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プロローグ

空を飛べない天使がいた。


黒い片翼(へんよく)の天使が。


天空の地で出会った彼女はとても(まばゆ)く、それは天使以外のなにものでもない。


僕はこの人の笑顔を見たい。


誰よりも近くにいたい。


心からそう思った。

天空の世界ヘメリア。


カーマンラインの近くにそれはある。


そこに住む天空人はみな白く美しい羽を持ち、その羽で空を飛び回り、助け合いながら争いのない平和な世界を生きていた。


しかし、いまから約三百年前に描かれた一冊の絵本によってその平和な世界は一変する。

まるでその絵本になぞらえるように。


『天魔と悪魔の復讐』


白く美しい羽を持ち、大空を飛びまわる天空人たちの住む世界。


この世界では白い羽が美しく黒い羽は穢らわしいものと考えられている。


少女リリスは黒い羽で生まれ、さらに、生まれつき羽が片方しかないため空を飛ぶことができない。


そのことがコンプレックスで引きこもっていた。


そんな彼女には白い羽を持つ幼馴染(おさななじみ)のアダムという人がいて、心優しき彼は彼女に美しい空を見せようと一緒に空を飛ぶ練習をする。


思うように飛べない彼女だったが、それでもアダムは諦めずに手を差し伸べ続けた。


そんな優しいアダムに想いを寄せていたリリスだが、空を飛べないことが引け目となりずっと気持ちを押し殺してきた。


この世界で空を飛べないものは落ちこぼれのレッテルを貼られる。


だから自分には彼とは釣り合わないと思っていた。


そんなリリスにはイヴという白く美しい羽を持つ見目麗しい親友がいた。


彼女もアダム同様、片翼であるリリスを決して見下したりはせず、彼女が空を飛ぶことを夢見ていた。


毎日のように三人ですごしているうちにリリスはアダムに気持ちを打ち明ける決意をする。


リリスの気持ちを知っていたイヴは、彼女がアダムと結ばれるよう応援すると約束してくれた。


それから数日が経ったある日、気持ちを打ち明けるためアダムのもとに向かったリリスはそこで衝撃的な光景を目にする。


応援すると約束してくれていたはずのイヴと愛し合うアダムの姿があった。


三人ですごした楽しい時間は一瞬にして暗闇の中に消えていった。


リリスは怒り狂い二人に復讐を誓う。


自らの命を削る代わりにどんな異性も誘惑し下僕(げぼく)にできると云われている悪魔の水『テンプテーション』を飲んで片翼の悪魔と化し、イヴの目の前でアダムを誘惑し多くの子を産んだあと、アダムに命令しイヴを地に突き堕とした。

その後アダムには命が尽きるまで下僕として使わせた。


時を同じくして、黒い羽を持って生まれた一人の少年がいた。


彼の家は代々黒い羽のため迫害を受けていたが、貧しいながらも家族仲良く暮らしていた。


数年前に病気で両親を亡くした彼は祖母に育てられることになった。


そんな祖母からはいつも羽の色で人を判断しないよう教えられていた。


「人は見た目よりも大切なものがある。その人の生き様や考え方、経験がその人を作る。それを忘れてはいけないよ」と。


その言葉を信じた彼はどんな見た目の人も差別しない心の綺麗な子に育っていった。


しかし、唯一の家族であった祖母が病気で亡くなると、事態は一変する。


祖母が亡くなる前、お守りである黒い十字架のネックレスを形見としてもらった。


孤児となった彼は施設に預けられると、そこで白い羽を持つものたちから毎日のようにいじめを受けるようになった。


ものを盗られたり黒い羽を()がれたりして見た目だけでなく心もボロボロになった。


しかし、祖母の形見である黒い十字架のネックレスだけは必死に守り続けた。


それでもいじめは悪化するばかりで、心が病んだ彼は地上に堕ちて自らの命を絶った。


それから数日後、全身真っ黒で黒い羽の生えた悪魔ディアボロスが突如天空の地に現れた。


そのディアボロスの羽はボロボロでとても見(すぼ)らしく、その姿はまるでいじめを受けていた少年にそっくりだった。


ディアボロスの首には偶然にもその少年と同じ黒い十字架のネックレスがかかっていて、それを天に(かざ)し『フェザースティール』と叫ぶと、明るかった空はみるみるうちに暗くなり、雲に覆われたと思ったら大量のカラスが現れ、少年のことをいじめていた子たちから羽を奪いはじめる。


いじめっ子たちの羽は見るに耐えないほどボロボロとなり、一人ずつ地上に堕としていくが、この力もリリスの力同様に自らの命を削るものだった。


白い羽を持つものたちを殲滅(せんめつ)するため、天魔リリスと悪魔ディアボロスは手を結び、多くの人々を殺害していくが、力を使いすぎた二人はその力によって身が削られ死を迎えることになった。


その絵本の内容は衝撃的で、良い意味でも悪い意味でも爆発的に広がったことで羽の色に対するレイシズムが生まれ、カラスやオオバンといった多くの黒い鳥が虐殺(ぎゃくさつ)されてしまった。


人々はこの事件を『齎悪(さいあく)』と呼ぶようになり、黒い羽を持つものを恐れ(しいた)げるようになった。


一部のエリアでは黒=悪魔を彷彿(ほうふつ)とさせるため、衣類や建築物など、ありとあらゆる黒いものを除外するものまで現れた。


天魔リリスは黒い羽を持つ片翼だったことから、以降生まれてくる黒い片翼の子は『天魔の子』と呼ばれるようになり、再び齎悪を呼び起こす存在として恐れられるようになった。


また、悪魔ディアボロスを生み出したのは地上人と考え、地上人は天空人から羽を奪い天空界を乗っ取ろうとしているという思想が広まった。


これらの思想は昔に比べてだいぶ和らいだが、それでも根強いレイシズムや固定概念は消えておらず、黒いもの=(けが)らわしいもの。地上人=略奪者(りゃくだつしゃ)と考えている人々は少なくない。

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