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死神、はじめました!  作者: Tale
season2 喰らい尽くす者 vs 昏い尽くす者
22/22

#20 秋空に燻る

今回は秋宮視点のお話です。どうかご理解を。

透が水卜さんの手料理に心温まっている、その最中。


秋宮は、駆り出された<蛇腹(じゃばら)(おり)>対策本部にて、顔をしかめていた。




「......だからですね、俺たちは侵入してきた罪人(ギルト)に対し、最大限の対策を取りました。だからこそ、彼らも撤退を選ばざるしか――」


「下の連中が喚くな。与えられた仕事ひとつ満足にこなせずに、上に口答えとはいい度胸だな。いいか、お前ら断罪担当は罪人(ギルト)を裁くのが仕事だろう?罪人(ギルト)の一匹や二匹殺せずに、職務を全うしているつもりか?」


口髭を生やした長身の死神が、唾を飛ばしながら罵倒する。


......これだからこんな所には来たくなかった。


結局、局の上層部なんて、創設期からしがみついているだけの老骨ばかりだ。


罪人(ギルト)の制圧は俺らに押し付け、その功績だけを(むさぼ)る。


社会の(がん)、歯車の(さび)......蛆虫(うじむし)どもが。


全員まとめて消炭にしてやりたいぐらいだが、今の俺には、まだやり残したことがある。


トオルくんを、正しく導き終えるその時までは――俺の灯を、消すわけにはいかない。


「......そうですね。今回は、その場にいた俺の落ち度です。申し訳ございませんでした」


「はっ、謝って済むなら警察は要らない、そんな言葉が人間界にあったな。もっとも今じゃ警察ごとき、何の力も持ちはしないが」


嫌味ったらしく笑う声に拳を固く握りしめる。


「それにしても、局長も落ちたものだ。かつての威厳はとうに消え、今ではただの小僧ではないか。あれだから、このような事件を......」


その刹那。


俺の中で鎖の千切れた、音がする。


「――死に腐れの老骨が、局長の陰口叩いてんじゃねぇよ」


思わず、拳が前に出る。


だが、しかし。


「秋宮、その手を下げなさい」


冷たい声音で制したのは、或沢(あるさわ)局長だった。


「今回の事件は、全て僕の責任だよ。君が手を汚す理由なんて、僕には見当たらないな」


優しく笑いかけ、伸ばした拳に、局長が触れる。


「君の戦闘力は僕も信じている。これは、<蛇腹(じゃばら)(おり)>に下す鉄槌として、取っておきなさい」


「......悪い。また局長の株下げた」


どこが落ちたものだよ。


俺は、この人に後何回救われば気が済むんだ。


「それに......そこの君。意見があるなら遠回しではなく、直接僕に言いなさい。そのために君は、ここに呼ばれたんでしょ?」


背後で静かに手を組み、局長はにっこりと微笑んだ。


「ぐっ......!いいですか局長!上が正しく下を律してこそ、組織は成り立つんです!こんな舐めた態度を取る若手には、多少の制裁があって然るべきです!局長からも、ひと言おっしゃってください!」


死神は頭に血を昇らせ、俺を指差して怒鳴り散らした。


しかし局長は微動だにせず、ただ彼の言い分を聞き終えると。


「そうだね......じゃあまず、僕を舐めた老骨(わかて)から――殺そっか?」


かつての威厳を宿した瞳。


その瞬間、会議室内の空気がひやりと冷気を孕んだ。


「......ッ!?」


あの瞳を向けられて、逆らえる者などいない。


何故なら俺たちは、彼の功績を、もう知ってしまったから。


遥か昔、剣先を伝う赤い雫。


雪が降り始め、息が白く霞む、そんな夜。


――傷色雪情(きずいろせつじょう)を、一度殺した男だと。




「さて、改めて話を始めよう。今回は<蛇腹(じゃばら)(おり)>対策本部にご足労いただき、心より感謝します。前回の局襲撃を受け、傷色雪情(きずいろせつじょう)もとい、<蛇腹(じゃばら)(おり)>の存在はもはや看過できないものになりました。そこで断罪担当からは秋宮、そしてもう一名を、代表として招集しています。二人の意見も参考にしながら、今後の局としての対策を協議していきましょう」


会議室。


固いパイプ椅子に座る者、およそ百名。


上層部の老骨どもは、情けなく寄り掛かり、息を潜めている。


「......ったく、秋宮さんも懲りないっスね」


そんな中、横には俺と同じ、もう一人の断罪担当。


「センくんは、こいつら見て何とも思わないのかい」


「まぁ俺は普段から局内勤務が多いんで。秋宮さんよりは慣れてるっス」


掻き上げた金髪が目印の新人、名前は耀(ひかり)セン。


年は俺より随分下だが、断罪担当になって一年足らずで、今回の任務に抜擢されている。


知り合って日は浅いが、侮れない男だ。


「それではまず、経過報告を耀(ひかり)、お願いするね」


名を呼ばれると、センくんは軽やかに返事をして、立ち上がった。


「断罪担当、耀(ひかり)センです。現在、局襲撃の目的については調査を継続中です。しかしサーバー室のPCから不正アクセスの痕跡が確認されており、何らかのデータが持ち出された可能性があります。容疑者は二名。一人目は(からし)。住所不明。かつて孤児院で生活していたことまでは判明していますが、ある日を境に失踪しています。二人目は酩京(めいきょう)。こちらも同じく住所不明。他国にて侍女として働いていたとの噂もありますが、信頼できるソースかどうかは確認中です。そして頭首、傷色雪情(きずいろせつじょう)。こちらは皆様もご承知の通り、対応は局長へ一任させて頂きます。局内セキュリティは現在85パーセントまで復旧、ほぼ通常状態に戻っています。課題点としては、侵入経路が依然として特定できていないことです。施設内のセキュリティに穴はあったにせよ、<地獄の門>を突破する手段は、通常の罪人(ギルト)には存在しないはずです。今後も、彼らの足取りの追跡と侵入原因の究明を進めてまいります。こちらからは以上です」


淡々と報告を済ませたセンくんは、静かに椅子へと腰を掛ける。


「ありがとう耀(ひかり)。要点がまとまってていい報告だったよ」


「ありがとうございます」


嬉しそうに返す横顔に、年相応の若さを残している。


「ナイスだね。......にしてもホント、センくんは世渡り上手で羨ましいよ」


「そんな事ないっス。俺はあくまで役を演じるのが上手いだけ、素は秋宮さんとあんま変わらないっスよ」


「どうだかねぇ」


苦笑いしつつ、俺は窓の向こうに目をやる。


俺は、局の中じゃ評価はされている方だと自負している。


死術じゃまぁ負けないし、頭の回転だって悪くない。


でもそれはあくまで成果での評価。


人付き合いに関しては、センくんには到底及ばない。


真正面から話してしまえばさっきみたいに、衝突するのが目に見えている。


......本質的には、俺だってトオルくんと似たようなものかもしれない。


狭く深い関係に、ずっと浸っていたいのだ。


......と考え事を始めてしまうと止まらないのは悪い癖で、俺は思考を振り払い、局長への話に耳を傾ける。


「以上の点を踏まえ、断罪担当の二名には実地での捜索を。執行担当の方々は引き続き、容疑者の身元と持ち出されたデータの解析、セキュリティの強化を進めてください。他に何か報告のある人は?」


局長の問いかけに反応し、前列の死神が、挙手をした。


「執行担当人事課の狩田(かりた)です。今回の一件を踏まえ、藪坂透という死神について質問があります」


「......なっ」


聞き慣れた言葉だと思ったら、まさかこんな大規模な会議でトオルくんの名前が挙がるとは。


変に上層部に目を付けられたら、彼の今後に響きかねない。


助けてあげたいが、俺が挟めばまた歯車の錆どもが騒ぎ出すだけだ。


「よろしい。どうぞ」


そんな俺を傍らに、局長は間を置き、促す。


「ありがとうございます。藪坂透という死神は、数週間前に入局し、現在は断罪担当として研修中とのことですが、身元不明、出生地不明と、不確定な情報があまりにも多いです。彼が罪人(ギルト)と連携し、招き入れた可能性も、十分に考えられるはずですよね」


「......はぁ、あり得ない。彼は、実際に(からし)の撃退に関わった一人だ。彼の無実は、僕が保証する」


局長の声は、やや低い。


「ではお言葉ですが、何故(からし)は藪坂透の存在を知っていたのでしょうか。<蛇腹(じゃばら)(おり)>内と何か繋がりがなければ、新人の名前が伝わるはずがありません」


「そこは僕も調査中だよ。彼に関して不確定な情報が多いのは、特別な事情があるからだ。執行担当としては、少し特殊な存在――その程度に認識していればいい。......いずれ彼の名前は、嫌でも耳に入るだろうからね。話は以上。座りなさい」


「......納得いきません」


文句を零しつつ、狩田(かりた)はしぶしぶ席へ着く。


ひとまずは局長の采配に、胸を撫で下ろした。


「藪坂透って、確か秋宮さんが最近監督役してた子っスよね?」


同じタイミングで、横からセンくんが尋ねた。


「うん、そうだね。でも彼は、いい子だよ。それに必ず、強くなる」


「......へぇ、秋宮さんにそこまで言わせるなんて。俺も一度、会ってみたいっス」


ライバル視でもしているのだろうか、その目の奥には闘志が透ける。


「トオルくんとセンくんかぁ。まぁ、いつか機会があるといいね」


正直、トオルくんの存在はまだ、闇雲に広めたくはない。


それこそ上層部に目を付けられ始めた今、俺の右腕含め面倒なことになるのは分かり切っているから。


軽くはぐらかすような真似をして申し訳ないが、これも俺とトオルくんのためには仕方なかった。


「ではこれにて、<蛇腹(じゃばら)(おり)>対策本部の定例会議を終わります。一同、礼」


皆が礼をし、そのままぞろぞろと退出していく死神たち。


部屋に残ったのは、俺たち数名だけ。


それを見て、局長がこちらへと歩み寄る。


「悪かったね秋宮。藪坂くんの名を不用意に出させてしまった」


申し訳なさそうに、局長が言う。


「いえいえ、老骨(あいつら)にデリカシーとか皆無ですから。それこそ局長が気にすることじゃないです」


「今後についてはまた連絡するから。もちろん、藪坂くんについても」


そう言って次はセンくんの方を向くと、柔らかく笑って。


耀(ひかり)くんも、今回は参加してくれてありがとう。また次回も、いい報告期待してるよ」


「期待に沿えるよう、尽力してまいります」


喜々とした声音で、そう答えるセンくん。


そうして軽く礼をし、そのまま局長は退出した。


「はぁ、今日も疲れた。......今頃トオルくんたち、ちゃんとやってるかな」


緊張の糸が切れ、思わずため息が漏れる。


俺の<蛇腹(じゃばら)(おり)>対策本部の参加に合わせ、トオルくんの監督役はしばらく、澪ちゃんに任せることにした。


彼女以上に信頼できる死神なんていないし、彼女もきっと、それを望んでいるはずだから。


そんな流れで、センくんと簡単な業務連絡をしたのちに、夜の局を後にした。


少し肌寒い、秋の夜。


見上げた空、月は雲に隠れている。


「......ただいま、なんてね」


扉を開けても、返す人はいない。


少しの腹の減りを覚え、部屋のカップ麺を漁る、そんな夜だった。

読んで頂き、ありがとうございました。

書いていてとても悲しかった。秋宮、こんな目に合わせてごめん。

それでも物語は、少しずつ進みます。

次回もよろしくお願いします!

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