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第一話 嫌われていた私、魔王討伐の旅に出ます……一人で!!

 私はずっと苦しみ続けた。

 私の人生にはなかった。

 一切の楽しみが。



 数千年前に勇者に討伐された大魔王リスタル。

 私はその魂と、その魔力を持っているらしく、形的には生まれ変わりになるらしい。

 つまり、世界を脅かした大魔王の生まれ変わりという事だ。



 流石に大魔王の魂を持っているから監禁だ! 拷問だ! などと言ったようなことは無かった。


 だが、監視され、周りの人からは避けられ、迫害された。

 私が話しかけてもみんな無視をするし、大人たちは嫌悪をはらんだ目を向ける。石を投げられたこともあるし、集団で暴行を受けた記憶もある。


 その幾度の場面で私は抵抗なんて、一切してこなかった。

 抵抗したら私の立場がさらに悪くなるからだ。


 だが、それでもみんな私を恐れ、忌み嫌っているという状況は、何も変わってこなかった。


 なにも良い事のない人生だ。

 これならば生まれてこなければよかったとさえ思える。

 だって、生まれること自体が罪だなんて、私にはもはやどうしようもないじゃないか。



 大魔王リスタル、彼女はその無尽蔵な力で、数々の国を襲い、絶望の地へと変えたと言われている。

 彼女が襲った国は魔物の蔓延る地獄と化し、そこにいた人間はみな、魔物に殺されたという。その中には拷問で命を落とした者も少なくはない。


 まさに大魔王と言ってもいい存在であり、彼女は今まで現れた魔族の王、魔王よりもはるかに強く、遥かに残忍だった。

 それは魔王と形容すること――周りの他の魔王と並べる事自体――が失礼となるくらいに。

 そのためいつの間にか、畏怖と尊敬の念を込めて大魔王と呼ばれるようになった。

 人間は矮小な存在だ。魔族には到底及ばない。その時点で、人間側は絶望した。

 実際、大魔王の手により、いくつもの国が滅ぼされた。


 そして人間側の国を一つを残してすべて壊滅させられたとき、ある一人の少年が立ち上がった。

 彼は勇者ラスカル。御年十七の少年だった。彼は立ちはだかる魔族をどんどんと打ち破って行き、最終的にはその全てを治める大魔王リスタルに戦いを挑んだ。


 その頃にはラスカルは必死に戦ったが、勇者の命を顧みない攻撃によって、両者相打ちとなった。だが、大魔王は賢かった。死の寸前に、自身の魂を未来へと飛ばしたのである。


 そしてその魂が宿ったのが私という事だ。なんてはた迷惑な事なんだろう。私はそんな遥か昔の事には全く関係が無いのに。


 だったら他の人がその対象になればよかった。

 私以外の人がその対象になってほしかった。

 なら、私はもっと幸せなはずだったのに。


 そしてそんなある日、王様に呼ばれた。もしかして封印されるんじゃないだろうかと、不安になる。


 私の立場はそれくらい不安定なのだ。


 ちなみにだが、私は殺されない。理由は、私が死ぬと大魔王の魂は瞬時に復活し、世界の危機となるからだ。

 要するに私は大魔王を封じ込める依り代みたいなことになっているという事。だから、私を封じる方法は封印しかないという事になる。

 まあ、死んだら大魔王が復活するというのも、真偽不明な話ではあるのだけど。


 王座の前に行く。すると、王様がいた。


 私が迫害されているのはこいつのせいだ、と考えたら少し嫌な気持ちに陥る。

 でも、そんなことは言っていられない。

 私の命は実質こいつが握っている。

 封印と命じたらすぐさま封印術師が現れて、封印されてしまうだろう。



 王様は真剣な面持ちで、

「リスリィよ、魔王ラベンヌを倒してほしい」

 そう言った。


 魔王ラベンヌ。彼女はここ最近現れた魔王で、人間の国をどんどんと侵略し始めている。

 今この世に存在する数人の魔王の中で一番危険と言ってもいい。

 そもそも現世にいる魔王たちは大魔王リスタルが消えてから平和だった世界に、突如として現れた魔王たちなのだ。


「えっと、私戦闘経験ありませんけど」


 私は戦闘経験などない。

 魔王に対抗するための勇者学院には力をつけるのを恐れて、入れてもらえなかったし、魔力を用いて魔物処理なんてしようものなら、その前に監視員にやられている。


 大魔王の魔力を使うのが危険だという理由で。


「それは大丈夫じゃ、貴様には大魔王の力が宿っておる。その力で魔物を倒せ」


 いやいや、私その力の使用を封じられてたわけなんですけど。大魔王の力の使い方が分からないんですけど。


 しかし、行かなきゃ殺すみたいな目を向けられている。

 ここで断ったら、確実に封印される。封印だけは絶対に嫌だ。だって、封印は長く辛い空間に置かれるとうわさで聞いたことがあるんだもん。


 はあ。


 呑み込めない点も多いし、良いように使われている気もするが、やるしかない。


「はい、このリスリィ、魔王ラベンヌを倒して見せます」

「リスリィ、任せたぞ」


 そして、その場を後にする。

 もう、一体どうしたらいいのよ。私戦ったことがないんだけど。


 その後街に戻ると、監視の人に、「行くんだろ? これが武器だ。さあ、門をくぐって魔王討伐に向かってくれ」と言われた。ああ、拒否権ところか、時間すらくれないんだと理解した。ああ、扱い本当に雑だな。


 そしてその後はすぐに門をくぐって魔王討伐の旅に出た。

 ……これ、もしかして魔王討伐に送り込まれたと称して国外追放された?

 まあ、私が死ねば大魔王が復活するからそれはないと思うけど。でも、あの王様の事だ、完璧な否定なんて出来ない。

 外に出ると本当によくわかることだが、だいぶ魔物に侵略されている。一応ここはまだ国の国土のはずなのにだ。

 ちなみに魔物というのは魔王の魔力によって作られた生物で、敵の国に送る先兵として扱われている。


 こんなに国の周りに魔物がいるんだったら、そりゃあ私を使いたくなる気持ちも分かる。だから許されることではないが。

 さてと、私の大魔王の力を試してみるか。

 悪いようにではなく、いいように考えないと。

 何しろ、今は監視の目がない。つまり自由だ。

 私を不自由足らしめた原因のこの力。ようやく私の役に立ってくれる。

 そう思っていると目の前に手頃なゴブリンがいた。まずはあいつで力試しをするか。


 戦闘経験がない私だけど、大魔王の力があるから十分戦えるはず。


「勝負だ!!」


 そう叫び、コブリンの前に立ちはばかる。すると早速ゴブリンがこちらに向かってくる。


「行け! 大魔王の力!」


 そう叫び、目の前に黒い球を作り出す。

 おお、禍々しい。作り出している私でさえも邪悪に感じる。そりゃ、忌み嫌われるはずだ。


 でもその分威力もすごいはず。

 そして、それをコブリンに向けて放つ。漆黒の球はゴブリンに向かって飛んでいく。行けえ。


 だが、当たる寸前でコブリンがジャンプした。

 その結果球はゴブリンの下を通った。

 避けられたのだ。


「え? 嘘」


 とは言ったものの、この闇の球は思ったよりも遅かった。まさか、スピードに向ける魔力の使い方と、パワーに向ける力が違うのか?


 だけど、今はそんなことを考える時間はない。早速コブリンがこちらに向かってきている。しかもそこそこ速い。

 だけど、大魔王の魔力が私に宿っているからか、相手の動きが手に取るくらいにわかる。

 これくらいの速さならば、避けられる。


 横に体の位置をずらし、避けきる。

 そして、この瞬間、私の目にはゴブリンの隙が手に取るようにわかる、

 私は手をゴブリンの頭上に持ち上げ、そのままゴブリンを上から手で叩き潰す。


「っよし!」


 私は叫んだ。初戦は勝ちだ。だけど、どっと疲れた。

 戦いはこんなにも疲れるものなのか。正直侮っていた。

 体力自体はそこまでではない。ゴブリン自体は弱かった。だが、問題はその先だ。頭を沢山使ったのだ。


 しかも命のやり取り。少しでも判断を遅らせれば命の危険がある。その事実がまさに私の精神を削っていったのだ。


 しかし、休んでいる暇なんてない。かたき討ちなのか、また次のゴブリンが現れる。しかも五体程度いる。よし、やってやろうじゃないの。

 そして、私の成長の糧にしてやる。


「ダークアロー」


 闇の矢が次々とコブリンに向かってくる。そしてその矢が次々とゴブリンへと突き刺さっていく。

 ゴブリンが血を流しながらその場に倒れた。


 そして、ほんの一撃で、沢山いたゴブリンたちを倒し終わった。


「私、中々やるじゃん」


 そう、呟いた。流石は私、中々やるね。

 所謂これがスピードを意識した攻撃か。


「でも、これ、どうしたらいいんだろう」


 よくよく考えたらどうやって魔王を倒すのかとか全く考えていない。

 仲間が必要だとは思うけど……私の仲間になってくれる人なんて中々レアだろうことは分かっている。

 何しろ私は嫌われているんだから。


 さて、そろそろ移動しなければ。

 というか一旦休みたい。

 どこかに宿でもないのかな。

 ちなみにこの世界では、城外にも人は沢山いる。冒険者や、王城に入れなかった人々達が住んでいるのだ。つまり、王城の城下町はこの国で唯一平和な――魔物に殺されるリスクのない――場所だ。


 そもそも魔王の復活もここ十五年の話で避難もままなってはいないのである。とりあえず金のあり、国の役に立ちそうな人たちをとりあえず避難させたという形だろう。


 それも、私の年齢と奇しくも一致するのだが。

 王様から攻めての選別でもらった世界地図を見ながら歩く。途中沢山の魔物に襲われたが、何とか撃退した。


 そして、近くの村に着いた。今日はここで一泊する予定だ。

 泊めてくれるかは知らないけど。


 何しろ、私の魔力は邪悪なのだ。

 いるだけで人に嫌われるようなオーラを纏っている。

 私でさえも邪悪だと思っているのだから、周りの人たちにはもっとだろう。


面白いと思ってくださった方は、ブックマークや、星を入れてくださると、有原優が喜びます。


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