プロローグ
アイリ・ミルスフェノン。それが私の名前だ。お母さまの故郷の言葉で愛の理って書いてアイリと読むらしい。なんでも、こことは異なる世界の言語だとか。
私は『色無し』としてこの世界に生を受けた。この世界では髪の色で得意な魔術の属性が分かる為、髪の色が真っ新な雪のような白色である私はどの属性も得意では無い、と判断されたのだ。
得意な属性が多いほど髪の色に現れる。全ての属性魔術を使いこなす人の髪の色は黒く染まっているらしい。
実際、賢者であるお父さまも聖女であるお母さまも純粋な黒い髪を持っている。次代の賢者である一番上の姉も、髪の色は黒色だ。
二番目の双子の兄妹と一つ上の兄の場合、髪の色は黒でこそ無いもののもちろん白では無い。
私は兄弟姉妹の中で、いや、聞く限り世界で唯一白い髪を持つ人間なのだろう。他の家なら、問答無用で処分されていたかもしれない。
そんな私をここまで育ててくれた両親にはとても感謝している。おじ……先代当主とその周りの人物は私を疎んでいるようだし、両親に守られなければ、きっと私は今を生きてはいなかっただろう。
兄や姉とも悪い関係では無い。少なくとも、互いに気遣いをし合えるような仲ではある。
最も距離が近い一番上の姉とは魔術の話で盛り上がることも多々ある。やたらとスキンシップが多いのは疑問だけれど、悪い気分では無かったりする。
話を戻そう。『色無し』の私だが、魔術が使えないという訳では無い。両親が指導してくれているので魔力操作の基礎は修めているし、魔術式を用いて魔法陣を展開することも容易い。まあ、肝心の魔術の効果は薄いけど……。
やはり私は魔術を使用するのが苦手なのだろう。両親や姉達が応援してくれている以上諦めることはしないけど、どうしたら上達するのかが分からず、最近は行き詰まり気味になっている。
そのため私は、来週に迫った『鑑定の儀』に希望を見ている。
私の魔術が上達しないのは、もしかしたらそもそもの力の使い方が間違っている可能性もあったりするかもしれない、と。希望的観測ではあるものの、可能性が無い訳では無かった。
『鑑定の儀』とは、個人に備わっている力の在り方、ギフトと呼ばれる才能を調べる儀式だ。ギフトと言ってもその時に力を授かる訳では無く、元々持っているものを鑑定する。
だから、今は力の方向性だけでも知りたいのだ。そうすれば悩みが解決するかもしれないから。なんの解決にも至らなかったら泣くかもしれないけど。