鑑定の儀
一週間が過ぎ、『鑑定の儀』の当日。私は両親と共に、領内にある教会施設に来ていた。
記録に残っている中ではこの大陸最古の教会であり、世界最大の教会でもあるこの命煌教会は、創造神をはじめとした無数の神々を信仰している人たちの集まりだ。
長い歴史を持つこの教会だけど、私が知る限り腐敗はしていない。と言うのも、無理やり信仰を広げようとしたり、汚職に手を染めようとした者はその前に教皇その人が見つけて『お話』されるから、らしい。
両親の知り合いの聖職者さん曰く、「広めるのは良いが、信じるものは自由だからな。相手の信仰を蔑ろにしては、自らの信仰するものに見放されるだろうよ」と。
それは邪教呼ばわりしてくる他の一部宗教に対しても同じようで、理不尽な言い分で相手を陥れたり、行き過ぎた事を平気で行うような宗教には容赦しなかったり、例え信徒で無くても信仰を押し付けられそうになっている人を助けたり、その他慈善活動も積極的に行っているそうだ。
私の家では敬虔な信徒と言えるほど関わってはいないが、信じているということなら同じである。
まあ、それは置いておいて。
この世界では子供が十二歳になると【鑑定の儀】を行う。何故十二歳まで待つかというと、かつては生まれてすぐ【鑑定の儀】を行っていたけど、その結果が気に入らなかった親が森の中に赤ちゃんを捨てていったりする事態が多くあったからだという。
この話を聞いた時には、【鑑定の儀】を受ける年齢が改正されてて良かったと思った。そのままでも両親は守ってくれたとは思うけど、隙を見て捨てられていたり殺されていたりしたかもしれないからだ。
ただでさえ『色無し』と呼ばれているのに、もし判明した才能がわけが分からないものだったりしたら……。すぐにでも狙われていただろう。もちろん、悪い意味で。
両親の前に立って教会の中を歩いていく。清浄な気配が満ちている教会では、思わず背筋が伸びてしまう。少しして鑑定を行う部屋に着くと、男女の二人が待っていた。
「今日の鑑定の儀を担当する者です。よろしくお願いしますね」
「お願いしますっ」
「えっと、よろしくお願いします」
二人から挨拶されたので私も挨拶で返す。両親は小さく手を振りながら会釈をしていた。
「まずは現在の魔力量を計りましょう。この水晶板に手を近づけてください」
水晶で作られたらしい透明な板に手を翳す。すると室内を眩い光が覆った後、その板の上に魔力で出来た文字が浮かび上がった。
現れたのは一〇〇という数字。それを見た聖職者の二人が感嘆の声を上げる。両親も少し驚いた様子だった。
「凄い魔力量ですね。普通このくらいの歳の子だったら四〇か五〇、多くて八〇くらいなのに、平均を大きく超える一〇〇とは」
伝えられた言葉に、私は確信した。
私は姉や両親に指導され、魔力制御の腕前は満点と言われているし、魔術式を描き、魔法陣を展開することもちゃんと出来ている。それなのに現出する魔術効果は魔力を込めた量よりも数段以上低くなっていた。
この現象は特化型の魔術師に現れるものだと聞いたことがある。例えば家の上から二番目の双子の兄妹も光属性の特化型の魔術師だ。兄は攻性魔術、妹は治癒の魔術に特化していて、それ以外の魔術は効力が著しく下がる。
この法則に当てはめれば、私も何らかの魔術に特化していると考えるのが普通だろう。私が『色無し』でさえなければ……。
髪の色が得意な魔術の属性を表すこの世界で、私が知る限り白が表す属性はない。もしくは、未知の魔術に適性があるのかもしれないけど、どうやってそれを見つければ良いのだろう。
「次はギフトの鑑定ですね。今度はこちらの石板に触れてみてください」
聖職者のお姉さんにそう促されて、その石板に触れる。先程と同じように光が放たれると、石板から魔力が立ち上り、空中に文字を描いていく。
数秒後、そこに書かれていた文字がはっきりした。
その言葉は。
「【絵描き】ですね」