表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
5/18

#3 踊る鮮血

前回からかなり時間が経ちましたが、なんとか続きが出来ました。

温かい目で読んで頂けると幸いです。

死ぬことよりも恐ろしい。


そう言って余りない状況が、今だった。


両手を刀に変えた罪人(ギルト)


今朝見たばかりの姿が、そこには存在した。


名前は確か。


「......剣崎(けんざき)


そうだ、剣崎裂人(けんざきさくと)


その刀で無差別殺人を行い、老若男女隔てなく、血潮を吹かせた殺人鬼。


そして、昨日脱獄したばかりの、罪人(ギルト)


「あァら、俺の名前知ってンだァ」


一声、僕の呟きにそう答える。


ニヤリと、不揃いな歯並びを見せつけるかのように笑い。


その血走った眼で、僕の瞳をてらてらと覗く。


眼は口ほどにものを言う、か。


僕は悟った。


もう既に僕は、剣崎の眼中(ターゲット)なのだと。


「なァ」


剣崎が問いかける。


「お前は死ぬ時、どンな顔するンだァ......。目障りな親父は顔を砕いたァ。若夫婦は喉笛を搔いたァ。見かけた餓鬼は腹を裂いたァ。痩せた老婆は髄を剥いだァ。美形の女は足を捥いだァ。みィんな違う顔だったァ......。なァ、お前は俺にどンな顔を見せてくれンだァ?」


剣崎は口角を吊り上げ、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。


......相変わらず、僕は運が悪い。


今まではただの自虐みたいなものだったが、この状況ではそうも言えなくなってきた。


運が悪いなんて良く言った方で、結局僕には。


運なんて、無いのだろう。


あるいは、運が尽きたのか。


先程までは畏怖が大半を占めていたが、今では何故か憤りを感じてしょうがない。


それが自らの運の無さに向けてか、それともこの醜悪な罪人(ギルト)に向けてかは、僕にも分からなかった。


「今のテメェよりは、マシな顔してると思うぜ」


思わず、挑発とも取れる言葉を口にする。


「そいつァいいなァ........。決ィめた、お前は八つ裂きだァ」


そう言い終わると共に、剣崎は両手を擦らせ、鋭い金属音を響かせる。


そして、僕のいるベンチの方へ、一瞬にして詰め寄ってきた。


「なっ!!!」


剣崎は、刃と化したその右手を僕の脳天へと差し向け、上から振りかざす。


......あ、死ぬ。


危機を察知し、前方の右へと身を投げる。


「意外と動けンじゃねェかァ!」


咄嗟に受け身を取り、何とか体勢は建て直せたが、それでも剣崎との距離に変わりはない。


今度は左手をスイングし、更なる一撃を放ってくる。


......さっきみたいに前には逃げれないぞこれ!


刃先が届くまでの一瞬で、僕は思考を巡らせる。


今日何曜日だっけ?明日は確か燃えるゴミの日だよな。


......いやいやそんな事今考えてる場合じゃないだろ!


どうすればいい?後ろか?


ダメだ、後ろにはベンチがある。


横は?


それも違う、この一瞬じゃ剣崎のリーチから逃げられない。


前にも横にも後ろにも、退路は無かった。


......前、横、後ろ?


そうか、それなら。


まだ一つだけ、あるじゃないか。


翼を持たない人間が、唯一重力に抗う方法が。


「おらぁぁぁぁ!!!」


ということで、僕は力一杯に上へ、ジャンプした。


飛翔した。


どこまでも、空の彼方まで。


今なら星でも掴める、そう思えるほどに、僕は高く、天を舞った。


「......餓鬼がァ!」


刃先は僕の靴底を撫で、左手を大振りした反動で剣崎は体勢を崩す。


そして着地し、全身で重力を嚙み締めた所で、僕は全力で走り出した。


運動不足で悲鳴をあげる足に鞭を打ち、とにかく前へ前へと進んでいく。


よし、このまま公園を出て、住宅街まで逃げきれれば......


「......罪生(ざいじょう)


背後で、剣崎がそう叫ぶ。


その言葉に、僕は思わず振り返る。


しかし、この判断は間違っていた。


悪手だった。最悪手だった。


剣崎の、剣崎におけるリーチというものを、完全に勘違いしていた。


というか、知らなかった。


「<踊る鮮血(おど せんけつ)>」


......剣崎がそう呟くのと同じくして、僕は斬られた。


斬り裂かれた。


上半身と下半身が、完全に、離れ離れになった。


......何が、起きた?


俺は今、完全に剣崎から遠ざかったはずだ。


だからアイツの刃先なんて、到底届かないハズなのに。


それでも僕は、斬られた。


離れ離れになった下半身が地べたに横たわり、それを追いかけるようにして上半身も地へと向かう。


あまりの出血量にもはや声も出ない。


痛いとか、そんなのじゃなかった。


一瞬だった。


気付いたら、腰から下の感覚が、無くなっていた。


そして、僕は後頭部から地に転げ落ち、その衝撃で視界が霞む。


「......な、なん、で?」


もう少し言葉を紡ぎたかったが、横隔膜に力が入らずこれ以上声が出ない。


そんな僕を見て、剣崎はゆっくりとこちらへ近づいてくる。


「ガハハハッ!顔を見せろォ!俺を見ろォ!」


剣崎の笑い声を傍にして、段々と意識が遠のいていく。


痛い。


てか僕、死ぬのか。


罪人(ギルト)に斬られて、こんな公園で野垂れ死ぬのか。


何にもせずに、ただただ生きてきた17年。


大した取り柄もなく、友人もあの幸介くらいで。


彼女だって出来ないまま......あぁ、違うか。


一人だけ、居たんだったな。


あれを彼女と呼べるのかは分からないけど。


だけど。


本気で、好きになれた人が、居たんだった。


『兄貴はさ、私の事好き?』


......あぁ、好きだよ。


『何で私が怒ってるか分かる?』


......分からねぇよ。教えてくれよ、なぁ。


『......どうして、死なないといけないの?私、嫌だよ』


......そんなの、分からねぇよ。分かる訳ねぇよ。


人は死に際に走馬灯を見るというが、それは案外本当らしい。


甘い思い出も、苦い思い出も。


彼女と過ごした時間が、フィルムのように一枚、また一枚と脳裏に流れ込んできた。


そして、ふと涙がこみ上げてくる。


それが斬られた痛苦によってか、はたまた昔を思い出してなのかは、もう、本当に分からない。


頬に伝う涙を見て、剣崎は再び口を開く。


「最期にお前は泣くンだなァ、面白ェ。まァ、俺を恨むンじゃねェぜ?恨むンなら、俺を脱獄()したあの死神だァ」


......死神?


......何の話だ。


「冥途の土産に教えてやるよォ。名前......確か」


刃先を僕に向け、一呼吸置いて、剣崎はその名を口にする。


傷色雪情(きずいろせつじょう)、それァ綺麗な女だったァ」


名前を噛み砕く間もなく、二度目の刃が僕を刻む。


その微かな痛みが、僕を死へと後押しした。

読んで頂き、ありがとうございました。

やっと戦闘シーンが書けました。

大して自信はありませんが、やっと物語が進展したので個人的には満足です。

ではまたいつか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 薮坂くん、どうなってしまうのでしょい…すごくハラハラする展開になってきました…!
2022/06/15 02:00 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ