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死神、はじめました!  作者: Tale
season2 ”喰らい”尽くす者 vs ”昏い”尽きる者
20/20

#18 いつも通り?

ゆったり回です。気楽に読んで頂けたら!

仁科さんの荒療治を終え、そこから数日は自宅待機と、局長から命令が出た。


学校はどうしようかと頭を抱えるも、たまには身体に気を遣うのも大切だ。


適当な嘘を付いて、しばらく学校を休むことにした。


とは言っても、ほんの数日だ。


久しぶりに一日中家でゴロゴロしたり、夜中に起きてはカップ麺を貪ったり。


確かに腹の減り方は人間の頃とは違うが、それでも何か食べたいという意識はある。


そして家族が寝静まった後、部屋で静かに、死術の練習をしたり。


「とりあえず、技のレパートリーを増やしたいんだよな。相手の動きを封じる<影縫(かげぬい)>、相手を引き裂く<影轢(かげひき)>。どっちも便利ではあるんだけど......うーん、なんというか。僕にしかできない何か、それこそ秋宮の<烈火傷葬(れっかしょうそう)>だったり、水卜さんの死術のように鮮やかな......何か。――必殺技的なの、使いたいよな」


男の子なら一度は考える、必殺技。


しかし今はそうも笑ってはいられず、これからの戦闘に向けても、僕は必死で考える必要があるのだ。


「......僕にしかできない何か。影......<影縫(かげぬい)>......」


すると、ふと頭の中には、懐かしい彼女の顔が浮かぶ。


『兄貴ってさ、ホント根暗っぽいよね。一緒に居たら、こっちまで暗くなるっつうの』


何気ない生活のワンシーン。


思わず目頭が熱くなるが、それよりも。


「......影......暗くなる......」


何か思いつきそうで、けれど喉から先には出てこない。


もやもやとした気持ちを掻き消すかのように、部屋の明かりを消しては目を閉じる――そんな夜だった。




そして数日が経ち、僕の実質的な停学期間は幕を閉じた。


あれから何度か、死術について考えてはみたものの、大した成果は得られなかった。


あの時浮かんだ葉月の顔が、胸の奥深くに突き刺さっただけだ。


それにしても数日ぶりに歩く通学路は何だか新鮮で、世界がすっと澄んで見える。


もしかしたらあの荒療治で目を再生した際に、少しばかり視力も良くなったのかもしれない。


死神万歳。世界は僕が救いましょう。


そうして気付けば校門の前まで来ており、目の前には見慣れた茶髪がつらつらと歩いている。


眠そうに歩く幸介の顔に何だか腹が立ったので、ここは少し、悪戯(いたずら)でもしてみよう。


「......どれ、数日の成果はどんなものかな。<死念力(テレキネシス)>」


周りには勘づかれないよう、こっそりと幸介に手を向けては、そう呟く。


すると。


「......はーぁ、今日の3限、小テストかよ......って、何だ!?うわぁっ!?」


目の前で幸介がズッコケた。


顔から突っ込んだ雄姿を見て、思わず吹き出しそうになるのを必死に抑える。


「......ったく、珍しくツいてないな、幸介」


そんな幸介の首根っこを掴み、僕はひょいと起き上がらせる。


「......悪い......って、透じゃねぇか。体調はもう治ったのかよ」


「あぁ、全回復だよ。風通しの良かった腹も、今じゃこの通りだ」


新調した学ランをめくっては、幸介に腹を向ける。


「......中二病拗らせんじゃねぇよ。今度は頭の病気ですかい、お兄さん」


「まぁそんなところだ。行くぞ幸介、遅刻する」


自分から転ばせておいて、こんなこと言うのもどうなのって感じだけど。


ちなみにその日の学食は僕が奢ったので、心の中で勝手にチャラにしておいた。




前と何も変わらない学生生活を終え、夕方になった頃。


普段はあまり使い道のないスマートフォンに、着信音が鳴る。


知らない電話番号だが......十中八九、相手は分かるような気がするし。


あまり気にもせず、応答をタップしては、耳に当てると。


「もしもし、私だ。透の携帯で合っているか」


「......水卜さんですか。まさか予想が外れるとは」


「期待に沿えず悪かったな。伝えたいことがある、局へ来て欲しい」


「......分かりました。これから徒歩で向かいます」


そうして電話は切れた。


「......珍しいこともあるもんだな。透に女から電話が掛かって来るなんて」


「セールスか何かだったよ。とりあえず、今からお姉さんのとこ行って、壺でも買ってくるわ」


「......そういうのは透が一番信じないタイプだろうに」


変に勘づかれるのも嫌なので、ここは適当に流す。


幸介に少し先に別れを告げ、夕暮れの中、一人歩いた。


にしても、水卜さんが僕に伝えたいことって何だ。


この前の事件についてが万馬券だろうが、愛の告白という大穴もあったりして。


......そう心の中で呟きながらも、その告白を全く期待していない自分に、少し苦笑いしてしまった。




学校から30分ほど歩き、ようやく局に着いた僕。


「......でっけぇ」


改めて<地獄の門>の前まで来てみるが、あまりにチープな感想しか湧いてこない。


にしても、この門には扉のようなものがない。


故に、普通に入ろうとしても、まず入る手段がない。


「......前に秋宮が言ってたやつ、何だったっけな。......汝等ここに入るもの一切の望みを棄てよ......だっけ?」


ものは試しと、手をかざしてはそう唱えると。


眩い光に身体が包まれ、僕は思わず目を伏せる。


そして、ようやく目の前が見えるようになったかと思えば。


ゴーン、ゴーン。


目の前には、前に見たあの大きな壁掛け時計が、鐘を鳴らしていた。


「......案外行けるもんだな」


「そうでもないぞ。地獄の門は、認めた者しか侵入を許さない。だから最後の砦であり、最終兵器なのだ。とは言っても、前回の事件があっては、少し信憑性に欠けるが」


棘を吐きながらも、優しく微笑む水卜さんの姿があった。


「ご無沙汰してます、水卜さん。じゃあ僕は、<地獄の門>に認められたってことでいいんですかね」


「そういうことになるな。前回の雄姿を、きっと見届けてくれていたのだろう」


そう言って、僕の背中を叩くと。


「さぁ、伝えたいことがある。私の部屋まで来てもらえるか」


まさかの、本当に部屋に誘われてしまった。


――悪いな秋宮、今夜は楽しませてもらうとするよ。


彼方にグッドポーズをしては、水卜さんの後に続く僕だった。

読んで頂きありがとうございました!

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