表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
3/18

#2 いつも通り

誤字脱字の報告よろしくお願いいたします。

それからほどなくして、下校の時刻を迎えた。


いつも通り、下駄箱で靴を履き替える。


そして、校門まで幸介と下らない話をしながら歩き、手を振る事も無く別れた。


幸介とは高校からの友達なので、家の方角がまるっきり違う。


帰り道はいつも一人だ。


しかし、不思議と寂しいと感じた事はない。


校内で一人なのと、校外で一人なのは感覚として違うからだろうか。


孤立も孤独も結局は相対的なのであって、周りに人が居なければ悩まされることもない。


と、下らない持論を述べたところで、僕は思考をリセットする。


いつも通り。


こんな、地産地消とも呼べないQ&Aを繰り返しつつ。


いつも通りの歩幅で、歩みを進める。


学校から家までは、歩いて20分。


都会暮らしからすれば自転車を使いたくなるような距離だろうが、僕にはこの距離が丁度いい。


一日のクールダウン。


思考の整理。


粗雑に言葉を並べてみるが、実際のところどうだっていい。


夕暮れ時に吹く秋風が、体の火照りを冷ますかのように、通り抜ける。


落ち葉がひらひらと舞って、町にはどこか哀愁が漂っていた。




家までそろそろ半分といったところ、左手には公園が見えてくる。


幼い頃はここでもよく遊んだものだが、罪人(ギルト)が現れてからというもの、外で遊ぶ子供というのは減ったように感じる。


親の身になれば当然とも思うが。


ふつう、子供を危険に晒したがる親なんていないのだ。


そんな公園の方に目をやると、使われなくなり、寂れた様子の遊具が、僕を誘っているように見えた。


「......久しぶりに行ってみるか」


別段、数奇的なものを感じた訳でもないが、赴くなら今日という気がした。


砂利道を踏み、落ち葉をぱりぱりと鳴らしつつ。


数年ぶりにこの公園に足を踏み入れてみると。


「まぁ、普通の公園だよな」


何の変哲もない、想像通りの公園。


しかし、そんな考えは非常に強欲的である。


何時だって世界は進み続け、僕らはそれを止める事が出来ない。


同じ川には二度は入れないとは言ったもので、僕だって、同じ公園には二度は入れないのだ。


だからなのか。


誰かに咎められるかの如く。


もしくは、自らが間違いに気付いてしまったからなのか。


「ッ!?」


まるで脳で(うじ)が蠢いているかのように。


全身が戦慄するような不快感を、突如として覚えた。


せり上がる吐気を抑え、近くにあったベンチに腰を掛ける。


なんだ、今の?


別段僕は病弱な体質でもないので、突然吐気を催したのはこれが初めてだった。


そして今度は、耳鳴りが酷く響く。


不快で不快で不快で、不均等で不協で、何よりも不幸な金属音のような何かが、脳に反響する。


思わず頭を掻きむしってしまう程に、苦しく、そして切ない何か。


思わず誰かに謝りたくなるような、不幸な何か。


あまりに不愉快な何かに、思わず僕は倒れ込んでしまった。


「ほんとに......何なんだ」


気付けば辺りは暗くなり、街灯が存在を主張している。


先程まで、夕暮れが僕を照らしていたはずなのに。


そこに、もう日の(かげ)は無かった。


いや、(かげ)でしかなかった。


まだ十数年と少ししか生きていない僕ではあるが、一瞬にして理解する。


この場に居てはいけないと、全身が、ここを離れろと叫んでいる。


なのに、僕は地に膝を着き、ただただ涙を流す事しか出来なかった。


下を向くと、涙で枯地が湿ってしまう。


頭の中が惣然と、鬱屈としてきた。


......舌でも噛み千切れば、死ねるだろうか。


何故生きているのか分からない程に、死が当然だと感じてきた。


よし。


あと、5秒で舌を嚙み千切って死のう。


そうすれば、僕も赦される。


5......4......


数えている内に気が楽になり、ようやく報われるような気分になった。


自分が正しい事をしていると、謎の自信が湧いてきた。


3......2......


......あれ。


ふと脳裏に、茶髪の男が浮かぶ。


『なんでも、涙流しながら、まるで誰かに赦しを乞うような姿で、力尽きていたとか』


こんな話、昼に聞いたばかりじゃないか?


あまりにもデジャヴで。


というかデジャヴにすらなっていない。


ほんの数時間前に聞いた話を忘れる程、僕は記憶力が乏しくはない。


......幸介がお喋りで助かった。


全身が放つ危険信号を過剰摂取した僕は、飛び起きその場から離れようとする。




しかし、僕はまたしても、不幸だったのかもしれない。


舌を嚙み千切り、死んでいた方がマシだったのかもしれない。


暗く昏い夜空をバックに、それまた人を喰らいでもするかの如く。


そこには立っていた。


血走った瞳。


鋭く尖り、理が非でも裂いてしまうかのような、二本の刀。


朝見た顔の男が、そこには立っていた。

読んで頂きありがとうございました。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 文章が軽やかに舞うようで読んでいて心地いいです…! [気になる点] 汚れが落ちないアリエール、という、商標を使った言葉はたまに訴えてくるケースがあるので、伏せ字にしておいた方が無難です… …
2022/06/15 01:55 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ