第55話 憎しみ
リスタルは重い体を踏ん張り、外へ出た。そして、勇者の元に向かっていく。
皆を救うために。
早く、一刻も早くたどり着かなければならない。
今は現実から目を背けたくなる。
向こうで大勢の魔族が殺されて行っているのだ。
体調を崩さなければ、
無茶さえしなければ、休みをもっと取っていれば、
悔やみたいことは山ほどある。
後悔も山ほどある。
だけど今考えなければならないのは、過去の事じゃなくて、未来の事だ。
今、過去の事を反省したとしても何も変わらない。
(やっぱり、お腹が苦しい)
無茶しているからか、頭は痛く、お腹も腹痛に見舞われた。
恐らく回復の一途をたどっていた体調も再び悪化に向かっているだろう。
しかし、今頑張らないでいつ頑張れというのだろうか。
そして、ついに、勇者を目に捕らえた。
「私の民を、よくもっ!!」
リスタルは魔力を解放する。
そして一気に魔力の圧を飛ばした。
「なんて圧だよ」
そうして勇者レオンを軽く怯ませた後、リスタルは自身に魔素を纏う。
周りを軽く見渡すと、死体の山だ。恐らく半数の人が殺されただろう。
「あなたはなぜ、皆を、魔族を殺すの?」
「はっ、愚問はやめにしろよ。人間の敵の魔族なんて決まってるだろ」
「っあなたは邪悪です」
「邪悪だとか何とか言ってみりょ。魔王さんよお」
そして、剣を握り、レオンがリスタルに向かっていく。
「あなたは私が滅ぼします」
「はっ、やってみろよお」
レオンの剣とリスタルの拳がぶつかり合う。
幾度も幾度もぶつかり合う。
それは互角の様相をもたらしている。
「やはりてめえは弱いな」
だが、戦況は次第にレオンの方に傾いていく。
「そんな体で無理をして、俺に勝てるかよ」
リスタルの体調不良が露見し始めた。
「下らねえ、魔王討伐も俺にかかれば余裕じゃねえか」
レオンの剣はリスタルの胴を段々と貫いていく。
その度リスタルの体から血がしたたる。
(万全ならこんな奴)
だが、それは言い訳だ。
レオンはクズだが、わざとリスタルの不調時にこちらに来たわけではない。
「そろそろ諦めな、魔王さんよ。俺の手でここの魔族たちは皆殺しだ」
その瞬間リスタルにある光景がフラッシュバックした。
未熟な魔王である自分を慕ってくれる民たち、そして、自分の命令を聞くだけではなく、リスタルに優しくしてくれた臣下たち。
魔王だと分かっていても、リスタルをただ敬うだけではなく、ただび少女として見てくれた人たち。
そんな人たちのためにも、リスタルは死ぬわけにはいかないし、皆を殺させるわけにもいかない。
レオンは今、瀕死のリスタルを放置して再び、
「ははははは」
そう叫びながら皆を殺している。
あの邪悪を今すぐに殺さなければ。
リスタルの心に、もやが出来た。
それは憎悪の感情だ。
憎め!
憎め。
憎め憎め憎め。
憎め!!
生かすな
生かすな
生かすな生かすな。
殺せ殺せ、
殺された皆の苦痛を分からせてやれ。
リスタルの怒りは新たな魔力へと変貌を遂げていく。
それこそ目の前のレオンを殺せるだけの力を。
「あなただけは」リスタルの拳が漆黒に染まっていく。その魔素の濃度は、並の魔族10000人にも及ぶ魔素の寮。
その拳の一撃で、レオンは吹き飛んだ。
レオンの体はリスタルの拳の風圧に運ばれた。
そして、猛スピードで飛ばされた後、木々にぶつかり地面に落ちた。
「何だよこれは」
レオン自身の骨が折れる音がした。
「みんなが味わった痛みを思い知った?」
リスタルはそう言って首を振る。
「違う」
リスタルは吠える。
「みんなが味わった痛みはこんなものではなかったはず」
もっと痛かったはずだ。
戦う覚悟もないのに、急にやってきた襲撃者に唐突にその命を終わらされた。
きっと、痛かったし苦しかっただろう。
「あなただけは許す気にはならない」
「ひゅ、ひ、」
レオンは後ろに後退りをする。
「逃げるつもり?」
リスタルの視線は鋭くレオンを貫く。
もはや、レオンに戦う意思は見えなかった。どれどころか、もう戦意喪失して、逃亡を図るタイミングまで来ていた。
しかし、
「逃がさない」
と、リスタルは叫ぶ。
「みっともないわ」
そしてリスタルの魔法がレオンの腕を光線で焼き払った。
それをうけレオンは叫ぶ。痛みで叫ぶ。
しかし、その声はどこにも届かない。
リスタルはレオンの元に直接行き、レオンの首元を掴む。
「反省しているの?」
「反省してます……反省してます反省してますから、殺さないで」
レオンは心にもない言葉を放つ。
「反省してないじゃん」
そして、リスタルはレオンを気絶させた。
ここで殺してもいいけれど、もっと惨めに公開処刑をしたかった。
そして、王宮に戻った後、リスタルは再びの眠りへと落ちた。




