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プロローグ 人類選別


 普通に学校に行き、普通に働き、普通に結婚して子孫を残し、普通に老いて生涯を終える。

 現代を生きる人々にとってそれを『普通』と捉える事は難しい。

 また、普通が出来たとしてそれを幸せに感じる人もまた減っている。


 好きなことを仕事に出来るチャンスが広がる一方で、貧困の差も広がってしまう。


 何も成し得ぬままだらだらとフリーターをしている進藤ハヤトもまた、普通が出来ない人だった。


 「あーあ、今日で突然異世界ファンタジーみたいな国にならねえかな。そうなれば、敵をばったばったと倒して俺は大活躍。憧れのリンちゃんには告白され、順風満帆の生活が始まるんだ。剣を振ったり魔法の練習したりなんて、いくらでも努力するってのに」


 日曜昼間から動画サイトを見漁り、酒を飲みながら彼はそんなことをぼやいている。

 最近はあらゆるサイトで『人工島移住計画』という見出しの記事ばかり目に入ってくるが、完全ランダムの抽選に外れた彼には関係ない話だ。


 いつの日か頑張ることを諦めてしまってから、画面の向こうの成功者達に難癖を付けるぐらいが趣味。

 スマホの画面をスクロールしていると、人工島の記事に紛れて一つ報道局の公式生放送がされているのを見つけた。

 

 「緊急速報です。国内各所に突如、未確認の生物が暴れているのが確認されています。決して外出はせず、続報をお待ちください」


 「え、えっ? まじ? どんな生き物か調べてみるか…………なんだよこれ、SF映画かよ……」


 ハヤトはネットに挙げられているソレの写真を見つけると、思わず絶句してしまう。

 人の形に近いが、全身が黒い(とげ)の様な物に覆われており、フェイクじゃ無ければ地球に居て良い存在じゃない事だけは感覚で分かる。


 「まさか、な。最近よくフェイク動画作られてるし、最近の技術はすげえな! ははっ」


 強がっているのも束の間、ハヤトの住むアパートの窓から叫び声が聞こえた。

 叫び声の数は段々と増え、恐怖心から窓の外は見ずにカーテンを閉める。

 これは夢だ、夢なのだと強く思い込み酒をかっ食らう。


 次第に酔いは回り、現実逃避をしたまま眠りに落ちた。

 。

 。 

 。


 

 数時間が経ち、外も静かになっているのでハヤトは夢だったと確信し、夕飯を調達するためコンビニへと向かうことに。

 

 「なんか身体がだるいな……酒飲み過ぎたか」


 異変に気付いていない頭を擦り、外を歩いていると高校時代の同級生金島(かなしま)(りん)を見つけた。


 「よ、よう! リンちゃん久しぶりだな、元気してた?」


 「ハヤト……無事だったの? ってその頭!!」


 俯いてたリンは、ハヤトを見て頭にツッコミを入れる。

 彼の頭からは黒くて大きな角が一本飛び出しているのだ。しっかりとニュースを見ていれば、それが感染症だと分かる。

 

 「何じゃこれは! くっ、取れない……」


 「ニュース見てないの? 感染したら死ぬって言ってたよ」


 「怖いなその病気……でも俺生きてるんだが」


 「確かに。でももう人類は終わりだよ、私の家族も皆トゲトゲになって死んじゃったもん。あっという間過ぎて泣くことすら出来ないし、私も時間の問題かな」


 「大丈夫! 俺が守るよ」


 あははと苦笑されていたが、一旦共に行動することに。

 棘のある死体からは菌が漏れ出ていると報道され、リンは行く当てもなく家を飛び出してきた模様。

 外には人気(ひとけ)が一切なく、例の死体や棘の親玉すら見当たらない。


 無人のコンビニで食料と飲料を拝借し、より安全な建物を探していた所でソレに見つかった。

 


 高層ビルの屋上から地上に着地し、コンクリートの床は衝撃で穴が開く。

 人の倍は大きいソレはゆっくりと歩いて二人の前に立ち、品定めをする様な態度を取る。

 リンはあまりの存在感に足が動かなくなり、その場で硬直してしまう。


 「終わりだよ……私達は死ぬしかなくなった。まだやりたい事たくさんあったのにな」


 「この生き物、近くで見るとデカいな。まあいい、俺はリンちゃんを死なせないぞ」


 「ハヤト君って昔から楽観主義だよね……ああ、私から殺すみたい。さよなら」



 ソレの刺々(とげとげ)しい腕がリンの首に触れる寸前、腕は斬撃を浴び空中を舞っていた。

 声は出していないが、欠損した部分を押さえ苦しんでいる。


 「え……今のハヤト君がやったの?」


 「多分な! この角から何か出た」


 「何かって。ふふっ、あはは! ハヤト君が横に居たら死ぬのアホらしくなってきた」


 「だから死なせないって」


 苦しんでいたソレは姿勢を低くし、ハヤトに向かって突撃する。

 残った方の腕の形状を変え、刃物の様な形で斬り付ける。


 何故か攻撃は当たらず、ソレは両腕を失った。


 ハヤトが腕を振ると、振った先の物体は全て切れていく。

 次第にソレはバラバラに切り刻まれて生命活動を停止した。


 「はあ……余裕だぜ、俺つえーってやつだ。リンちゃん、もう安心……って、その角!」


 「……私も感染しちゃったみたい。よくこんな辛い状態で平気な顔してたね……私耐えれないかも」


 本来この感染症は、発症した時点で意識が飛ぶほどの眠気に襲われる。

 リンは(ひたい)から出た小さな角を触りながら地面に寝そべっていく。


 「諦めちゃダメだ! 俺が絶対守るから、何とか案を考えるから!」


 「わかったよ……でも少し疲れちゃったから休ませて。私もハヤト君みたいな……超パワーで……戦って見せるから。起きた時に居なくなってたり……しないで……ね」


 「……分かった、死んでも守るし居なくなったりしない。こいつら倒したら起こすから! あ、今の俺主人公っぽいかも、あはは」


 返事をしなくなったリンに話し終えてから後ろを振り返ると、さっき倒したのと同じ大きさの奴らが数十体ハヤトの方を見ている。

 棘で表情は見えないが、彼を嘲笑っているのだろう。

 この人数相手でも同じことが出来るか、と。


 「今まで何も頑張らず生きて来たんだ、好きな子守るくらい果たしてみようや俺。ある意味求めた異世界ファンタジーだぞ此処は」


 全身に力を込めたハヤトの姿は、もはやソレと見分けが付かなくなっていた。

 違うのは大きさと自我のみ。

 一斉に突撃してくるソレを一体、また一体と切り刻んでいく。

 能力を使えば使うほど自我が飛びそうになり、歯を食いしばって再び切り刻む。




 あれから何時間経っただろうか、ハヤトだった者は五百体居たソレを全て排除し、黒棘に全身を覆われた女性遺体を抱えて闇に消えていった。



 彼の中に残るのはソレを殺す意志に、抱えた遺体と交わした約束のみ。

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