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死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
9/18

#7 ようこそ執行局へ

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そうして僕は、秋宮の数歩先を行き、歩み始めた。


「あははっ。待ってよトオルくん。やっぱ君、せっかちでしょ」


そう言って、僕の後ろに続く秋宮。


そんな戯言を聞き流しつつ、僕たちは扉の前に立つ。


「じゃ、歯ァ食いしばってね」


「......ん?あぁ、分かった」


すると秋宮は残った左手を前に突き出し、なにやら呟き始めた。


「......汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ」


秋宮がそう唱えた刹那、<地獄の門>が妖しげな光を放つ。


あまりの眩しさに僕は思わず目を瞑ってしまった。


が。


「......あれ?」


目を開くと、そこに広がっていたのは。


「さぁ、紹介するよトオルくん。ここが俺ら死神の誇る最高権力、死立厚生執行局さ」


執行局という言葉、そして厳格な体裁からもう少し堅苦しい内装を想像していたが、中は思っていたよりもファンタズムに溢れていた。


初めて訪れたというのに、妙に胸が高鳴る。


例えるならデパートに来た時の感覚に近いのだろうか。


大広間を貫くような長い廊下には見たこともない風貌の死神が行き交い、その先には階段と階段が幾重にも重なっている。


というか天井高いな。


エレベーターらしきものが縦横無尽に飛び交っているのも頷ける。


そして、なによりも目に付くのが。


正面に堂々と佇む、見上げる程の壁掛け時計。


<地獄の門>を見ても思ったが、死神というのはサイズ感がバグっているのだろうか。


秒針だけでも、優に僕の身長を超えているだろう。なんなら秋宮より大きいんじゃないかあれ。


というか。


「いやいや待ってくれ秋宮。僕たち、さっきまで門の前に居たよな」


「うん、居たね」


「なのに何で目開けたら」


「え、ワープしたから」


いや、そんな淡々と言われても。


「え、僕はてっきり、あのどデカい門が開くのかと思ってちょっとワクワクしてたんだけど」


「あははっ。ダメだよトオルくん。あんな扉開けたら、世界が壊れちゃう」


......なんかさらっと凄い事言ってないかこの死神。


「世界が壊れるって、そりゃまたどういう」


「そのまんまの意味だよ。さっきも言ったでしょ、あの扉には罪人(ギルト)が封印されてるんだって。それも、とびきり凶悪な罪人(ギルト)がね。それにトオルくんは多分勘違いをしているから正しておくけど、別に扉自体に罪人(ギルト)が封印されてるんじゃないよ。封印されているのは、あの扉の()さ」


楽しそうに語る秋宮。


これこそ言葉の綾というか、叙述トリックというか。


つまりは扉に罪人(ギルト)が封印されているのではなく、罪人(ギルト)が扉によって封印されているといった感じか。


......小難しいなまったく。


「それにねトオルくん。さっき俺はワープしたって簡単に、簡略に説明したかもしれないけれどさ、死立厚生執行局、いわゆる局ってのはとっても複雑な造りになっててね。局っていうのは多重構造、それこそ螺旋階段のような造りになってるんだよ。次元と次元を歪曲に擦り合わせ、螺旋状に構築されているんだ。言うなら、()()を模している。様々な地獄と地獄を隣り合わせに、この局という存在は確立している。勿論、傍から見ればそうは見えないだろうけどね」


地獄。


簡単に言うが、それは本来、人類が最も恐れているもの。


地獄に堕ちたくないから、と善行を図る人だって少なくない。


それほどに地獄という言葉には、存在には重みがある。


そんな畏怖の象徴でもある地獄が、こんな平然と、人間の世界に設けられていていいのだろうか。


「はははっ、下らないこと考えてるでしょ。気にしたら負けだよトオルくん」


「いや、だってここは人間界だろ?地獄とかそういうのって大丈夫なのかよ」


「大丈夫大丈夫。そんな事言ったら死神が存在してる時点でアウトだし」


「まぁ......それもそうか」


相変わらず、面倒な事は適当にあしらうんだよなコイツ。


「さぁさぁ、色々思うところもあるだろうけど、こっちもこっちで一刻を争うからさ。さっさとやるべきことはやっちゃおうか」


そういって、靴音を鳴らしながら歩き始める秋宮。


仕方なく後ろをついていくと。


「おい、誰だ貴様」


酷く、冷たい声音が聞こえた。


声の主を確かめようと振り向くと。


「なッ!」


その先には刃先が向けられていた。


......また剣かよ、もう勘弁してくれ。


「見ない顔だ。侵入者か?罪人(ギルト)の手先か?」


僕に剣先を向け、そう言い放つ白髪(はくはつ)の死神。


髪は肩程までで、神々しく煌めいている。


また全体的に白い装束、そして眼鏡越しから伝わる冷淡な視線。


秋宮からは全く感じられなかった高貴な印象が、この死神からは見て取れる。


見た目からして男だろう。


というか、死神に性別ってあるのか?


「何か喋ったらどうだ。何の目的でここに来た」


「いやぁ、僕も一応死神......のはずなんですけど」


この死神、頭は良いのだろうが、大抵こういう奴は頭が固いのもセットらしい。


僕の返答に納得がいかないという顔で、彼は僕を睨みつける。


そして、再度僕に剣を向けた。


「二度は無いぞ。死神に嘘を付くという事が何を意味するのか、もう一度考えてから発言しろ」


こんなの、尋問みたいなものだ。


そして、僕が死神であることは変わらない以上、この尋問は終わらない。


なので、僕はこの状況を打破するべく、先方を行く秋宮に声を掛けた。


「ちょ、秋宮!助けて!」


全く僕のことなど気に掛けていなかったのだろう。


このの状況に今気付いたという顔をしている。


「何、トオルくん。ってあぁ、そういう事ね」


僕の意図が伝わったのか、秋宮は白髪の死神に向かって呼びかける。


「殺すのも良いけど、それはトオルくんが世界を救ってからにしてあげてくれるかい、(みお)ちゃん」


突然名前を呼ばれた事に驚いたのか、思わず剣を落としてしまう白髪の死神。


「なっ、秋宮!?ちゃん付けで呼ぶなと言っただろ!」


「はははっ、照れてる照れてる。かわいいなぁ」


「うるさい!死ね、絶対ここで殺す!」


罵詈雑言を言い放つ彼女とは相反してニコニコと笑う秋宮。


そうして踵を返し、正気を失い子供のように喋り出す彼女の頭に手を置いた。


「悪かったねトオルくん。俺の同僚が怖がらせちゃったみたいで」


「......いや、それはいいんだけどさ。その方、女性だったの?」


「あはははっ!そりゃ勿論さぁ!こんな可愛い子なんて他に居ないでしょ」


そういって秋宮は彼女の頭を撫でる。


「おい秋宮!頭をワシワシするな!」


こうやって秋宮に反抗する彼女の表情を見てみれば、まぁ確かに可愛くないこともない。


言われてみれば、顔の作りも繊細で、所々に艶っぽさを感じる。


そうか、そういうことか。


僕が彼女を男性と勘違いしてしまったのは単純に。


「......絶壁」


身体の線が男寄りだったからなのか。


「なっ、なんか言っただろお前!お前も秋宮もまとめて殺してやる!」


「ほらほら、後輩にみっともない姿見せないの澪ちゃん」


「......後輩?」


その言葉が気になったのか、ふと振り返り秋宮を見つめる彼女。


「そ、彼は今日から死神になった、れっきとした死神ビギナーだよ。だから、ちゃんと自己紹介してあげな。それとも澪ちゃんは、後輩を虐めるのが趣味なお局気取りなのかい?」


先ほどとは代わって真面目な口調で話す秋宮。


流石に効いたのか彼女は冷静さを取り戻し、一呼吸置いて口を開いた。


「......ん。先ほどは無礼を働き、悪かった。私の名前は水卜(みうら)(みお)。まぁ水卜でも澪でも好きに呼んでくれ。ただちゃん付けだけはやめろ。次に呼んだ奴は殺す」


鋭い目だった。完全に最後の方には殺気が籠っていた。


「は、はい。じゃあ水卜さんで。僕は藪坂、藪坂透です。秋宮から話聞いてるか分かりませんが、この前、一応死神になりました。まだわからない事ばかりですが、どうぞこれからよろしくお願いします」


「藪坂......知らない名だ。まぁいい、こちらこそよろしく頼む、後輩」


そういって握手を交わす。


秋宮以外の死神と話したのはこれが初めてだったが、出会いが出会いだったので別段緊張もしなかった。


こうして、先ずは秋宮の同僚に挨拶も済ませたところで、僕たちは本来の目的である局長の部屋へと向かうことにした。

読んで頂き、ありがとうございました。

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