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第52話 塔の導師

翌日、タリアはヘレナに連れられて知恵の塔へと向かった。


塔を囲む防壁を越え少し歩き、いくつかある塔の中で最も奥の、最も高い塔へやってきた。


それはまるで空を突き刺すかのようにそびえ立ち、その威圧感にタリアは息を飲んだ。


塔に入るには許可が必要であったが、ヘレナが事前に連絡を取ってくれていたため、二人は屈強な見張りが立つ門を難なくくぐり抜けることができた。


塔の中は静寂に包まれており、(いにしえ)の知恵が染み込んだような重厚な空気が漂っていた。


「すぐ会ってくれるみたい……話が早くていいのだけど、ちょっと意外だわ」


ヘレナは、知恵の塔の高位の導師に面会を求めていたが、驚くべきことに、すぐに面会が許されたのだった。


「意外なのですか?」


「ええ。この塔に住む導師たちはみな偏屈…いえ、誇り高い人が多くて、魔導士でもないよそ者にすぐ会うなんて、あまりないことなのよ」


案内の従者についていくと、上へ上へと階段を上って、結局、最上階の部屋の前まで案内された。


「こちらです、いま、確認してまいりますのでしばらくお待ちください」


(タリア、私はいままでこんな奥まで通されたことはないわ)


小声でヘレナが(ささや)く。


すぐに従者が戻ってきて「導師がお待ちです。お入りください」と丁寧に言い、扉を開いた。


二人は少し緊張した様子で奥の部屋へと進んでいった。


奥の部屋は、荘厳でありながらもどこか暖かみがあり、重々しい書物と古びた巻物が所狭しと並んでいた。


そして、その部屋には二人の導師が待っていた。


テーブルの一番奥に年老いた導師が腰かけていて、もう一人のやや若い導師がその背後に立っていた。


「初めまして、ヘレナ大神官。そしてご無沙汰しております。タリア殿」


「ルカ様…!」


タリアは驚きと共に声を上げた。


手前に立っていた導師は、かつてタリアが侍女であった時、王宮の占術官として書庫にいたルカであった。


ルカは、タリアの顔を見て微笑む。


「タリア殿。無事で何よりです」


「ルカ様…なぜあなたがここに…」


「タリア殿、実は私は、ハイランドの導師で、王宮に潜り込んでいたのですよ」


「潜り込む?」


「ええ、そうです。すべては、悪魔を復活させようとする魔導士に対抗するために……」


奥の年老いた導師がゆっくりと口を開いた。


「ルカよ、まずは彼女たちに説明をしてやってくれぬか、知らぬことも多かろう」


ルカは頷くと、重々しく語り始めた。


「タリアセレステ姫、あなたが探しているのは我々と同じく、悪魔を召喚しようとしている魔導士ですよね」


「そうです……いるかどうか確証はありませんでしたが、いるはずだと……」


「その推測は正しいのです。その魔導士は、かつてハイランドにいた男で、禁書とされている古い魔導書を見つけ、それに魅入られてしまったのです。そして悪に手を染め、強力な闇の魔法の力を使い、悪魔を召喚しようと企てています。彼は将軍をそそのかし、互いに利用し合っています」


「王を呪い殺したのも、その魔導士ですよね……」


タリアは眉をひそめた。


「そう。そして彼は、将軍派が王子と王女を亡き者にするための反乱を起こしたときに、タリア殿、あなたの探知の魔法を無効化した張本人でもあります」


「やっぱり……」


「あなたの守りに業を煮やし、王を呪い殺すことをあきらめ、暴力で決着をつけることにしたのです」


「……では、では、あの事件は……」


「勘違いなさらないでください。もちろん、あなたのせいではありません。あなたは、その時々の最善を尽くしておりました。断じてあなたのせいではありません」


「……ですが」


「王の暗殺に失敗したそのあとは、東国の混乱を企て、エレニーフォリョー家の一人息子をも狙ったようでしたが、それもあなたに阻止されました」


「……」


「我々ハイランドの魔導士たちは、その男を止めるために王都に結界を張り巡らせたり、魔法が完成しないよう彼の妨害をしていたのです。しかし彼は、邪魔を排除するため、古い強力な闇の魔法を使い、我々に直接攻撃を仕掛けてきたため、何人もの仲間が命を失いました。我々は何年も対抗してきましたが、今では防戦一方となってしまっています……彼の力は増し続けているというのに」


年配の導師はタリアの方に目を向けた。


「じゃが、結局、今、どちらが有利で不利かは一目瞭然なのじゃ」


「どちらなのですか?」


導師はしわの寄った顔をわずかにほころばせた。


「もちろん、こちらじゃよ。タリアセレステ姫、あなたが王子と王女を守り通してくださったからじゃよ。

今や彼らは強力な加護を得てどんな呪いも効かないし、たくさんの強い味方を得ておる。もうすぐ彼らの軍が王都を包囲するじゃろう。我々はあなたに心から感謝しております」


ルカが続けた。


「現在、ルチアーノ王子の軍が東から攻め込んでいますし、間もなくカラディア王女の軍も西からやってくるでしょう」


タリアは驚いたように目を見開いた。


「どうしてそれがわかるのですか?」


「それは、今まで、あなたがそばにいた間、強い加護によって彼らを示す星が隠されて見えなかったのですが、あなたの力が失われた今では、二人の姿が星として強く輝いて見えるようになったのです。だから、星観(ほしみ)で見えるのです」


ルカは微笑みながら説明を続けた。


「二人とその周り星々の輝きは強く、いまやどんな星観の初心者でも必ずわかるほどです。もちろん、敵方の星観でも見えてしまいます。でも、もう、その星々の輝きは闇の呪いを跳ね返すほどに強くなっているので手出しできないのです」


年老いた導師が再び口を開いた。


「タリアセレステ姫、どうか共に力を合わせ、闇の魔導士の狙いを防いで欲しい。あなたの力が必要なのじゃ」


「……ですが……わ、わたしは」


「……わかっております。身の内にある星をカラディア王女に授けたのでしょう。わかっております。それでもあなたにはあなたが思っている以上の力があるのです。どうか、あなたの力を貸して欲しいのです」


年老いた導師は続けた。


「時が近づいているのじゃ。東西の軍が王都を攻めた時こそ、闇の魔導士の居場所を暴き、討つ絶好の機会となる。必ず隙を見せるじゃろう。そのために、我々はハイランドの中でも腕の立つ魔導士を集めて備えておるのじゃ。そして、タリアセレステ姫、あなたにもこの戦いに加わって欲しいのじゃ」




タリアは目を閉じ、深く呼吸を整えた後、ゆっくりと顔を上げた。


「……かしこまりました。喜んで協力させていただきます。私もあなたたちと共に戦います。王子と王女、そしてこの国の未来のために」


その答えにルカは満足げに頷き、ヘレナも安堵の表情を浮かべた。


「タリア殿、あなたがここにいてくれることがどれだけ心強いか……ありがとう」


「……実は、今日、私がここへ来たのは皆様に同じことをお願いしようと思っていたのです。私から……」


「タリア殿、申されますな。あなたはもう十分に力を尽くしてくださった。国を憂える気持ちはみな同じです」


「……感謝します……ルカ様」


タリアは静かに礼をした。

ヘレナも月の神殿だけではなく、他の神殿にも協力を依頼することを告げ、導師たちと共に誓いを新たにした。





闇の魔導士を討ち、悪魔の復活を阻止する。


ルチとカリナの軍がやって来るその時に。


彼らは早速、具体的な方法について話を始めた。

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