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死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
10/20

#8 毒を食らわば皿まで?

誤字脱字の報告お願いします。

丁度水卜さんも局長に用事があったとの事で、僕たちは三人で局長室へと向かう事になった。


長い廊下に、二人の革靴の音が反響する。


代わって僕はただの普段靴なので、のっぺりとした、地面を擦るような音が、静かに囁く。


というか、未だ僕は学生服。


ふと、先を行く秋宮と水卜さんの後ろ姿を見つめてみれば。


あの秋宮でさえ、古めかしくはあれど黒い装束を羽織っている。


というか、あれじゃあただの喪服のようにさえ見えてしまうが。


しかし、こうやってただ秋宮を見つめる事も初めてだろうか。


こいつ、やっぱ背高いな。


今まで170センチと言い張り、また自己暗示してきた僕であったが、こいつを見ているとそれも馬鹿らしく思える。


目測だが、2メートル程はあるだろう。


加えてあの容姿。


喋り出せばうざったいことこの上ないが、見た目だけなら相当に整っている。


僕の右腕よろしく、血色の悪さは折り紙付きだけど。


髪は僕と同じ黒髪、ただ僕よりは少し淡い。


長さは僕よりも短く、いや、同じ位だろうか。


目元ははっきりと見えるものの、全体的な印象は重めに見える。


赤い瞳はルビーのような輝きを放ってはいるが、どこかぎこちない。


作り物のような、そんなわざとらしい光沢がそこにはある。


総括するなら、一言で済んでしまう。


ただ、不気味と。


その言葉一つで片づけられてしまう。


と、そんな事を考えていると。


「なぁ秋宮。......腕、どうしたんだ」


右腕に気付いたのか、水卜さんは、秋宮に問いかける。


「まぁ色々あってね。治せなくなっちゃった」


「治せないって、寿命が足りないのか?......私の分、少し分けてやってもいいが」


どこか照れた表情を浮かべる水卜さん。


「違う違う。それこそ、寿命なんていくらあっても嬉しいけど、澪ちゃんの分まで欲しいとは思わないさ。それに、そんな言葉、どこで覚えてきたの?俺じゃなかったら勘違いしちゃうよ?」


「......二度とお前には慈悲を掛けない」


それを聞いて、からかうように笑う秋宮。


こいつ、絶対性格悪いだろ。


うざったい上に性格も悪いときた。


後は屑エピソードで役満確定って感じなのだが、それはまぁ置いておくとして。


「......水卜さんも、死神、なんですよね」


「ん、あぁ。秋宮とは同期だ。これでも一応、断罪担当を任されている」


「じゃあやっぱ、罪人(ギルト)と戦ったりするんですか」


「それが仕事だからな。とは言っても、思い返せば後悔しかない。私にもう少し力があれば、救えた命は沢山あった」


「はははっ。そんなの、数えてたら切りがないよ。別にそれは、澪ちゃんのせいじゃない。誰が何と言おうと、絶対悪は罪人(ギルト)さ。それにもう少し、澪ちゃんは救った命に目を向けるべきだ」


掌を返すような聖人っぷりに、思わず僕は立直一発と叫びたくなった。


「秋宮にまともな事を言われると、何だかむず痒くなるな。それと二度と澪ちゃんと呼ぶな」


この二人、実は仲良いんじゃないのか。


まぁそんな事言ったら水卜さんに怒られそうなので、胸に秘めておくことにした。


そうして、三人で歩く事数十分。


「さて、そろそろかな」


秋宮がそう呟き、前方にはようやく行き止まりが見えた。


そこには確かに、局長室という札が下がっていた。




コンコンコン。


秋宮が三度ノックをする。


「どうぞ」


中からは、幼げを帯びた声色が聞こえる。


合図を受けた秋宮が扉のノブを静かに回し、秋宮、水卜さん、そして僕の順に進む。


「失礼します......って、え?」


僕たちは確かに局長室に入ったはずだ。


しかしその先に広がっていたのは、これまた見慣れた光景。


例えるならそう、教室。


ごく普通の教室が、先には広がっていた。


そして、その教室の一角に佇むのは。


「あ、君が新入り?なぁんだ、案外可愛い顔してるじゃん」


驚くほどに幼い、少年のような見た目をした死神が、そこには座っていた。


「どうも、局長。遊びに来たよ」


「お久しぶりです、局長」


二人は少年に対して頭を下げ、一挨拶を済ませる。


「え、秋宮、この方が局長?」


「そうだよ、彼が局長。って、まだ説明してなかったっけ」


「あぁ。全くと言っていい程聞いていない」


「まぁまぁ、とりあえず三人とも座りなよ。話はそこからだ」


局長らしき方の命を受け、僕たち三人は会釈をして近くの席に座る。


「で、秋宮から聞いてないって事は僕についてもまだだよね。じゃあ自己紹介から。僕は或沢(あるさわ)。名前は秘密。ここ、死立厚生執行局の局長を務めてるんだ。どう、凄いでしょ」


楽しげに話す局長。


やはりどう見ても幼く見える。


というか物理的に幼い。


背丈は僕よりも低く、見た目では中学生、いや小学生にさえ見えてしまう。


「す、凄いですね。あ、僕は藪坂、藪坂透です。一応今日死神になった......ハズです」


「うんうん、藪坂くんね。秋宮から聞いてるよ、面白い奴を連れて来るって」


「そうですか。期待に応えれるかは分かりませんが、頑張ります」


「うん、是非とも宜しく頼むよ。あ、僕の事は局長でも或沢でも好きに呼んでくれていいから。といっても、皆局長としか呼んでくれないんだけどね」


「はははっ。だって局長、或沢って呼ぶと明らかに不機嫌になるじゃん」


「そんな事ないよ。ただ秋宮に呼ばれるとなんかムカつくだけ。どう、この機会に澪ちゃんも僕の呼び方変えてみない?」


「遠慮しておきます。やはり敬意を以て称すには、局長の方が適切なので」


「固いなぁ澪ちゃん。まぁいいや、この世界では時間も有限らしいし、さっさと話を進めるよ」


というか、局長には澪ちゃんって言われても怒らないんだな。


そういって局長は、机の中から書類を取り出す。


「では早速。まず君は死神になった。僕が認めるんだから間違いないよ。でもね、死神になったからといって、むやみやたらに力を振り回して言い訳じゃない。そこは分かるよね?」


「まぁなんとなく。あれですよね、断罪担当と執行担当......的な」


「そう!それでね、君には今日から断罪担当になるべく、色々頑張ってもらうわけなんだけど、その辺は秋宮から話聞いてるかな?」


「いや、全く」


「なるほど。よし秋宮、後で校舎裏来い」


「待ってよ局長。俺だって色々忙しかったんだって。ほら、こんなんなっちゃったし」


そういって、僕に見せたのと同じように、袖の余った右腕をふらふらと振った。


「......はぁ。まぁいいよ。じゃあイチから説明するね。まず断罪担当になるには二つの資格が必要なんだ。一つは現断罪担当からの推薦状。これに関しては秋宮が書いてくれるだろうからまぁいいとして、問題は二つ目。死立で行っている認定試験に合格する必要がある。認定試験に関しては何か聞いてる?」


「......いや全く」


「とーきーみーやー!」


「あははっ。すっかり忘れてた」


「まったくまったく。これだからお前みたいな脳筋は扱いに困るんだ。元はと言えば、こうなったのも秋宮のせいなんだからね?そこ、ちゃんと分かってる?腕もう一本落としちゃうよ!?」


「はははっ。いいけど、俺を失ったら局にとって相当なダメージにならない?」


「うるさい!黙れ黙れ」


一応局長なんだよな、この方。


なのに秋宮は依然態度を変える事も無く、友達かのように会話している。


こいつの胆力は僕も見習いたい位だ。


「......ごめんね、話を戻すよ。認定試験ではまず、山奥の館に君を監禁します」


「え゛っ」


「そこで一日生き残ることが出来れば即クリア。どう、簡単でしょ?」


「生き残るって言葉にただならない重みを感じるんですが」


「まぁ館内には研究所で作った罪人(ギルト)のコピーで溢れてるからね」


「......」


言葉にならないとはこのことだろう。


どうして局長はこんな恐ろしい事を平気で言えるのだろうか。


罪人(ギルト)で溢れてる?


剣崎一人にですら殺されかけた僕が到底生き残れるはずもないだろうに。


「トオルくん。まだ勘違いをしているのかい?確かに君は、剣崎に裂かれ、斬られた訳だけど、今は状況が違うでしょ。自覚しな、君はもう死神なんだよ」


「......死神」


「君はまだ、死神という存在を甘く見ているようだね。いい、藪坂くん。さっきも言ったけど、溢れているのは罪人(ギルト)のコピーだ。だからね、極論、全員ぶっ殺しちゃってもいいんだよ」


「簡単に言いますけどね、局長。僕はまだ、死術とやらの使い方すら分かってない」


「なら学べばいい。学生の本分は勉強でしょ?」


局長の、噓偽りのない、満面の笑み。


その笑顔を見て、僕は次ぐ言葉を失ってしまった。


まぁいいさ。


一度は秋宮に拾ってもらったこの命だ。


ならば、それこそ言葉通り、心臓くらい捧げてやろうじゃないか。


「......分かりました。やりますよ、その試験とやら」


僕がそう答えると、嬉しそうに局長は頷く。


秋宮は......いや、秋宮も嬉しそうだな。


水卜さんは無表情で、どこか寂しさを感じた。


「よし、それじゃあ君の意志も聞けたことだし、今日は終わり!後は追って連絡するから。ほら、解散解散」


「局長、お話が」


「えー、後じゃダメ?僕は今とても眠いんだよ」


「呼んだのは局長です。例の件について、進展がありましたので報告を」


「まったくまったく。澪ちゃん、とってもキュートなのにそういう所はホント可愛くない!」


「......怒りますよ?」


水卜さんに睨まれ、局長の目には涙が浮かんでいる。


こういう所も子供っぽいな。


「よし、じゃあ俺たちは先に帰ろうか」


「では、僕も失礼します」


部屋に残る局長と水卜さんに軽く一礼をし、僕たちは扉へと向かう。


秋宮、そして僕の順で部屋を後にした。


そういって扉を跨いだその先には、やはりあの長い廊下が広がっている。


「......なぁ秋宮」


「なんだいトオルくん」


「なんで局長室の中、教室なんだ」


「はははっ。局長の趣味さ。局長は教室が、というか学校という存在が好きなんだよ」


「また珍しいご趣味な事で」


学校が好きだなんて、思った事も無い。


いや、別に嫌いと思った事も無いが、それでも。


平凡な人生を送ってきた僕にとって、学校なんてのは有象無象でしかなかった。


そこにあるから。


存在しているから通うだけで、別段深い思い入れも無い。


無ければ無いで、困らない。


そんな風に考えていた。


「まぁトオルくんの考えも分からなくは無いけどね。でも、局長にとって学校っていうのは、やっぱ特別なんだよ。さっきの教室だって、そうさ。俺たちには何気ない教室でも、局長にとっては思い入れがある」


「......なるほどな。まぁ僕が知らなくていい話ってのは分かった」


「理解が早くて助かるよ」


「というか、色々急な事ばかりで忘れてたけど、このまま僕って、普通に家帰っていいのか?それって死神のルール的に大丈夫なのか?」


「んー、まぁ芳しくはないって感じだよね。病院で話そびれた事もあるし、どうする?一旦俺の家で打ち合わせでもしようか」


「知らない奴にはついていくなって教わってるんだけどな。まぁいい、お邪魔させてもらうか」


「おっけー。とは言っても、直ぐなんだけどね」


秋宮と言葉を交わしつつ長い廊下を進み、秋宮はエレベーターの前で立ち止まった。


「直ぐって、この近くなのか。お前の家」


「死神ってほら、色々と面倒でしょ。お隣さんが死神、ってなったら、やっぱり人間は驚いちゃうし。だから基本的に死神はこの敷地内にある寮に住んでるんだ。ちなみに俺の部屋は102階さ」


到着したエレベーターに乗り込み、102階のボタンを押す秋宮。


てか、ボタンの数多すぎだろ。


え、何1333階って。この建物1333階建てなの?


驚愕の事実に混乱している間に、102階に到着した。


エレベーターを降り、トコトコと歩いてまた数秒。


内ポケットから鍵を取り出し、秋宮は5号室の鍵を開けた。

読んで頂き、ありがとうございました。

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