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第9話 星観月詠

予知能力には大きく二つの種類がある。

女神やその眷属からの夢や直感による導きを受ける、いわば受動的な予知と、自ら能動的に未来を見通す予知である。


受動的な予知は、決定的な危機を回避するために役立つが、能動的な予知こそが敵を打ち倒すためには必要不可欠だ。


しかし、タリアの能動的な予知はまだ完全ではなく、彼女は王都にある書物を使ってこの力を強化できないかと考えていた。


占いには無数の種類がある。

占星術から亀の甲羅を火で焼いてひび割れを見たり、札をめくったり、花びらをちぎる占いもあり、本当にたくさんの種類がある。


その中で、ソフィア先生から、もっとも力を入れて伝授を受けたのは、彼女の神である月の女神セレネリアに仕える神官が得意とする『月詠(つくよみ)』の占いであった。

今の彼女に必要な星観(ほしみ)の伝授は初歩的なものしか受けることが出来なかったのだ。


占いにはそれぞれ得意な占いの対象があり、例えば月詠の占いは、大まかな吉凶や運勢や精神的なものを占うのに適していて、彼女はソフィアからしっかりと伝授を受けている。


しかし、今の彼女に必要なのは、「いつ」だったり、「どこ」や「だれ」「どのように」といった情報を知ることができる占いであり、それには星を使った占いや、札を使った占いが適しているのだ。


しかし、以前、軽い気持ちで習ったばかりの札を使った占いをして「敵はどこにいるか」のような直接的な占いを、試してみたところ、未熟であったせいもあって敵の占いに対する防御を突破できなかっただけでなく、逆探知のようなものまでされそうになったため、慌てて逃げ、結界を張って隠れたことがあった。


よく調べたところ、札を使った占いは自分の魔力を使うため、相手の魔力が強い場合は、力の差で占えないとわかった。

そう、敵は強大な力を持っているかもしれないのに、余計なことをしたものだと、あとでひどく落ち込んだのであった。


では星を使った占いはどうかというと、星観もその中で二つに分けられた方法があって、一つは天文学的な、天体の場所を計算してこれから何が起こるのか大規模な動きを予測する占いで、もう一つは神様の力を借りて未来をのぞく技法である。


タリアは星観の神様の力を借りて未来をのぞくほうの技法を習得すべく、城や月の神殿の書庫の書物をさがし、ある程度の知識を得ることができたが、国の運命を左右するほどの予知ができるようになるための奥義までは見つけられなかった。


王都に来た目的の一つが、星観の秘伝書を探すことなのだったが・・・・。


「やっぱりだめか……」


この日も星空を見上げて、タリアは小さくつぶやいた。

ソフィア先生は「運命に関わる人間の数が多ければ多いほど、未来は揺らぎやすく、見えづらい」と言っていた。


それでも、タリアは何度も星観に挑戦したが、王国の未来を見ることはできなかった。


「難しいなぁ……」


ため息をつきつつも、タリアはさらに知識を深めるため、王宮の書庫に向かった。


これまでに王家の書庫で見つけたのは一般的な占術書ばかりで、彼女が期待していたような貴重な書物はまだ見つからなかった。


タリアはため息をつき、静かな書庫の中で思わず小さくつぶやいた。

絶望的な量の蔵書が、驚くほど乱雑に並んでいる。


その時、背後から静かな足音が聞こえた。

気配に気づいたタリアが振り向くと、そこには一人の男性が立っていた。

年の頃は三十代半ばといったところだろうか。

背は高く、整った顔立ちに、落ち着いた印象を与える深い青のローブを身にまとっている。そのローブは、占術官にしか着られない特別なものだと、タリアはすぐに気づいた。


「探し物でもあるのかい?」


彼の声は穏やかで、どこか懐かしさを感じさせる柔らかい響きだった。

彼の鋭い青い瞳が、書棚を眺めていたタリアに注がれている。彼の口元には微笑が浮かんでいるが、その奥には何かを見抜こうとする意志が感じられた。


タリアは一瞬、心臓が跳ねるのを感じた。

まさか、この書庫で占いに関する書物を探しているとは言えない。

それは自分一人で秘密に進めていることだし、誰にも知られてはいけない計画だからだ。


「ええっと……あの、ちょっと興味があって見ているだけです。特に探しているわけじゃなくて……」


タリアはできるだけ自然に振る舞おうとしながら、すぐに答えた。しかし、言葉にわずかな緊張が滲んでしまっていることに気づく。

彼が自分を見ている視線が、じわりと胸に重くのしかかってくるようだった。


男性は少しだけ首を傾げながら、再び穏やかな微笑を浮かべた。彼の名前は、ルカだそうだ。


東の国から招かれ、王宮で占術官として仕えている人物で、彼はいつも穏やかで善良な人柄として知られていた。


そして、何も占えない無能者としての評判もあった。


「そうか……君はここでよく見かけるから、何か特別な本を探しているのかと思ったんだがね。まあ、書庫にはいろいろな書物があるから、つい好奇心が湧くのも無理はない。ところで、君の名前は……?」


ルカはそう言いながら、優しげな表情でタリアに視線を向けてくる。


タリアは内心焦りつつも、なんとか冷静に対応しようと努めた。

まさかここで、自分が密かに占術の強化のために書物を探しているとは言えない。

だが、嘘をつくわけにもいかないし、相手は占術官なのだ。

下手なことを言えば、すぐに見抜かれてしまうかもしれない。


たとえ無能と評判の彼でも、だ。

用心に越したことは無い。


「タリアです。王妃様に仕える侍女として、ここにおります。」


彼女は丁寧に一礼しながら、自分の役割を名乗った。

少しでも怪しまれないように、あくまで控えめで礼儀正しく振る舞うことを心がけた。


「タリアか。いい名前だね。では、タリア、もし何か困ったことがあれば、遠慮なく言ってくれ。私はこの書庫のことはよく知っているから、案内くらいはできるかもしれないよ」


ルカは柔らかい笑みを浮かべながらそう言い、手に持っていた書物を軽く持ち上げて見せた。その身振りに、彼の誠実さと親しみやすさが感じられ、タリアの緊張が少しだけ和らいだ。


「ありがとうございます……ですが、今のところは大丈夫です。ご親切に感謝します。」


タリアは静かに頭を下げ、控えめにそう答えた。


ルカは彼女の言葉に満足したように頷き、「それなら、良いのだが」とだけ言って、そのまま書庫の奥へと歩いていった。彼が去っていく背中を見送りながら、タリアは自分が知らない間に誰かに見られていたという事実に、少し驚きを感じた。


(占術官……ルカさんか。親切そうだけど、あんまり油断はできないわね)


心の中でそうつぶやきながら、タリアはもう一度書棚を見上げた。

彼の登場で少しだけ落ち着いたが、探し物はまだ見つかっていない。果たして、彼の手を借りるべきなのか、それとも自力で見つけ出すべきなのか……。


タリアはしばらく考えた後、書棚に手を伸ばし、再び本を取り出した。

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