#2 いつも通り
誤字脱字の報告よろしくお願いいたします。
それからほどなくして、下校の時刻を迎えた。
いつも通り、下駄箱で靴を履き替える。
そして、校門まで幸介と下らない話をしながら歩き、手を振る事も無く別れた。
幸介とは高校からの友達なので、家の方角がまるっきり違う。
帰り道はいつも一人だ。
しかし、不思議と寂しいと感じた事はない。
校内で一人なのと、校外で一人なのは感覚として違うからだろうか。
孤立も孤独も結局は相対的なのであって、周りに人が居なければ悩まされることもない。
と、下らない持論を述べたところで、僕は思考をリセットする。
いつも通り。
こんな、地産地消とも呼べないQ&Aを繰り返しつつ。
いつも通りの歩幅で、歩みを進める。
学校から家までは、歩いて20分。
都会暮らしからすれば自転車を使いたくなるような距離だろうが、僕にはこの距離が丁度いい。
一日のクールダウン。
思考の整理。
粗雑に言葉を並べてみるが、実際のところどうだっていい。
夕暮れ時に吹く秋風が、体の火照りを冷ますかのように、通り抜ける。
落ち葉がひらひらと舞って、町にはどこか哀愁が漂っていた。
家までそろそろ半分といったところ、左手には公園が見えてくる。
幼い頃はここでもよく遊んだものだが、罪人が現れてからというもの、外で遊ぶ子供というのは減ったように感じる。
親の身になれば当然とも思うが。
ふつう、子供を危険に晒したがる親なんていないのだ。
そんな公園の方に目をやると、使われなくなり、寂れた様子の遊具が、僕を誘っているように見えた。
「......久しぶりに行ってみるか」
別段、数奇的なものを感じた訳でもないが、赴くなら今日という気がした。
砂利道を踏み、落ち葉をぱりぱりと鳴らしつつ。
数年ぶりにこの公園に足を踏み入れてみると。
「まぁ、普通の公園だよな」
何の変哲もない、想像通りの公園。
しかし、そんな考えは非常に強欲的である。
何時だって世界は進み続け、僕らはそれを止める事が出来ない。
同じ川には二度は入れないとは言ったもので、僕だって、同じ公園には二度は入れないのだ。
だからなのか。
誰かに咎められるかの如く。
もしくは、自らが間違いに気付いてしまったからなのか。
「ッ!?」
まるで脳で蛆が蠢いているかのように。
全身が戦慄するような不快感を、突如として覚えた。
せり上がる吐気を抑え、近くにあったベンチに腰を掛ける。
なんだ、今の?
別段僕は病弱な体質でもないので、突然吐気を催したのはこれが初めてだった。
そして今度は、耳鳴りが酷く響く。
不快で不快で不快で、不均等で不協で、何よりも不幸な金属音のような何かが、脳に反響する。
思わず頭を掻きむしってしまう程に、苦しく、そして切ない何か。
思わず誰かに謝りたくなるような、不幸な何か。
あまりに不愉快な何かに、思わず僕は倒れ込んでしまった。
「ほんとに......何なんだ」
気付けば辺りは暗くなり、街灯が存在を主張している。
先程まで、夕暮れが僕を照らしていたはずなのに。
そこに、もう日の影は無かった。
いや、陰でしかなかった。
まだ十数年と少ししか生きていない僕ではあるが、一瞬にして理解する。
この場に居てはいけないと、全身が、ここを離れろと叫んでいる。
なのに、僕は地に膝を着き、ただただ涙を流す事しか出来なかった。
下を向くと、涙で枯地が湿ってしまう。
頭の中が惣然と、鬱屈としてきた。
......舌でも噛み千切れば、死ねるだろうか。
何故生きているのか分からない程に、死が当然だと感じてきた。
よし。
あと、5秒で舌を嚙み千切って死のう。
そうすれば、僕も赦される。
5......4......
数えている内に気が楽になり、ようやく報われるような気分になった。
自分が正しい事をしていると、謎の自信が湧いてきた。
3......2......
......あれ。
ふと脳裏に、茶髪の男が浮かぶ。
『なんでも、涙流しながら、まるで誰かに赦しを乞うような姿で、力尽きていたとか』
こんな話、昼に聞いたばかりじゃないか?
あまりにもデジャヴで。
というかデジャヴにすらなっていない。
ほんの数時間前に聞いた話を忘れる程、僕は記憶力が乏しくはない。
......幸介がお喋りで助かった。
全身が放つ危険信号を過剰摂取した僕は、飛び起きその場から離れようとする。
しかし、僕はまたしても、不幸だったのかもしれない。
舌を嚙み千切り、死んでいた方がマシだったのかもしれない。
暗く昏い夜空をバックに、それまた人を喰らいでもするかの如く。
そこには立っていた。
血走った瞳。
鋭く尖り、理が非でも裂いてしまうかのような、二本の刀。
朝見た顔の男が、そこには立っていた。
読んで頂きありがとうございました。