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第60話 タリアセレステ

ルチアーノとケニスがハイランドから王宮へ戻ると、間を置かずにカリナ、キヴァ、ソラン、そしてソフィアを呼び出した。


「急なお呼び出しとうかがいましたが、何か……」

王宮の奥まった一室。

この部屋は王が私的な目的で使う場所であり、招かれること自体が稀だ。最後に部屋へ入ってきたのは、ソランだった。


彼は現在、王都の太陽神を(まつ)る大神殿で最高の地位にある大神官として忙しい日々を送っている。それでも、王からの急な召集と聞けば断ることなく駆けつける男だ。


「ソランも、みなも、急に集まってもらってすまない」

ルチアーノは努めて冷静な表情を保ちながら、穏やかな声で話し始めた。


「皆に集まってもらったのは他でもない、タリアのことだ。余とケニスでハイランドへ(おもむ)き、すべてを知った」


その言葉が終わるや否や、カリナはすぐに王の前へひざまずいた。


「陛下……長きにわたり偽り続けてまいりましたこと、心よりお詫び申し上げます。この罪をいかに償うべきか、何も思い浮かびませぬ。ただ、陛下の御心のままに罰をお与えください……」


その声は震え、目を伏せる彼女の姿からは、深い後悔と心からの悲しみが(にじ)み出ていた。


カリナの謝罪の言葉を受け、ソラン大神官とソフィア大神官も静かに王の前にひざまずいた。その光景に、事情を知らないキヴァはただ目を見開き、慌てふためくばかりだった。


ルチアーノは深い息をつき、柔らかな声で語りかけた。


「カリナ、もういいんだ。怒ってなどいない。どうか顔を上げてくれ。ソラン、ソフィア、二人も同じだ。長い間、つらい思いをさせてしまったな。だが、みなそれぞれ為すべきことを為しただけなのだ。もういいんだ。どうか、顔を上げてほしい。」


その言葉に、カリナの肩は小さく震えた。やがて、彼女はしぼり出すように言葉をつむいだ。


「兄上……申し訳ありませんでした。わたし、タリアを石にしてしまいました……本当に、本当に申し訳ございませんでした……」


ルチアーノは、膝をついたままのカリナに歩み寄ると、優しく彼女を立たせ、固く抱きしめた。


「カリナ、お前を責める者など誰もいない。すべては、タリアが望んだことだったのだろう?余はそれを理解した。それに、あの魔導士との戦いで、お前が身を捨てて守ってくれたから皆、命を落とさずにすんだのだ。お前が魂を傷つけ、力を失ったのは我々のためだったのだ。感謝こそすれ……カリナ、いままで、あらゆることを、お前に背負わせてしまっていたのだな。本当にすまなかった」


その言葉に、カリナは涙を堪えきれず、ルチアーノの胸の中で静かに泣いた。


ルチアーノはカリナを抱いたまま静かに語りかけた。


「カリナ、余はハイランドで神の啓示を受けたのだ。タリアを救う方法だ。だが、それを実現するには、お前たち全員の力が必要なのだ」


「!!!」


その言葉にカリナは息を飲み、他の者たちも驚きで目を見開いた。


ルチアーノはみなの視線に小さく頷き、言葉を続けた。


「聖地でタリアを見つけた時に、余はその場でいつしか眠っていたのだ。その時に観た夢の中に、父上と母上が現れたのだ。余は二人にタリアを救けて欲しいと頼むと、二人はアリエラ様を呼びだしてくださり、共にタリアを救う方法を教えてくれるよう頼んでくれたのだ」


驚くべき話である。

そんなことがあるのだろうか、と思える話の内容であったがハイランドの奥の聖地は確かに、あらゆる儀式に適した地脈の流れと精霊の力が集まる極所であり、そこでアリエラの加護を受けた王家の者が夢乞いをしたのであれば、あるいはあってもおかしくはない出来事であるとソランは考えた。


「アリエラ様は、余に知恵と魔法を授けてくださった。タリアは救えるのだ」


カリナは目を潤ませながら声を上げた。

「そ、そんな方法があるのなら……!なんでも致します!この命に代えても!」


ルチアーノは優しく微笑み、彼女の両肩をしっかりと掴んだ。


「大丈夫、カリナの命は不要だ。もう、傷つかなくてもよいのだ。アリエラ様が教えてくれたのは危険な方法ではないのだ。だが、カリナ、お前がその中心であることは変わりない。それが上手くいくよう、みなの力を借りたい」


ルチアーノの言葉は力強く温かかった。


夢の中で、アリエラがルチアーノに伝えた方法――それは「人々の祈りを集め力にする魔法」だった。


その説明に、部屋にいる全員が聞き入った。

希望の光が、ルチアーノの声と共に広がっていくようだった。


その魔法には、人々が同じ時間に同じ願いを祈ることで生まれる無数の小さな力を、一つの塊にまとめあげる力があるというのだ。


それは、祈りの力が強ければ強いほど、そして多ければ多いほど、魔法の力は際限なく増大するという。

その集めた魔力を力の源としてカリナがタリアを救う浄化の魔法を使うのだ。


「国中の人々の祈りの力を魔力にするんだ」

ルチアーノは熱のこもった目で語った。


「たくさんの人の願いを集めて、余が魔法を使って魔力にしてカリナに渡す。カリナはその力を使って、タリアの封印を解く。その時の魔法は、カリナの魂の力ではなく、集められた人々の祈りの力が源となるため、カリナの魂に負担はかからないのだ」


この魔法は成功すれば無限の力を生み出す極めて強力な術であった。

だが、同時にそれは危険な魔法でもあった。

祈りが正しい目的ではないことに使われれば、神が悲しむ結果を招く恐れがあるからだ。


夢の中でアリエラは、この強力な祈りをこの件に限って使い、後世に伝承しないことを条件として、ルチアーノに授けてくれたのだ。


ルチアーノの言葉に、カリナの目には希望の光が宿った。

「みんなの祈りがあれば……本当に、タリアを救けることができるのね」


「そうだ、必ず成功させる」

ルチアーノの声は揺るぎなかった。

その言葉が、部屋の中にいる全員の心に勇気を灯した。


そこへいつもと同じ軽い調子で、ケニスが口を開いた。


「えーと、その、一つ一つの小さな祈りってやつは、具体的にどうするんですかね。それと、同じ時間にっていう部分も……具体的には?あれ、もしかして、わたくし何かまずいこと言いました?」


王族相手にも変わらない遠慮のなさに、場の空気がわずかに和らぐ。


「問題はそこなのだ」

ルチアーノが苦笑しながら肩をすくめた。


「どうすればいいか、まだちゃんと考えがまとまってないのだ」


その言葉を聞いて、ソランが静かに問いを投げかけた。

「祈りというのはどういう内容でもいいのでしょうか?」


ルチアーノはすぐに答えた。

「いや、それが、できればタリアを救うという目的にそった祈りが良いらしい。祈りがその目的に近ければ近いほど、魔法の力が強くなとアリエラ様はおっしゃっていた」


その説明に、カリナは考え込むように眉をひそめた。


「ということは、ただ祈るだけじゃなく、みんなに事情をわかってもらわないといけないわね……どうやって伝えればいいのかしら」


「……だったら、物語にしてみるのはどうかな?」

静かな会話の中、提案を口にしたのはキヴァだった。


「物語?」

ルチアーノが目を細め、問い返す。


「そう。タリアセレステ姫の物語だよ。彼女は、西の明星として生国ではとても有名だったんだろう?それから、王妃に仕えて、王子と王女を連れて城を逃げ出し、二人を育てて……それに、僕も助けてもらった。さらに、グンマ―で獣人から砦を守ったこともある……」


みなの強い真剣なまなざしが集まったことを感じ、控えめな性格のキヴァは少し照れたように微笑みながら言葉を続けた。


「僕が知っているだけでも、タリアの功績は本当にすごいものばかりだ。それをまとめて一つの物語にしたらどうかな。そして、石になって困ってるって物語にするんだ。それを国中に広めて、石になったタリアを救うために、タリアのためにみんなに祈ってもらえばいいんじゃないかなって思うんだ」


その提案に、ソランが勢いよく声を上げた。

「たしかに!タリア殿の人生は、物語として語るにふさわしいものです!まさに正攻法ですな、それは素晴らしい案ですよ!」


「みんなでタリアのことを思い出して、その物語を作りましょう!」

続けて賛同したのはソフィアだった。

「私には、子供の頃のタリアとの思い出がたくさんあるのよ。それを伝えることができるわ!」


「そういうことなら、私に任せて」

涙で赤くなった目をそっとこすりながら、カリナが胸に手を当てて強く宣言した。

「私にはタリアの魂の一部が宿っているの。だから、誰よりも深く、彼女のことを知っているわ。私が完全で完璧な物語を作るわ、絶対に」


彼女の言葉には、タリアへの深い愛と決意が込められていた。


「いつ、どうするとか、具体的な時期は決まっているの?」

冷静にケニスがルチアーノに問いかけた。


「実は決まっているのだ。占術官からも聞いているかもしれないが、しばらく先に日食があるのだ。王都で見られるのは数百年ぶりらしい。その時、太陽と月が重なって、昼間なのにあたりが真っ暗になるそうだ。その時が最適だとアリエラ様が教えてくれたのだ。太陽神の祈りと月の女神の魔法を合わせるには、その日のその時間が一番で、アリエラ様とセレネリア様がその時なら手助けできると」


「日食の日までは、もうあまり時間がないわ!急がないと!」

カリナが立ち上がり、気迫のこもった声をあげる。


その場の空気が一変した。

緊張感の中にも新たな希望が芽生えた。

彼らの顔には、これまでの十年で見たことのないような明るい表情が浮かんでいた。


その後、みなは話し合い、自分が何をすべきかを確認し合った。


「よし、それぞれの役割を果たそう。今がその時だ!」

ルチアーノの言葉に応じ、全員が希望を胸に部屋を飛び出していく。


ほどなくして、タリアセレステ・ブラッグマシュの半生を描いた物語が、カリナを主筆として急ぎまとめられた。


彼女らはあらゆる時間を犠牲にし、物語をあっという間に完成させたのだ。


それはみなの大きな愛情によって、タリアの功績と生き様を余すことなくどころか、過大ともいえる内容で伝える、読む者すべての心を揺さぶる大感動の物語として仕上がっていた。


「月の女神の星の姫 タリアセレステ その愛の物語」

完成した物語を読み、涙を流しながらルチアーノ王がこの題名と決めた。


――無論のこと、この派手な題名は、後日、タリア本人が知れば赤面して部屋に数日どころではなく数年は引きこもるほど恥ずかしいものだったが、王が涙を拭きながら自ら定めた、強い思いのこもった名前に異を唱える者などいるはずもなく、カリナもソランもみな「内容をよく表した素晴らしい題名だ、これでいこう」と同意し、世に広まることとなった。


完成した物語はいそぎ、大量に写本され、王家から各地の諸侯に配布され、さらに諸侯たちも王家からの指示を受け、自領内でさらに写本を重ねて行い、それを領国中に広めるよう命じた。


また、国中の吟遊詩人たちにも命令が下され、街の広場でも夜の酒場でもあらゆる場所で物語が語られるようになったし、六神殿も協力し、各地の神官たちによって国中の様々な場所で語られることとなった。


この物語にはカリナをはじめとする制作陣がタリアへの限りない愛情を注ぎ込んでいたため、事実からかなり誇張された表現が加えられていた。


程度でいうと、「あることないこと」を通り越し「あることないことないこと」といった割合である。


カリナの執念の力作は、これまで王国に無かった感動が感動を呼ぶ愛の物語として、義務や命令によるものではなく、自然な流れでまたたく間に国中へと広がっていったのだった。


物語は、最後、タリアセレステが守り育てた王子と王女が東西の大軍団を率い、王都を手中に収めていた悪の将軍とウニジェの地において決戦を行うその時に、卑劣にも王子たちの命を狙っていた悪の魔法使いを阻止すべくタリアセレステ姫は単身、戦いを挑み、相手に深手を負わせたものの、自らは石とされてしまい現在に至る、という切なく悲しい結末で終わる。


この物語によって、十年前の王都の決戦の裏にあった()()()()()を知った国中の人々は、タリアセレステ姫の献身と悲運に胸を痛め、深い悲しみを覚えたのだ。


この物語は瞬く間に大衆の心をつかみ、そこかしこで語られるようになった。


そして、頃や良しと見た王はついに、国家を挙げた大切な発令を行った。


「来る日に、数百年に一度、太陽神アリエラと月神セレネリアが天で会合する。その時、一部の地で昼の中に夜が生まれる。日月神の祝宴である。その時こそ、タリアセレステ姫の石化を解く唯一の機会である。国民すべてに告ぐ。姫の快癒を願い、祈りを捧げよ。昼の中に夜が生まれぬ場所においても、同様に祈りを行うよう命ずる。しかと祈りを行う者は、貴族・平民を問わず、来年の税を半分とする」


王の言葉に、王都の役人たちは腰を抜かしそうになった。

税収の大幅減少を思えば無理もない。


「陛下、それはさすがに……!」と何人かが訴え出たが、王は厳然とした口調で断言した。

「祈りは民からの最も尊い奉仕である。このような時こそ、民を励ますための恩典が必要なのだ。必ず実行するように」


その毅然とした態度に、誰も口を挟むことはできなかった。

タリア姫の快癒の祈りに全てを賭ける王の熱意は、国中に瞬く間に広がり、税の減免という前代未聞の大盤振る舞いの話題とともに、人々の間に物語がさらに広がっていったのだった。


その日が訪れた。


太陽が月に隠れ、王都を中心とした広い地域が薄暗い闇に包まれると、国中の民が善き王ルチアーノの願いに応じ、心を一つにして祈りを捧げた。


老いも若きも、みながそれぞれの神に、それぞれの場所でタリアセレステ姫がよくなるようにそれぞれの言葉で祈った。

タリアを知る者も知らぬ者も、物語に心を動かされた者も、税金半減を目当てに祈る者も、すべての人々がこの瞬間だけは、ただタリアセレステ姫のために祈りを捧げた。


その祈りは、大地を巡り、空を駆け、王国全土を覆う光となった。


そのとき、ルチアーノたちはハイランドの聖域にいた。


ルチアーノは太陽神アリエラから授かった秘伝の大魔法を執り行っていた。


太陽の光が届くすべての場所で捧げられるタリアへの祈りを、一つ残らず集め、魔力に変える大魔法である。


その魔力は天に昇り、月と太陽が重なったその中心へと吸い込まれ、黄金と銀の輝きが渦を巻きながらカリナのもとへ降り注ぐ準備を整えていた。


そして聖域の広場の中央のタリアの石像の傍らにカリナが立ち、静かで凛とした佇まいを見せていた。

ソラン大神官とソフィア大神官も、日月陣を張り、カリナを支えるべく祈りを捧げている。


また、手伝いに来てくれた神官達も知恵の塔の魔導士たちも、魔法陣を守るように力を注いでいた。


この地では、祈りの力と神々の導きが、一つの奇跡を生み出そうとしていた。


「来たわ」

カリナが呟いた。


空に渦巻く光が一層強さを増し、聖地の真上で力が凝縮されていく。

それは、祈りと神々の加護が生み出した奇跡の力であった。


その圧倒的な魔力の(ほとばし)りに、天も地も震え、空気がざわめくように音を立てる。

遥か遠くの空まで青白い光が広がり、大地を照らし始めていた。


(すごい……なんて力なの……これならきっと……これならば、タリア……!)


カリナの胸に希望が燃え上がる。


これまでに何度も失敗し、何度も挫けそうになった月天蒼光浄祓詠を完成させるのだ。

今度こそ――絶対に。


(タリア……!)


カリナは深く息を吸い、意を決して詠唱を始める。

この瞬間のために何度も練習し、血の滲むような努力を重ねてきた魔法の言葉を、これが最後だという覚悟で、一つ一つ丁寧に紡いでいく。


彼女の声は、次第に力強さを増し広場全体に響き渡った。

光が降り注ぐ中、カリナは一心に祈りを捧げる。


蒼き月よ

セレネリアの御名において

穢れし闇を浄化したまえ

天上の光よ

全ての呪いを断ち切り

邪なる束縛を解き放たん

地に潜みし悪しき影よ

神聖なる蒼光により

根より祓われよ

隠れ潜む邪悪な意志

闇の刻印呪縛の枷

いまここに

全て無に帰すべし

セレネリアよ

慈悲深き月の女神よ

我が祈りを聞き入れたまえ

その蒼き光をもって

清め祓い

愛しき子を救いたまえ

呪いを退け

悪しき力を滅ぼし邪の意を浄化し尽くせ――


月天蒼光浄祓詠


タリアに光が降り注ぎ、その神々しい青い輝きが聖地全体を包み込んだ。

光は隅々まで行き届き、次第にその輝きは強さを増し、まるで聖地そのものが命を得たかのように脈動していた。


ルチアーノが集めた無数の祈りの力が、美しい光の奔流となり、タリアの石像へと流れ込む。

それは圧倒的な希望と救済の光であった。


しかし、その圧倒的な力の奔流(ほんりゅう)にカリナは押し流されそうになった。

(いけない、強すぎる!支えきれない!!)


そこで助けに入ったのは日月陣に構えていたソランとソフィアであった。

彼らもまた命を懸け、日月二神に強く祈り願う。


太陽と月、光と影、陰と陽が入り混じり激しく明滅する光の大奔流に三人は全身全霊を込めて祈りを捧げた。


すると、大きな魔力は流れを整え、静かで美しく注がれるようになった。


(アリエラ様、セレネリア様、感謝いたします)

カリナは、今は、まるで隣に二神が立っていて助けてくれるかのように、その存在を確かに感じていた。


長い時間ではなかった。

月が太陽を覆い隠す、わずかな間の出来事だった。

その短い間に、すべての力がタリアへ注ぎ込まれた。


やがて、再び太陽がその姿を現し、温かな光が辺りを照らし出す。

その光はタリアを覆っていたすべての魔法と、邪悪な力を跡形もなく打ち消していた。


月天蒼光浄祓詠は成就したのだ。


「タリア!」


すぐにカリナが近寄る。

目の前には、倒れたタリアの姿があった。


それは、石化が解けた証であった。


タリアの石の体が解け、再び人の姿を取り戻したのだ。

静かな息遣いが聞こえる――彼女は生きていた。



「タリア! タリア!」


ルチアーノが、タリアをそっと抱きかかえた。


「大丈夫なのか?! 生きているのか?!」

ルチアーノの声には、焦りと切実な願いがにじんでいた。


カリナは彼女の胸に耳を当て、しばらくじっとしていたが、やがて小さく頷き、微笑んだ。

「大丈夫、心臓が動いてる……ちゃんと生きてる。史上最高の浄化の祈りよ、どんな悪いものも彼女の身体にはもう残っていないわ。本当に大丈夫、生きている……」


「そうか……そうか……!」

ルチアーノの目に喜びの光が宿る。


しかし、カリナの表情は少し険しくなった。

「でも、心臓が弱っているはずよ。影の手に掴まれていたから、まだ無理はさせられない。そっと扱わないと……」


「ああ、そっとだな。もちろんそっと運ぶ」

ルチアーノは慎重にタリアの姿勢を整え、その軽い体を支え直した。


「すぐに部屋に運びましょう。部屋を暖かくして、神官をつけて、薬師も呼びましょう。」

「その通りだ、すぐに手配しよう、すぐに」


ついに大切な家族を取り戻したルチアーノとカリナは、その命を何よりも大切に抱きしめた。

その表情には、喜びと安堵が浮かんでいた。


空はどこまでも澄み渡り、青空が広がる。

太陽は柔らかな温もりを地上へ降り注ぎ、二人を祝福するかのように輝いていた。

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