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死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
7/18

#5 死神、はじめました!

改訂前より、大幅に内容が変わっています。ご容赦下さい。

「......知らない天井だ」


なんというか、そんな事も言いたくなる位。


阿鼻叫喚とか、めのまえがまっくらになったとか言っておいてアレなんだけど。


僕は目を覚ました。


強いて言うなら、右腕に走る不快な痛みに、目を覚まされたというか。


そんな訳で、僕は寝かされていたベッドから立ち上がり、辺りを見渡した。


「病院か?ここは。じゃあ僕はあの後、助かったのか?」


歩いて見る限り普通の病室で、だから僕も、何の違和感も覚えなかった。


しかしそこで。


僕は違和感を覚えないという、恐ろしい違和感に気が付いた。


......あれ、今僕、歩いてる?


恐る恐る下を見てみると、しっかりと脚が二本生えている。


「キャー!!!」


思わずか弱い少女のような声をあげてしまった。


触って確認してみるも、確かに触感を感じる。


「......僕の脚、なのか?」


戸惑いを隠せない僕に、背後から誰かが声を掛ける。


「おはようトオルくん、君は朝から騒がしいね」


僕を殺しかけた張本人、秋宮だった。


「お前、どういう事だよこれ!?僕はあの後、無事に助かったのか?」


必死に問い質すも、秋宮は渋い表情をする。


「......まぁ、助かったと言えば助かったのかなぁ?」


「何で疑問形なんだ。なぁ秋宮、この脚って僕の脚なのか?じゃあ、上半身と下半身は、無事にくっ付いたんだな!?」


「まぁまぁ落ち着いてって。トオルくんの問いに返すなら、その脚は君の脚という事で合ってはいるよ。でも正しく言うなら、くっ付いたというか......生えてきた?」


「生えてきた?別に僕はトカゲじゃないし、可愛い可愛いウーパールーパーでも無いし、何なら百分裂にされても復活する、プラナリアでも無いんだぞ」


「そうだね。さらに言うなら、()()でも、無いんだけど」


やけに含みのある言い方で、秋宮は返す。


「何をバカな事言ってるんだお前。僕は人間の両親の元に産まれた、地球生まれの地球人だ」


「......トオルくんもかなり動転してるね。まぁ、端的に言おうか」


そして、ひと時の静寂を跨ぎ、秋宮は僕に告げる。


「トオルくん、死神になっちゃったみたい」


......なっちゃったって何だよ。


正直、それ位しか感想が出てこないが、とにかく、秋宮の言葉を借りるなら。


僕は死神になっちゃったらしい。


「......っていやいや、死神!?僕が!?何で!?」


胸倉を掴み、質問攻めをする僕を、秋宮は気だるそうに引き剝がす。


「説明すると長くなるんだけど、これが答え」


そうして、袖の余った右腕を、ふらふらと横に振った。


「......お前。死神なら、腕くらい再生出来るんじゃないのか」


「ただ単に斬られたってだけならね。でも俺の腕は今、そこにある」


そうして、その袖を、こちらの右腕に向ける秋宮。


嫌な予感はしつつも、自らの右腕を確認すると。


ほんの少し、青白く変色している気がした。


それこそ、血色の悪い秋宮のような色合い。


思わず掌を握り込んでみると、僅かにだが痛みを感じる。


例えるのも難しいが、外部的な刺激というよりは、内部で何かに蝕まれているような、そんな不愉快な痛みだった。


「あんま動かさない方が良いと思うよ」


「......なぁ秋宮、説明しろよ」


そして、神妙な面持ちで、秋宮は語り出す。


「俺にだって全部分かる訳じゃない。だけどまぁ、あの時、トオルくんは完全に死んでいた。俺はトオルくんを殺してしまった。意図せずして、俺の右腕がね。やっちゃったと思ったさ。死神が人を殺すのは、今の日本じゃあ重罪だからね。......死神が人を殺して咎められる世界ってのも可笑しい気がするけど。それはいいとして、トオルくんは死んだ。確実に、人間としての死を迎えた。それと同じくして、君はその瞬間、死神と化した。......何でって聞かれても、俺にだって分からないさ。強いて言うなら、トオルくんの中の何かが、俺の右腕と適合しちゃったのかな。だから、俺の右腕も再生できない。変な言い方だけど、俺の右腕は、別の持ち主を見つけたって感じがするね、困ったもんさ。なんたって、()()()()を、トオルくんは奪ったんだからね。そして、医療班が到着する頃には、トオルくんの身体は完全に再生していた。勿論病院に搬送されて、色んな検査もしたんだけどね。何の異常も無かったよ。むしろ、異常がない事が異常というか、それこそ死神にとっては正常というか。......駄弁が過ぎたね。つまるところ、トオルくんが求めている解を、俺は持ち合わせていないんだ。だから、それでも君に言葉を掛けるとするなら、ようこそ、とか。それこそ、ごめんなさい、とかしか言ってあげられない」


そうして、情報量に脳を嬲られ、謝罪と歓迎を受けた僕であったが、未だ納得は出来ていない。


「過ぎた事は良いとしても、いや、良くは無いんだけどな?僕はこれから、どうしたらいいんだよ」


「こんな事初めてだからさ、局長にも連絡してみたんだ。そしたら、トオルくんに興味があるみたいで。是非、断罪担当にどうかって局長が言ってたよ」


「局ってあの死立厚生局の事か?局長ってそこの一番のお偉いさんって事か?」


「うん」


「え、普通に嫌なんだけど」


「ちなみに、断られた場合殺せって言われた」


「勿論やるよ。え、罪人(ギルト)とか全然ぶっ殺すし?」


......もう何でもいい。


夢の延長線上のようなこの状況だ。


乗り掛かった舟、なんて言ったら癪だが、今更引くに引けないのも事実である。


「一応伝えておくけど、トオルくんが望むなら、俺は君をどこか遠くの、それこそ秘境のような場所に逃がしてあげる事も出来るんだ。だから、局長云々は置いといて、君の意志を聞こうか。きっかけこそアレだけど、それでも死神として生きるのか。いや、死神として死ぬ覚悟が、トオルくんにはあるのか」


死神だの、断罪担当だの、よく分からないけど。


死神になっても不幸体質は変わっていないようで、少し安心した僕が居た。


「......ここで逃げるなんて、それこそ卑怯ってやつだろ。僕はお前を許してなんかいない。けれど、感謝が無い訳でも無いんだ。それこそ、一度はお前に救ってもらった命だしな。なぁ秋宮、またああやって、世界のどこかで命が失われようとして、それを僕が救えるのなら、めっちゃ、格好いいと思わないか?」


「それこそ、ヒーローだよね」


「違うよ、英雄なんかじゃない。だって僕は、死神だから」


こうして、僕は自らを死神と名乗る。


そして、今後待ち受ける困難と、更なる出会いに期待を込めて。


死神、はじめました!


そう叫んでやってもいいくらいに、ハイになっていた。

読んで頂き、ありがとうございました。

次回から第二部になります。


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