才能は【絵描き】
「【絵描き】ですね」
「え、かき……?」
【絵描き】って、あの絵描きだよね……?一瞬、何の才能かと思ってフリーズしてしまった。
絵描き。絵を描く人。……魔術との関連性が見つからない。いや、魔術式は『描く』と言うけれど。魔術式を描く事は何百回どころかもっとやっているので、多分違う。
なら、何だろう。魔術式を描くのに筆を使わないといけない、とか?
何もない空中では無くキャンバスに絵の具で描き込みをしないと発動しない、とか。
…………。
本当は分かっている。この『鑑定の儀』では、魔術が得意でない人か魔術よりも他の才能がある人は、魔術関連ではない才能のことが表示されるからだ。
【絵描き】とは本当にただの絵描きで、魔術とは何ら関連は無い。
でも、その事を理解していても、納得は出来なかった。受け入れてしまえば絶望に押しつぶされてしまいそうで。
それに、諦めないと約束したから。諦めてしまいたくなかったから。
手をきつく握ることで、溢れてしまいそうな感情を押し留めていると、後ろから抱きしめられて、頭を撫でられた。
「大丈夫。まだ何も終わっていないわ」
「そうだな。それに、解決のアテがないわけでもない」
両親に優しく励まされて、少しだけ元気が戻ったような気がする。現実が変わらなくても可能性を見出してくれる事が嬉しくて、口元に笑みが浮かぶ。
「微笑ましいですね」
聖職者のお兄さんに言われて、顔が赤くなるのを感じる。見られないように下を向いていると、
「でも、どうして【絵描き】なんでしょう」
不意に、聖職者のお姉さんが呟いた。
「……どういう事ですか?」
「今まで、色々な人のギフトを見てきましたけど、絵描き、絵を描く才能がある人のギフトは【画家】や【美術家】くらいしか見たことがありませんから」
……そういえば、そうだね?絵を描く才能なら私も【画家】と表示されるのが正しいのか。才能の表示には上位互換とか下位互換とかそういうのは無かったはずだから【画家】と【絵描き】は別物?
【画家】は絵を描く人だけど、【絵描き】は【画家】では無い……?
なんか、こんがらがってきたかも。
とりあえず、まだ希望はある、のかな……。
聖職者の二人にお礼をしてから、見送られて教会を出る。
「さて、と」
教会を出てからすぐ、お父さまがそう言って転移魔術の門を開く。
「じゃあ……行くか!」
「……お父さま、どこに行くのですか?」
いきなり門を開いたお父さまに、思った事をそのまま言うと、その質問にはお母さまが答えた。
「多分、リデアスの森じゃないかしら。お父さんのアテって言ったらあの子だろうし」
「あの子?」
「アイリはまだ会った事なかったな。まあ、それは着いてからのお楽しみだ」
お母さまが最初に門を通り、次に私、最後にお父さまが通った後、その門は閉じられる。周りには見る限り緑が広がっているけど、私たちが居る場所は開けていて、一件だけ小さな家が建っていた。
木で作られたと思わしきその家は、よく見ると外装に魔術式が刻まれていて、その木材自体にもかなりの魔力が含まれているのが分かる。
その魔術式を見ている間に、お父さまが家の扉を叩いた。
「セーフェ、居るかー?俺だ。ユーガだ」
呼び掛けから少しして、中から小さな足音が響いてくる。扉が開いて出てきたのは、
「はぁ……。相変わらず結界を抜けて転移してきたのね、ユーガ」
私より背の低い少女だった。