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死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
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#4 烈火傷葬

誤字脱字の報告お願いします。

「まァ、まだまだ俺ァ斬り足りねェンだけどなァ」


剣崎は、そう呟きながら刃先を、地面に転がる肉塊の喉元へと向ける。


そして、力一杯に振りかぶり、刃先を狙いへと落そうとする。


だがその刹那。


一陣の風が吹いた。


生温いようで乾燥した、不自然で不気味な風。


そして、声は昏夜に囁かれた。


「見ーつけた。はは」


酷く乾いた声音で笑う、不気味な黒装束。


喪服のような格好に、背中に携えた大鉈。


そのアンバランスさが、一層薄気味悪さを醸し出している。


「......断罪担当かァ?」


突然の来訪に動揺する剣崎だったが、それに構いもせず、黒装束はこちらへと歩みを寄せてくる。


「痛そ」


地に転がった上半身を見てそう呟き、今度は僕の頬に手を添えた。


......なんだこいつの手。


それは、まるで母親の胎内のような温かさ。


そして、触れられた部分を中心として、止まりかけていた血液が再び、流れ出す。


「かはッ、ゴホッ」


予期せぬ身体の再起動に、思わず咳込んでしまう。


「あ、生きてんだ」


......なんだコイツ。


こっちは下半身無くなっちゃって超重傷なんですけど。


傍から見たらテケテケみたいになっちゃってるんですけど。


というか。


「...うし...ろ」


消え入りそうな声で、僕はこの黒装束に呼びかける。


「はぇ?」


「いつまで後ろ向いてンだァ!!!」


僕に寄り添っていたこの黒装束の背後には、僕を刻んだ張本人である剣崎が、腕を構えて立っていた。


そして、先程僕を刻んだように、黒装束目掛けて刃を落とそうとする。


「...焦んなって。今相手してやるからさぁ」


そう言って背中の大鉈を構え、剣崎の刃先を目掛けて振るう。


鋭い金属音が鳴り響き、剣崎は一歩後ろによろめいた。


「大体さぁ、困るんだよねぇ脱獄とかされちゃうと。ほら、こっちにも信用問題とかあるし?」


「ハナっから、人間はァお前ら死神を信用なンかしてねェだろォがァ!」


「人間じゃないやつに言われても、それこそ信用なんてないよねぇ。はは」


傍目で見る限り、互角。


いや、それ以上なのか?


大鉈を振るう死神は、ケラケラと薄笑いを浮かべるばかりで未だ実力が見えてこない。


「......俺ァ殺すぜェ。これからも沢ッ山の男を、女を、餓鬼も老骨もだァ。まだまだ俺ァ斬り足りねェ」


煽る剣崎の言葉に、死神は表情を一つとして変えない。


「斬り足りない、か。奇しくも同意見だね」


そう言いながら大鉈の刃先を掌で撫でる。


すると、先程まで無機質に反照していた大鉈が一転して、炎に包まれた。


その炎は、紅いと称すよりは、赤いとナチュラルに表現する方が適しているような、そんな赤さをした、無邪気な炎だった。


さらに、死神は続く。


「断罪担当、秋宮紅葉(ときみやくれは)が命じる。お前を今から、断罪する」


そう呟くと共に、辺りの温度が急激に上昇した。


「......面白ェ」


炎を見て焦りを感じたのか、剣崎は不意打ち気味に攻撃を仕掛ける。


しかし、もう一度大鉈を見つめては、刃先を撫でて。


「揺蕩うは灼熱。死術(しじゅつ)......<炎>」


どこか郷愁のある、そんな声で。


「<百八燈(ひゃくはちとう)>」


秋宮は剣崎をほんの一回、斬り付けた。


「あァ゛ッ!?ア゛ァァァァァァ!!!」


たった一度の斬撃。


しかしながら、剣崎の身体は確実に切り刻まれ、そこら中から血を噴き出していた。


血潮が飛び散り、ようやく太刀筋が消える。


するとそこには、無数の傷跡を纏った、見るも無残な剣崎の姿があった。


「......へぇ」


「......はァ......はァ。痛ェぞ、痛ェ、糞痛ェ!!!」


「そりゃ痛いさ。それが君の、(カルマ)なんだから。人を殺めた数だけ、俺の鉈は罪人(ギルト)を刻む」


「......お前は八つ裂きじゃァ済まさねェ。四肢捥いで達磨にでもしてやるかァ」


傷だらけの身体を動かし、叫ぶようにして罪生を繰り出す剣崎。


「罪生......<踊る鮮血>!!!」


その瞬間、秋宮の右腕が吹っ飛んだ。


「......あれ、避けたはずなんだけど」


......やはり剣崎の脅威は、この異空間からの斬撃か。


罪生の命中を確認し、どこか安堵の笑みを浮かべる剣崎。


「馬ァ鹿。なァ死神、次はァ脚がいいかァ?それとも腕かァ?」


それでも、秋宮は依然として余裕な表情を浮かべていた。


「......大体君の罪生(ざいじょう)理解(わか)った」


 そう言って、もう片方の掌に炎を纏い、断面を軽く炙って止血する秋宮。


それを見て、仕留めるなら今と判断したのか、剣崎はもう一度、罪生を繰り出す。


「死顔見せろォ!!!<踊る鮮血>!!!」


 顔に血管が浮き出る程の怒号。


そうして、再び異空間からの斬撃が秋宮を襲う。


だが、しかし。


「もう、当たらないよ」


目を瞑り、自信げに笑う秋宮の姿が、そこにはあった。


結果的に、斬撃は首元の数センチ横を通り過ぎた。


異空間からの斬撃は、()()()()()()()


「......何故だァ、何故分かったァ!!!」


秋宮の姿を見て、憤慨する剣崎。


「考えたんだ。何で最初は当たらなかったのに、二回目、俺は斬られたのか」


それこそ、推理小説の種明かしかのように秋宮は続ける。


「お前の罪生(ざいじょう)は、剣崎裂人を()()する事がトリガーだ」


言われてみれば簡単な話ではあった。


僕が真っ二つにされた時、彼の怒号を聞いて、僕は()()()()()()()()()のだから。


秋宮も、初撃の際には大鉈を見つめていた。


そして腕を吹き飛ばされた際には、しっかりと剣崎を目で追っていた。


だけど、だけど。


斬撃が飛んでくると知って居ながら、目を瞑ってその場に留まる。


そんな、(トラップ)のようなこのシステム。


それを平然とやってのける秋宮の胆力に、僕は驚きを隠せなかった。


「いつも罪生(ざいじょう)を使う際に怒鳴り散らしているのも、自分に注目させるためって訳か」


語りながら一人で納得し、満足気な秋宮。


「なぁんだ、ただの目立ちたがり屋じゃん」


ニヒルに笑い、秋宮は件を煽り返す。


酷く頭にきたのか、剣崎は目から血を流す程に怒り狂っている。


「ッ次は絶対ェ外さねェ!!!」


 そう言って、剣崎は身をよろめかせながらも秋宮に近づき、()()()使()()()()()()()()斬りかかる。


「マジで斬ッちまえば問題ねェよなァ!?」


確かに、剣崎の罪生(ざいじょう)の派生として、あの異次元からの必中斬撃が存在するのだろうが、そもそも両手が凶器という事に変わりはない。


一撃でも受ければ致命傷なはずだ。


しかし。


「...残念だけど、今度は俺の(ターン)


大鉈で、剣崎の渾身の一撃を弾き返す。


そして大鉈を投げ捨ては、掌を突き出して。


死神は、秋宮紅葉は唱えたのだった。


「灯すは罪、燃ゆるは傷。死術<炎>......<烈火傷葬(れっかしょうそう)>!!!」


その瞬間、剣崎の身体が内側から燃え盛る。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァァァ!!!!!!」


その様は何ともグロテスクで、人型を模した提灯かのように見えた。


身体中の臓器や血管は皮膚越しに透け、それらがドロドロと溶けていく。


そしてそれが無数の傷から溢れ出し、再度、燃え盛る。


この一瞬で、剣崎裂人は二度焼かれた。


「この炎は、罪に着火し、傷に引火する」


「イデェ!!!アァヅィ!!!クソがァァァ!!!」


先程までの怒号とは違う、苦痛に耐えかねた絶叫が、夜の街に響く。


それは、一抹の終わりを知らせる、夕暮れの鴉のようだった。




焼き焦げた剣崎の残骸を横目に、誰かと電話をする秋宮。


「じゃあ、大急ぎでお願い。怪我人、というかほぼ死人が一名ね」


そして、電話を終えると、秋宮は胸ポケットから潰れた箱のようなものを取り出す。


よく見てみれば、瀕死の眼でよく睨んでみれば、それは煙草だった。


秋宮はその箱からよれよれになった煙草を一本取り出し、咥える。


さらに。


先程剣崎に吹っ飛ばされたのとは逆の腕を煙草に添えて。


少し大きめに指を弾き、指先に炎を灯してみせた。


それは先程剣崎を焼いた、焼き焦がした無邪気な炎ではなく、あくまでも威力がセーブされた、例えるなら蠟燭のような炎だった。


そして煙草に火を付け、ほんの少しばかり煙を吹かしたかと思うと。


「......で、君、生きてる?」


薄ら笑いを浮かべ、そう僕に問いかけた。


「......あぁ」


もはや、返答すら億劫になるほど、再度僕の意識は遠のきかけている。


それもそのハズだ。


なにしろ、僕は上半身だけの人生を歩み始めてから早30分が経とうとしているのだ。


出血量だって伊達じゃない、常人なら死んでいてもおかしくない量だ。


しかしながら、こんな満身創痍でもまだ生きているのは、あの時、僕の頬に触れた秋宮のお陰なのだろうが。


「そっか。君、名前は?」


「......透」


「へぇ、トオルくんね。俺は秋宮紅葉(ときみやくれは)。秋宮でも、紅葉でもいいよ」


......やはり、秋宮の声音にどこか郷愁を感じるのは、本当に気のせいだろうか。


そんな事を考えていると、ふと、どこかから物音が聞こえた気がした。


ガサ、ガサと。


何かを引き摺るような、不気味な音。


痛みに悶えつつも首を回してみると、僕は音の正体を発見した。


それは、先程吹き飛ばされた、秋宮の腕だった。


青く変色し、砂利に塗れた秋宮の右腕が、人知れず動いている。


そして、這いずりながらこちらに近づくのを目視した。


「それにしてもトオルくん、何でこんな時間に一人で公園に居るんだい?危ないじゃないか。そりゃあ、君ぐらいの歳なら、独りでに、一人になりたい時があるってのも、分からなくもないんだけどね」


しかし秋宮本人はそんなこと露知らず、僕に説教を垂れながら煙を吹かしている。


いやいや、怖いんだけど、あれ。


「......秋宮、腕」


「腕?あぁ、腕の事なら大丈夫だよ。それよりトオルくんは、自分の心配をした方がいいんじゃないかい?そんな状況で他人を気遣うなんて、トオルくんは優しいんだねぇ。まぁ、さっき医療班を呼んだから、もう少しの辛抱さ」


その報告は嬉しいが、明らかにこちらに向かって近づいてくる右腕に、僕は恐怖を隠し切れない。


そしてある程度、近づいた所で、秋宮自身も異変に気付く。


「まったくトオルくんは、さっきからどこ見てるんだい?......って、あ」


振り返り、腕を確認したところで。


秋宮の腕だったものは、地を叩いて跳ね上がり、僕の方へと一直線に飛んできた。


「え゛っ」


あまりの速さに理解が追い付かなかったが、結果的に言えば、僕の心臓を直撃していた。


そして右腕だったものは独りでに動き出し、心臓を握り潰す。


身体を真っ二つに斬られた時、僕はどんな気持ちだっただろう。


人は誰だって、目の前の不幸を最悪と表現したがる。


実際、体を斬り裂かれるなんて、僕の人生の中では、最たる悪だったのに。


でも、そんなの序章だった。


何なら、始まってすらいなかった。


正直、というか確実に人生最大の痛苦が身を襲い、僅か1秒も経たずして、僕の視界はフラッシュバックする。


まぁ有り体に言うなら。


めのまえがまっくらになった。




こうして、藪坂透という人間の物語は幕を閉じる。


罪人に行き遭い、死神に命を救われ、そして殺される。


誰が見ても、あまりに喜劇で、そして悲劇的。


劇的な人生では無かった所がポイントだ。


言うなればバッドエンドで、さらにはデッドエンド。


しかし、僕という語り手が居る以上、この物語は終わらない。


栞を抜き、そして僕は語り出す。


死神となった僕が、果てには世界の命運を分ける事となる、酷く下らない、”死神”の物語を。

読んで頂き、ありがとうございました。

秋宮みたいなキャラが性癖です。

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