おふだ
…どす黒い夕焼け空が、広がっている。
不気味で、何か良くない事が起きそうな…予感がする。
ああ…この手の予感は、よく当たるんだ。
…普段通りに錆だらけの階段を上り、自室ドアの前に立つ。
築35年、木造2階建て、5件並んだワンルームの…真ん中の部屋。
ああ…なにも、起きませんように。
…レトロなカギを差し込み、年季の入ったドアノブを回す。
木製の古ぼけたドアが、いつものように…ギィと音を鳴らす。
ああ…この部屋独特の、すえたニオイがする。
…靴3足分しかない玄関、薄暗いキッチン、ドアの閉まらないトイレ、小さすぎる浴室。
西側にあるベランダにしか窓がないので、日当たりも悪く…じめじめしている。
ああ…早く窓を開けて、空気を入れ替えねば。
…薄汚れたシューズを脱ぎ、穴あき靴下でキッチン兼廊下に一歩踏み込む。
フローリングが、ほんの少し…たわむ。
ああ…賃料が安いだけあって、あちこちボロが目立つ。
…みし、みし、みし、…ぱきっ、ぎぎっ。
歩くたびに…部屋のあちこちから音がする。
ああ…1階の人、いませんように。
…この部屋に住み始めて、1ヶ月。
両隣の部屋の住人も1階の住人も、いつもブツブツと何かを言っているのだが。
ああ…今日は静かなようだ、珍しい。
…極力そっと、足を運ぶよう心がけ。
カーテンの閉まった灯りのない部屋に、電気をつけようとした、その瞬間。
…かしゅっ。
足の裏に、おかしな、違和感が。
さふっ、くしゅ!
ぱふしゅ!
なんだ?…コレは一体何事だろう。
電気のひもを探して、闇に手を伸ばす。
…指先に触れた、小さなプラスチック玉を引く。
かこ、かこ…ぱ、ぱぱっ!
真っ白な光が…目を眩ませる。
思わず目を閉じ、ややあって足元に視線を向けると。
古ぼけたフローリングの上に散らばる、白い、なにか。
部屋の中一面に、あってはいけないものがびっしり…、びっしりと!
これは…、お ふ だ !
バイト先のうどん屋で貰って来た、期限切れ間近の焼き麩が散乱している。
しまった…、棚の上に置いといたら…落っこちたらしい。
ああ…セロハンの袋が破れている、新しいやつに入れ直さないと。
シミだらけのふすまを開け、買い置きのゴミ袋を一枚取り出す。
ああ…相変わらず、ここを開けると。
…ひらり、ぴらっ!
禍々しいお札が、何枚もはがれて落ちてくる。
毎度、律儀な事だ。
僕は、手早く茶色い紙切れたちを拾い集め、カラーボックスの横に押し込み。
部屋にとっ散らかっているお麩に、手を伸ばした。