#18 いつも通り?
ゆったり回です。気楽に読んで頂けたら!
仁科さんの荒療治を終え、そこから数日は自宅待機と、局長から命令が出た。
学校はどうしようかと頭を抱えるも、たまには身体に気を遣うのも大切だ。
適当な嘘を付いて、しばらく学校を休むことにした。
とは言っても、ほんの数日だ。
久しぶりに一日中家でゴロゴロしたり、夜中に起きてはカップ麺を貪ったり。
確かに腹の減り方は人間の頃とは違うが、それでも何か食べたいという意識はある。
そして家族が寝静まった後、部屋で静かに、死術の練習をしたり。
「とりあえず、技のレパートリーを増やしたいんだよな。相手の動きを封じる<影縫>、相手を引き裂く<影轢>。どっちも便利ではあるんだけど......うーん、なんというか。僕にしかできない何か、それこそ秋宮の<烈火傷葬>だったり、水卜さんの死術のように鮮やかな......何か。――必殺技的なの、使いたいよな」
男の子なら一度は考える、必殺技。
しかし今はそうも笑ってはいられず、これからの戦闘に向けても、僕は必死で考える必要があるのだ。
「......僕にしかできない何か。影......<影縫>......」
すると、ふと頭の中には、懐かしい彼女の顔が浮かぶ。
『兄貴ってさ、ホント根暗っぽいよね。一緒に居たら、こっちまで暗くなるっつうの』
何気ない生活のワンシーン。
思わず目頭が熱くなるが、それよりも。
「......影......暗くなる......」
何か思いつきそうで、けれど喉から先には出てこない。
もやもやとした気持ちを掻き消すかのように、部屋の明かりを消しては目を閉じる――そんな夜だった。
そして数日が経ち、僕の実質的な停学期間は幕を閉じた。
あれから何度か、死術について考えてはみたものの、大した成果は得られなかった。
あの時浮かんだ葉月の顔が、胸の奥深くに突き刺さっただけだ。
それにしても数日ぶりに歩く通学路は何だか新鮮で、世界がすっと澄んで見える。
もしかしたらあの荒療治で目を再生した際に、少しばかり視力も良くなったのかもしれない。
死神万歳。世界は僕が救いましょう。
そうして気付けば校門の前まで来ており、目の前には見慣れた茶髪がつらつらと歩いている。
眠そうに歩く幸介の顔に何だか腹が立ったので、ここは少し、悪戯でもしてみよう。
「......どれ、数日の成果はどんなものかな。<死念力>」
周りには勘づかれないよう、こっそりと幸介に手を向けては、そう呟く。
すると。
「......はーぁ、今日の3限、小テストかよ......って、何だ!?うわぁっ!?」
目の前で幸介がズッコケた。
顔から突っ込んだ雄姿を見て、思わず吹き出しそうになるのを必死に抑える。
「......ったく、珍しくツいてないな、幸介」
そんな幸介の首根っこを掴み、僕はひょいと起き上がらせる。
「......悪い......って、透じゃねぇか。体調はもう治ったのかよ」
「あぁ、全回復だよ。風通しの良かった腹も、今じゃこの通りだ」
新調した学ランをめくっては、幸介に腹を向ける。
「......中二病拗らせんじゃねぇよ。今度は頭の病気ですかい、お兄さん」
「まぁそんなところだ。行くぞ幸介、遅刻する」
自分から転ばせておいて、こんなこと言うのもどうなのって感じだけど。
ちなみにその日の学食は僕が奢ったので、心の中で勝手にチャラにしておいた。
前と何も変わらない学生生活を終え、夕方になった頃。
普段はあまり使い道のないスマートフォンに、着信音が鳴る。
知らない電話番号だが......十中八九、相手は分かるような気がするし。
あまり気にもせず、応答をタップしては、耳に当てると。
「もしもし、私だ。透の携帯で合っているか」
「......水卜さんですか。まさか予想が外れるとは」
「期待に沿えず悪かったな。伝えたいことがある、局へ来て欲しい」
「......分かりました。これから徒歩で向かいます」
そうして電話は切れた。
「......珍しいこともあるもんだな。透に女から電話が掛かって来るなんて」
「セールスか何かだったよ。とりあえず、今からお姉さんのとこ行って、壺でも買ってくるわ」
「......そういうのは透が一番信じないタイプだろうに」
変に勘づかれるのも嫌なので、ここは適当に流す。
幸介に少し先に別れを告げ、夕暮れの中、一人歩いた。
にしても、水卜さんが僕に伝えたいことって何だ。
この前の事件についてが万馬券だろうが、愛の告白という大穴もあったりして。
......そう心の中で呟きながらも、その告白を全く期待していない自分に、少し苦笑いしてしまった。
学校から30分ほど歩き、ようやく局に着いた僕。
「......でっけぇ」
改めて<地獄の門>の前まで来てみるが、あまりにチープな感想しか湧いてこない。
にしても、この門には扉のようなものがない。
故に、普通に入ろうとしても、まず入る手段がない。
「......前に秋宮が言ってたやつ、何だったっけな。......汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ......だっけ?」
ものは試しと、手をかざしてはそう唱えると。
眩い光に身体が包まれ、僕は思わず目を伏せる。
そして、ようやく目の前が見えるようになったかと思えば。
ゴーン、ゴーン。
目の前には、前に見たあの大きな壁掛け時計が、鐘を鳴らしていた。
「......案外行けるもんだな」
「そうでもないぞ。地獄の門は、認めた者しか侵入を許さない。だから最後の砦であり、最終兵器なのだ。とは言っても、前回の事件があっては、少し信憑性に欠けるが」
棘を吐きながらも、優しく微笑む水卜さんの姿があった。
「ご無沙汰してます、水卜さん。じゃあ僕は、<地獄の門>に認められたってことでいいんですかね」
「そういうことになるな。前回の雄姿を、きっと見届けてくれていたのだろう」
そう言って、僕の背中を叩くと。
「さぁ、伝えたいことがある。私の部屋まで来てもらえるか」
まさかの、本当に部屋に誘われてしまった。
――悪いな秋宮、今夜は楽しませてもらうとするよ。
彼方にグッドポーズをしては、水卜さんの後に続く僕だった。
読んで頂きありがとうございました!




