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森の少女

「はぁ……。相変わらず結界を抜けて転移してきたのね、ユーガ」


家の中から現れたのは、私よりも小柄な体型の少女だった。


黒の長髪はサイドテールに束ねられていて、その毛先だけが虹色に染まっている。


私と同じ極彩色の瞳は、私と違って全てを見透かすような気配を纏っていて、どこか神秘的だ。


「セーフェの結界の判定が緩いからだろう?」


「緩くないわよ!いくら加護持ちでも(あたし)以上の技量が必要なんだから!」


「前回教えてくれたが、『害意や悪意、独善的な善意を持つものを、その濃度に比例して弾き出す結界』だったよな?なら、その条件に当てはまらない俺たちは普通に入れるんじゃないのか?」


「基本的にはそうね。でも問題はそこじゃなくて、結界の中に直接転移魔術の《門》を繋げている事よ。この結界はそもそも外部からの魔術的干渉を弾くし、力尽くでは破れない。加護持ちとはいえ(あたし)と違う系統なのに干渉出来ている事がおかしいのだけれど……」


お父さまと話していた少女は「はぁ……」と再び溜息を吐いた後、くるりと私の方を見た。


「まぁ、ユーガの謎は今はいいわ。それより、何か用事があって来たんでしょう?子どもを連れて来たって事は、その子を見て欲しいって事かしら」


「そうだな。教会でアイリの才能が【絵描き】だと分かったんだが、詳細を知りたくてな」


それを聞いた少女はそのまま私を観察する。隅から隅まで見られているのでちょっと恥ずかしい、と思ったその瞬間、目が合った。心の内を覗かれているような感覚。深いところまで見通すそのその視線は、底へ底へと進んでいき──


「──うん、なるほどね」


はっ、として意識が戻る。どれくらい経ったのか分からないが、意識を飛ばしていたみたいだ。……いや、一瞬だったんだろう。周りの景色も、両親の位置も、空の色も変わってはいなかったから。


「何か分かったのか?」


「そうね。この子の才能がどんな力なのかは」


その言葉を聞いた私は、手に力が籠るのを感じた。ここで私の人生の進むべき道が決まる、そんな予感がした。


「アイリ……でいいかしら?まず、貴女に普通の魔術の才能は無いわ」


「【絵描き】というのは力の性質をギフトの内に当てはめただけ」


「貴女が持っているのは『()()()()()』。魔術式も使わず、魔法陣も介さず、想像一つで事象を塗り替える力。まあ、まだ未熟みたいだけど」


情報の洪水に押し流されそうになりながらも、何とか理解しようとする。普通の魔術の才能が無いという事は、大体の魔術が普通には使えないという事だ。まあ、それは何となく分かっていたけれど、こうやって言葉にされると落ち込む。


だけど次の言葉に、私は耳を疑った。魔法の才能って何?魔術式も魔法陣も関係ない?それってただの御伽話(おとぎばなし)じゃなかったの!?


あ、いや、竜とか神さまくらいならそういう事も出来るかもしれないけど。私は普通の人間だよ?自分にそんな才能があるとは思えなかった。


「あれ、二人は驚かないのね」


そう言った少女の視線はいつの間にか両親に向いていた。


「何かはあると思っていたからな」とお父さま。


「そうね、何も無いとはどうしても思えなかったわ」とはお母さま。


「まあ、二人なら何かあるのは分かるわよね……。(あたし)でも髪の色が真っ白な人間なんて初めて見た程だし。むしろ何も無いって考える方がおかしいと思うわ」


「……そう、なんですか?」


「ええ、そもそも貴女ほど魔力があって魔術以外の才能が出るなら、その才能がよっぽどなのか、魔力制御の才能が無いかのどちらかだと思うでしょうし」


こうしている間も魔力をちゃんと制御しながら会話をしているからか、私が魔力制御が苦手な訳じゃないことは分かっているらしい。


「それはそれとしてユーガ、メイ」


彼女は再び視線を両親に向けて、二人の名前を呼ぶ。


「この()(あたし)頂戴(ちょうだい)?」


「……はい?」


え、頂戴って、私を?


「いくらセーフェでも、それは出来ないな」


アイリ()を貰いたいなら、相応の覚悟を見せてもらわないとね?」


お父さまとお母さまが()()()()で少女に言い放つ。その圧にも動揺せずに、彼女は言葉を返した。




「あー、言い方が悪かったわね。要するに(あたし)の弟子にならないか、ってことよ」



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