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第18話 秘密の授業

王家の守護神である太陽の神の大神殿から、王子の教師役として王宮に新たに派遣されたソラン神官は、古びたローブをまとい、()せこけた背中を丸め、貧相な見た目で現れた。


王宮の侍女や護衛の兵士たちは、ひと目で「頼りない神官」と落胆し、タリアもまた、期待を持てそうにないと感じた。


しかし、事前に行っていた、月詠(つくよみ)で得た答えは吉兆。

それも、タリアの感覚では、『とてもよい、是非やりなさい』と女神に告げられたような吉兆であったのだ。


タリアは感情をぐっとこらえ、自分の感覚ではなく月の女神の答えを信じ、しばらく様子を見ることにした。


王宮にあるルチとカリナの住まいとなっている東の塔にやってきたソラン神官は、遠目にはみすぼらしいという印象であったが、近づいてみた時の印象は、汚い、であった。


よくまぁ、この格好で城の奥まで入ってこれたものである。

古びたローブは汚れ、靴はなんだかわからない布で巻かれており、ぼさぼさの髪の毛はひどいものである。

とはいえ、タリアは幼いころに森や山で訓練をしたことがあったので汚いという点については平気であったのだが。


それにしても、これがルチアーノ王太子の教育係とは!と、味方は悲しみ、敵は喜ぶに違いない。


こうしている今も、衛兵たちは、「こいつをこのまま通すんですか」というような視線をタリアに投げかけてくる。

ちらちらと何度も。


もちろん、王太子筆頭侍女であるタリアが許可を出したから、ここまで来ているのだ。


この初めての授業の日、東の塔のにある教室として整えている部屋で、ソラン神官はルチと向き合った。


良家の子女である他の侍女たちは、遠くから見るとみすぼらしいと感じたソラン神官が、近づくと汚かっただけでなく、同じ部屋に入ると、実は臭いもちょっと匂うことに気づいてしまった。


授業での王子の近侍を(つら)そうにしたので、タリアは思い切って、自分以外の侍女を遠ざけ、他の仕事を命じて、自分だけがそばにいるようにした。


結局、その部屋は外で扉を守る衛兵を除けば、ソラン神官とルチ、タリアの三人だけとなった。


そんな周囲の様子を気にもかけない様子で、タリアが傍らで見守る中、ソラン神官は静かに教えを始めた。


「太陽神アリエラ様は、光を持って私たちを照らし、進むべき道を示してくださるのです」


最初、低くて聞きづらいと思われたソラン神官の声は、授業が始まったとたんに、その柔らかで低く響く声の響きが不思議と心地よく聞こえた。


思わず聞き入ってしまう実に良い声だ。

ルチを見ると、自然と姿勢を正し、耳を傾けていた。


また、太陽神のソラン神官の話す内容は、もちろん太陽の女神にまつわる話である。

それらはよく選んであり、簡素でありながらも、核心を突く深いものであった。


月の女神の神官であるソフィア先生がタリアに教えた話に似ているものもあったし、似ていないものもあった。

同じ事柄も、神様によって見方が違うので、実に興味深かったし、単純にソラン神官の話すことが面白く、気づけば夢中になっていた。


タリアでさえそうなのだから、ルチはもっとである。


初めての授業でルチたちの心をつかんだソラン神官は、それから何度もやってきた。

そのたび、衛兵や侍女は嫌な顔をしたが、ソラン神官はそんなことをまるで気にかける様子もなく、淡々と教えを続けた。


ソラン神官は、神様の教えをルチにわかりやすく簡単に、覚えやすく面白く、楽しく悲しく辛く喜びのある物語として語った。


あまりにも楽しいのでルチは、ソラン神官が授業にやって来ることを何よりも楽しみにするようになっていった。


「アリエラ様の光には、真実と勇気が宿っています。その光に向かう者には、恐れず前に進む力が与えられるのですよ」


物語の中に、ルチに覚えて欲しいことを巧みに織り込んでいて、そういった言葉はルチの心に真っ直ぐ届き、タリアもまた、ソラン神官の見た目とは裏腹な、その教えの奥深さに舌を巻く思いだった。


「先生、ぼくもアリエラ様みたいに、みんなを守れるかな?」


幼いながらも真剣な問いに、ソランは少し微笑んでから静かに答えた。

「もちろんです、ルチ。アリエラ様の教えに耳を傾け、勇気を持ち続ける限り、その力はあなたの中で必ず花開くでしょう」


その言葉に、ルチの表情は自信と希望に満ち、タリアはルチの成長を感じずにはいられなかった。


授業が進む中、ふいにカリナ王女がちょこちょこと部屋に入ってきた。

彼女は兄やタリアと一緒にいたい気持ちが抑えきれず、小さな花を摘んで嬉しそうに握りしめていた。


「にぃに、おはな!」

二歳のカリナが愛らしい声で叫び、ルチに差し出す。

ルチは驚きながらも嬉しそうにその花を受け取り、ソランもそれを微笑ましげに見守った。


カリナの無邪気な行動が場を和ませ、兄妹の愛情が伝わってくるようだった。


「カリナ、おまえも一緒にお話がをきこう。先生、いいですよね」

ルチが優しく声をかけると、カリナは大きく頷き、素直に部屋の隅に座って兄の様子を見守っていた。


ソラン神官が話を始めると、カリナはその低い声に魅了されたのか、おとなしく聞き入った。

内容が理解できているというわけではないと思うのだが、とにかく聞き入っている様子であった。


それからソラン神官の授業の時はカリナも一緒にやってきて、おとなしく授業を聞いたり、タリアの膝の上にのって寝るようになった。


授業が進むにつれ、ソランはさらに本格的な教えを伝え始めた。


ある日、彼は「今後の授業は、侍女や護衛の兵士たちには離れていただきたい」とタリアに告げた。

これから行う教えには特別なものであり、他の者がいると集中できない、という理由だった。


そこにはもちろんタリアも含まれる。


元から、ソラン神官の個人的な魅力のせいで、侍女は近寄らず、衛兵も遠くから監視するにとどまっているので、何をいまさらという感があったが、要するにタリアにあっち行っといてくれ、というようなことであろう。


(わたしに聞かれたくない何かがあるのか、それとも……)


タリアは思わずソランの顔を見つめた。


王子に何か危険なことをさせるつもりなのかと不安がよぎったが、これまでのソランの穏やかで誠実な態度に信頼を感じていたので、結局はその要望を聞き入れることにした。


そもそもにして、タリアには聞き耳の魔法があるので、心配などしていたかったのだ。


実際に、部屋の中でソラン神官とルチの二人だけの授業が始まると、さっそくタリアは魔法を使った。

すると、驚いたことに、聞き耳の魔法がはじき返されてしまい、効いていないのだ。


何らかの結界魔法がなされているようだ。

だとすれば、それは間違いなくソラン神官が行っていることであろう。


(なにいいいいいいいい!!そうきたかあああああ!)

魔法を使えるのは自分だけではないと注意してきたつもりではあるが、こうしてやられてみると実に腹立たしいし、不安である。


結界の中での最初の授業が終わるまでタリアはやきもきしつつ待っていたのだが、授業が終わり、部屋から出てくる二人は、以前よりも仲が良いように見え、ルチは何か自信を深めたような顔に見えた。


あとで、タリアがルチに、何を教わったのか聞いても、『男の約束』といって教えてくれなかった。


ただ、その答えはしばらくしてからわかるようになった。


夜になり、タリアがいつものように悪を探知する魔法や、聞き耳の魔法を使ってルチの寝室の周りに異変が無いか調べていると、ルチの部屋の中を調べることが出来なかったのだ。


(小さな魔法の結界だ!でもなぜ?どうやって?)


そこには、部屋の中にルチがいて、部屋の外は衛兵が二人と、寝ずの番の侍女が一人のはず。

カリナは、二人同時に暗殺されることを避けるため、別の部屋で寝ている。


そこに魔法の結界を張る者がいるとすれば、それもちろんルチだろう。

彼は結界を張る魔法を習得したのだ。

夜になり、それを行ったのだろう。


ルチが結界の魔法を使った目的がわからないので、タリアは聞き耳や魔法を探す魔法を使ってしばら様子を探っていたが、どうやらルチは小さな結界を何度も繰り返し張っているようだ。


(これは、練習ね。私もよくやったわ。なるほどね……)


ソラン神官はルチに神の教えだけでなく、魔法の伝授も行ったのだ。

それも、誰にも知られぬよう、ひそかに。


結局のところ、太陽の女神アリエラ・カリステアは、タリアの願いに応えてくれたということなのだろう。


(お礼に行かなきゃね)


タリアは近いうちに、太陽神の大神殿にお参りにいくことを決めた。

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