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第55話 王都

前王の息子であるルチアーノ王子が率いる東国諸侯の軍は、将軍派の『王の盾』エンド侯爵率いる精鋭との激戦を制し、さらに西へと軍を進めていた。


しかし、次なる行く手に立ちはだかったのはギーフの地であった。


そこには将軍派が築き上げた鉄壁の守城が待ち受けていた。


城壁を取り囲む深い壕、無数の見張り台、そして巧妙に設けられた伏兵の数々。

いかに勇猛果敢な東国兵であっても、この難攻不落の城塞を容易に突破することは叶わず、両軍は半年以上にも及ぶにらみ合いを続けていた。


そんな停滞に風穴を開けるような知らせが東国の陣営にもたらされた。


西の軍が、ついに動き出したというのだ。

西国諸侯たちは早々に将軍派への反抗の姿勢を示していたものの、長らく軍を統率する旗頭を欠き、まとまることができずにいた。


しかし、彼らの前に、前王の娘であり、ルチアーノ王子の妹であるカラディア王女が現れたのだ。


彼女はその優れた才覚と、王女としての凛とした佇まいで諸侯たちの心を掴み、旗頭として立ち上がると、王都へ向けて進軍を開始した。


カラディア王女の率いる軍は、たちまち将軍派の中央諸侯を蹴散らし、早くも王都へ迫る勢いを見せた。


その迅速かつ圧倒的な進撃は、ギーフでルチアーノ王子の軍に立ちはだかる将軍派の将兵にも影響を与えた。

背後を断たれる恐れには、いかに精鋭であろうと耐えきれず、ついに王都へ軍を引いたのだった。


こうして東西の両軍は進軍し、ついに王都近くで合流を果たした。


両軍の先頭に立つのは、互いを支え合い生き抜いてきた兄妹であった。


戦いの荒波に揉まれたその姿は、東西の兵士たちに希望を与えた。

兄妹が再会を果たし、両軍はその光景に息を呑んだ。


全軍の前で王子と王女は涙を流しながら無事を喜び合い、共に新たな戦いに挑む覚悟を確かめ合ったのだ。


強大な力は人を変える。

二人は、それぞれ東西の諸侯の旗頭として大きな軍を率いている。

このような状況では兄妹のうちどちらが王になるかを巡り、骨肉の争いが生じてもおかしくないのだ。


しかし、この兄妹にそんな心配は微塵もなかった。


幼いころに親を失い、東国の田舎で互いに支え合いながら飢えと寒さに耐え、必死に生き抜いてきた日々。

その日々は決して辛いだけではなかった。

そこには、愛と喜びも確かに存在していたのだ。

その年月が二人に与えた絆は、いかなる権力争いよりも深く固いものだった。

彼らの願いはただ一つ、親の敵を討ち、王となり、悪政に苦しむ民を救うことだけだった。

二人は手を取り合い、全軍の前で必ず勝つと神に誓いを捧げた。


戦いを終わらせる善なる王がやって来る。

その予感に東西の軍勢は士気を奮い立たせた。


そして、王都近くの平原にて、ついに運命の決戦が幕を開けた。


王子と王女が率いる十万の兵と、将軍自らが指揮する十二万の兵が激突する。

その戦いは早朝に始まり、地を揺るがす怒号と剣戟の音が響き渡った。


東西の連合軍は、勇猛で士気は高かったが遠征の疲労があった。

対して王都の軍は、知勇を備えた名将として知られた将軍自ら率いる精鋭を含めた、万全な補給を受けた疲れのない軍であった。


両軍は拮抗し、ともに退かず激しい戦いが続いた。


戦局が膠着する中、王子と王女は太陽に祈りを捧げた。


その祈りは王家の守護神である太陽神アリエラに届き、兵士たちは金色の光に包まれた。

光を浴びた兵士たちは尋常ならざる力を発揮し、将軍派の軍を徐々に押していった。


乱戦の中、ついに敵陣にほころびを見つけたルチアーノ王子はわずかな護衛と共に将軍の本隊へ突撃した。

王子を見つけた敵軍の魔導士は炎や稲妻を放ったが、カラディア王女が強力な守りの魔法を使い防いだ。


黄金色に光る聖騎士ルチアーノ王子と氷の魔法を操る魔法戦士であるブランクシェルム将軍は一騎打ちとなった。

息をのむ激しい攻防は、将軍が放った鋭い氷の波を、黄金の光で消し飛ばし、その衝撃の隙をついて、飛び込んだルチアーノ王子が将軍の胸に光の剣を差し込んだところで終わりを迎えた。


ついにブランクシェルム将軍は討ち取られたのだ。


その敗北を目の当たりにした王都の軍は総崩れとなり、王都の城門は、反将軍派の民衆によって内側から開かれた。


ルチアーノ王子の軍が王宮へ入ったとき、王位を簒奪していた将軍の息子と、その家族はすでに運命を共にしていた。王子にとって叔母にあたる、将軍の妻も毒を仰いで自裁していた。


将軍派に与していた中央諸侯は次々に兜を脱ぎ、剣を地に置いて降伏した。


王都は歓喜の声に包まれ、まるで暗い闇夜が終わり、希望の朝日が差し込んだかのようだった。


王子と諸侯、そして兵士たち、民衆たちは新たな未来の訪れを祝福し、大いなる祝宴が開かれた。




幾多の戦いを乗り越え、将軍派を打ち破った歓声が王都に響き渡り、街には喜びの光が溢れていたその中で、そんな中、カリナの胸は焦燥に苛まれていた。


――闇の魔導士が見つからないのだ。

祝福の波の中にあっても、彼女の心は穏やかではなかった。



その魔導士こそが、将軍をそそのかし、王を呪い、悪魔を呼び出そうとした張本人であり、この戦乱を引き起こした影の元凶である。

強い闇の力を手にした危険な存在だ。


カリナにはその存在を見逃している限り、勝利の歓声は偽りのように感じられた。

祝宴には加わらなかった。


侯爵から借りた兵を率い、王都の城や街の隅々をくまなく捜索した。


だが、そのどこにも魔導士の影はなかった。

捕らえた将軍派の幹部たちを片っ端から尋問しても、誰一人として魔導士の行方を知る者はいない。


「知らない」と繰り返すその言葉に、嘘を見つけることすらできなかった。


結局、闇の魔導士はどこにも見つからないまま、東西の軍は解散の時を迎えた。

戦乱を生き抜いた兵たちはそれぞれの国元へ戻り、一部の有力な諸侯だけが王都に留まり、ルチアーノ王子の戴冠式の準備を進めていた。


新王となるルチアーノを支えるため、東西の諸侯の中から選ばれた者たちが王宮に出仕することになった。


平和への第一歩が静かに踏み出され、未来に向けた国の体制づくりが進んでいく中、カリナの心はなお揺れ動いていた。


そんなある夜のことだった。


カリナはひどく悪い結果の予知夢を見た。

――それは現実と見紛うほどの鮮烈な光景だった。


強大な力を持つ悪魔が目覚め、兵を切り伏せ、民を貪り、国中を暗黒に染め上げていく。

悪魔の凄絶な姿が、彼女の心に焼き付いた。


目覚めた後も、その夢の鮮明さに現実との区別がつかず、彼女の体は震えていた。


翌朝、執務室でカリナがルチに夢の話をする前に、「急ぎ陛下にお会いしたい!」と告げる占術官や神官たちが大挙して押し寄せてきた。


彼らの口から出た言葉はほとんど同じだった。


「悪魔が復活する!」「危機が迫っている!」


それは星や月の知らせであり、神のお告げだという。

そしてその危険度は過去にない大災厄であるというのだ。


カリナの胸に暗い確信が芽生えた――闇の魔導士は確かに生き延びている。

しかし、一体どこに隠れているのだろうか。


王都から各地へと使者が送り出され、徹底した探索が行われたが、どれだけ探しても魔導士の行方を示す手掛かりは一切掴めなかった。


さらに、これほどの大災厄であるというのに、有力な占術官や高位の神官たちが問いかけても、星も月も神も精霊も、沈黙したままだった。


(隠れてるんだ。私たちが隠されていたように、彼も隠れている)


カリナは唇を噛み締めた。


(見つけることが出来なかった……だからこうなった。私のせいだわ)


そしてついに決意を固める。

(……ハイランドにいるタリアに会いに行くべき時だわ……)


即位の準備や領地の差配、諸侯の論行賞……多忙を極めるルチアーノ王子の負担をこれ以上増やさないため、彼女はひそかに王都を出ることを決めた。


その足取りは静かであったが、心の中には確固たる決意が燃え盛っていた。


(どんな結果になろうとも、それが私の望むものでなくとも……)

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