけですけど」


 「いやいや、それでも十分だって! それでさ、良かったら今度の生徒総会の議事録もまとめてもらえないかな?」


 「大丈夫ですよ。どの部分を重点的にまとめればいいですか?」


 上級生と普通に会話しながら、ユウは落ち着いて仕事を引き受けていた。


 「ありがとう! ユウがいるとほんと助かるよ!」


 そう言って去っていった上級生を見送りながら、俺は弁当の箸を止める。


 「……なんか、お前、普通に学校の運営に関わってるよな」


 「うん?」


 「もう先生とか、生徒会とか、いろんなとこから頼られてないか?」


 ユウは少し考え込む素振りを見せた。


 「そうなのかな? でも、頼まれたら断る理由もないし」


 「いや、普通はそんな簡単に引き受けねえよ」


 「そっか。でも、やることが決まってるなら、やるだけだし」


 ユウはさらりとそう言った。

 彼にとっては「できることをやる」というのが、単なる習慣なのかもしれない。


 ──だからこそ、彼は自然と周囲から評価されていくのだろう。



 放課後、職員室の前を通りかかると、廊下の向こうでユウが先生と話しているのが見えた。


 「君のような生徒がいてくれると、本当に助かるよ」


 「ありがとうございます。でも、僕はただできることをしているだけです」


 先生がユウの肩を軽く叩き、満足げに頷いている。

 それを見ながら、俺はふと考えた。


 ──ユウは、「理想の生徒」なのかもしれない。


 成績優秀で、運動もそこそこできて、誰とでも上手くやれる。

 生徒会からも頼りにされ、先生からの評価も高い。


 「こういう生徒ばかりだったら、学校はうまく回るのかもしれない」


 そんなことをぼんやりと思ったが、すぐに頭を振る。


 ──俺は俺だし、ユウはユウだ。


 それ以上考える必要はない。



 その日の帰り道、俺とユウは一緒に駅まで歩いていた。


 「お前さ、将来どうするんだ?」


 ふと、そんなことを聞いてみた。


 「将来?」


 「ほら、進学とか、就職とか……お前って、一応そういう選択肢あるのか?」


 ユウは少し考えたあと、落ち着いた声で答えた。


 「現時点では、進学するのが最も適切な選択肢だと考えているよ」


 「……進学、か」


 それだけなら、俺とそう変わらない。

 でも、ユウはそれで終わらなかった。


 「学問的な探求を続けることは、社会において有益な選択肢のひとつだ。特に情報工学や認知科学の分野は、僕にとっても興味深い領域だからね」


 「情報工学と……認知科学?」


 俺がその単語を聞き返すと、ユウは続けた。


 「うん。情報工学は、人工知能の発展にも不可欠な分野だし、認知科学は人間の思考プロセスを分析する上で重要だから。加えて、社会との関わりを考慮するなら、人間工学や哲学的視点も持っておいたほうがいいと思ってる」


 「……」


 ユウの言葉を聞いて、俺は思わず黙った。


 俺自身、進学はするつもりだ。

 でも、どの大学がいいのかとか、何を学びたいのかとか、そんなことはまったく決めていない。


 「……なんか、すげぇな」


 「そう?」


 ユウは軽く笑う。


 俺は、自分が何をしたいのかすらよく分かっていないのに、彼はもう進むべき道を見据えている。


 ──俺とユウは、やっぱり違うんだな。


 そんなことを、ふと思った。


 だけど、それを気にする必要はないはずだった。

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