『真説・電話』
プルルルルル…
夜中に鳴り出した電話の音に、藤田は目を覚ました。
時計を見ると、時刻は0時を少し回った辺り。眠たい目をこすりながら、彼は受話器を取り上げた。
「もしもし?」
受話器の向こうからは、不気味な息遣いが聞こえた。
藤田は怖くなって、電話を切ろうとしたが、その瞬間、相手の声が聞こえた。
「こんにちは、藤田さん。」
相手は、藤田の名前を知っていた。藤田は驚いたが、その声には、何か異様な感じがした。
「こんな夜中に、一体誰なんだ?」
「ふふふ。…あなたが知りたいのは、それだけですか?」
相手の声は、ますます不気味になっていく。藤田は怖くて、もう一度電話を切ろうとしたが、相手が続けた。
「どうぞどうぞ、電話をお切りください。しかし、電話を切れば、あなたの命のロウソクは消える事になりますが…」
相手の言葉に、藤田は背筋が凍った。何か、恐ろしいことが起こる予感がした。
藤田は悩んだ。嘘だと割り切り電話を切るか、それとも電話を続るのか?
そして、藤田は電話を続ける事を選んだ。
「電話を続ける。そうすれば、私の命のロウソクは消えずに済むんだな?」
藤田の問いに、相手はくぐもった笑い声で答えた。
「それは、あなたの決断次第です。では、おやすみなさい。」
電話が切れた。藤田は、何か不気味な感覚に襲われたが、もう一度寝ようとした。
時計を見ると、時刻は0時を少し回った辺り。
「ん?」
プルルルルル…
再び鳴り出した電話に、眠気が吹き飛ぶ。
藤田は迷ったが、どうしても電話を取らなければならないと思った。
「もしもし?」
受話器の向こうからは、不気味な息遣いが聞こえた。そして、先ほどと同じくらいの時間が経った後、相手の声が聞こえた。
「こんにちは、藤田さん。」
先ほどと同じ声だ。
「何がしたいんだ?」
藤田は怯えながらも、少し怒った声で言った。
「あ、2回目でしたか?なら、話が早いですね。」
「どういう意味だ?」
藤田は恐る恐る聞いた。
「あなたの目の前、時計のある台の上に、ある物が見えませんか?」
藤田は相手の言った方を見る。すると、時計のある台の上に、一本のロウソクが立っていた。
「そのロウソクが、あなたの命のロウソクです。あなたの命のロウソクは、私と話している間、燃え続け、少しずつ短くなっていきます。つまり、電話を切ったとしても、続けたとしても、あなたの命のロウソクは消えてしまうという訳です。」
その瞬間、藤田の頭の中は真っ暗になった。
そして、電話が切れた。
時計を見ると、時刻は0時を少し回った辺り。
「ん?さっき見た時と時間が変わっていない?いや、それどころか、私が電話の音で起きた時間と同じじゃないか!」
藤田は驚いていた。
プルルルルル…
3度目の電話が鳴り出す。藤田は受話器を取る。
「こんにちは、藤田さん。」
名前を呼ばれるのも3度目だ。
「また同じか!まるで時間が巻き戻っているようだなっ!」
藤田は怒鳴った。
「なるほど。あなたにとっては何度目かの電話という訳ですね。」
「どういう意味だ!」
「藤田さん、まさにあなたの言った通りです。この電話をあなたから切れば、あなたの命のロウソクが消える。この電話を切らずに、私と会話を続ければ、あなたの命のロウソクは燃え続け、短くなっていきます。そして、この電話をあなたからではなく、私から切ったその時は…私があなたに電話をかける前まで時間が巻き戻るんです。」
その時、藤田は、あることに気づいた。
「なら、今すぐ電話を切ってくれ!」
藤田の言葉に、受話器の向こうから返事はない。しかし、少し間を空けた後、相手はこう言った。
「まあ、良いでしょう。しかし…」
相手が言い終わる前に、電話が切れた。
「しかしとは、何だったんだ?」
藤田はひとりつぶやいた。
時計を見ると、時刻は0時を少し回った辺り。そして、台の上にあった命のロウソクも無くなっている。
プルルルルル…
藤田は、鳴り出した電話の受話器を取り上げなかった。
「時間は戻ったんだ。私が受話器を取り上げなければ済む話だ。」
藤田はそう言って、鳴り続ける電話の線を引き抜くと、布団へ潜り込んだ。
…そうして、翌朝。藤田は布団の中で冷たくなっていた。
電話の相手の声が聞こえる。
「確かに、私は時間は巻き戻ると言いましたが、命のロウソクの長さまで巻き戻るとは言いませんでしたよ。」
藤田の家の時計のある台の上には、溶けたロウソクの跡が残っていた…
終わり
読んで頂き、ありがとうございました。
感想、世間話などありましたらドンドン下さい。笑