第三十六話 ダークデーモン
なんで。
ディアスが急にかっこいい。
「私は大丈夫だから」
私は照れを隠すようにそう言った。
私がディアスにきゅんとする?
正直ありえないと思う。
「いや、大丈夫には見えないだろ。とりあえずオルフィのところに行こうぜ」
確かに。オルフィには回復魔法がある。それで癒してもらえれば私の傷はたちまち塞がるだろう。
いや、何かを忘れてる気がする。
こんな油断しきった空間。
もう、戦いは終わったと思う瞬間。
この隙を奴が逃すわけがない。
「待って」
私は限界の体力を振り絞り、立ち上がる。
そして周りの気配を探る。
ラベルはきっと、この瞬間にも来る。
あいつを舐めたらいけないのだ。
舐めた瞬間、即座にやられることになる。
私は向こうに感じる気配目掛けて火の魔法を飛ばす。
ちょうど真上へと。
「ああ、来ると思ってましたよ」
その声を聴き、上を見る。
すると、天井が粉砕し、岩が沢山落ちてきた。
だが,この粉砕は私の魔法によるものではない、ラベルが自ら壊したのだろう。
「退散はフェイクでしょ」
そう風の刃で岩を粉砕しながら言った。
「ははは、まさか読み切っているとは。リスリィ、貴方が回復魔法をかけてもらっている隙に倒そうと思ったのに」
「回復魔法をされる瞬間が一番の隙でしょ。その間は何も行動が出来ない。そして、一番油断する瞬間だよ」
「そうだな。その隙をついて私が来るのが読めてたと」
私は頷く。
「いやはや、悪運が強い。いや偶然ではないからこの場合は賢いと言うべきか。本来なら私は黙って帰るべきだろうが、流石にハルステウラがやられるのはまずい。こちら側の戦力も無限ではないのでね。均衡を取らねばならないところなのだよ。さて、ここはお前たち全員を亡き者とするほかない。特に、リスリィお前をだ」
こいつにとって、私は厄介な存在だからか。
そして、地面に召喚紋が生じる。
複雑な模様の絡みあう、円状の模様だ。
「さあ、くたばれ。現れろ。ダークデーモン」
召喚紋から飛び出してきたのは大きな悪魔だ。
角が生えており、そして見た目が凶悪だ。だが、ここまでのとどまらない。
内なる魔素量が段違いの化け物だ。
流石にハルステウラほどの力はなさそうだが、十分に恐ろしそうな気配を纏っている。
「今からこいつとやるの?」
私はもう体力がないし、ディアスも見た感じボロボロだ。ミハイムも見れば魔力残量がほとんどないことが分かる。
今の状態で戦っていいような相手ではない。
しかもだ、ここにある魔素はハルステウラの消滅とともに消えてしまった。文字通りの絶望だ。
「どうれ、私はここでお前たちが全滅するのを見届けてから帰宅するよ」
ほかにもAランクやSランクがそこそこいる。そいつらに任せるしかない。
「ウォータースライサー!!」
「サンダーボルト」
「シャイニングソード」
他の勇者たちが必死にダークデーモンへと、果敢に攻撃を仕掛けているが、全く効いているそぶりすら見せてくれない。
そりゃそうだ。皆体力が削れて行っている。
私のせいで。
私が内なる闇にもっと早くに勝つことが出来れば、みんなを必要以上に傷つけることも無かった。
『闇の力を使え』
その瞬間、その言葉が脳内に響く。
『闇の力を使えば、今の状況を打破できる』
この声は大魔王リスタルか。最近姿を現さなかったのに、ここにきてか。
私はそんなもの使うつもりはない。
少なくともこんな人数がいる場所なんかでは。
それに、感じるんだよ。私の闇の力が年々増して言っているということを。
恐らく次にこの力を使った時、私は光に戻れないかもしれない。
『ほう、使わずに勝てると? 無駄な幻想にすがるのはやめろ。お前にはもう私の力を使うしかないのだ』
最近、内からリスタルが侵略して行っているように感じるのだ。
リスタルが内から私を制圧してこようとしているのを感じる。
今までは使ってて大丈夫だったけれど、今はどうか分からない。
いや、そもそもこんなところで使ったら、私は完全にお尋ね者になってしまう。
私は実際にあの時以来闇の力なんて一切使っていないのだ。
そもそもお前に信用できる要素なんてあるわけがない。大魔王リスタル。
『はっ、そうかもな。だが、我もお前と一緒に討ち死にするのは嫌だ。だから言っておる』
だから言っている?
『お前は先ほど人を傷つけたのにか? そんなもの詭弁だ。お前は先ほど乗っ取られ、人に危害をもたらした。ハルステウラがもう少し賢ければここで全員終わっていたところだ。それが同人減と共存するというのか。お前は人の道では生きられん。お前は闇の道で生きろ。人間などというくだらない連中と群れるな。これが我の最終勧告だ』
黙れ黙れ
私は体を無理に動かす。
「私は戦える!!」
そう叫び、一気にダークデーモンに飛びかかる。
「私は体力はない。でも、魔力が無くなったわけじゃない」
全力の魔法をぶっ放せれば。
周りの魔素から力を得られないのが残念だ。だけど、それでも十分な魔力になるはずだ。
大魔王は黙っていろ、私は私の力で、人の力でこいつを倒すんだ。
「堕ちろお」
全力の火球がダークデーモンを包み込む。これで終わってくれたらありがたいのだが……
「ぐおお」
一旦は膝をついたものの、再び立ち上がって来た。
火力不足だ。
そもそも私は魔法よりも物理の方が得意。分かり切っている事だ。
こんな魔素を持っている敵相手では、単調な魔法での攻めなど通用しない。
「ああ、もう。そんな楽にはいけないわよね」
私の頭上に拳が振り下ろされてくる。
これはぎりぎり避けられるかもしれない。
ただ、そこから先どうする。せっかく残っていた魔力も無駄使いしている。
こうなったら最後、大魔王を呼び出すしかない。
だけど、それをすれば世界が今度こそ終わる可能性がある。
私はある日気が付いたのだ。
内なる闇が増長しているのに。
その日、私は思い知った。気軽に闇の力を使っていたと、
本当はこんなに気軽に使ってはいけない、危険な力だと。
私が闇を使うたびに、リスタルは成長してきている。
いつか、私の人格を塗りつぶしてしまうのだ。
今の私には闇を使わずしてこいつに勝つ方法が分からない。
私は一体どうすればいいのだろうか。
「人類の希望。リスリィ。ここで終わるのです」
そう遠くから聞こえる。
ラベルの声だ。
私の最期を予期するかのような気持ち悪さを感じた。
だが、拳は粉砕された。向こうから放たれた火の矢で、
「なんで僕のことを忘れているんですか? ふざけないでくださいよ」
ミハイムの矢だ。しかも、かなりの魔力がこもっている。
ダークデーモンの腕はにょきにょきと生え始める。
「なに?」
ミハイムは驚く。私はダークデーモンのお腹を蹴って仲間の元へと戻る。
ねえ、リスタル。私にはあなたと違って仲間がいるよ。だからそう、焦らないでよ。
『ふざけるな』
「回復……します……」
オルフィが私の体に触れようとする。それを私が手で止めた。
「私はもう魔力を使い切った。多分今はこの中で一番役立たずだ。だから、変わりにほかの人を回復させてほしい」
「でも」
「いないんだったら魔法で攻撃してほしい」
そう言って私は座って戦闘を眺める。
ディアスが動き出した。
私の前に回復してもらっていたからもう大丈夫という事だろうか。
ボーと眺めていると、私の肩に手が乗せられる。
「オルフィ?」
「回復しないと……だめです」
「まったく。このパーティはブラックじゃん」
休ませてもくれないのか。
でもこれで、体力は戻った。
魔力は戻ってないから、あまり大胆な攻めは無理だけど。でも、隙を作る程度なら出来る。
「行くよ」
私は地面をける。
まだ終わってはいない。
ダークデーモンを倒し、そのままラベルを倒すのだ。




